4.3 大阪校

    幹事校の業務と実践報告  帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校 辻 陽一

4.3.1はじめに

 本校は,CECの重点企画の一つインターネット・クラスルームプロジェクト(平成9年・10年)の幹事校として参加、CECの国際プロジェクトの一環をになってきたが、平成11年度は、国際交流の継続的実践企画(通称ISoN)大阪校の幹事校として、プロジェクトに参加した。本稿は、幹事校として行った活動状況報告である。今後、各種プロジェクトのリーダーとなる方への参考になれば本稿の目的は達せられたことになるが、さらに、プロジェクトに一般参加する学校や教員がプロジェクトリーダーの仕事を理解することで、協力体制が築きあげられ、プロジェクトがスムーズに進行すると思われる。本稿が、あわせて、そのような方の参考になればと願っている。

4.3.2幹事校の業務内容

 CECの国際企画の幹事校の仕事について紹介するため、他のプロジェクトの幹事校の業務内容と一部異なる面もあるかも知れないが、その多くは、どのプロジェクトでも共通しているものと考えられる。具体的には、以下の5項目が挙げられ。

(1) 企画の立案

(2) 一般参加校(国内)担当者との連絡・調整

(3) 一般参加校担当者の業務分担や組織化

(4) 費用の捻出

(5) 海外との連絡・調整

 以下、各項目について述べる。

(1)企画の立案

 本プロジェクトの場合、CECが企画立案し、予算化したプロジェクトである。したがって幹事校が一から始めたのではない。ただCECの担当者は、国際教育とインターネットの教育利用について専門家というわけではない。そこで、具体的な企画については、幹事校と相談しながら、積めていくという作業が行われた。平成11年9月に東京のCECで東京校、名古屋校、大阪校の3幹事校の担当者とCECスタッフが集まり、本プロジェクトの柱を「マルチメディアを通した国際交流」とすることに決め、各幹事校は、それぞれの地域で、どのような特徴を出すか、検討を始めた。

 大阪校の場合は、平成11年5月のキックオフミーティングでスタートし、夏のトレッキングと発表会、秋のまとめで終了したE-Trekking Osakaを母体にすることにした。

 プロジェクトが始まったあと、マルチメディア作品を扱うにあたって、著作権の問題や技術面での問題が生じると考え、講習会を開催することにした。

 平成11年9月23日、帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校で開催された講習会では、大阪府立旭高等学校の西野和典教諭が情報処理教育学会の資料などをもとに、著作権について講義を行った。

 平成11年11月14日には、大阪市内の帝塚山学院高等学校のコンピュータ教室で、ホームページ製作方法について技術講習会を開催、大阪校11校のうち、8校の生徒、約30名余が参加した。

 平成11年12月には、帝塚山学院高等学校のコンピュータ教室で、マルチメディア作品の完成を目指して、3日間の宿泊を伴うワークショップを開催。マルチメディア作品の製作を目的としているところから、編作曲家の浦田博信氏を招き、作曲の指導を受けた。また、国際交流がもう一つのキーワードであるところから、ハワイや韓国から生徒5名を招待することにした。

(2)一般参加校(国内)担当者との連絡・調整

 企画が公募され、参加校が決定した後、企画の内容について参加校の関係者が十分理解しなくては、実践を始めることができない。メーリングリスト(以下ML)を作り、趣旨の徹底を図ろうとしたが、本プロジェクトでは、これが、スムーズにいかない面があった。理由として、一つには、関係者の間でマルチメディア作品に対する経験が不足していたこと、もう一つは、幹事校の担当者である筆者が作ったMLが不安定であり、メールでの情報交換がスムーズに行かなかったことが挙げられる。

 生徒が作ったマルチメディア作品を海外の学校に提示して、意見交換をするという本プロジェクトの基本テーマは、マルチメディア作品を作ったことがない教員や生徒が大半で、イメージ化が難しかった。マルチメディアを作るには、それなりの設備が必要であるが、参加校の多くは、そのような設備が整っていない。インターネットを使って、国際交流をしたことがない学校も多い。つまり、「マルチメディア環境」「インターネット環境」「国際交流経験」この3つが揃っていない参加校が多いため、「マルチメディアを通じた国際交流」を具体的にどのように進めていけばよいのか、理解されなかった。これは、幹事校が具体的な活動項目をリストアップし、企画の進行について、明確な絵を描けなかったことが原因である。


 もう一つ、MLが当初、うまく機能しなかったこと、これは幹事校がハッカーの侵入を受けていたことが原因と後でわかったが、安定した通信環境がないと、この種の企画はスムーズにいかないことを示している。システムの管理をしながら、プロジェクトを走らせ、幹事校として、調整にあたるということについては、無理があるのではないかという詞的を参加校から受けたことがあるが、これは次の業務分担のところで述べることにする。

(3)一般参加校担当者の業務分担や組織化

 本プロジェクトに参加した学校は、それぞれネットワーク環境やカリキュラム、当該校での業務など、それぞれ異なっており、プロジェクトへの参加動機も異なっている。このような中で組織化し、仕事の役割分担をすることは、ある意味では、危険な作業である。危険というのは、互いが地理的にも業務面でも離れているため、各自の事情がわからないところで、学校を超えたプロジェクトの仕事をになってもらわなくてはいけないからである。

