「酸性雨/窒素酸化物(NOx)調査プロジェクト」
実践マニュアル


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3. 参加校のマニュアル

3.1 プロジェクトに参加するにあたって

    3.1.1 環境の準備

       本プロジェクトをはじめとして、交流・共同学習では継続してこそ意味のあるものが多い。学内に根ざした活動として、担当者が転勤になった場合などにも継続できる体制が敷かれていることが望ましい。担当者がプロジェクトの意義を理解の上、折に触れて学内でアピールしていく必要があるだろう。そのためには、3.2に示すプロジェクトの活用方法が参考になる。実際、学内や地域でアピールを続けている学校では、機器破損時の修理・追加購入等、プロジェクト実施のための予算化等もうまくいっており、継続な活動へと結びついている。

       本プロジェクトでは、観測機器は原則として参加校に無償貸与している。しかし、どのような機器を利用する場合でもそうであるが、破損等の問題は生じてくる。従って、活動のための多少の予算化は事前に行っておく必要がある。将来的には、観測機器を含めて学校内で調達できることが望ましい。(そのためにも本プロジェクトを学校におけるカリキュラムとして位置付けられるように活動している)

    3.1.2 インターネット利用環境

       本プロジェクトによるインターネット利用場面は主に以下の3場面である。

       大規模プロジェクトでは、連絡事項はメーリングリストを通じて行うことが基本となる。電話、FAX、郵便などを併用すれば、連絡はより周知徹底されるが、事務局の負荷増大により、プロジェクト自身がうまく回らなくなる。従って、メーリングリストは最低でも1日1度は確認を行う必要がある。

       学校に1つのアドレスしかなく、そのアドレスで参加する場合には、学内のメール管理者と事前に調整を持っておく必要がある。メールの流量が多くなる場合もあるからである。最近のメールソフトでは、メールのヘッダ情報から自動的にフォルダに振り分ける機能がついているものが多い。メール管理者と調整の上、それらの機能をうまく活用できるとよいだろう。

       その他の利用はWebが主となる。データの登録や表示といった本プロジェクトにおける活動の最低限の部分ではネットワークを常時接続しておく必要はなく、ごく短時間の接続で活動することも可能である。しかし、当然ながら深く利用しようとすれば利用しようとするほど、回線の使用時間が長くなる。特にチャット大会に参加する場合などは、その間、常時接続されている必要があり、ダイアルアップ環境の学校では中々参加できないという問題もある。こういった回線状況は全般的に改善方向ではあるが、国の施策レベルで一刻も早く整備されていくことが望まれる。

3.2 プロジェクトの活用方法

     参加校がこのプロジェクトを活用していく際に、どのような活動を進めていけばよいか。その指針を示すためには、参加校の参加形態やどのようなことをねらっているかによって、実践方法も異なってくると考えられる。これまでの酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査プロジェクトでは、データを以下に活用するか、あるいはどのような形でプロジェクトを利用していくかと言った、各学校の実践における裁量に制約を与えないように、活動については参加校に任せ、あえて指示や例示などをする事を避けてきた。

     しかし、これから参加校が増加し、また特に「総合的な学習」や「選択教科」における利用が増加してくると予想される今、このまま参加校に任せる形をとり続けるよりも、ある程度実践事例を示し、このような活動をすることでこのような目標を達成できると言った、具体例を示すことで、よりプロジェクトを活性化する事ができるのではないかと判断した。今年度は、特に推進委員会を中心としてさまざまな議論を行うと共に、サブ幹事校にも協力を頂いて実践事例の収集にも積極的に取り組んだ。

    3.2.1 小学校における活用 

       小学校では、水溶液の性質として酸性、アルカリ性について学ぶ。しかし、pHの概念は小学生には理解は困難である。ただし、酸性雨の測定を行う際に、pHを雨の汚れの強弱を表す指標として用いることは可能であると考えている。酸性雨を発生させるメカニズムなどの理論についても、小学生の視点で捉えることができるのではないかと考える。

