ドイツとの国際交流(ボトルメールを活用して)

ーもっと知りたい ドイツのこと もっと伝えたい 日本のことー

小学校第6学年・国際理解
福井県春江町立春江小学校 甲斐 和浩

kai@po.miyako.co.jp
http://www.miyako.co.jp/harue-js/index.HTML
キーワード 小学校,6年,総合的学習,インターネット,電子メール,学校間交流


インターネット利用の意図
 本校(春江小学校)とドイツの小学校との交流は昨年度(平成10年度)からスタートした。言葉による交流(ドイツ語,日本語,英語)はお互いに困難であるため,絵による交流を中心に行ってきた。テーマを決めて同じ用紙にそれぞれ絵を半分ずつ描き合い,交換するという方法をとることにより,お互いの生活や文化の違いをはっきりと感じ取ることができたように思う。しかし,絵をそれぞれAIR MAILで送り合うということで,一つの交流(絵の交換)に一ヶ月以上時間を要してしまい,こうした交流の間延び感は,結果的には子供たちの意欲をそぐことにつながっていた。
 そこで,本年度はインターネットを活用してレスポンスの早い交流を試みた。
 絵の交換手段としては電子メールの添付書類,ホームページ交換,そしてボトルメールである。
 ボトルメールとは,リクルート社が開発したグラフィカル電子メールソフトである。”瓶(ボトル)に入れた絵手紙を海に流す”という感覚でお互いにメールのやりとりができる。(図1)このソフトは文字や絵,あるいは写真などを簡単に貼り付けることができるので,手軽に交流できる手段になると考えた。


1 ボトルメールメニュー画面


2 メール作成画面


1 テーマ ドイツとの国際交流
  もっと知りたい ドイツのこと
  もっと伝えたい 日本のこと

(1) テーマについて
 近年,国際化の波が急速に押し寄せ,その波は子供たちの生活の中にも少しずつ入り込んできている。そこで,将来,国際化の進む未来社会で活躍する子供たちの生き抜く力として,国際的視野をもつこと,多様な文化理解に基づく豊かな国際感覚をもつこと,そして,意思の疎通を図る手段としてのコミュニケーション能力をもつことが大変重要になってきている。
 幸い,本校はドイツの小学校(Weiskirchen)とメール交流をする機会を得た。そこで,交流を通して,お互いの文化を理解し合い,それらを尊重する能力や異なる文化をもつ人々と共に生きていく資質や能力の育成を図りたいと考えた。
【交流相手校(Weiskirchen)について】(http://ers.weiskirchen.saargate.de./)
 ドイツ,ザーランド州の小学校。(5年生から10年生。日本の小学校5年生〜高校1年生にあたる)
 ザーランド州には新しい試みとしてRealschule(レアールシューレ)とHauptschule(ハウプトシューレ)を合体させ,ひとつの学校として独立させたErweiterte Realschule (エアバイテレテ レアルシューレ)がある。
 Erweiterte Realschule Weiskirchenもそのひとつです。
【昨年度の交流例】
 テーマ「お正月」
 お正月というテーマで,ドイツの学校から絵が届いた。(図3)その絵を見ると日本のお正月とはかなり様子が異なり,「どうして馬の蹄のような絵が描いてあるの?」(図4)「お金の絵がいっぱい描いてあるのはなぜ?」など,子供たちからいくつも疑問が出された。すぐにWeiskirchenに問い合わせたところ,ドイツでは,それらの物は縁起のいいものとして考えられているのだということだった。
 子供たちは事前に,ドイツの文化や生活について本などで調べていたので,日本との違いについてはある程度知っていたが,こうした交流で直に感じ取った感動は大きく,ドイツのことについてもっと知りたいという大きな意欲へとつながっていった。
 その後,こちらからも,お参りやおせちを食べている日本のお正月の様子を絵に描いて送った。


3 テーマ「お正月」(a)


4 テーマ「お正月」(b)

 

(2) 指導目標
(a) 外国の文化や生活に関心をもち,意欲的に調べようとする態度を育てる。(関心・意欲・態度)
(b) 日本とドイツの関わりを経済や文化,歴史などを通して考える。(文化理解)
(c) 自分と異なる生き方や考え方をする他社の存在を認め,それらを尊重する能力や態度を育てる。(人間理解)
(d) 自分の考えをしっかりもち,それを表現できる能力を育てる。(表現力・コミュニケーション能力

