モデル校実践報告[9]− 「子どもの広場」に参加して −福井県大野市上庄中学校 |
キーワード 小学校,インターネット,ひろば,電子会議室,学校間交流
福井県大野市上庄中学校における「子どもの広場」での活動の様子を、小学生と中学生が交流することの難しさなどに焦点をあてて報告する。
地球という惑星に暮らしながら,有史以来いろいろな垣根(国家,人種,宗教など)があった。そのため,地域ごとに固有な文化が生まれていた。例えば,言語や流行そして情報がその一つにあげることができる。ところが,近年情報社会の急速な発達で今までのような垣根を越えて同じ情報がリアルタイムに情報の洪水となり,都会でも地方でも,別な国にいても入手することができるようになった。情報の垣根が無くなり(ボーダーレス)どこでも同じ情報を受けとることができるようになった。その反面,情報があまりにも多量で,内容的によいものと悪いものが混在するという世の中になった。そのため,人間に情報の洪水の中でどのように情報を取捨選択するかが重要な能力(情報選択能力)になっている。また,科学技術の発達などがもたらした地球環境問題のような,地球全体を視野に入れたさまざまな問題が発生したため,自分の垣根の中で解決だけを行っていたのでは復旧できなくなってきた。よって,異なる地域の文化,宗教,人種の違う人間が同じ土俵で対等に,自分の意見を述べることができるかが大変重要な能力(コミュニケーション能力)になりつつある。
しかし,この2つの能力は,今までのような閉鎖的な1つの学校の中で学んでいた学習形態では,その状況を作りだすことに限界があった。教科書で教えてはいるが,どうしても現地で体験していないため効果が薄く生徒の内面的な部分に入っていかない。幸いインターネットの急速な発達によって,異なる地域の生徒達と,同じ作業(コラボレーション)を行うことが可能になり,その手法を用いると,上記の2つの能力の育成に役立つものである。日頃から筆者は,情報化社会とボーダーレスの社会を念頭に置くと,その中で生きていく生徒にとって,小さいうちから何らかの方法で自分の地域を出ていろいろな生徒達と同じ作業を通して,情報選択能力と,コミュニケーション能力の育成を考えていた。
以上のような視点にたち,今回の「子どもの広場」のプロジェクトの内容を考えてみると,
どこでも参加できる。
異なる集団の生徒達とインターネットを使って意見交換ができる。
という特徴があげられる。これは,共通のテーマについて情報をやりとりする活動を通して,先程述べた情報選択能力と,コミュニケーション能力の能力育成のために大変役に立つと考えられ,今後総合的な学習が本格実施されるとますます重要になってくる場面であると考えられる。
上庄中学校では,今回のプロジェクトに,どのような形で参加できるか考えた。中学校は,教科担任制で放課後には部活動があるため,選択の時間か総合的な学習の時間(本年度は,試行段階ですでにプロジェクト開始時点で終了していた)での実施が考えられた。そこで,筆者が担当する中学3年生の選択技術を履修している20名の中から希望者に参加させた。その理由として,本校には,プロジェクト開始時点でインタ?ネット接続のPCがまだ整備されておらず,個人のコンピュータを利用して授業に活用していた。ようやく,2学期にPCが整備されるようになったが,本校は田舎の学校のため家庭PCを持っている生徒も少なく,全員に基礎操作を教えなければない。さらに,中学校では,カリキュラムの関係で,放課後や休み時間に書き込みを行わなければ時間がないという現状がある。そこで,今回は,このプロジェクトの目的を話し希望制とした。また掲示板への書き込みや作戦を考えるのは,すべて放課後になった。(図1)
参加者には,小学生と中学生が参加しているため,次の注意を与えた。
小学生も参加しているため,わかるように書こう
誰が読んでいるかわからないため,失礼のないように書こう
この注意を与えて10月初旬から開始した。最初,各フォーラムへ自分から書き込むことが難しく,自分たちが率先して発言することが難しかった。事実11月の時点では,書き込みが少なかった。その後,いろいろな発言を行おうと指導した。その後,発言が増え,1月7日現在,表1のような発言数である。
フォーラム名 |
発言数 |
みんな聞いて |
3 |
自己紹介 |
18 |
どうぶつ大好き |
4 |
テレビとアニメ |
39 |
スポーツ |
18 |
