終章 本プロジェクトのまとめと今後の課題金沢大学教育学部 教育実践総合センター |
本書第2章で教師参加の視点からモデル校報告が述べられていたが,終章として,本プロジェクトにおける実践結果から得られた知見をまとめ,今後の課題へと結びたい。
今年度の「子どもの広場」における実践活動をとおして,本プロジェクトのようなインターネットを活用した学校間交流学習プロジェクトに参加する場合,参加校の教師は以下のような工夫,留意がポイントとなることが明らかになった。
学校での「子どもの広場」への書き込み、読み込みの活動は限られた授業時間に行われる。しかし,参加校の様子を見ていると,それだけでは十分な時間が確保できないためにさまざまな時間の保証をしていることがよくわかる。
たとえば,「日常的なかかわりを大切にしている」ということだ。イベントをするときだけ,テレビ会議をするときだけの交流では,どうしても教師がひっぱっていく形になってしまうことが多い。まず,日常的な交流を大切にしているのだ。また,「手は出さずに目をかける」ことも大きな要因のようだ。場を保証するということは,何もインターネットに接続されたコンピュータがある,ないという問題だけでなく,いつやっても良いという雰囲気を教師が醸し出し,何かあれば対応している様子が見て取れる。そして,出町小などがしているように,必要があれば,「書き込みについて話し合いの場をもつ」という時間や場の保証も行っている。節目において,振り返りの場となるこのような話し合いの場はそれ以降の活動に意味付けを行うことになる。
また,学級担任ではない教師が中心に参加している学校では,「教師の目の届く範囲での子どもたちの参加数にしぼっている」(扇台小)場合もある。
参加した当初は楽しくて仕方のない掲示板での交流であるが,しばらくすると良くも悪くも慣れてくる。そのような意味では「やり始めが肝心」であると言えよう。交流を始めた頃は,子どもたちは新奇性でかかわっていることが多い。ほおっておくと,1通発信して終わりということがある。教師が,メールをプリントアウトしてきて話題作りをするとか,メールを書く時間を保障してやるとか,メールを書く相談にのるとかなど,積極的に支援していきたい。
また,しばらくすると,「朝の会、帰りの会で話題に」して,学級でとりあげたいような話題への種まきをすることも重要であるようだ。
そもそも,このような掲示板の交流では,コンピュータは1台でも多いほうが良いし,活動する子どもたちに身近であればそれにこしたことはない。それが少しでも実現できる(何も「子どもの広場」プロジェクトだけのための対応ではないだろうが)環境整備も重要な要素だ。
柏中のように,1人1台ノートパソコンを貸し出している学校もあるが,神大附属をはじめ多くの参加校ではコンピュータルームの随時開放を行っていることがわかる。また,中心的に参加する学級に数台のコンピュータを持ち込み,やりたいときにすぐにできる環境を実現している学校もある。
いずれにしても,このような環境を実現することで子どもたちの積極的な活動を認知してもらい,次の環境整備にステップアップする,というような工夫と努力が見てとれる。
インターネットに接続できたから始めるのであるが,ただ何の目的もなく始めるのであっては,学校教育の中で行う意味がない。多くの交流の場合は,あるテーマをもって学習型の交流を行うことが多い。そういう場合は,その交流を通じて「自分の地域と他の地域を比較し,地域を見直す。自分のもっている価値観を見直したり確固としたものにしたりする。」ことが目的となろう。
また,テーマを設定することなく,交流すること自体に意味を見出すこともあろう。しかし,この場合は,放任にならないよう気をつけ,「継続する力や問題が起こった時に自分たちで解決する力をつけていく。」などの目的を,教師はしっかりと持っていたい。
コンピュータに向かって文字を打ち込んでいるが,実はコンピュータの向こう側には人がいるのである。子どもたちは,観念的にはこのことを理解しているのではあるが,なかなか相手の立場になって考えるところまでいかない。メールを出してそのままほおっておいたり,相手が答えてほしいと思っていることに答えなかったりなどという状況に陥ることがある。
最初に自己紹介から始めて,それを教室に掲示しておくとか,参加校の中で,今問題になっていることについて教室で話し合いをもつ,などの工夫が見られたのはそのためである。
