モデル校実践報告[11]

− ロボラボの実践を終えて −

神奈川大学附属中・高等学校
小林 道夫


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キーワード 子ども,インターネット,学校間交流,オフライン,マインドストーム

 学校教育おけるコンピュータネットワークの整備や情報教育を実施する必要性について述べるとともに,神奈川大学附属中・高等学校での「子どもの広場」での実践活動をとおし,マインドストームという素材をつかった実践例を,オフライン活動の必要性に焦点をあてて報告する。

 

1.はじめに

     1989年に公示された学習指導要領において,中学校の技術・家庭科に「情報基礎」が新設されたのを始め,小・中・高等学校を通して各教科の学習指導にコンピュータ等の教育機器を活用することなどが示された。 その後,情報教育の実践が全国の学校現場で展開されてきているのは周知の通りである。1990年代に入りインターネットが爆発的に普及し,情報ネットワーク社会が確立され社会構造が大きく変化してきた。学校教育においても,21世紀を生きる子どもたちのための学校づくりを目指すとともに,体系的な情報教育の実施が急務となっている。

     2002年から実施される新学習指導要領では,「総合的な学習」の新設,中学技術・家庭科「情報とコンピュータ」の必修化,高校情報科の新設などが盛り込まれており,小中学校は2002年から,高校は2003年から全国で一斉に実施されることになった。情報通信ネットワークについては,2001年までにすべての学校がインターネットに接続できるよう整備が行われている。

     学校教育においてコンピュータネットワークを整備し,情報教育を実施する必要性はどこにあるのか,それは大きくわけて次の3点にまとめられる。

    (1) 情報技術(Information Technology)を身につけさせ,情報社会に対応できる人材の育成

       1940年代にコンピュータが開発されて以来,科学技術は大きく発展し,私達の生活も劇的に変化した。技術が開発されるたびに生活は一変し,経済構造も変革してきた。1980年代に入り,パーソナルコンピュータが登場してからコンピュータは安価になり個人で所有するものになり,インターネットが普及してからは情報産業が経済の中心となってきた。21世紀の社会では,情報技術がさらに進化し,コンピュータやインターネットの活用が広範囲に及び,私達の生活に密着したものとなるのは確実である。そして,情報技術を持つものと持たないものでは大きな格差を生み出し,将来の人生設計にも大きな影響を与えることとなることが予想される。

       これらのことから,学校教育において情報教育を実施し,コンピュータの操作,インターネットの有効な活用方法,情報倫理を身につけておくことは重要なことである。

    (2) 記憶型学習から問題解決型学習への転換

       学校教育システムに関して世界に目を向けてみると,日本のシステムがある意味独特であることに気付くであろう。文部省から示される指導要領には,子どもの年齢にあわせて指導すべき内容がきっちり定められ,全国の学校でその内容にそった授業を行っている。教科書,教師用指導書がマニュアルのように位置付けられ,ともすれば教師は知識伝達者として授業を行い,子どもたちに記憶させることに力を注いでいるのが現状である。

       コンピュータを教育に持ち込むことによって,基礎学力が低下するのではないかという懸念は以前から指摘されている。確かに教師が教科書と黒板を使って説明すれば1時間で済むものをコンピュータを使って調べさせたり,話し合えば,3,4時間必要となる。ここで考えなければならないことは,基礎学力を身につけることは,必ずしも反復練習をして記憶させるしかないかということである。数式の使い方を学ぶ,英単語を覚える,文章の書き方,読み方を学ぶ,このような基礎学力を身につけさせることは絶対に必要である。しかし,それを指導する段階で,「どうしてそうなるのか」を子ども自身で考えさせることや学習することのおもしろさを教える工夫こそが大切なのではないか。その道具の一つとしてコンピュータやインターネットを活用することは有効であると考える。

    (3) コミュニケーション能力の育成

       テレビゲーム,コンピュータの登場により,子どもたちのコミュニケーション能力の低下が指摘されている。これまで公園で友達と遊んでいた子が,部屋の中でゲームやコンピュータばかりやるようになってしまえば,当然人と話す機会も減り,人との出会いも少なくなる。家族や地域の人との関わりあいから学ぶことが多い大切な時期に,会話や出会いが少なくなるのは由々しき問題である。