ゲーム |
10 |
歴史なぞなぞ |
3 |
表1からわかるように,であいゾーンへの書き込みがほとんどで,まなびゾーンへは,歴史なぞなぞ以外書き込みがなかった。(図2)
具体的に発言を見てみると,小学生の発言について,中学生から思うことを書くことが難しいことがわかる。小学生にわかるように,フォローする発言はできるが,自分たちから,フォーラムに投げ掛けると,その発言に対して小学生から発言がしにくいようでほとんど自分の発言で終わってしまったようである。それを裏付けるように参加生徒の感想に,次のようなものがあった。
最初は、小学生の話題は普段僕達の興味がない話ばかりで入りにくかった。その中で、共通の話 題をみつけるのは、かなり難しかった。でも共通の話題が見つかると、友達みたいで結構楽しかっ た。相手は小学生なので、むずかしい言葉など返事を書くのにいろいろと気を使った。でもこういうこ とは、小学生の気持ちを知ったり、他の学校と交流を深められるのでいいと思う。(Y.Y) |
この発言から,小学生ということで興味がない話ばかりで入りにくいという感想を述べている。
しかし,その反面で,中学生ならではの助言ができたこともあった。以下はその例である。
僕はパソコンのキーボードの文字を探すのが苦手なので文字を早く探せる方法を教えてください。 |
ボクも春までは全然うてませんでした。 でも何回か練習しているとだんだんと見ずにうてるようになりましたよ♪ 始めは文字をおちついて探して、だんだん慣れてきたら配置がわかるようになりますよ そうすれば君も「ブラインドタッチ」ができるようになるでしょう。 ボクは毎日うつ練習(?)をしています。がんばれ〜☆ |
このように,小学生の質問に,助言と励ましを与える場面も見られた。
しかし,共通の話題が難しかったのは事実のようで,小学生と中学生の垣根の少ない,テレビやゲームの話題については,結構盛り上がったものもあった。特に,アニメについては,特に年齢を感じないほど発言が活発で,後半にはお互いを仲間として認識している生徒も出てきた。その生徒の感想を以下に載せる。
“子供たちの広場”と言うだけの事はあって、ホームページに来るのはほとんどが小学生ばかりでした。けど、五年生 や六年生が多くて、年が近い事もあって気楽に話す事ができました。中にはとても仲の良くなった子もいて「今度、会 いましょうか?」という話をできる子までできました。参加するときに先生に言われていた「小学生たちの話し合いへの、 アドバイスなどをする役。」という事すら忘れて、面白おかしく参加していました。最初はスーパーバイザー何て言われ て、「そんな役できるわけない〜」と騒いでいたのに、中学生になったとはいえ、小学生と別世界にいるわけでもなく年 の近い話せる相手なんだとこっちが学ばされてしまいました。こういうたくさんの人が集まって何かをするというような |
この生徒はその後もたくさんの発言を続け,家庭でもアクセスを行っている。ここまでたくさんの発言を行って,初めて上記のような感想が出てきた事を考えると小学校や中学校で交流を行うには,学びにはいる前に十分出会いの場面で意見を率直に述べられる環境が大切だということを示していると思われる。十分に意見を出せる状況になってくると,お互いが質問するようになりその中から疑問が出てくるようである。(図3)
発言の中から,疑問が出てきた例を以下に示す。
ど〜も 僕も子犬の方が、好きだ! でも、うちの地区では、火事になるとかで、飼えないんだ!!! |
一見何気ない発言であるが,初めて本校の地区の話題を発言した内容である。校下に,犬を飼ってはいけないという地区があり,地域の特色を発言することができた。この発言は,これで終わっているが,このようなやりとりの中に次へステップに進む可能性があるようである。やはり,率直に意見を述べられる環境を作っていき,その中で教師が小さなポイントを見逃さずアドバイスしていくことが重要なことであると思われる。
最後に,筆者は今まで,同じ作業(コラボレーション)をテレビ会議で実践してきたが,ものを作るという活動についてはある程度の成果を見たが,掲示板等を利用していろいろな活動をメールで行うことで期待と不安があったが,一番は率直に意見を述べる環境を作りだすことが大切で,特に中学生と小学生が交流するには最初の取り掛かりは共通のテーマで話し合いを持たせ,その後に具体的な学びに入っていくほうがスムーズになると思う。