モデル校実践報告[7]

− 教室から全国へ 御陵の玉ねぎをPRしよう! −

福井県吉田郡松岡町御陵小学校
6年担任 竹林 保博


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キーワード 小学校,インターネット,ひろば,電子会議室,学校間交流

 子どもたちの交流から学校間交流へと発展し,子どもたちのインターネットに対する見方や考え方が大きく変容した「子どもの広場」での実践活動について報告する。

 

1.はじめに

     御陵小学校は,もともと田園風景が広がる地域にあった学校だったが,近年近くを流れる九頭竜川の裏川の開発(埋め立て)によって次々に新しい地域ができ,学校周辺の様子も一変した。医科大学や県立大学,総合公園がすぐ近くにでき,住宅地も整備され,今や御陵は,「学園地区」と呼ばれている。開発前の地域の様子を知っている子も少なく,自然にふれる機会も少なくなった現状を見つめ直そうと,本校では昨年度から,地域(校区内)の自然環境の中から学習の課題を設定し,自分たちでその解決をさせようという取り組みがされている。

     昨年度,私が担任した5年生は,地域を流れる九頭竜川(一級河川)の用水にスポットを当て,生き物の調査や水質調査を試みた。この取り組みは,もともと本校の校歌をヒントに生まれた。開発前にできた校歌の歌詞は,昔ながらの風景をよくあらわしていて,その様子を知らない子どもたちからいろんな疑問が出た。「流れもつきぬ九頭竜のめぐみ豊に生い立ちし」というフレーズからは,環境問題に興味を持った子どもたちから,「今も昔のように恵みを受けているのだろうか。」「裏川の開発によって恵みに変化はあるのだろうか。」という課題が出た。そこで,開発とその裏側にある自然環境の変化に目を向けようというねらいでこの学習を進めた。私としては,この取り組みの結果を本校のWebページにアップすることで,同じような課題を抱えた日本中の学校から反応があり,環境問題をテーマにした共同学習にまで発展できないかと期待を膨らませていた。しかし,Webページに公開しても,こちらから積極的にアプローチをかけない限り,いつ,誰が,どんな期待や目的を持って見てくれるのか全く把握できない。いつまでたっても何の反応もないのは子どもたちも私も物足りなさを感じ,この方法での学校間交流は難しいと思わざるを得なかった。

     今年度,6年生に持ち上がり,この活動を継続してやろうかと子どもたちに働きかけたが「もういい。」という反応が多かった。自分たちが調べたことに対する反応が少なく(結局1件も問い合わせがなかった)やる気をもって取り組めない様子だった。インターネットに対しても,御陵小学校もホームページを公開したよと騒いでいる割に,あまり期待のできないものだという印象を与えてしまった。教室のパソコンは,いつの間にか誰も使わないものになり始めていた。しかし,教室でもインターネットができるようにと,手前でLANを整備したこともあり,何とか教室から全国へ情報の発信ができるような学習展開を考えたかった。そこで目を付けたのが,長年御陵で生産されていながら,あまり知られていない御陵の玉ねぎである。この玉ねぎを何とかインターネットを利用して全国に紹介することはできないかと考えてみた。ちょうど単元構成を考えているとき「子どもの広場」の存在を知った。私が興味を持ったのは,電子掲示板によるいろんな「会議室」が設けられていること,「であいゾーン」,「まなびゾーン」の2つの大きな柱があり,どちらのゾーンにも自由に参加できること,サーバなどの複雑な設定が必要なく(苦手な私にとってはとてもうれしかった),インターネットにつながる環境であれば,いつでもどこでも参加できること,先生用には「作戦会議室」が設けられていることであった。掲示板への書き込みは私も子どもたちも初めてであったが,慣れてくれば反応も期待でき,いろんな交流が実現できそうだと思った。必要があれば,先生同士で事前に打ち合わせもできていろんな仕掛けもできる。子どもたちがインターネットを利用して大いに自分たちの活動をPRできると確信し,参加させてもらうことにした。

     これから,「子どもの広場」で御陵の玉ねぎをどうPRしようとしたか,子どもたちの活動の様子や変容を報告したいと思う。(図1)


