第4章 交流学習の成果と課題


戻る
目次へ 総目次へ

3.プロジェクトの成果と課題

    (1)参加校の規模拡大と交流形態の刷新

       本企画では,当初,平成11年度に吉野川を題材として実施した交流学習のデザインを模倣しようとした。吉野川の場合は,3校間で互いのカリキュラムをすり合わせして,学習の共通テーマ(例えば,生き物,暮らしなど)を選定し,それに基づいた情報交換を子ども間で展開した。

       ところが,今年度の旭川流域内の交流学習は,6校の参加でスタートしたため,事情が異なった。参加校数が倍になっても,学校の情報機器環境については,吉野川の場合に比べて学校間格差は小さく,交流の障壁にはならなかった。問題は,カリキュラムと子どもたちの学習経験の違いであった。

       一般に,インターネットを「総合的な学習の時間」の営みの道具や舞台として,教師たちは重宝している。また,交流学習は,この時間ならではの学習活動であると,彼らは理解している。中心校となった岡山市立平福小学校では,平成8年度から「総合的な学習の時間」の試行的実践を開始し,既に昨年度から105−110時間のカリキュラムを運営している。また,それは,他校や外部人材との情報・意見交換や共同作業を組み入れたカリキュラムであった。ところが,その他の学校については,少ないところは,30時間程度しか,今年度はこれに費やせない。今年度は,年間指導計画に交流学習が含まれていない学校もある。もっと深刻だったのは,子どもたちの情報活用能力に差があったことである。実施学年が学校によって違ったこともあって,インターネットでの情報収集・発信に長けた子どもがいる学校もあれば,初めてインターネットの画面を見たという子どもたちがいる学校まで,その幅は広かった。

       こうした状況のため,共通テーマのすり合わせは難航した。交流の準備と交流普及のための営みについては,今回の交流学習も,吉野川を題材にした交流学習とほとんど同じ歩みをたどることができた。しかし,交流の内容や形態は,6校の多様性に対応するためには再考せざるをえず,プロジェクト型を選択し,デジタルマップ作成を学習テーマに据えることになった。中心校のプロデュースの下,それぞれの学校が可能な範囲で交流に参加し,果たせる役割を着実にこなしていくことを,本企画の基本的な精神としたのである。そして,各校の参加に温度差があっても,参加校の子どもたちを結ぶ絆として,それぞれが交流に参加した証が残る,地域のデジタルマップづくりを構想した。

       交流学習への参加校の規模拡大と,それにより生じる参加校間の多様性に対応するために,新しい交流形態を開拓したのが,本企画の最も大きな成果であろう。

    (2)ビギナー校の参加可能性を高める方策

       本企画では,本年度になってようやくインターネットへの接続が可能になった学校も交流学習に加わってもらっている。こうした学校では,情報機器環境が整備されても,教師には,情報教育のカリキュラムを計画・実施した経験が乏しいし,子どもの情報活用能力も十分には育っているとはいえない。

       前述したように,ビギナー校が交流学習に参加しやすいように,交流形態としては,プロジェクトの役割の一部だけでも果たせばそれでよい,というプロジェクト型の交流学習を推進した。それによって,例えば清輝小学校や神目小学校の子どもたちは,「旭川デジタルマップづくり」の4班中,コンテンツ班だけに所属し,「情報カード」の提供役に専従した。彼らが登録した「情報カード」は,他校のプロデュース班・デザイン班の子どもたちの手によって,デジタルマップに含まれる情報の一部となった。ビギナー校の子どもたちの「デジタルマップづくり」への貢献は決して小さくない。

       ビギナー校の参加可能性は,プロジェクトにおける役割分担と,それらへの所属の選択制によって,大きく高まった。ビギナー校の交流学習への参加可能性を高める方策を見出せたのも,今回の企画の成果である。

       なお,旭川の上・中・下流域ごとに設けた中心校−ビギナー校の組み合わせも効を奏した。ビギナー校が抱える問題点を克服するために,中心校−ビギナー校では,全体の話し合い(委員会やワーキンググループの話し合い)の合間に,どちらかの学校を会場にして,あるいはTV会議システムを用いて,打ち合わせ会を開催している。本企画では,教師メーリングリストでのコミュニケーションも重視してはいるが,流域ごとに中心校−ビギナー校のペアを設けて,現場での細かな支援が可能になるよう実施体制を組んだ。それも,本企画が生み出した,交流学習成功の秘訣のひとつである。

    (3)交流学習の充実に資する情報機器環境・Webツール

       参加校の増加は,交流の回数の増加を伴う。なにより,相手が増えると,相手によって交流の内容やスタイルを微妙に(時には大きく)変えることが教師にも子どもにも要請されるので,彼らは,交流学習の実施に時間とエネルギーをかけることになる。特に,ビギナー校の教師や子どもたちには,参加すること自体がたいへんな負担になるであろう。