       だからこそ学校教育の場で,これまで出会えるはずもなかった地域以外の子どもたちや海外の子どもたちと出会い,交流することが大切になってくる。今の子どもたちは自分から欲せずともテレビやビデオで世界,宇宙などの画像が自然と入ってくる。多くの情報が画像,音声でインプットされるが,それはテレビでのできごとであって現実ではない。そこで必要なのは実体験である。インターネットを通して遠く離れた子どもたちと会話を楽しみ,学校で学んだ英語を使って,海外の子どもたちとメールやビデオ会議を楽しむことによって,コミュニケーションすることの喜びやマナーを身につけることになる。

       今回参加した「子どもの広場」では,子どもたちがネットワーク上の会議室で出会い,意見を交換しあうことによって交流を深めながら,それぞれの会議室でテーマごとの学習を行っていくものである。その意味では情報教育実践のツールとして大変有効であると考えた。

       

2.「子どもの広場」での交流

     授業や課外活動で実践していることをもっと多くの人達に伝えたい,そして学校外の人から意見や評価をもらいたいと思うのは,ごく自然な事である。インターネットを使ってWebページで公開したり,メールで意見の交換は簡単にできるが,いつものクラスのメンバーでない人と協力しながらいっしょに考えたい,または共同で一つのものを作りたいと考えると,ネット上の会議室は大変有効である。自分の考えや意見を投げかけると,それに対する答えを他の学校の子どもたちからもらえる,それをくりかえすことによってより新しいアイデアが生まれたり,これまでできそうになかったことが実現できたりするわけだ。

     「子どもの広場」では,テーマごとに話がしやすいように分かれており,話し合いがスムーズに行われるように,コーディネータもついている。このようなすばらしい環境が整っていれば,教師は子どもたちの活動のアドバイスや実践に専念できることになる。(図1)


    図1 「子どものひろば」のサイト

     

3.「ロボラボ」会議室 ロボットはみんなのあこがれ

     IT革命という言葉に代表されるように,インターネットを中心とした情報産業がめざましい発展をとげている。それとともにこれまでロボット産業では,オートメーション作業を行うものばかりでなく,AIBOに代表されるような動物型ロボットやASIMOのような人間型走行ロボットの開発が進んでいる。アニメや映画の世界のものが,現実に目の前で動作し,動物の動作を真似たり人間に替わって仕事をしてくれる。

     私たちにとって21世紀のイメージは,まさに夢と希望に満ちた世界であった。しかし,現実は国際問題,教育問題の解決されない難しい課題が残っている。21世紀をつくり,生きる子どもたちに必要なものは,知識や技術の前に「夢」「希望」なのだ。ロボットは,まさにこれからの時代を予感させるもの,そして誰しも触ってみたい,作ってみたいと思えるものである。

     その憧れのロボットを子どもたち自身で設計し,自分で作ってみよう,というプロジェクトが「ロボラボ」である。この会議室には,芝浦工業大学柏中学校と神奈川大学附属中高等学校が参加した。そして,中学生,高校生がLEGO社の「マインドストーム」を使って,ネット上でアイデアを出し合いながら自分たちの理想とするロボットを考えて制作した。そして,それぞれの学校で制作したロボットをデジタルカメラで撮影した写真を添えて会議室に発表した。(図2,図3)


    図2 ロボラボ会議室


    図3 生徒の送ったメッセージ

     

4.教材としてのマインドストーム

     LEGO社の「マインドストーム」は,子どもたちが一度は経験したことがあるブロックの高度なものである。「マインドストーム」には,ボディを組み立てるものはもちろん,動かす機構のすべての部品がそろっている。そして,モーターの動きをパソコンソフトでプログラムすることによって自由に動きを制御することができる。

