三庄小は、文部省の機器利用推進校の指定を受けて以来、情報機器活用に関する試みを繰り広げ、そのカリキュラムや指導方法、さらには学習環境の整備などは、他校の教師からも高く評価されてきた。しかし、今回のプロジェクトのように、状況の異なる学校をパートナーにすること、そうした学校を交流学習に誘い、リードするという経験は、三庄小といえどもそう多くはなかった。今回、中心校として三庄小の教師達は、他校とのコラボレーションの難しさに遭遇し、見事にそれを克服した。
一方、豊永小と柿原小は、初めて、デジタル環境で教育活動を展開する魅力を満喫した。2校の教師の戸惑いは、最初は大きかったようだが、次第にTV会議システムやインターネットの可能性を体感し、来年度以降もその利用を継続・発展させようとしている。実践者が、デジタル環境の世界への第一歩を確かに踏み出したこと、それが第二歩にもつながっていることが本プロジェクトの最大の成果であろう。
現在は、メディア教育の草創期であり、学校が違えばインターネットの利用のあり方、情報教育の進め方は異なる。また、教員に異動がある限り、情報教育に抵抗を覚える教師が赴任する可能性もある。こうしたことに対する備えとしても、今回の経験は3校の教師達の大きな財産になったはずである。この財産をどう発展させ、どう普及・促進させるかの手立てを考える必要がある。
以下、学校ごとに担当教諭の目で見た本プロジェクトの成果を紹介し、その後にプロジェクト全体としての成果を述べたい。
●三庄小学校
1)メディアを使った学習能力の向上
本校のメディア環境はかなり整っているといえるが、4年生の子ども達が本格的な総合的学習やTV会議に取り組んだのは今回が全く初めてであった。TV会議ひとつをとっても、初めての時には声が小さかったり受け答えがうまくできなかったり、かみ合わないところがあったりとたくさんのとまどいとつまずきがあった。しかし、TV会議も回を重ねるごとに話し方や会議の持ち方などが上達してきたように思う。
「調べ学習」を通しては、ローマ字入力も次第に覚え、「イントラバケッツ」を使ってのまとめ方も少しずつうまくなってきている。また、Eメールを使って交流をしたいという気持ちから、ローマ字をしっかり覚えてパソコンに打ち込もうとする態度が見られるようになってきた。
デジタルカメラやビデオは、見学によく用いたが映し方の練習が足りず、せっかくの見学の資料もきちんと撮れてなかったり、全く関係のないものをたくさん撮っていたりした。研究会の時にも指摘を受けたので、見てよくわかるように、相手にもよくわかってもらえるような映像や画像を作れるようにと子ども達に注意した。その結果、少しずつだが、見る側を意識して撮るよう心がけるようになり、うまくなってきた。
しかし何を使って、どうやって調べるか、また伝えるかなど、メディアの使い分けは十分理解できていないので、これからの課題として残っている。
2)ひとつのことを比較しながら学習していくことを学んだ。
それぞれのテーマの中で、自分達が調べていることがある程度わかると、必ず上流はどうだろう、下流は?という声が聞かれるようになった。子ども達の意識の中にいつも上流、中流、下流があって比較しようとしている。吉野川を総合的な学習だけで扱っていたら、容易にはこんな声は聞かれなかったであろう。相手があり、比べていく基準があってこそ子どもの側から出た反応だろう。
しかし、上流域や下流域と比べてみたいと言っていた子ども達は、やはり石や植物、生き物を調べていたグループに多く、共通のテーマとしてはこういったものが適しているのかなあと思う。逆に言えば、これらのテーマは、比べること抜きには学習が成立しないのかもしれない。
3)交流学習がもたらした深い追求
子ども達は、交流校の子ども達がしていることをとてもよく見ている。相手がしていることをよく見てみたり、まねてみたりすると、自分達が調べたこと以上に違うことを発見したり、さらに調べるときにその内容に深まりが出てきたりする。これは自分達の地域だけを学習していたのでは気づかないことを、交流の中で相手が教えてくれたり気づかせてくれたりした結果だ。
交流学習は、お互いに刺激しながら学習することで、ひとつのことをより深く追求していくことを教えてくれた。その学習の気づきからさらに深い追求が生まれ、学習が発展、広がりを見せていった。これこそ共同学習のすばらしい所である。