       インターネットを活用する視点では、小学生の段階ではキーボード操作に習熟度の差が大きく、文字入力を多用した交流活動は難しいかもしれない。そうした点を考慮しながら、小学校における活用事例として、東京都大田区立矢口小学校におけるモデル指導案を以下に示す。

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      第6学年の実践

      単元名   身近な環境とわたしたち

      子どもの実態

        (1)環境に対する意識について

          本学年の子どもは、5年生の時にゴミをテーマとした問題解決学習を行っている。自分たちが出すゴミが環境に対してどのような影響を与え、そのために自分たちが今どのような取り組みをしていけばよいか、ひとりひとりがテーマをもち学習を進めてきた。その結果、給食の残飯を堆肥にしていく活動が習慣化され、リサイクルやゴミの分別をしていこうとする意識が高まった。その反面、学習しているときは環境のためにしようと思っていたことが、「面倒だから」「忘れてしまった」などの理由で行動できなくなっている子どもも半数以上いる。これは、自分が直接引き起こしている環境問題に対しても、問題意識を常にもちつづけることの難しさを物語っている。

           また、社会科や国語科の学習では、地球環境という広い視野で環境問題を考えてきた。子どもは、「地球上では多くの環境問題が起きている。」ということを認識し、「このままでは人類は滅亡してしまうのではないか。」という考えまで生まれてきている。ところが、その責任を大人や他人に転嫁したり、自分たちとは関係がないと考えていたりする子どもが多い。これは、各環境問題がどのような理由で起こっているのか正確に把握できていないことや、自分たちの生活と関連づけて考えようとしていないことが原因と思われる。

        (2)問題解決学習における資質・能力について

           総合的な学習の時間や各教科の中で問題解決学習を繰り返し進めている。その結果、「自分はこのことについて調べてみたい」と、ほとんどの子どもが自分のテーマを自分で作り出すことができるようになった。さらに、解決するために実態調査を行ったり、インターネットや本の中から資料を集めたりと、意欲的に情報を収集することもできるようになっている。

           一方、収集した情報が多すぎたり、読みこなすことや分析することが困難だったりするために、そこで先に進めなくなってしまうケースもある。また、自分なりに追究を進めていっても、友達の考えに耳を傾けたり十分な情報を収集することができずに、思いこみだけの結論を導いてしまうこともある。

      単元開発の理由

         6年生の理科の単元では「人とかんきょう」「水溶液の性質とはたらき」「植物のからだと日光」「ものの燃えかたと空気」など自分の生活やまわりの環境との関連を考えながら教科書以上に発展的に学習する課題が豊富である。

         矢口小学校の周りの環境を考えてみると、多摩川という大自然があるにも関わらず、第二京浜国道や環状八号線という幹線道路、東急電鉄「矢口渡駅」から続く商店街、小さな町工場に囲まれ「矢口小学校のまわりの大気は汚れている」と考えられている。

         しかしその原因は、道路であり、電車であり、商店であり、工場であって自分の生活とは関係のないところで語られることが多い。

         そこで、6年生の理科の「ものの燃えかたと空気」から発展して「COダイエット」を実践していく。その中で燃えるという現象が空気中の二酸化炭素を増やしていく原因であり、自分たちが毎日の生活の中で増やす行為を繰り返していることに気がつかせたい。さらに「植物のからだと日光」では植物や動物の呼吸と酸素や二酸化炭素の関連を学習していく。

         空気が汚れるということを二酸化炭素が増えることと関連づけて考えている子どもが多い。見えにくい大気を見えるようにさせる試みをこの単元の中で実験や観察を通して調べさせたい。また、子供たちの諸感覚をフルに使って体感させたい。