 そこで幹事校は自然と一般参加校の業務を軽減し、できるだけ、幹事校で処理しようとすることになるが、これは、業務の集中を生み、好ましい姿ではない。

 調整をスムーズに行うためには、MLでの意見交換だけではなく、できるだけオフラインで会う回数を増やす必要があるが、これはこれで、関係者には負担となる。

 CECの基本方針としては、ISoNのようなプロジェクトが自立的に動き出し、これが全国の学校がインターネット接続されたときに、実際に、つまり、自立的に実施可能な方向に持っていきたいということと思われる。「インターネットを軸として校種・国を超えた交流」は、参加者・参加校が多種・多様であるため、教育的な意義は計り知れないものがあるが、自立的に進めていくには、プロジェクトを担う関係者の負担もまた、計り知れない。

 一つ、日程の調整をとってみても、12月のワークショップの最終日となった24日は、公立高校の終業式の日であったが、逆に、その後の日程だと年末となり、生徒や関係者の参加が期待できなかった。

 特に、離れた学校の生徒を集めて技術講習会などを開催するには、交通費や食費など費用の問題が発生する。この点については、次に触れる。

(4)費用の捻出

 本プロジェクトはCECのプロジェクトであり、CECより応分の費用負担がある。しかし、CECのサポートがなくなったときに、企画が継続されないということでは、自立的に企画を推進するという本来の趣旨が生かされないことになる。生徒の交通費や食事などについては、受益者負担ということになるわけだが、カリキュラムに位置付けられていないISoNのような(外からの)「投げ込みプロジェクト」の場合、生徒には、受益者負担が受け入れられない。このことは、教員が生徒にプロジェクト参加を呼びかけることを困難にしている。

 そこで、プロジェクトの責任をになう幹事校は、費用の捻出にも心を配ることになる。機材についてはCECからの助成金である程度まかなくことができたが、食費や交通費、海外招待者の旅費などは原則的には出ないことになっている。そこで12月のワークショップでは大阪府私学教育工学研究会より相当額のサポートを得たり、ウッドランド株式会社などの協力企業よりマンパワーの支援を受けるなどの努力が必要となった。

(5)海外との連絡・調整

 国際交流を一つの柱と据えているISoNは、海外の学校の協力をえなくてはいけない。これには、プロジェクトの趣旨を理解してもらう必要があるわけだが、国内の学校間の意思疎通も簡単ではないことを考えると、これも大きな仕事となる。こちらの意向を正しく伝えるためには、それなりの語学力も必要となる。メールでの情報交換以外に、国際電話など使って、十分な意思疎通を図ることも時に必要である。本プロジェクトでは、ハワイ教育省との連絡などに、インターネット電話を使って、直接、担当者と連絡をとることも多い。(インターネット電話は、費用が安いことと学校の電話を使用する場合に、学校に請求がいかないため、予算さえ許せば、気軽に国際電話できる。)

 相手校を探すことに関しては、現在では海外の学校と姉妹校関係にある学校も増えているので、それほど苦労しなくてもよいかも知れない。ただ、マルチメディアコンテンツの製作となると海外でも環境の整った学校が、それほど多くはないことも考えられるから、条件にあう学校を探すのは、それほど簡単ではないかも知れない。必要なら各国の教育省などに問い合わせるとよいだろう。

 本プロジェクトの場合、幸い、海外交流相手校であるオーストラリアのFootscray City Secondary CollegeやカナダのSt.Margaret International Schoolなどは、施設も整っているし、意欲もある。ハワイの教育省などの協力も得られることから、日本側の体制が整えば、いつでも本格的な交流に進むことができる。

4.3.3企画の総括

 CECの場合は、単年度予算で各企画が終了するが、本プロジェクトの場合、実際の実践がスタートしたのは、平成11年9月、本格的な実践に進んだのは、11月の技術講習会からで、平成12年2月には報告書を提出することを考えると、実質3ヶ月程度の実践である。このため、参加校との連絡調整などに追われたり、生徒は、実力テストや学期末考査などの定期考査の時期をはずすと活動日がかなり制約を受けた。さらに、このようなプロジェクトに関心のある生徒は、クラブ活動や学習面、他の対外的な活動などに積極的な生徒が多く、一緒に集まって活動することは、難しい状況である。

 そのような問題をかかえながらも、生徒は、マルチメディア製作技術を学ぶ中で、その楽しさを知り、12月のワークショップでは、徹夜しながら製作に励む生徒も現れた。
 筆者へのメールの中で、ある生徒は次のように感想を書いている。

 「私の中で3日間の合宿(ワークショップのこと)はすごく内容の濃いものになりました。徹夜したせいかもしれないけど、ただ、時間が長かったという以上になにか得られた気がしたす。楽しかっただけでなく満足した3日間でした。」

 本プロジェクトの意味を簡潔に書けば、以下のようになるであろう。

 マルチメディアを作る教育環境は、まだまだ未整備である。今後、学校現場にもマルチメディア環境が整っていくことと期待されるが、本プロジェクトは、そのパイロットプロジェクトとして第一歩を踏み出したものと言える。この種の実証実験がさらに進められることが必要と考える。

4.3.4今後の展開

 短期間のプロジェクトであったため、まだ、作品を完成できない参加校も多い。そこで、生徒が新しい学年に進む前、すなわち、平成12年の3月までに作品を完成させ、これを公開し、海外参加校との交流を本格的に行いたい。

 3月17日、幹事校である帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校とハワイ教育省が主催するシェラトンワイキキでの会議場を結び、ISDNテレビ会議システムを通じて、本プロジェクトについて発表する。

 本企画については、CEC以外に他の財団にも助成金の申請を行っており、これが認められれば、平成12年度は4月に入ってすぐに活動を継続することができよう。平成12年度には、これまでの海外から生徒を招待する形以外に、日本の生徒がハワイなど海外に出かけて発表する機会を提供したい。この件については、すでにハワイ教育省も平成13年3月の同省主催の会議を日本側の事情に合わせて日程を組む予定である。


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