4)伝えるべき相手がいることで得られたもの・・・相手を思いやる心
何かを調べて相手に伝えなければならない、しかもその相手の顔が見えているということは子ども達にとっては意識せざるを得ないことである。
TV会議で質問されたことに答えられないと、今度はきちんと答えようと一生懸命考えてみたり、どうやって話すとうまく伝わるだろうかと入念に原稿をチェックしたりと、伝えようと思う相手がはっきりしているだけでずいぶんと態度や話し方が変わってくる。
石を調べていたグループと植物を調べていたグループは、自分達が調べていることをわかってもらおうと、まず作った作品や実物を送ることを思いついた。また、それにつける手紙も自主的に家で書いてくるなど、相手を意識した行動がとれるようになった。
また、観光地と特産物を調べていたグループのTV会議では、送られてきた「ごいし茶」を飲み、その感想を求められたとき、飲み慣れない味にも関わらず少々無理のある答え・・・「飲めないこともないです。」後で聞くと苦手な味だそうだ。しかし、この子の中ではしっかりと相手を意識し、失礼のないような受け答えを意識できている。ほかにもTV会議の場となると少々の例外はあるが、それぞれが画面の向こうの相手を意識し思いやりを持って接しようとがんばっていた。日頃、相手の気持ちを考えずによく喧嘩をする4年生にしては、よくできたと思う。
TV会議やインターネットなどのすべての交流を通して、子ども達は人との接し方や相手を思いやる気持ちを学びとっている。自分の気持ちや思いをのせた交流が少しずつできるようになっている。
5)吉野川はつながっている・・・そして人もつながっているということ
子ども達は上流域校、下流域校との交流の中で、吉野川がつながっていることを学んできた。そして、ますます上流や下流の様子に興味を持っている。川がつながっていることと同時に、その川によって自分達もつながっていることも同時に体感することができた。
これは今回のような学習や体験を重ねることで、初めて得られるような達成感ではないだろうか。
6)たくさんの友だちを作る機会を得たこと
学級は閉鎖的な面を持っているが、今回のように学校を越えて多くの友だちに接する機会を得たことは、子ども達にとっては幸せなことであった。特にオフラインミーティングの機会はめったにないことなので、子ども達にとってもいい経験となった。
日頃何かとトラブルを起こすK君は社交的な所を生かして、ひとりで豊永小の3人の友だちを引き連れておいしそうに弁当を食べていた。積極的に仲間を作るK君を見て、「K君、すごいなあ。」と周りの子が少しK君を見直したようであった。
いつもおとなしく知らない子に声などかけられるのかなと心配していたFさんも、たくましく多くの子のサインを集め、柿原小と三庄小の集団の中でいた。また、積極的すぎて気に入った子を追い回し、他校の子からも迷惑がられたりした子もいたようだ。
今回のような交流学習は、ふだん教室では見られない子ども達の姿を見せてくれる。もしかしたら、交流学習会での姿の方が本来の姿かもしれない。どちらにしても三庄小の2学級は、交流学習後今まで以上に明るくなり、もっと両校の子ども達と親密になりたいと願っている。
7)身近な吉野川を見直し、吉野川に注目するようになった。
交流の元となった吉野川は、今や子ども達のシンボルのような存在である。これまでは遊びに行くこともなく、何の興味も持たなかった吉野川だが、この学習を通して吉野川の話題にはよく目を向けるようになった。川のそばを自動車で通りながら、新しい橋ができることを見つけたり、建設中の堤防が次第に大きくなっていくことを報告してくれたりと、誰かがいつも目を光らせている。また、家族で川原に出かけたりする子どもも増えてきた。何の興味もなかった吉野川が、子ども達の頭にはいつも存在するようになった。
そして、いつかは上流や下流に行き、自分達の目でその様子を確かめたいという思いがわいてきている。「先生、豊永にも行ってみたい。」という声がよく聞かれる。
折しも今後の吉野川をめぐってはさまざまな問題があり、これからの吉野川が問われている時期である。子ども達には常に吉野川を意識し、郷土の川を知り、守っていく態度を持ち続けてほしいと思う。
8)フェニックスミニは今後も大活躍