         本単元では、自分の生活と環境は深く関わっていることや自然事象相互の関わりを多面的に考えていくことをねらいとしている。

      育ってほしい資質・能力・概念

        (1)問題解決の資質能力

          ・自分のテーマを設定する力

          ・必要な情報を収集する力

          ・情報をもとに、自分の考えをつくり出す力

          ・追究したことをまとめ発表する力

          ・友達の意見を聞き、自分の考えと比べる力

          ・追究したことをもとに生活を見直し、行動する力

        (2)単元固有の資質・能力

          ・燃焼と空気の関係や物質の変化を捉える力

          ・COの排出と自分たちの生活との関連を実験を通して推論する力

          ・COを減らすためにこだわりをもって実践する力

          ・大気の汚れを諸感覚や経験を基に推論する力

          ・大気の汚れの原因を推論を基に実験や観察、調査を通して確かめる力

          ・大気の汚れについて自分の考えを根拠を示してまとめ結論を見いだす力

          ・地域の自然環境を見直し、改善しようとする力

          ・学んだことを基に自分の生活を見直す力

        (3)見方や考え方

          ・目に見えない大気の汚れを測定や観察などにより把握し、目に見える形で表現すること

          ・大気の汚れと自分自身の生活とのかかわりをとらえること

      コンピュータの活用について

        使用ソフト等

        活動の内容

        活動のねらい

        • OutlookExpress
          (電子メール)

        • NetMeeting
          (ビデオ会議)

        • メディアルーム
          (ホームページ作成)

        • 他地域の小学校に自分たちの地域環境の様子を伝え、他地域の環境の様子を知らせてもらう。

        • 調べる中で出てきた疑問について専門家に尋ねる。

        • 自分たちの地域環境を調べた結果、「他の地域はどうだろう。」と関心の幅が広がってきている。他地域の情報を得て比較することで、改めて自分たちの環境に気づくことができるようにする。

        • コンピュータのコミュニケーション ツールを使って、学習に役立てること ができるようにする。

        • エクセル

          (表計算ソフト)

        • 集めたデータを表やグラフにする。

        • データを整理する時間を短縮し、視覚に訴えた表やグラフを作成することができるようにする。

      活動計画

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    3.2.2 中学校における活用

       中学校における理科の内容では、酸性・アルカリ性に関して中和反応も含めて扱うことになっている。pHについては履修しないが、酸性の水溶液を10倍に薄めるごとにpHが1大きくなるといった現象をもとに理解することが可能であると考えている。また、イオンに関する学習も行うので、導電率の概念など、酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査プロジェクトで扱う内容は、中学校3年までにおよそ理解が可能になると考えている。

       これまでのプロジェクト参加校の実践を見ても、「選択教科」特に「選択理科」において、教科書レベルの学習をさらに発展させて酸性雨を扱う事例が多く紹介されている。

       また、より幅広い扱いをすることで、「総合的な学習」における実践事例も増えてきている。

       札幌市立発寒中学校における活用事例を以下に示す。

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      選択理科での取り組み

      選択理科のカリキュラム

        本校では今年度より3年後期に個人選択による選択教科を行っている。今年度のカリキュラムは次のようになっている。

      ねらい

        (1)自らが学習の課題やテーマを持ち,継続して探究や追究をすることを通して自然の事 象に興味・関心を持ち,意欲的により次元の高い自然の事象の究明にあたる。

        (2)観察や実験を通して,科学的なものの考え方や論理的に思考する能力を養う。

        (3)課題解決型の学習の取り組みを通して自己の変容を図り,より高次な学習内容に主体的に学習を進める力をつける。

      指導計画 (12時間)

        学習題材等

        主な学習内容

        1

        オリエンテーション

        選択理科のねらい,グループ編成,約束事項・進め方の確認等

        2

        共通実験

        エタノールを使った中和反応の実験

        3

        パックテストを使った水質調査

        4

        ピーナッツの燃焼によるカロリー数の測定

        5

        ペットボトルでつくる雪結晶と雲

        6

        通り抜ける壁・偏光板で遊ぼう

        7

        静電気を調べる

        8

        課題選択学習

        テーマ設定・研究計画作成 ※第1分野の「トライ」などから課題選択

        9

        観察・実験(1)

        10

        観察・実験(2),実験のまとめ

        11

        交流会,評価(自己・相互)

        12

        反 省

        年間を通しての活動の反省(感想・自己評価)