    図1 玉ねぎの苗植体験(秋・学校近くの玉ねぎ畑にて)

 

2.「子どもの広場」での取り組み

2.1 4人でスタート

     本校は,全校児童140名,各学年1クラスの小さな学校である。転出,転入も少なく,6年生はほとんど保育園から同じメンバーで生活している。子どもたちが他の学校との交流する機会は,連合体育大会や音楽会,修学旅行と限られている。

     コンピュータは,図書室に5台と,6年生の教室に1台設置されていて,全PCでインターネットに接続できるようになっている。今回,このひろばには,6年生全員(26名)でとも考えたが,将来活動を発展させるために,スキル・内容の両面でよく知っている子がいてアドバイスができるといいこと,現在の環境(全6台)では時間的にも難しいこと,1月に新コンピュータルーム(2人に1台)が完成することを考えて,とりあえず4人の子ではじめることにした。とても行動力のあるY君,家でもよくPCに触れているS君,ゲームに大変詳しいT君,K君である。4人には,グランドオープン前からIDを発行して,私と5人で書き込みや返事のやりとりを練習したり,返事がもらえるような書き方や,書き込む際のモラルについて話し合った。

2.2 いよいよ「子どもの広場」グランドオープン 〜4人の子どもたちは〜

     待ちに待ったグランドオープンの日,メンバーはさっそく書き込みをはじめた。特に「であいゾーン−自己紹介」,「であいゾーン−ゲーム」への書き込みは早かった。私としては,なるべく早く「まなびゾーン−ふるさと自慢」にと思ったが,まずは一人ひとりの様子を見てからと思い,言わないことにした。とても行動力のあるY君は,私の「書き込みの最後に返事がもらえるようなコメントをつけるといいよ。」というアドバイスにうまく答えて,上手な書き込みを見せた。彼は,「君はどうなの?」,「もし教えてほしかったら,また返事をしてね。」などと書いて締めくくっていた。とても,はじめてこのような電子掲示板に参加したとは思えないような書き込みぶりだった。

     家でもよくPCに触れているS君は,思ってもみない行動をとった。毎朝教室のPCを起動し,4人全員への書き込みのチェックをするようになった。これにより,私が「〜君,返事が来ているよ。」と言わなくてもいいようになった。

     どちらかというと,人とのコミュニケーションが苦手なT君,K君は予想以上に興味をもって参加し始めた。私が期待していた「まなびゾーン−ふるさと自慢」への書き込みを最初にしたのはT君であった。彼は,自分が調べたことをすぐに「報告」というタイトルで書き込んだ。反応もすぐあり,自信を持って参加するようになった。彼は,自分の書き込みが注目されるよう,クイズ形式のものを考えたりと,書き込みに工夫が見られた。K君は,T君よりもっとコミュニケーションが苦手な子である。そんな彼が,S君やY君に操作の方法や内容を考えてもらいながら,積極的に書き込んでいるのにはびっくりした。教室のPCが,全国の友達との交流窓口に変身しつつあった。

2.3 ふるさと御陵の自慢の1品 〜ふるさと自慢への書き込み開始!〜

     玉ねぎといえば,料理には欠かせないもので,臭いがきつく切ると涙が出るなど大きな特徴がある。産地としては北海道や兵庫県(特に淡路島)が有名で,御陵の玉ねぎは地元の人しか知らない。

     子どもたちは玉ねぎの特徴から,御陵の玉ねぎの歴史や生産の様子へと調べ学習を進めていった。調べていくうちに,御陵の玉ねぎのほとんどが淡路島の加工工場へ出荷されていること,他の産地と比べてとても大きく甘いことから,給食でよく使われるということがわかってきた。子どもたちの心の中に,玉ねぎが自分たちの自慢の一品という思いが膨らんできていた。