今回導入したフェニックスミニは、これまでのTV会議システムより使いやすいため、他の学年も活用しているし4年生も今後多く使ってみたいと思っている。TV会議に使った音楽室は、大画面のTVとカメラが常備され、まるでTV会議専用室のようになっている。本校のメディア環境はこれまでもたいへん恵まれてきたが、今回の交流学習プロジェクトで、また一段と学習の幅が広がるような環境が整ったといえる。
9)指導方法と指導力
今回の交流学習で担当教師の指導力が伸びたとは言い難いが、他校の子ども達とともに活動するという場に立って支援をしていくということは初めてのことだったので、よい経験になった。
また、新しいメディア環境に対応し、これまでひとりでこなせなかったパソコンでの処理がひとりでできるようになったことは、教師にとってもうれしいことである。
今回は、中心校ということで他校をリードする役割にあったように思うが、全体を見ながら交流学習を進めていく場合に把握しておくこと、調整するべきことなどが見えてくると同時に、難しさも感じた。
10)地域連携
本校は、地域の連携に関してはたいへん恵まれた状況にあり、今回、地域の川の学習をするにあたっては、地域の有識者から知識や資料などいろいろな支援を受けた。総合的学習の研究を始めたときから本校ではIS(インフォメーションサポータ)を設置しているので、情報提供の依頼は容易にできる。また、地域がら学校教育に関心が高く、支援をお願いするとすぐ協力してくださる。
今回の学習を通しても新しいISの方に出会うことができ、学校を核に人の輪はどんどん広がっている。今後、交流学習の中で、3校の子ども達と地域の方々、ISの方々とともに活動できる場が作れるとすばらしいと思う。
教育委員会や町当局には活動について協力いただいているが、今後この交流を続けていくとなると、さらに経費などの支援をお願いしなければならない。
11)学校・学級経営
子ども達は「調べ学習」や交流学習が大好きである。前日の計画を変えて「調べ学習」の時間を割り込ませると、大喜びである。調べ学習があるから学校が楽しい、という子どももいる。「調べ学習」となると、どの子も生き生きと活動の計画を立て自由に学習している。今回の学習が始まってからは、それぞれのテーマごとのグループで連帯感が高まり、より友情を深め親密になることができた。三庄小は1組、2組合同でグループ分けをしたので学級の枠を越えて、学年としての連帯感が高まったように思う。余談になるが、合同で行っている音楽や体育の時間にトラブルが少なくなって、グループ内が仲よく活動できるようになったのも、今回の学習の成果かもしれない。
●豊永小学校
(写真説明)「川原には緑の石がいっぱい これが緑色片岩だ」
総合的な学習については、学校全体としての取り組みができていない状態での出発だったので、子どもも指導者も試行錯誤をくり返しながら進めていった。特に今回の交流学習のテーマである「吉野川」についても、教室の窓から見下ろせる位置にありながら遊泳等が禁止されていることもあってほとんど川原に降りたことがなかった。
学習を進めるに当たっては、自分でテーマを決め、自分の学習に見通しを持って進められる子、自己決定できずに指示を待っている子、さらに指示されても学習を主体的に進められない子など10名の少人数ではあるが様々であった。それまでの教科等の学習で感じていた子ども達の能力の差がさらに広がっていったように思われる。逆に言えば、主体的に学習を進められない子は、総合的な学習以前に教科等の学習で身につけるべき能力が不足しており、指導者としてその能力が何なのか、またその大切さが見えてきたように思う。
2)メディアの活用
メディアの活用については少しずつ慣れてきた段階である。週に1時間確保されているパソコン室の利用時間以外に、この部屋を利用する回数や目的が増えてきた。国語科の学習として2学期から始めた文書のローマ字入力については程度の差こそあれ、ある程度の速さでできる子が増え、遅い子でもローマ字表を見ながらであれば入力できるようになってきた。マルチメディア図鑑の利用は全員ができるようになり、調べ学習に役立てることができた。
TV電話については指導者も含め全員が初めて触れるものなので、なかなかなじめないようだ。カメラの前で恥ずかしがる子がほとんどで十分な情報交換ができているとはいえない。TV会議をもっと密にくり返し利用することで機器に慣れ、学習の効果も上がると思うが、インターネットの閲覧と違い、同時双方向通信ができる相手が必要なメディアであるので、交流相手校との時間調整が必要である。