      酸性雨測定に関わる実験

         後期半期であるため,環境調査に限定して継続研究に取り組むことが難しい。酸性雨調査はパックテストを使っての水質調査の中で行った。実験の内容は以下の通り。

           水道水,雨水,平和の滝(上流),旧中ノ川上流,旧中ノ川中流,琴似発寒川,樽川ふ頭(海水)の7つの試水をパックテストを使って,亜硝酸,残留塩素,ペーハーを一人一人がすべてを調べる。

           雨水はレインゴーランドを採取したものと雨量計を使って採取したものの2つを用意した。また,ペーハーはパックテストの他にpH計の使用も認めた。

      生徒の様子

         河川はいずれも校区内を流れている生徒にとって身近なものである。この実験は生徒にとって身近な環境に興味をもつ契機として有効である。選択理科が通年で開設されるのであれば,個別の課題設定で酸性雨調査に取り組みたいという生徒もいた。

         本校の理科室には科学部用に6台のコンピュータを設置し,いずれもインターネットが利用ができる。授業の中でインターネットを使って調べようとする様子も見られた。

      実践を通して

         酸性雨や窒素酸化物濃度の測定など環境調査の実践は全国的にもたくさんの事例がある。中学校で取り組む際には,取り組む時間の確保,生徒の意識の喚起,機材の用意,データの正確さ,他との比較の材料などの課題がある。

         本プロジェクトのように,専門家の助言が受けられること,共通した観測に取り組めデータの蓄積が平易であること,同様の観測をしてる生徒同士の交流のシステムが用意されていることは,生徒の観測データの信頼性を高めることができるとともに課題意識を喚起し持続させるために大変有効である。

         地域にもよるのであろうが,このような観測結果を発表・発信できる場は中学生には限られている。本市の場合は札幌市中学校文化連盟主催の科学研究発表会がもっとも大きな機会となっているが,インターネットが利用できることによってさらに情報発信が日常的に,そして簡単になっている。

         本校では酸性雨と窒素酸化物濃度の測定は科学部が中心となって行っている。必修教科での授業などを通して,生徒は思いのほか環境問題に関心をもっていることがわかる。今後はさらに拡大される選択教科の中や総合的な学習の時間でこのような調査を取り上げることが可能となる。また,そこで得た自校のデータは必修教科の中で,同じ学校の仲間が調べた結果として生かすことができるものと考える。

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       ここまで主に理科での活用方法を述べてきたが、本プロジェクトは他教科でも活用することができる。国語の教科書への掲載依頼があったことは、このことを顕著に表していると言えよう。鹿児島県屋久町立岳南中学校による「国語」及び「社会」で活用するためのモデル指導案を以下に示す。

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      国語科および選択国語での利用

      単元例:3年 五 科学の心を育てる  教材「三十五億年の命」 (光村図書)

      テーマ:小学生を対象にした「科学情報雑誌を作ろう」

      ねらい

         説明的文章を書くことを通して、必要な事柄をとらえ、情報を選択・収集し、伝えようとする相手に応じて、説明的文章を書くことができる。

      学習計画

        第1次 説明的文章を書くために、必要な事柄を理解する。

         (目標)「三十五億年の命」を読んで要点をおさえよう。

        第2次 科学雑誌について話し合い、興味関心を高めよう。

         (目標)学習目標「科学雑誌を作ろう」を設定し、学習計画を立てよう。

        第3次 「三十五億年の命」を読み、理解したことを活かして説明的文章を書く。

         (目標)小学生を対象にした、環境に関する情報紙をつくろう。

        第4次 完成した作品についてお互いに評価しよう。

         (目標)目的にあった説明的文書が書けたか評価する。

      酸性雨/窒素酸化物ホームページの利用方法

         第3次おいて、テーマに「酸性雨」選ぶ生徒がいる。ここで、同じ年代の若者が継続的に調査研究をしていることを知らせ、これを情報の一つとして利用できることを伝える。さらに、この情報から日本の酸性雨の状況を理解できるよう手立てはできないか、 考えさせる。

      参考図書

        ・「恐るべき酸性雨」 谷山哲郎著 合同出版

        ・「酸性雨から地球を守ろう」 不破敬一郎 偕成社

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      社会科での利用

      利用できる単元  地球環境と日本   1.日本と地球の環境問題(文教出版)