     この思いを4人のメンバーが「ふるさと自慢」への書き込みで表現し始めた。最初は「であいゾーン」と違って,どう書き込んだらいいのか不安そうだったので,「調べてみんなに知らせたいなと思うことを書き込んでみたら。」とアドバイスをした。最初に書き込んだのはT君。県立大学に行って,生物資源学科の教授から玉ねぎの成分や栄養について教えてもらっていた彼は,「報告」というタイトルでわかったことをその日のうちに書き込んだ。すぐに元街小のK君から「玉ねぎが流行っているのですね。」という返事をもらい,大変喜んだT君だった。続けて,K君が近くのレストランで教えてもらったことを「玉ねぎの料理」というタイトルで書き込んだ。これにもすぐに,芝浦柏中のWさんから反応があり,ここでも交流が始まろうとしていた。地元のJAに調べに行って,御陵の玉ねぎの歴史や生産の様子についてよく知っているY君は,「御陵の玉ねぎ」というタイトルで書き込みをはじめた。質問や感想を募集したり,「これからどんどん紹介するね。」という締めくくりは,これからの書き込みを期待してのものだった。しかし,その後1週間,何も書き込みがこなくなり,それぞれのやりとりは終わりかけた。

     ここで,変化をつけたのがT君。彼は,別のコーナー(歴史なぞなぞ)でクイズが頻繁に出されているのを知り,自分たちも書き込みに注目してもらおうと玉ねぎのことをクイズにして書き込みはじめた。他のメンバーもそれを見て自分たちが調べたことをクイズにして書き込んだ。残念ながら,クイズへの反応はなかったが,何とか玉ねぎをPRしようと考えているのがうかがえた。そこで私も子ども同士の交流がここで切れてしまわないように,「みなさん,特産物を教えてね。」という書き込みをした。これには,いろんな学校からたくさんの返事があり,どこの学校にも校区内に自慢できるものがあることがわかった。これがきっかけでこれまで自分たちのPRばかりに目がいって,他の地域の情報を知ろうとしなかった自分たちに気づき,中華街の近くにあるという元街小学校,チューリップが有名という出町小学校に,それぞれどんな地域にある学校なのかと4人がアプローチをかけた。また,ちょうど時を同じくして,「子どもの広場」北陸会議が開かれ,北陸地区で参加している学校の先生方にお会いすることができた。会議に御陵の玉ねぎを持参し,それぞれの学校にプレゼントすることができた。

     プレゼントした翌日,さっそく出町小学校のTさんが「御陵の玉ねぎはすごく大きい。」と玉ねぎの画像も添えて書き込んでくれた。4人は,他の学校の子が自分たちの自慢したいものを宣伝してくれたことに驚きとうれしさを隠しきれない様子であった。自慢というのは,なにも自分たちでなくてもできたのである。(図2)


    図2 玉ねぎの大きさにびっくり(出町小Tさんが書き込みに添付したもの)

2.4 スタッフのみなさんの心温まる励まし

     子どもたちが自信を持ってPR活動ができるようになったのは,スタッフのみなさんからの励ましも大きかった。あるスタッフは,北陸会議の時にプレゼントした御陵の玉ねぎと淡路島のおみやげ(オニオンスープ)を並べてとった画像を添付して,御陵の玉ねぎと淡路島とのつながりを紹介して下さった。また,「玉ねぎからこんなものができるよ」と,玉ねぎ染めを紹介して下さったスタッフもいた。ちょうど児童会主催の「御陵っ子祭り」でどうやって玉ねぎをPRしようかと考えていた子どもたちにとって大きな励みとなった。これらを参考にして,祭りの当日,玉ねぎスープやみそ汁をつくったり,玉ねぎ染めの作品を並べて紹介することができた。(図3)


    図3 児童会行事「御陵っ子祭り」での玉ねぎPR
    (スタッフの方に教えていただいた玉ねぎ染めの紹介)

2.5 思いもよらぬ方向で自慢は続いた!