(写真説明)川原で一緒にお弁当(12月10日、三庄小近くの川原で)
一方、三庄小でのオフラインミーティングでは、生き生きとした活動や交流があり、やはりTV電話などのメディアではできない「ふれあい」があったことが要因と言えるだろう。また、カメラを見るのではなく相手の目を見て話すことのできるよさがあらためて感じることができた。
また、5年生の社会科学習をかねて送り合った郵パックを利用した特産物などの交換でも、食べたり飲んだりといった具体性があったことが要因で、楽しんで学習に取り組めたように思う。
今後は、遠隔地との交流学習でメディアを利用する有効性や、メディアそれぞれの特性を理解させ、学習の目的に応じたメディアの選択ができるようにしていきたい。
3)指導方法と指導力
今回のプロジェクトのスタートが学年途中であったこと、総合的な学習への取り組みがなされていなかったことなどから、指導体制として担任以外の直接的な協力を得ることはできなかった。間接的な協力としては、複式学級ということもあり、校長に5年生の理科授業をしていただく間に、4年生を単式で指導することができたこと、また、予算上の対外交渉などは管理職にお願いできた。
しかし、いくら単式で指導できるとしても、今回のような校外活動が多くなる内容で、またテーマが複数件あるうえ、さらに学習するフィールドが分散される状態であれば、それに応じた人数の指導者が必要になってくる。きめ細かな指導のため、また危険防止のため、さすがに担任1名だけでは物理的な制約ができ、子ども達の主体的な学習に支障をきしたことは確かである。
また指導者も、校長と相談しながら学習を進めたのだが、総合的な学習について見通しが足りず、やや曖昧な取り組みになってしまった。少人数・少指導者の状況でこれをどう克服していくかが学校全体として総合的な学習に取り組む上での課題といえ、この課題が見えてきたことが大きな成果である。
メディアの活用指導においても指導者自身の知識や技術が足りず、各メディアの特性や利用方法を学びながらの指導になってしまった。学校全体としてもメール等を活用できる教職員が不足しており、教える側の底上げも職場としての課題である。遠隔地にあり、時間も足りない状況で講習会等になかなか参加できないという状況を、どう克服していくかが当面の課題といえる。
4)学習環境の整備
今回の交流学習の開始を機に、TV会議システムが整備された。パソコン室に既存回線とは別に臨時にISDN回線を引いてもらった。利用試験を行う上で、全員が画面を見られるよう、また声を聞けるように考えた。試行錯誤の結果、実際に交流学習を実施するために機器を接続し、交流やその記録のために活用することになった。その他、230万画素のデジタルカメラと「マルチメディア図鑑」6本が整備された。
5)地域連携
今回の学習では、児童が校外に出る学習が大きなウエイトを占めた。主に川原での観察・採取、「砂防資料館」の見学・聞き取りを行った。「砂防資料館」は休日などに子ども達がよく訪れているが、その目的はパソコンゲームをすることであった。今回の学習で砂防資料館の本来の目的に合わせた利用ができるようになった。
一方、計画としては砂防資料館の職員や釣りの名人などをゲストティーチャーとして招くことも考えたが、実現できなかった。地域の人材バンクなどがあれば、これをすぐ利用することができただろうし、子ども達からもリクエストがあったかもしれない。
また、オフラインミーティングの際には、Kストアで豊永の特産物弁当を作っていただいた。
6)学校・学級経営
本校は、複式学級(4・5年)のため、交流学習には4年生を担当できる時間を活用せざるを得ず、活動時間の制限がきつく、担当者も担任一人に限定された。そのためEメールのチェックが遅れ、対応にスムーズさを欠くことが多々あった。
「総合的な学習」自体の取り組みも、学校として始めたばかりなので、いろいろな面で成果があった。また今回残った課題もこれからの本校の取り組みに生かされるだろう。
5年生への負担をかけないように、できるだけ5年生の授業内容に関連して支援を仰いだ。特に5年生は、昨年社会科の授業で行ったパソコンやAV活用の経験が大いに役立った。機器を利用する技能の習得には時間がかかること、そのために学習の機会を増やすことが大切であることを痛感した。
●柿原小学校
1)児童の態度と能力