      選択社会での利用

      テーマ:「私たちの大切な地球が抱える環境問題について調べてみよう」

      ねらい

         この単元は、「公害や自然破壊は、国境を越えて発生する重要な課題であることを認識させ、自然を大切にし、地球環境を守る心を育て、地球規模で取り組まなければならないことを理解させる。」ことをねらいとしている。

         そこで、自分と同じ年代の小中高校生が、全国レベルで酸性雨や窒素酸化物調査を継続して行い、地球環境を見守る活動を続けていることを知り、地球環境を守るために、自分たちがしなくてはならないこと、できることは何かを「酸性雨」を例に考えさせる。

      学習計画

         第1次 私たちの大切な地球がかかえる環境問題にはどんなものがあるだろうか。

          (目標)

          環境破壊の新聞記事などから、自分の生活に関連のある項目を決め、探求したい課題として設定する。

         第2次 自分の課題を解決するために、調査活動を行う。

          (目標)

          課題を解決するために、情報収集や調査活動を行い、環境破壊の現状を把握する。

         第3次 調べた結果をまとめ、プレゼンテーションの準備をしよう。

          (目標)

          情報収集や調査してわかったことや問題点などを、聞く人がわかりやすいように工夫をしてまとめ、発表の準備をしよう。

      展開例

        配次

        学 習 活 動 ・ 内 容

        留  意  点

        1.新聞の切り抜きや雑誌の記事などを持ちより、地球環境問題についてどのようなものがあるのか認識する。

        2.記事を、テーマごとに分類し、自分の調べてみたい項目を決定する。

        3.酸性雨を例にとり、継続的に調査を行っている小中高校生がいることを知る。

        1.年度当初から新聞のストックを心がける。また、生徒や他の教員にも協力を依頼するとよい。

        ●新聞をストックしておき、新聞をめくりながら環境問題に関する記事をスクラップしていく方法も有効である。

        3.酸性雨を選ばなかった生徒にも調査する全国の小中学生がいることを伝え、自分たちにも何かできるという意欲を持たせるように心がける。

        ○『酸性雨』をテーマに選んだ生徒は、酸性雨の現状について情報収集を行う。

        1.日本の現状を知るために、酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクトのホームページにある各学校の結果を利用して、A.酸性雨の状況マップB.窒素酸化物状況マップを作成する。

        1.同世代の仲間の調査結果を使うことにより、自分たちも何かできるのではという意欲をさらに高めさせる。

        (1)日本地図(白地図)に各県の代表校の一番低い数値(酸性度の高い数値)を記入していくとよい。

        (1)インターネットで、酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクトにアクセスする。 URL:http//pine.fukuyama.hiroshima-u.ac.jp/index.html

        (2)「酸性雨調査」および「窒素酸化物」から入り、各学校のデータを閲覧し、状況を把握する。

        (3)酸性雨マップと窒素酸化物状況マップを作成する。

        2.作成したマップから日本の現状を考える。

        3.酸性雨の原因について調べる。

        4.これからの対策につて考える

        2.2つのマップから日本のどの地域でも酸性雨が降っていることに気づかせる。

        ○調べた結果をまとめ、プレゼンテーションの準備をしよう。

        1. 情報収集や調査してわかったことや問題点な
        2. どを、聞く人がわかりやすいように工夫をしてまとめ、発表の準備をする。

        3. 発表する。

        1.発表にはいろいろあることを知らせ、自分にあった方法で行うようにさせる。

        (例)広幅用紙 コンピュータ OHP

        ○相互に評価する場を設ける。

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    3.2.3 高等学校における活用

       高等学校における活用は、課題研究や専門科目などより高度な内容を授業として扱う例が多く見られる。課題研究では化学の基礎実験と課題テーマ設定を中心に課題研究発表会に向けてプレゼンテーションを含む活動を行っている例も見られる。

       高等学校の新学習指導要領では、小学校・中学校と同様に「総合的な学習」が新設されたのに合わせ、普通教科「情報」が新設された。教科「情報」では、これからの高度情報化社会に生活する上で必要とされる情報リテラシーを育成することが求められている。例えば実験や測定で得られた数値を加工したり、プレゼンテーションように加工するといった能力が求められている。こうした活動の内容として、酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査プロジェクトで蓄積されたデータを利用することも可能である。