     11月は御陵の玉ねぎ苗植の時期である。今年度は農家の方のご好意で,春には収穫,秋には苗植の体験もさせてもらった。このとき,学校でも植えてみませんかと,300本近くの苗をいただいた。300本の苗を植えるには学校の畑だけでは植えきれないこともあり,みんなで相談して「子どもの広場」で紹介することにした。学級委員でもあったS君が「御陵の玉ねぎを植えてみませんか。」という書き込みをした。この書き込みになんと3つの学校から「育ててみたい。」と手が挙がった。富山県出町小学校,石川県扇台小学校,神奈川県飯田北小学校である。作戦会議であらかじめ私の方から先生方に「どうですか」とお知らせしておいたのもよかった。それぞれの学校に50本から100本の玉ねぎを送ることになった。「届きましたよ!」と,うれしそうな表情の画像も添付された書き込みに4人は大変喜んだ。また,「植えました。」というタイトルの書き込みの中には,ホームページなどで観察日記をアップしていきますよというようなうれしいものもあった。これらは,今後もこの交流を続けていこうねというメッセージにも受けとれ,これまで実現できなかった他校との交流が実を結び私自身大変うれしかった。

     この「御陵の玉ねぎを植えてみませんか」という書き込みに関連して,3つの学校の新しいメンバー(約10名)から書き込みがあった。これまで,返事がなくてどうしようかと思っていた頃とは大きな変化である。4人もこれを機会にして上手に御陵の玉ねぎを自慢するようになった。例えば,出町小学校のKさんが,「おいしい玉ねぎができるといいな。」と書き込めば,本校のK君が「大きくて,おいしい玉ねぎができるよ。長年,御陵の玉ねぎを作っている人からもらった苗だから。」などと,自慢げに返事を書いている。不安なKさんに対して,何度も食しているK君の返事は自信に満ちたものであった。

2.6 出町小学校からチューリップの球根が届いた!

     こちらから玉ねぎの苗をプレゼントしたあと,出町小学校からびっくりするようなお知らせが届いた。「チューリップの球根はいりませんか?」というのである。本校は,花壇の活動に力を入れていることもあり,子どもたちはすぐにとびついた。本場砺波から届くチューリップの球根に子どもたちの期待は膨らんだ。これで御陵の自慢の玉ねぎが富山の出町小学校で植えられ,出町小学校自慢のチューリップが御陵小学校で植えられることになった。この予想もしなかった学校間交流が実現したのは,このひろばで子どもたち一人ひとりがいろんな交流を深めていったからにほかならない。

     6年生では,いただいた球根を卒業記念に役立てようと,今学級会を進めている。近くの社会福祉施設や6年間お世話になったところに鉢植えやプランターに植えてプレゼントしようと考えている。これらの活動は,いつまでも心に残る交流活動として,忘れられないものとなるだろう。(図4)


    図4 いただいたチューリップの球根をどこにプレゼントしようかな(学級会)

 

3.まとめ 〜活動を振り返って〜

     今年度,6年生の総合的な学習の中で「子どもの広場」をおおいに活用させてもらった。自分たちの地域で生産されている玉ねぎは全国的には有名ではないけれど,子どもたちにとっては地域の自慢の一品である。「子どもの広場」は自信のなかった子どもたちに自信と勇気を与えてくれた。他の学校の子から「大きいね。」「おいしそう。」などと書き込みをいただいたことが,何よりも自慢になった。そして,他の地域で御陵の玉ねぎを植えて育てることになり,思いも寄らないPRになったこと,出町小学校からチューリップの球根が届いて,お互いに自慢の品を交換して育てることになったことも,これからもっと交流が広がりを見せるであろうと,期待を感じさせるものである。

     4人のメンバーは,誰も目を向けなくなっていた教室のPCを交流の窓口として目ざめさせてくれた。スタッフをはじめたくさんの仲間に助けてもらいながら,自分の個性を上手に表現し,積極的に活動できるようになったことも大変うれしい。ただ,4人ではどうしてもふるさと自慢のコーナーでの書き込みが中心となり,他の部屋に書き込んでもっと新しい交流を展開することは難しい。現在4人の活動を見て,11人の子がこのひろばへの新規参加を希望しているので,この11人には新コンピュータルームの完成と同時にIDを発行し,興味を持った部屋に積極的に参加させたいと思っている。今後15人で,どのような交流を広げてくれるのか,また,一人ひとりがこの活動を通してどんな成長を見せてくれるのか,今から楽しみである。



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