また、教室の中で送られてきたメールについての行間の話し合いをもったり,掲示板上の先生の「作戦会議」の部屋で,子どもが送ったメールの行間の補足を行ってきたことも,結果的には子どもたちに相手を意識させるのに役立ったと言えよう。
前述の点と反するようであるが,ネットワークだけでは,交流が継続しないし相手の顔がなかなか見えてこないこともある。ビデオレター・実物の交換・必要に応じてのイベントやテレビ会議の設定などを同時進行させることが,時には有効となる。「子どもの広場」の参加校の交流では,特に,チューリップや玉ねぎなどの特産物など,食べたり作ったりする活動のための食材実物を送りあうことが頻繁に行われ,掲示板での交流に深まりと広がりが見られた。
メールの交換には,そのネットワークを構成している学校同士でルールが必要になってくる。例えば,メールを書いたら必ず最後に「学校名・学年・名前」を書いて自分の書いたことに責任をもたせるようにしたり,誰のメールに返事を書いているのか分かるようにしたりということなど,状況に応じて掲示板でそのことが話題になったり,指導が行われたりした。
また,交流していくうちに,そういったルールを破ったり,時には人のいやがるようなメールや,他人になりすましたメールを出す子が出てくることがある。そういう場合は,しっかりと教室で話し合いをもったり,その子に指導したりして,「してはいけなことだ」ということを,実感としてもたせる工夫をした。
やりとりの中に,教師が直接はいって話を推進していく場合もあるが,多くの場合は表面には教師が出てこないことが多い。しかし,だからといって,教師は何もしていないのではないことが「作戦会議」でのやりとりからも垣間見ることができた。裏では,「子どもたちにどんな力をつけたいのか・そのためにどんな交流をしたいのか・時期はいつにするのか」など,細かい打ち合わせをしていく必要がある。
できれば,本プロジェクトのように,定期的に集まれる参加校教師が実際に顔をつきあわせて実情について話し合う場があるとなお良い。
最後になったが,ネットワークの交流を始めると大変と思わず,教師自身が世界が広がることを楽しむことが何より重要だ。今回,本プロジェクトで活発な交流が行われたのも,このような教師達の気持ちがあったことを記しておきたい。
教師がどのようにかかわっていくか,ということ以外にも,本プロジェクトの運営,活動には,いくつかの課題も残った。
本プロジェクトでは,「まなびゾーン」と「であいゾーン」という2つの会議室群を区別した。「であいゾーン」では,文字通り子どもたちの出会いを大事にし,各会議室のテーマ(会議室名)に関するやり取りが自由に行われた。
しかし,一方の「まなびゾーン」は,学習活動的な要素が強く,子どもたちにとってはいつでも気軽に書き込める,というわけにはいかない。また,教師の側でも,テーマに沿っての思惑(そのテーマをどのように進めるのか,目的は何か)を学校間ですり合わせる必要があり,すり合わせがうまくいかない場合は,交流の深まりに結びつかないというジレンマがあった。やりとりをどう学習に組み立てるか,という点では今後さらにさまざまな事例を参照する必要があるだろう。
本プロジェクトでは,少しでも活動に実感がともなうように物の送りあいやテレビ会議を行った事例も見られた。また,近くの中学同士では冬期休業中に,実際に共同活動を行った例もあった。また,教師の場合は,数回にわたりミーティングを持つことができた。
とは言うものの,活動の内容を見ていると,「このタイミングで子どもたち同士が実際に会って交流をするといろいろと発展するのに」ということが多々あったのも事実だ。多くは予算と学校事情にはねかえってくるが,今後このようなオフラインミーティングができるような行政的な支援も望みたい。
これまで述べてきたように,教師がどのように掲示板での交流でふるまうか,種まきを行うかで,活動そのものの質が左右されることはまちがいない。しかし,掲示板上の交流が円滑に行われるためには,本プロジェクトの掲示板上に登場した,モデレータとよばれるスタッフの存在は欠かせなかった。毎日のように子どもたちの書き込みの様子を見守り,時には,該当教師にある子どもの書き込みの意図を問うたり,返事が数日もらえない子どもには意欲が持続できるような返事の書き込みを行ったりしていた。モデレータの存在は,このような交流プロジェクトの活動の保証には必要不可欠である。と同時に,学校での様子が見えないだけに,その出方,さじ加減が難しい。本プロジェクトのモデレータが,ネット上で頻繁に情報を参加校から得ようとしていたのもこのためである。
