モデル校実践報告[1]

− 「子どもの広場」2年目を迎えて −

千葉県浦安市立富岡小学校
6年担任 窪田 のり子


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キーワード 小学校,インターネット,ひろば,電子会議室,学校間交流

 2年目を迎えた千葉県浦安市立富岡小学校における子どもたちの「ひろば」への関わりと,教師の「ひろば」への関わり方の大切さについて報告を行う。

 

1.はじめに

     「たくさん友達ができて楽しかった!」「これからもずっと交流を続けていきたい!」これは昨年度の「子どもの広場」での交流を終えた後の子どもたちの素直な感想である。

     昨年度はインターネット上の文字の交流だけでなく,水や特産物の交換,交流校の先生の訪問,卒業おめでとうビデオの交換など,人やもの,子どもたちの思いまでも含めた交流を行うことができた。2年目となる今回,子どもたち,そして教師は「子どもの広場」にどう関わっているのか報告したい。

 

2.「子どもの広場」との距離

     この交流が始まって2ヶ月間の子どもたちの書き込み状況を調べてみた。書き込む時間は圧倒的に授業中が多い。そして今回はブラウザを利用しており自宅からもアクセスできるということで,次に多かったのは自宅からの書き込みであった。休み時間の利用はほとんどなかった。書き込み数については昨年に比べ極端に少ない。昨年,われ先にと書き込んでいた「ゲーム」「テレビとアニメ」の部屋への書き込みも,それぞれ20数件にとどまっている。しかし全体的に見ると,書き込む部屋はやはり「であいゾーン」のほうが多く,「まなびゾーン」への書き込みは決まった児童がしているようだ。

     なぜ,今回このように書き込み数が増えないのか,大きく二つの理由があるようだ。

     まず一つ目は,コンピュータのマシン自体が子どもたちから遠くなってしまったことだ。本校は昨年度,保護者が声を掛け合って「富小ネットボランティア」が発足した。このネットボランティアの方々の活躍により,寄付された古いコンピュータの設置・設定,ネットサーバの構築,各教室までの配線工事等なされた。そして全く運がいいことに,教室前の廊下を挟んだ向かいのオープンスペースに,十数台のコンピュータが設置された。子どもたちは休み時間ごとに,また授業のちょっとした時間にいつでもコンピュータを触ることができ,教室で「子どもの広場」の話題がでるたびに,すぐに「ひろば」に入ることができた。しかし,本年度,近くの教室の授業に差し障りがあるということで,マシンは特別教室の並ぶ2Fのオープンスペースへと移動することとなった。さらに,それまでいつでも自由な時間に使っていたのであるが,どうしても高学年の利用に偏ってしまうので,休み時間は割当制にすることとなった。必然的に休み時間にコンピュータに向かう時間は減っていき,場所的にも,わざわざ2Fに降りてまでも触ろうという気持ちが少なくなってきたようである(図1)。


    図1 2Fオープンスペースで書き込みをする子どもたち

     二つ目の理由として,子どもたちの気持ちの中に「どうせ去年と同じことをやるのだろう。」という興味の薄れがあるように感じられる。3月にいったん交流が終わったが,そのあたりが一番乗っていた頃で,「またいつ始まるの?」という声が多く聞かれた。しかし年度が変わり約半年間という長い期間があいて「さあ,始まるよ!」と声をかけても,熱はとっくに冷めてしまっていて,どの子にも「また同じことが始まるのか・・・」という表情が見て取れた。ただ,今回は参加校数も増え,小学校だけでなく中学・高校生も参加するということに関しては「去年よりも友達が増えるぞ。」と喜んで受け取っていた。それにしても,昨年よりも「子どもの広場」への子どもたちの心の距離は,少し遠くなってしまったようである。

     このことから考えさせられたのは,教師は「子どもの広場」への物理的な距離の遠さをうち負かすくらいの,この交流の楽しさ・新しい可能性を,いつも子どもたちに投げかけていかなければならないということである。昨日とは違う何か新しいこと,楽しいことおもしろいことが「子どもの広場」の中には毎日あるぞという,発見する楽しさである。今回,この投げかけが足りず,昨年末に子どもたちが抱いた「ワクワク」感を思い出させることができなかった。残り2ヶ月間,子どもたちとともに「ひろば」の「ワクワク」を思い出し,少しでも心の距離を縮めることができたらと思う。

     

3.歴史は繰り返される

     昨年度1クラスで交流に参加し多くの成果が得られたので,ぜひ学年にもこの成果を広げていきたいと考え,今年は総合学習とからめ6年生全体での参加となった。他の2クラスの担任は昨年の活動を十分理解し,今年の活動にも協力的であったが,全く初めての参加だったので,2学期中はひろば自体にはまだ入っていなかった。そんなある日,緊急の用で担任が数日教室を空けなければならなくなった。そこで,他学年ではあるがコンピュータが得意なT・Tの教師が「子どもの広場」の書き込みを指導してくれることになった。本校の教師には,以前に文章と口頭でこの取り組みについて説明をしてあったので,快く協力してくれたのである。しかし,この日の本校児童の書き込みは,小首を傾げるようなものが多く見られた。まるで教室の中で隣の友達とふざけあっているようなもの,読んでいて気分の悪くなるようなもの,友達を馬鹿にしたようなものなどである(図2)。