(3) 利用環境
(a) 使用機種  NEC Mate NX
(b) 周辺機器  デジタルカメラ FinePix1700Z スキャナー EPSON GT7000U
        USBカメラ Interware Motion Cam プリンタ ALPS MD5500
(c) 稼働環境  コンピュータ室 NEC Mate NX 21台(64kでインターネット接続)
        教室 NEC Mate NX 1台(64kでインターネット接続)
(d) 利用ソフト ボトルメール2.0 日独翻訳ソフト Jx6か国語for Windows

2 交流計画
 総合的学習の時間,休み時間,放課後
(1) 「運動会の絵」交換
(2) アフリカプロジェクト参加
(3) 植物交換(ドイツの薔薇,春江の百合)
(4) ゲストティーチャー
(5) クリスマスカード交換(ボトルメール)

3 交流の展開
(1) 「運動会の絵」交換
 現在の児童が交流を始めたのは9月からである。学校では,ちょうど運動会が終わったところで,まず,運動会をテーマに交流を始めることにした。
 開会式,応援合戦,徒競走とそれぞれテーマを分担し手書きで絵を完成させ,ドイツに郵送した。(図5,6)

[日本から送った絵]


5 大玉送り


6 応援

 

[ドイツから届いた絵]


7 応援


8 サッカー


9 ボール投げ

 

 ドイツから送られてきた絵を見て驚いたことは,運動会の種目にサッカーやボール投げが描かれていたことである。子供たちは日本とドイツの違いを改めて感じ取ることができたようである。
(2) アフリカプロジェクト参加
 Weiskirchenでは,学校行事として年間いくつかのプロジェクトを実施しているそうである。昨年度は「水プロジェクト」「馬プロジェクト」を実施したそうである。
 本年度は「アフリカプロジェクト」を実施するので本校も参加してほしいとのことであった。そこで,本やインターネットでアフリカのイメージをつかみ,絵に描いて送ることにした。(図10)Weiskirchenでは,プロジェクト期間中,送った絵を展示していただいた。


10 テーマ「アフリカ」

                                                          
(3) 植物交換(ドイツの薔薇,春江の百合)
 本校のある春江町は百合を町の花(シンボル)としている。毎年秋になると町の方からたくさんの百合の球根が学校に配られる。それを花壇に植える作業をしていたところ,子供たちの中から”ドイツにも送って育ててもらってはどうだろう”という意見が生まれた。早速郵送することにした。(図11)ドイツに送ることを連絡したところ大変喜んで下さり,代わりにドイツの薔薇の苗を送って下さるということであった。その地域では薔薇の栽培がさかんで,いくつか新しい品種を生み出しているそうである。今回送られてきた苗もDuftendes Weiskirchen(直訳すると”よい香りのするWeiskirchen”)という新しい品種だということである。季節柄まず植木鉢で育て,春を待って校庭に植樹することにしている。(図12)卒業する子供たちにとって思いでの卒業記念植樹になることであろう。


11 百合の球根を受け取ったときのドイツの新聞記事


12 薔薇の苗を植えたところ

 

(4) ゲストティーチャー
 Weiskirchenとの交流のきっかけをつくって下さった中野さんが,たまたまドイツから日本に戻って来られるという情報を得た。そこで,ゲストティーチャーとして中野さんを本校におよびすることにした。
(a) ドイツについてのお話と質問


13 ドイツについての質問コーナー

 ドイツの生活や文化について,写真や実物を提示しながら説明してくださった。中野さんがベルリンの壁のかけらを提示したときには歓声が起こった。ちょうどこの年はベルリン崩壊10周年にあたり,日本のニュースでも話題になっていたことなので,よけいに子供たちの注目度は高かった。(図13)

(b) ドイツのお菓子づくり
 ドイツの生活を味わうという目的で,中野先生と一緒に簡単なドイツの料理を作った。
メニューはジャガイモのサラダとクッキー(クリスマス・タラー)である。日本ではあまりなじみのない味に驚きながらも大喜びで食
べ,家族や友達にも分けてあげたいとおみやげにする子もいた。(図14,15)