       また、高等学校における「総合的な学習」では、小学校・中学校にもまして、「自らの在り方生き方を考える」実践となることが求められる。そうした際に環境問題をテーマとすることは、環境に対する行動をどのように組織していくか、どのように実践していくかという、まさに「自己の在り方生き方」を問う内容となることが期待できる。

       以下に広島大学附属福山高等学校における実践を紹介する。

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      環境問題をテーマにした課題研究

         当校の高等学校1年生の「総合理科」の授業では、酸性雨等の環境問題をテーマに課題研究を行わせている。

         まず、共通内容の学習として酸性雨調査プロジェクトでこれまでに蓄積された全国の観測データを使って、日本の酸性雨の状況について考察させる。地球環境の現状を、自分たちの測定データをもとに考察していくことで、より身近な問題として捉えることができ、また、生徒の意欲を高める視点からも意義が大きい。

         またインターネットには多くの酸性雨に関する情報が公開されており、これらを使って酸性雨がどのようにして降ってくるのか学習を行う。学習に当たっては、酸性雨ホームページのリンク集を中心に生徒に利用させた。生徒にとっては教科書とは違って、自分のほしい情報が順序よく説明されているわけではないが、自分達で見つけた情報を他の生徒と見せあったり、より詳しい情報を求めることをゲーム感覚で行う生徒もいる。与えられた情報から学習するのではなく、自分たちで学習のために必要な情報を探していくという学習形態が、生徒の意欲につながったと感じている。

         次に2人のグループで課題研究に取り組むのだが、まず各グループの研究テーマを話し合いによって決定させる。自分たちの学習の中から見つけだした疑問点や興味を持ったことを課題としてその内容を明らかにさせ、それを基に実験の計画を立てさせる。生徒達は昨年度までの他校の実践報告書なども参考にしながら、自分たちの研究の方針を立てられるようになってきた。先輩達の研究を基にさらに高度な目標を定めて研究を進めるグループも目立ってきている。

         例えば自動車の排気ガスをペットボトルに入れた水に通してみる実験をおこなったグループがある。ガソリンエンジンではpHは排気ガスの量を増やしていくと、ある値に達すると下がり方が鈍化するが、ディーゼルエンジンではpHが下がり続け、さらに実験を続けるとpH3.8程度まで下がり続けていった。ガソリンエンジンの排気ガスは二酸化炭素が水に飽和した後は他の酸性物質が少ないためpHがあまり下がらないが、ディーゼルエンジンには強い酸性物質が含まれているのではないかと生徒達は考察している。この実験を基に、後の学年のグループが自動車の排気ガスの成分は、どのようなものが含まれているのか、二酸化炭素と硫黄酸化物、窒素酸化物の3つの成分について気体検知管(ガステック)を使って調べた。確かにガソリンエンジンの排気ガスには二酸化炭素は多いが、酸性の強いSOx、NOxは検知できないほど少ない。それに対してディーゼルの排気ガスには、SOx、NOxが含まれており、pHが下がり続けるのはこれらの物質が原因であろうと考察した。さらに生徒達は、二酸化炭素が多くなると地球温暖化につながるし、酸性物質が多くなると酸性雨になるし、どちらがいいとか悪いとかいう判断をするのは難しい問題だと結んでいる。また、ガソリンエンジンもディーゼルエンジンも古くなるほどpHの下がり方が大きく、酸性物質や黒いすすの排出量が増えていることから、古い自動車を使わないようにすることも必要だと考えることができた。

         酸性雨が身の回りにどのような影響を与えているか調べたグループもある。校内のコンクリートの様子を見ると、雨の当たるところとあたらないところで、表面の様子に大きなちがいがある。また、鉄筋がさびて露出しているところも見つかる。福山城の近くの建物には、いわゆる酸性雨つららと呼ばれるコンクリートのつららができている。また、野外に設置してあるブロンズの彫刻の表面に、雨の伝わり落ちるところに黒いしみができているのも観察される。すべてが酸性雨の影響ではないかもしれないが、そうした状況を探し出し、酸性雨が影響した可能性について論議することができた。