本プロジェクトでは,クローズドなネットワーク環境である理由で,IDの個人発行,実名表記とした。しかし,プロジェクトによっては,ハンドルネームを積極的に採用している場合もあり,判断がわかれるところだ。ここでは,「自分の送ったメールに責任をもつ」といったことを第一の理由に,実名でのID発行としている。
本プロジェクトは,個人間同士のやりとりができない。いわゆる個人メールができないしくみになっている。あくまでも,誰もが見ることのできる会議室上のやりとりを基本としているからだ。しかし,個人的な交流の深まりがでてくると,プライベートな内容のやりとりを行う兆候も,当然のことながら見られた。そこで,他の手段(手紙や他の電子メール)を併用するということで対応した例もあったが,今後の本プロジェクトでどのような機能を付加するかについての課題の1つではある。
本プロジェクトのようないくつもの会議室(フォーラム)が存在する広場的な掲示板では,その会議室(フォーラム)の数も大きな課題となる。会議室(フォーラム)が少なすぎるとさまざまな話題が混在することになり,子どもたちは混乱して時にはそのために意欲を無くしてしまう。また,逆に会議室(フォーラム)が多すぎると、書き込み数の少ない会議室(フォーラム)が出てきて,盛り上がりにかけてしまい,そこから意欲をなくす子どもが出てくる場合もある。
また,どのようなネーミングの会議室(フォーラム)であるかによっても,はじめて参加した子どもにとってイメージがもちやすかったり,参加しやすかったりするので,気を遣う必要がある。
今後,このようなプロジェクトが,日本のあちこちでどんどんやられることになるだろう。それ自体はとても好ましいことだが,参加校の規模の適性も考えていかなければならない課題だ。参加する側にしても,そのプロジェクトの雰囲気もさることながら,うまくかみあう交流相手がいそうなのか,自校の子どもたちにとって参加する相手の学校の子どもたちの顔が見える規模なのか,充分に考慮する必要があるだろう。
いずれにしても,これだけの教師参加に関するノウハウ,さらにプロジェクト参加に関する課題が得られたことは,今回の本プロジェクトの充実ぶりがうかがえる事実ではないだろうか。
本プロジェクトは,その特性として,プロジェクトとして評価を行う,というよりは,各学校の教育活動によってその評価の仕方は異なってくる。たとえば,社会科の地域学習で活用したA小学校は社会科の目標に照らしてその評価を得ることになる。
しかし,「子どもの広場」にかかわることの包括的な評価としては,以下の視点を設定している。いわゆる教師の「振り返り指標」である。
1)最初のころ、子どもたちの子どもの広場へのかかわりはどうでしたか?
2)終わりのころ、子どもたちの子どもの広場へのかかわりはどうですか?
3)そのちがいの原因は何だと思われますか?
4)子どもの広場はどういう意図で参加しようと思いましたか?
5)その意図は達成されましたか?なぜですか?
6)子どもの広場に参加しての一番の意義は何でしたか?
7)子どもたちは何が困りましたか?
8)そのときにどのように支援しましたか?
9)子どもの広場の活動で、子ども同士で教えあったり助け合ったりして解決
していたことは何ですか?
10)子どもたちにとって子どもの広場の良かった点は何ですか?
11)子どもたちにとって子どもの広場の問題だった点は何ですか?
12)子どもの広場だからこそできた、ということがあれば書いてください
13)子どもの広場の活動において、対応に困ったことがあれば書いてください
14)子どもの広場参加のコツがあれば書いてください
15)子どもの広場の活動を通して教師が得たものは何ですか?
16)子どもの広場の活動を通して教師が失ったものは何ですか?
上記の指標をもとに,本年度プロジェクト実践校担当教諭にアンケートを実施した。(添付:参照資料 アンケート)
本プロジェクトの教育実践活動の対外的な公開や普及方法については,以下3つを柱に提示してゆくとともに,成果物はウェブ上に公開し,活用マニュアルなど,地域などの主催する同様の交流プロジェクトを行うにあたっての参勝していただけるようにした。
1)CECのページから閲覧
2)学会(教育工学会)等での発表,及び普及方法の提示
3)研究会等での発表,及び普及方法の提示
成果物(マニュアル/実践報告)の公開
http://kids.gakken.co.jp/campus/academy/e2kids/
実施企業・団体名:金沢大学教育学部