14 クッキーづくり


15 できあがったクッキー


(5) クリスマスカード交換(ボトルメール)
 ボトルメールでの交流はもう少し早い段階で取り組みたかったのであるが,ちょうどバージョンアップの時期と重なり,実際に交流に活用できたのは12月に入ってからであった。
 この時期といえばやはり「クリスマス」ということで,クリスマスをテーマにボトルメール交換を行った。(図16,17)
 誰に届くかわからないというのがこのソフトの特徴であるが,返信機能が付いているのでメールをひろった人は送った人のもとへ返事が打てる。子供たちは自分にドイツから返事が届いていないかと,毎日コンピュータをのぞいていた。(図18)そして,メールの入ったボトルが届くと大喜びしてまた返事を書いていた。それまでのクラス単位での交流がここで個人の交流に変わり,子供たちの自主的な交流が展開されていった。


16 クリスマスカード(日本から)


17 クリスマスカード(ドイツ)


18 メールチェック

 

4 成果と課題
 ”絵の交換”ということを中心に進めてきたドイツとの交流であるが,交流を深める意味でインターネットを活用したことは大変有効であったように思う。時差の関係もあり,テレビ会議システムを使っての直接交流は断念したものの,インターネットを使うことにより,送った絵に対しての反応がすぐ返って来るため,子供たちの気持ちが持続しやすく,交流の意欲も増していった。ただ,コンピュータを使って絵を描くことに慣れていない子供たちにとっては,紙に色鉛筆等で絵を描いた絵の方が表現力があったように思う。そういう子に対しては,絵をスキャナーで読み取りメールに添付して送るというのが有効な手段であると感じた。また,写真の交換も大変有効である。絵では表現できない現実感,背景に写っている情報を元に相手の文化等を伺い知ることができた。
 交流学習の場合,人と人とが実際に会いふれあうことがベストであるが,国際交流の場合それはほとんど不可能である。そこで今回は,少しでもお互いの生活に直接触れ合えるようにと,それぞれの地域の特色的な品物を交換するという方法を採ったが,想像以上に子供たちの感動は大きかった。また,地元に住んでいる外国人に話を聞くというのも一つの方法である。今回の交流では,ドイツとの交流の橋渡しをしていただいた中野さんがたまたま帰国されたので大変ラッキーであったと思う。
 ”交流学習とその他の総合的な学習の最大の違い”それは,相手も学習者であるということである。従って一方の都合だけで計画を立てるのではなく,それぞれの目的を有効に絡ませながら交流を進めていかなければならない。そのためには,教師同士の綿密な連絡調整が国際交流においても重要であると考える。
 また,交流の手段としてボトルメールは大変有効であると感じた。このソフトは,お絵かきソフトとメールソフトを融合させたような作りになっているので,子供たちは簡単な操作でインターネットを通じて絵や写真の交換ができるという利点がある。ボトルメールは本来,誰にひろわれるかわからないというコンセプトで設計されているソフトであるが,返信機能が付いているので送信者のもとに必ず返事が返ってくる。人と人とをつなぐきっかけを作る有効な手段である。今回は,リクルート社の協力により,流されたメールが一覧できるようにホームページ上に掲示板を作っていただいたので,交流の全体の様子を確認することができ,大変ありがたかった。今後とも,ボトルメール等のインターネットツールを有効に活用してドイツと交流を深めていきたいと思う。
 最後に,この交流に多大のご協力をいただいた永井さん,石川さんをはじめとするリクルート社の方々,ドイツとの橋渡しをしていただいた中野さんに深く感謝申し上げたいと思う。

ワンポイントアドバイス
 国際化が進む中,教育において国際交流はこれからますます重要になってくると予想される。国際交流においていちばんのネックになることはやはり言葉である。この壁を乗り越える手段として,絵による交流は大変有効な手段であると考える。今回使用したボトルメールは,国際交流にまさに打ってつけのソフトであると感じた。ホームページからダウンロードして試してみるとよいであろう。 


参考文献
 
教職研修8月増刊号 「総合的な学習」授業実践マニュアル全6巻
 『総合的な学習』の実践 No.3 国際理解教育の考え方・進め方 (教育開発研究所)

利用したURLなど
 ボトルメール(http://www.kids.recruit.co.jp/bmail/)
 Erweiterte Realschule Weiskirchen(http://ers.weiskirchen.saargate.de./)