三庄小や豊永小と交流するということで子ども達の学習に対する意欲がかきたてられた。とくに調べたことをまとめる段階では、他校の友だちに見てもらうことを前提として作業したので、オフラインミーティングまでに間に合わせようとがんばったり、進んで再取材に行ったりしてまとめを充実させようとするグループもあった。初めての他校との交流は、子ども達にも教師にも大きな刺激になった。
学習活動を通じて、コンピュータというメディアに慣れることができたことは大きな成果である。情報を手に入れる手段として、表現する手段として、また発信する手段としてコンピュータが活用できることを、実際の作業を通じて理解できた。校内の発表会でも画像を使って効果的な表現をしようとする子ども達が目立ったのはその現れであろう。
2)指導方法と指導力
地域学習でありながら、指導する教師の側も十分に地域の素材を分析できていなかった。どのような方向に導いていけばよいのか、また子ども達の関心がどう発展していくのかについて掴みかねていた部分もあったが、交流校の学習計画や授業参観を通じて学習の方向を見通すことができた。特にグループの「調べ学習」のテーマの決定については共通テーマを中心にして絞り込むことができた。指導方法について三庄小・豊永小の担当者と話し合う機会はなかったが、両校の子ども達の活動を見て、指導に必要なポイントを見つけることができた。
本校では、2人の担任と1人のTTの3人で学習を進めていたが、実際は交流校の教師をプラスした人数で指導を進めていたことと同じである。同一テーマで学習を進めることで、教師の側も刺激されて指導力を高めようとするようになった。また交流相手校の学習と合わせることが学習のペースメーカーにもなっていた。
3)学習環境の整備
コンピュータのハード面は整備されていたが、全学年・全学級が共通して同じ操作で学習のまとめができるように、ソフトを選定し、サーバ内の画像などのデータを置くフォルダを使いやすく設定することなど、実際にソフトを使って作業する環境整備が、今回の学習を通じて整ってきた。その結果、他の学年の総合的な学習のまとめもスムーズに行われるようになった。
4)地域連携
今回は教師が依頼して、学習に関係する地域の情報に詳しい方を「ゲストティーチャー」として学習の助言者に迎えることができ、子ども達の疑問をすぐに解決できるようになった。今後の課題としては、PTA会員に広く呼びかけてさまざまなテーマに対応できる人材リストを作る必要がある。
5)学校・学級経営
本校では、情報教育のTTとして1名の人員加配があるが、コンピュータを活用した今回の交流学習では特にその必要性があった。各学級やその近くにコンピュータが設置されてないので、活動場所が複数になるグループ学習においては担任一人では支援面で限界があった。
本校でも、教師全員のコンピュータを扱うスキルにはまだまだ差があるので、今後、総合的学習が本格的に始まると、ますますコンピュータの管理・指導をする人員が必要になることが明らかになった。
また今回は、テーマ別にグループをつくるときに、学級の枠を取り払って学年全体で活動するようにした。その結果、学年全体の仲間意識も生まれてきた。コンピュータのスキルについても学級別に活動していた当初は、学級間でやや差があったが、一緒に作業が始まってからはお互いにアドバイスをすることによって差がなくなってきた。
1)状況の異なる学校間でのコラボレーションの実現
参加校が置かれた状況は、三者とも異なる。インフラ整備の差、それによるインターネット利用経験の違いは、プロジェクト発足当初、関係者にとって乗り越えがたい高い壁のように思えた。
しかし、メーリングリストの活用によって担当教諭間のコミュニケーション密度が向上し、さらには、それぞれの学校が互いの状況の違いを認め合うという姿勢が繰り返し確認された。本プロジェクトは、学校の状況の違いを克服して、数か月間にわたる交流学習を推進することができた。その事実が最大の成果である。
学校の状況は、教師達にとっては環境であり、制約でもあり、その克服は容易ではない。そのため、プロジェクトの企画・運営において平等な参加形態とか画一的なスピードを求められると、プロジェクト自体が窮屈に感じられる。本プロジェクトでは、参加校は、それぞれの学校のスタイルで活動を繰り広げればよい、という姿勢を堅持した。したがって、途中で脱落する学校も出なかったし、参加校の教師も子どもも「またやってみたい」という気持ちになれたようである。学校の多様性を交流学習プロジェクトにおいて反映させることの重要性を再確認できたことは、今後の交流学習のデザインに関して示唆をあたえるものである。