         これらの例のように、生徒達は素朴な疑問や個々の生徒の感性に基づいて、課題研究を展開している。どのような実験や観察をしたら自分たちの疑問が解決できるのか、この点が生徒達が最も悩む点である。自由研究の事例集などの書籍から、輪ゴムを利用した大気汚染の測定方法を調べて実施したグループがある。また大気中の窒素酸化物の測定方法をインターネットの情報から探しだして、実施したグループもある。各グループには、自分たちの研究をインターネットで公開することが、次に同じようなことを調べようとする人たちの役に立つことを教えている。

         自分たちの考えた実験で予想通りの結果が得られず、考察で苦労するグループもある。長時間を要する実験に失敗して、結果を出せないグループもある。最後に行う研究の発表でそうした苦労をみんなに伝えるように勧めている。

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    3.2.4 総合的な学習における活用

       新学習指導要領では、小学校から高等学校までそれぞれ、「総合的な学習」の時間が設けられ、すでにその実践が開始されている。酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査プロジェクト幹事校である広島大学附属福山中・高等学校でも、「総合的な学習」LIFEの授業では、中学校2年生で環境問題をテーマに学習を進めている。平成12年度も酸性雨調査を中心に据え、新学習指導要領に示された総合的な学習のねらいに基づいて年間のカリキュラムを編成した。すなわち、酸性雨などの環境観測や実験、調査などの体験を通し、その観測事実や実験結果などに基づいて疑問を発見し、疑問を解決していく方法を探るという、「自ら課題を見付け、よりよく問題を解決する」ことを目指し、また交流活動により環境に対する理解を深め、環境に対する行動を実践する中から、「自己の在り方生き方を考える」ことができる生徒を育みたいと考えている。

       例えば、酸性雨のデータは疑問を発見する場面で次のように利用している。当校の測定ではレインゴーランドで集めた降雨のうち、カップ1、2に相当する初期降雨は、それ以降の雨に比較してpHが高く、導電率が高い傾向がしばしば見られる。昨年度、観測中の生徒にそれとなくその事実を指摘しておくと、その後の酸性雨や環境問題をテーマにグループで探究活動を行う際に、「初期降雨のpHと導電率」をテーマに掲げて研究を行ったグループが出現した。このグループは観測データの中から、この傾向がこれまでの観測データの中でどのくらいの頻度で見られるか確認した上で、なぜこのようなことが起こるのか解決するための実験に取り組んだ。カップ1、2では、肉眼で見ても砂粒などの沈殿物が見えることがあることに気がついた生徒達は、シャーレーをレインゴーランドのそばに置いて降下してくるほこりを集め、水に溶かしたときのpHがアルカリ性を示すことを突きとめた。また、予備に準備していたレインゴーランドを洗浄した後密封しておき、降雨開始直後に既設のレインゴーランドの横に置いて雨水を集めて比較を行った。この結果、降雨直前に設置したレインゴーランドの初期降雨では、pHや導電率の上昇が小さくなると報告している。これらの結果から、降雨前にすきまからレインゴーランドの採雨部に進入したほこりによる中和反応がpHや導電率を高くしていると結論を出した。

       生徒の観測活動には時間の許す限り同行するようにしている。手は出さないが、口は出している。特にできるだけ多くの疑問を投げかけるようにしている。一般に大学生でも自分の研究テーマを決めることのできない、疑問を発見できない学生が増えていると言うが、この研究を行ったグループは自分たちの研究を自分たちの力で疑問を発見し解決したような表現で、レポートをまとめている。観測中のささやきを覚えていて、それをテーマにしたものか、本当に自分たちで疑問を感じたのかは定かではないが、貴重な体験をしたと言ってよいのではないだろうか。こうした体験の積み重ねが、「よりよく生きる力」を育むのではないかと考えている。