     説明書にはどのようなロボットが制作できるか例はでているが,詳しい設計図は載っていない。よって簡単な4輪自動車から走行ロボットまで作ることができる。小学校では図画工作,中学では技術・家庭科で,このような機械を組み立てたり,動く機構を学ぶ授業はあるが,木材,プラスチック,金属を使って組み立てたとしても,道具の使い方や部品の加工に時間がかかってしまい,設計図通りに組み立てることに終始してしまう。

     つまり,自分のアイデアで独自のものを作り上げるというところまで目標を設定できないのだ。その点マインドストームは,特に道具を使用せず,ギヤの1つ1つを組み立ててトランスミッションまで組み立てることができる。動く機構を教えなくとも,組み立てながら回転力や回転数を変更することによって,動力の伝達方法を学んだり,動くしくみを学ぶことができる。また,プログラムソフトを動かすことによって,アルゴリズムを学習することもできる。このことからマインドストームは,小学校から大学まで活用することができるすばらしい教材といえる。

 

5.オフラインの必要性

     「子どもの広場」で話し合い,ロボットを制作していると,ぜひいっしょに作ってみたいという意見が子どもたちの間からでてきた。いつものメンバーではなく,今度は学校の枠を越えたメンバーでチームを作ってロボットを制作してみようというものだ。

     そこで,12月25日に芝浦工業大学柏中学校に集まり,芝浦工業大学柏中学校から5名,神奈川大学附属中高等学校から3名の子どもたちが参加し,ロボラボオフラインミーティングを行った。当日は以下の時程で行った。

       9:00 ロボット講座(芝浦工業大学より)

      10:00 ロボラボチームの自己紹介,チーム編成

      10:30 制作

      12:00 昼食

      13:00 制作,仕上げ

      16:00 発表会

     まずはじめに芝浦工業大学のロボット研究室によるロボット講座を開いてもらい,科学技術の発達とロボット開発,そして宇宙開発についてその歴史と未来について説明してもらった。そのあと,ネット上で話し合っていたメンバーが始めて顔をあわせ,自己紹介とチーム編成を行った。8名の子どもたちを3チームにわけ,ミーティングを行いどんなロボットを制作するかアイデアを出し合った上で制作に入った。チームの中でそれぞれロボット全体のデザイン,ボディの組み立て,動力部の組み立てというように担当を決めて,協力しながら制作を行った。(図4)

    図4 子どもたちの制作の様子

     集まったメンバーはそれまでに何度かロボット制作の経験があるので,3チームともすぐにアイデアがまとまり制作に入った。製作中は真剣な様子で意見をだしあったり,もくもくと組み立てていたり,笑い声の絶えない楽しい雰囲気につつまれていた。

     チームの作品は

      ・物を運ぶロボット「おちゃくみこ」

      ・ゴミ回収ロボット「はこぶくん」

      ・ゴミキャッチャーロボット「おさるのゴミとり」

     の3点であった。それぞれ台座が上下したり,アームでものを掴んだり,キャタピラを利用してベルトコンベア部を作ったりと,独自のアイデアで工夫しながら制作した。完成した時点でパソコンでプログラムを作成し,赤外線を使ってコントローラに転送した。(図5)


    図5 3チームのロボット

     発表会では,いかに自分達のロボットが優れているか説明したあとに動作実験を行った。うまく動作していたのが急に動かなくなったり,それまでうまく動作しなかったのが本番ではうまく動いたりと歓声が教室にひびくほど盛り上がったものになった。(図6)

    図6 発表会の様子

     

6.まとめ

     「子どもの広場」のロボラボでは,ロボット製作を通して,コミュニケーション能力の育成,情報の科学的な理解,そして子ども自身のアイデアを具体化するいうことが実践できた。この実践は,小学校,中学校,高等学校といった校種を越えた学習の試みとして実践することが可能であると考える。

     今回は授業での取り組みにはいたらなかったが,「総合的な学習の時間」「中学技術・家庭科」「高校情報科」の実践として実現できるものと思われる。40名を対象とした授業でどのように取り組むべきか検討していきたいと考えている。



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