2)継続的交流に向けた学習環境のデザインの明確化
本研究プロジェクトによって、交流学習に必要となる学習環境を再確認することができた。気持ちを伝えるためのTV会議システム、連絡調整のための電子メール、親近感を子どもに持たせるためのビデオレター、そして共同作業のためのスペース(オフラインミーティング)などである。
インターネットの世界におけるEメールや掲示板などの活用は、子ども達にとって、情報交換等のための有力な道具となった。しかし、道具を使うだけでは、交流学習にはならない。様々なメディア体験や活動の舞台を重ねることによって、以下に述べるような子ども達の成長を喚起することができたのである。インターネットで可能となること、それでは実現しないことを区別できたこと、その組み合わせ効果を再確認できたことも本研究プロジェクトの大きな成果である。
3)子どもの追究意欲の向上
各学校の子ども達は、学校外の仲間を得て、交流を励みにして、学習への意欲を高めていた。学校の児童数の少ない豊永小の子ども達がその典型である。ふだんは一緒に学習していない児童との情報・意見交換は学習の節目に設けられ、子ども達にとって大きな刺激となった。それが、長期間に及ぶ学習のアクセントになったようである。
4)相手の存在意識やコミュニティ感覚の醸成
子ども達は「相手を思いやる心」や「連帯感」を持ったようである。交流学習は相手のある学習である。しかも、そのパートナーは、同じ課題を追究しているという共通性は有しているものの、ふだんから会っているわけではないから、学級仲間と同じつきあい方はできない。いい意味で相手に気を遣うし、コミュニケーションの内容を吟味したり、方法を工夫したりする必要がある。それらが問われる状況の中で、子ども達は相手があるという意識の重要性に気づいていった。また、それを実践する術を獲得していった。
5)郷土観の見直しの促進
子ども達は、郷土のシンボルである吉野川を題材にした学習を継続し、そのよさを再確認している。ふだんは目の前にあって当たり前、なんら意識していない川であったが、交流学習を展開した結果、それに注意を払い、その見直しを進めている。三庄小の教師が「何の興味もなかった吉野川が、子ども達の頭にいつも存在するようになった」とその成果を語っているように、身近な素材の存在、そのすばらしさを子ども達が意識するようになったのも、交流学習の成果として特筆すべきことであろう。
6)地域との連携強化
おもしろいことに、本プロジェクトを進める中で、どの学校でも地域との連携が強化されている。プロジェクトの主柱は学校間のオンライン交流、子ども間の情報・意見の交換である。しかしながら、学校間交流を進めるためには、それぞれの学校における学習活動、特に一次情報の収集が不可欠となる。交流相手から情報や意見を求められても、すべてを自分達で答えることは難しい。そこで、各学校とも、地域人材からアドバイスを受けることになった。
ただし、その厚みは学校によって異なる。もともとIS(インフォメーションサポータ)制度を有していた三庄小は、それを拡大する形で地域人材を十二分に活用できた。一方、そうした組織を整えていなかった2校では、三庄小ほどは人材活用が進まなかった。本研究プロジェクトによって、交流学習と地域人材活用の接点を見出すことができたので、それを拡張・発展させる術を、各学校で、あるいは3校共同で考えていくとよいだろう。
交流学習は、多くの成果を残したが、一方でまた多くの課題を残した。大きく分ければ、ひとつは、交流学習自体が今後どのように発展するのか、短期間での実践では知りえなかった長期的なビジョンに関する課題であり、研究の継続や拡張の可能性を探る問題である。人事異動とノウハウ継承の問題も含まれる。ひとつには、情報通信関係の予算や設備の整備の支援が必要であって、これらがどう解決されていくかという課題である。
こうした課題の受け止め方は、学校によって異なり、小規模校で課題別の小集団学習を実践するには人数が少ない豊永小の担任は、多数の交流テーマについて、1人が複数のテーマに関わるとか、ときには全員で1つのテーマに取り組むというような流動的な判断が必要だった。しかし、他の2校では問題にならないかもしれない。