       参加にまつわるストレスを低減するための術のひとつとして,今回のハード面,ソフト面の改善は,重要であった。例えば,中心校のひとつである誕生寺小学校では,年度当初のカリキュラムには,旭川を舞台とする交流学習は予定されていなかったので,教師も子どもも交流学習への参加に余分のエネルギーを費やすことを余儀なくされた。それでもカリキュラムの修正が実現したのは,学級にコンピュータを設置できたからである。そうした環境が,交流に向けた子どもたちの意欲を喚起したし,また日常的,継続的なコミュニケーションを可能にしてくれた。

       本プロジェクトのメンバーのアイデアと事務局の作業により提供された,Webツール「あさひばりばりネット」は,教師にも子どもにも大変好評であった。各校のインフラ等が異なっていても利用できる,汎用ツールであったからである。また,参加校の子どもが登録する,たくさんの情報を整理するための内容の枠組みと情報処理の書式が準備され,情報の収集・処理加工・発信をこのサイトで一元的に展開することが可能になったからである。

      さらに,データベース・掲示板・グループメール・チャットなどの多様なツールをこのサイトは持っていたので,参加校の子どもたちは,自分たちの力量と必要に応じて,それらを使い分けることもできた。

    (4)子どもたちの成長と交流ツール・デザインの課題

       本企画で採用した「プロジェクト型」交流学習では,子どもたちの情報活用能力の育成と郷土への愛着の醸成を意図した。それらのねらいは,ある程度,満たすことができた。しかし,同時に,いくつかの点については,今後,授業デザインを再考しなければならないと研究開発チームは感じている。以下,それらを整理する。

      1)情報活用能力の育成については,子どもたちは,Webでの情報活用,特に「情報カード」の登録(データベースの作成)と「電子掲示板」への投稿に慣れたといえる。

       わずか2か月強で「情報カード」の登録は,400件を越えた(12月14日時点)。電子掲示板への投稿は,プロデュース班の子どもを中心に,284件に登った。その内容についても,当初は自己紹介や一方的な情報発信ばかりであったが,投稿数が増えるに従って,「旭川デジタルマップ」の作成目的の確認,デザインコンセプトのすり合わせ,アピールや評価の方法に関する意見交換へと移行している。つまり,Web上で子どもたちは相互作用し,プロジェクト全体として,情報やアイデアの積み重ねが実現していた。

      2)今回の交流学習では,「情報カード」の登録や「電子掲示板」への投稿に際して,IDやパスワードの入力を求めたり,ファイルの容量に制限をかけたりしていた。そのため,子どもたちは,ネットワークの仕組みやそこでの情報活用のマナーを学ぶことができた。

      3)以上のような点から,プロジェクト型交流学習での経験を通じて,子どもたちは,Web上でのコミュニケーションとコラボレーションの意義,ノウハウ,それに必要とされる態度といった点で,情報活用能力を高めたといえる。また,それを支えるものとして,今回のプロジェクト用に開発したWebツール「あさひばりばりネット」は有用性が高いことも確認された。

      4)他方,子どもたちの郷土への関心や愛着に関しては,充実した部分とそうでない部分とが混在していることが明らかになった。プロデュース班,特に平福小のプロデュース班の子どもたちは,プロジェクトへの参加を他校に呼びかけるために,また活動のふりかえりや活性化のために,常に旭川デジタルマップ作成の目的を仲間に説いていた。

       「あさひばりばりネット」に掲載されている「私たちの願い」では,上・中・下流の自然のすばらしさ,それが侵されている現状が説得力のある文章で綴られている。彼らは,郷土への関心や愛着を,デジタルマップ作成と公開を通じて,さらに深めたといえよう。

       ところが,その他の班,とりわけコンテンツ班に関しては,「情報カード」の登録・検索等が主たる活動となったため,掲示板での意見交換の機会が少なかった。「あさひばりばりネット」上では,仲間の「情報カード」に対する意見の書き込みも可能であるが,学習時間の制約もあったためか,コンテンツ班の子どもたちは,自分たちの地域の情報を登録するのに手一杯で,それを他者のものと比較するとか,比較によって明らかになる流域の独自性を実感するには至らなかったようだ。

       旭川の上・中・下流流域の自然や文化には,共通性と独自性があり,コンテンツ班の情報・意見交換が充実すれば,子どもたちの認識が,そこに至ることは可能であったはずだ。しかし,「デジタルマップ作成」を最優先に考えたプロジェクト型交流学習では,比較検討を促す場面,例えば,昨年度の吉野川での交流学習における全校参加のオフラインミーティングなどは持ち得なかった。

       また、開発期間に対して、本プロジェクトの課題設定の適切性という面で反省点も多い。開発研究期間の短さと参加校数の拡大という制約の中で,同時にビギナー校も参加しやすいという条件の下で,子どもたちの郷土理解,とりわけ比較思考に基づく郷土の特色把握をどう実現するか,そのためにWebツールのどこを改善するかなども今後の課題として残った。

実施企業・団体名:株式会社 学習研究社



Eスクエア プロジェクト ホームページへ