       このような実践事例を公開し、参考にしていただけるように、広島大学附属福山中・高等学校では「総合的な学習のひろば」というページを設置して、総合的な学習の資料提供を行っている。この中にはこれまで6年間にわたって当校の授業で実践してきた、酸性雨をテーマにした環境学習の記録も含まれている。こうした資料を共有化し、酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査プロジェクト参加校のだれもが利用可能なものとして整理を行宇ことを計画した。今年度まだ十分な資料の蓄積にまで至らなかったが、とりあえず幹事校における「総合的な学習」の実践を中心に資料を整理中である。

       昨年度までのプロジェクトでも、また今年度も、年度末には各参加校から実践報告書を提出いただくようになっており、その中で書かれている実践についても、今後全参加校の共通財産として、ホームページの上で公開していきたいと考えている。特に、授業案や指導案などを整理し、プロジェクトホームページを見れば即、実践できるような、環境教育データベースとなることを目指したいと考えている。特に、今後高等学校における「総合的な学習」の検討が行われる時期に合わせてこうした情報を提供し、利用ができるように考えていきたい。

       また酸性雨・窒素酸化物(NOx)調査ホームページには、酸性雨や環境問題に関するリンク集を作成している。その中の電力事業会社のホームページや自動車会社のホームページの中には、大気汚染を防止するためにおこなっている努力が詳しく紹介されているものもある。こうした情報は生徒にとって環境問題解決への方法を考え、地球環境の将来を展望させる上で重要であると考える。酸性雨の問題は、学習を進めていくとその深刻な状況に戸惑うような生徒もいる。自分たちの努力だけではどうにもならないという悲観的な考えになる生徒もいるのではないかと感じている。企業の中にも利益優先ではなくコストのかかる環境対策を行っているという情報、そして小さな努力が社会を動かすといった情報に、生徒達は勇気づけられている。こうした意味からも、リンク集についても、充実を図りたいと考えている。酸性雨や大気汚染のことであればこのホームページを見れば一通りの学習ができるような、調べ学習を中心とした授業でも活用のできるホームページとなるように、今後さらに内容の充実を図りたいと考えている。

3.3 地域との連携方法

     プロジェクトを進め、深めていくと学内だけでは解決できない課題や疑問が生じてくることがある。プロジェクト内のメーリングリスト、意見交換掲示板等でそれらが解消すればよいが、中には解消できないものもある。本プロジェクトにおいて、一例をあげると、雨水のより詳細な分析である。より深く取り組んでいる学校では、pHの大小だけでなく、それが何によってもたらされているのか、雨水の中の詳細な成分の情報を知りたくなる。それには高価な装置、高度な専門知識が必要であり、学校内での対応は困難である。これらの対応には、地域内での連携が考えられる。本プロジェクトでは未だ試行錯誤の段階であるが、以下の事例が参考になるであろう。以下、サブ幹事校による試行例から抜粋する。

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     本校ではより詳しい分析も行うためにと、降水量8mm以上の降水は1mm毎に冷凍保存してきた。これを何とか分析したく、教育センターに分析依頼の問い合わせをしたが、装置はあるが、消耗品(分離カラム、溶離液など)予算がないとの理由で断られた。

     このため、近隣の大学、IC分析でインターネット検索をかけ、本校に近くにある大学へ電子メールにて問い合わせた結果、学生実験で雨水分析を行っている研究室の先生から、返事を頂き、実施することとなった。

     実施にあたっては、教育研究会長から大学宛に分析依頼要請(文書)を行ってもらい、許可された。

     また、昨年7月から共同観測を行っている市内の環境部にもIC装置があることを知り、大学からのアドバイスもあり、クロスチェックをお願いすることにした。定期的に分析を続け、採取した7カ月間の降水のデータが蓄積されている。

     中学校酸性雨ネットワークでも参加7校で10月20日の降雨水を1mm毎にIC分析を行い同一雨雲起源の雨水が、それぞれの地域でどのように汚染されるかを調べてみたりもしている。

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     地域との連携に汎用的なノウハウは存在せず、ケースバイケースで活動していく必要がある。上記は、よりよい授業を行っていこうという担当者の意志さえあれば、何らかの解決策があるというよい事例と言えるだろう。



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