まず、参加各校が、各校の状況のもとで何を課題と感じたか、見ることにしよう。
1)三庄小学校
<交流学習の継続>
この協働学習・交流が、今年度だけで終わってしまうのは、たいへん残念だ。ぜひ来年も現在の子ども達で引き継ぐか、新しい4年生で引き継ぐかどちらかで実現したい。今回の交流を一番喜んでいるのは子ども達である。その子ども達がいろいろな方法でこれからも交流していくことを一番望んでいる。
今年度いっぱいの活動としては、これまでの学習を生かして、これから吉野川に親しみ、吉野川を楽しみ、そして守っていくために何か行動を起こし、地域社会に働きかける活動を3校で企画してはどうかと思う。そのほか各種の制作活動や清掃活動など、いろいろあげられる。最も期待されるのは、3校が12月10日のように一堂に集まって交流学習を行うことである。実現が困難な場合は、日時を同じくして行動を起こすなど、遠く離れていても「兄弟のように」と言った思いを忘れず交流を深めたい。
また、吉野川の学習といっても秋から冬に向かう季節での活動であった。川の学習は、やはり1年間を通した活動が必要である。
今後の活動を続けていくためには、あらかじめクリアしておかなければならないことがたくさんある。それは活動のための予算や時間を事前に明確にしておくことである。特に今回は十分な計画をせずに進んだため、お互いの学校の事情がつかめず、日時の調整に手間取った。3校の行事をつきあわせ、可能な時期に交流や活動ができるよう計画を立てておく必要がある。
今回の研究は、Eスクエアプロジェクトとしての後押しがあり、たまたま3校の担当者のつながりがあったため成立したが、今後は担当者が代わることも考えられるので、学校内できちんと交流学習を位置づけ、担当者が代わっても続けられるような環境整備が必要である。
残された今年度の活動の中で何か形として残しておくことがこれからの研究継続につながるのではないかと思う。残りのわずかな時間の活発な活動で今後の研究への布石を残したいと思う。
2)豊永小学校
<児童の交流の継続方法および内容>
などが考えられる。どの方法を採っていくかは、交流相手校の状況や対象とする内容によって変わってくる。しかし、山間部にある豊永小の児童の実態から言えば、(a)と(b)の併用が効果も上がり、無理もない交流方法であると思う。この方法で行けば、2年後には4年生以上の3学年が利用できることになる。下級生から見れば「上級生になればTV電話を使える」という期待を抱くことができ、3年生までに少なくともパソコンで文書を入力できるようになるという目標を持つことができる。
<パソコン指導教員の育成と教員間協力体制の確立>
本年度は、パソコンの操作指導ができる教員は校長を含め3人である。交流学習については中学校区内の合同学習などが行われているため実践面の問題はないと思われる。少なくとも担任全員がメディアを利用または指導できる体制を組むか、または交流担当者と学級担任外教員の加配を受けた情報担当者によるティームティーチングを行う方法が考えられる。
今回のような総合的な学習がテーマであれば、課題として残ったように複数担当者制度についても確立しておかなければならない。この場合、本校の現状では単学年で取り組みは難しく、少なくとも2学年以上が合同で、または複式学級のまま学習していく方法が一番適していると考えられる。
いずれにしても、本校の総合的な学習へ向けての取り組みは始まったばかりであり、具体的な方法や内容についてはこれから確認していかなければならない。
3)柿原小学校
<広い地域をふるさとと思う>
<異学年交流の可能性>
異学年交流の可能性について。今回は4年生が交流して学習したが、吉野川を中心にした学習では、テーマによっては他の学年の学習と関連するので、例えば特産品については3年生が情報交換し、文化的なことがらであれば6年生がするというように、学年の枠を取り払った学習が適しているといえる。もし可能であるならば、研究協力校という形で、学校単位の交流が続いていけば望ましいと考える。4年生は今回、
<情報通信インフラの整備>