    図2 ある日の児童の書き込み

     すぐに担任にこの書き込みを見てもらい,さっそく教室で話をしていただくことになった。前々からインターネットの危険性やマナーについては何度も話をして下さっていたが,初めて「子どもの広場」に入ってうれしい,楽しいという気持ちが大きかったのであろう。今,自分が書いているものは書いた相手しか見ていないという感覚に陥ってしまったのである。そこで,この「ひろば」は全国の何百人もの友達が見ているということや,読んでいる人を馬鹿にしたり,気分が悪くなってしまうようなことは書くべきではない,というようなことを十分に話していただいた。また,この話を聞いて自分はやはりマナーが悪かったと思う人は,よく考えて自分の投稿を自分で削除しましょうと呼びかけたそうだ。話の後,数人の児童が教室に残り,投稿を自分で削除したそうだ。しかし,まだいくつかの投稿は残されており,繰り返し考えさせていく必要がある。

     一方,「子どもの広場」に自分の住所やメールアドレスなど,個人情報を書くことについて会議室でも話題になったが,ある日,この書き込みを数人の児童が見つけた。すぐに「先生,こういうのって書いちゃいけないんじゃないの?」と知らせに来た。すかさず,「じゃあ,この人にそういうふうに書いてみる?」と聞いてみた。しばらく考えて「やめとく」という返事が返ってきた。すでに文通のやりとりが盛り上がっていたところに口を挟む勇気がなかったらしい。この日はこれで終わってしまったが,別の機会に,スタッフの○○市のこの辺に住んでいます,という書き込みを見つけ,すぐに「あれ,個人情報が書いてある。」とつぶやいている子どももいた。

     これらのこととこれまでの児童の書き込み内容から,昨年度から参加している子どもたちの中には,インターネット上でのエチケット(ネチケット)がずいぶん根付いてきていると思われる。これは,昨年度,同じような失敗を自分自身がしてきたり話を聞いてきたりして,多くの話し合いの場を持ってきたからであろう。1年間の経験というものは大きいと感じた。毎年,同じような場面が繰り返され,われわれ教師はその都度それをよい教育の機会ととらえ,一緒に考えていく。そして子どもたちは経験を積み,次のステップを踏む。この繰り返しは,新しく「子どもの広場」に参加する学校がある限り続いていくのだろう。われわれ教師は,いつまでも子どもたちの考える場を与えていかなければならないと思った。

     

4.後2ヶ月で・・・

     昨年度もそうであったが,いつでもインターネット上で会議室の内容が見られるとはいっても,やはり自主的にアクセスしない子どもたちもいる。その子どもたちに少しでも関心を持たせるための手作りの掲示板は,やはり効果的である。昨年は掲示係の子どもたちにその日の新しい投稿をすべて印刷させ,朝の会で紹介させた。そしてその印刷したものは教室の掲示板に,学校別に色分けをさせて貼らせた。参加校数が少なかったので毎日できたのであるが,子どもたちは紹介されたものを聞くことで,興味のある投稿に返事をしようという意欲がわいたようだ。本年度は参加校数が多いので,すべて印刷したり紹介したりすることはできないが,総合学習に関係のあるコーナーを掲示し,学年全体の子どもたちに関心を持たせるようにした(図3)。本校の総合学習は3学期に大詰めを迎えるので,この掲示板での紹介をきっかけに交流を増やし,学習を深めていきたい。また,他のコーナーでも,教師が「これは!」と思うものはできるだけ紹介をしたり,昨年のように子どもの係を決めて,自主的に紹介しあうようにしていきたい。


    図3 手作り掲示板

     また,今年から加わって下さった「スタッフ」の方々の存在は大きい。ある日,「スタッフって何?」という子どもたちの質問があった。うまい説明はできなかったのであるが,「子どもたちや先生たちとは違う立場で,このひろばのお手伝いをして下さる方だよ。」と話をした。子どもたちは「へぇー,そうなんだ!」と学校とは全く違った立場の方が参加するということに新鮮さを感じたようだ。また,参加校が増えすべての子どもたちの投稿に目を通す時間がないときに,スタッフの方は本当に細かいフォローをして下さる。今後,スタッフの方との話し合いを密にし,子どもたちが意欲的に「子どもの広場」に参加できるようにしていきたい。

     

5.おわりに

     この「子どもの広場」の取り組みも2年目を迎えた。しかし,今のところ昨年度以上の成果はない。様々な理由があるが,実は一番の理由は教師自身の取り組みの姿勢にある。昨年,子どもたちと同じように感じた「ワクワク」感を教師自身も忘れてしまっていたのである。「子どもの広場」は入るだけではいけない。「ひろば」の中にある,もしかしたら隠れているかもしれない,ワクワクするような宝物を自分自身で見つけていかなければならないのかもしれない。それは子どもたちだけではなく,教師も同じである。楽しく参加しながら様々なことを学んでいく,それがこの「子どもの広場」のよいところである。卒業までの残り数ヶ月,子どもたちとそしてスタッフ他の方々と一緒に,どんな宝物が隠れているのか楽しみながら探していきたいと思う。



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