この交流学習によって、子ども達は吉野川に目が向くようになった。それまでは安全上の配慮から遠ざけられていたという現実もあるが、ほとんどの子ども達が興味を持っていなかった。しかし、実際に自分達の校区の川原と交流校の校区の川原に降りて石を拾ったり遊んだりすることで、吉野川が身近な存在になったことはまちがいない。その後、保護者といっしょに休日に川原で過ごしたという子どもも何人かいた。また、共通なテーマで調べた子ども達は、他校と比較することで自分達の地域のことをはっきり認識し、本校独自テーマで調べた子ども達も、自分達の校区にしかない豊富な「わき水」や環境保全のための施設の存在を知って、同じようにふるさとにたいする理解を深めることができたと思う。
1)学校格差を乗り越える中心校の役割
「四国三郎」の別名を持つ吉野川、この川の上流域、中流域、そして下流域の小学校が、それだけの理由でオンライン交流をすることで、新しい学びを拓いて行けるか。これが今回の「同一河川プロジェクト」の基本テーゼであった。ところが三つの学校は、学校のまわりの自然環境も規模も違うし、情報関連施設にも差がある。更に加えて、各学校が取り組んでいる研究課題、特に総合的学習や教科横断的な取り扱いの経験に、格差がある。コンピュータの活用の仕方、とくにインターネットを活用しての学びについて、これまた相当な経験の差があった。
というような次第で、上記したような吉野川学習が、最初から簡単に立ち上がったわけではない。中流域の三庄小が、一貫してこのプロジェクトと研究の推進役を果たしてきた。このようにどこかの学校が、推進役を果たし、その他の学校と連絡し、研究歴や施設の違いを調整して行くこと、新しい企画提案が出てくれば、参加校の協議に持ち込んで、積極的にこれを活かして行くこと、これらが今回の吉野川プロジェクトを成果あるものにできた要因であるし、これは他地域にも十分に輸出可能なものと思われる。
2)学校のデジタル革命は急ピッチで訪れる
交流学習のテーマの決定をめぐっては課題もあった。当事者がEメールやファクスで調整しながら決定していったが、児童数が著しく異なる学校間で共通のテーマを持ちうるのだろうか。児童数10名の豊永小では、担任の流動的な判断で乗り切ることができた。このことは極めて大事な点である。課題別小集団学習の形を取ると、児童は、ともすれば自分達の課題だけを深く掘り下げ、資料をまとめ、発表することに熱中する。しかし、他の課題を追究しているグループとの交流は少なく、発表を聞くだけで深く理解できない。各グループに属して、それぞれが細い縦穴を掘り進むだけで、他のグループが掘った穴との横の連結がない。こういう学習は、一見すると華やかな課題解決学習が進行しているように見えるが、その実は、狭く細い自己満足の学習に陥る危険性が大きい。この点で豊永小の取り組みは、結果的によきモデルとなったといえよう。
入学したときからずっと同じクラスの10名が、初めて他地域の児童と対話するという体験、インターネットの閲覧、Eメールの利用もパソコン教室からできるようになった。デジタルカメラの利用で、プレゼンテーションの道が開けて行く。まさに急ピッチでデジタル革命が山間の小学校に到来したのである。
今回の企画の中枢としての機能を一貫して発揮してきた三庄小。この学校は総合的学習の研究歴があり、吉野川学習にも実にスムーズに取り組んで行けた。Eメール、電話、ファクスなどの活用、ビデオレター、インターネットで柿原小のホームページの検索、そして新しくTV会議システムの活用などが、随所で見られたが、特別な情報教育・メディア教育をしているという意識は、児童にも教師にも見られない。ごく自然体の学習であった。
3)オフラインミーティングの意義の発見
3校の児童と教師が三庄小に集まって、直接に会合を持てたことは、特筆に値する。バスを使って1時間強の距離とはいえ公共交通の不便な地区で、しかも12月という時期に会合を持つことには、大変な決断がいったであろう。その前後の教師達の心配や焦りは細かい部分にまで及んでいた。結果は大成功で「オフライン交流」こそが、本当の生きた実物交流であった。それは、前々からのオンライン交流の結果であり、同時にこれが基盤になって、今後のオンライン交流やビデオレターが生きてくるものである。
3校とも改めて自分の地域を外から見直すことにもなった。この学校だけでなく全体に言えることは、もっとビデオレターを活用すること、ホームページの中に他の地域との共通点、差違点を盛り込むこと、そして地域人材の活用であろう。
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