インターネットによるアジア高校生国際交流とFICプロジェクト

 福井県立福井商業高等学校 田嶋基史

tajima@fukusho-ch.ed.jp

http://www.fukusho-ch.ed.jp

 

1 はじめに

現在、加速度的にインターネットの接続が進む中、学校の中でインターネットの教育利用が大きく変化してきている。「インターネットにつなぐ」ことに必死になっていた時から最近は、「インターネットにつながる」ことが容易になり、2000年以降には「広がる」をキーワードとして展開している。商業教育においては、インターネットを利用する際「交流」が今後大きな意味を持つと言える。なぜなら高校生活3年間を同じ学校で過ごし、同じ地域の友人を通して人間形成をしていくわけであるが、その中では、どうしても見方が偏ってしまいがちである。多角的な視点や考え方を要求される現在、「生きるとは何か」という原点に立ったとき、多くの情報を収集し、様々な人と交流することでその糸口がみつかるのではないかと思う。ひとつの切り口としてインターネットを利用しておこなう「海外との交流」は、生徒の成長の大きな要因となると考えられる。

国際交流のもっとも大切な点は人的ネットワークといえる。CECの国際プロジェクトに参加することによって、サポート、研修会、海外交流校の紹介など、いくつものハードルをクリアする事ができた。ネットワークの普及と共に、他校がこのような企画に参加され、共にインターネットの教育利用を推進することを願っている。

今回は、昨年参加しているアジア国際交流の実践報告とそれによる生徒の変化また

今後インターネット利用を進めて行く上でストレスの感じないような本校でのネットワーク環境の構築などを紹介していきたいと思う。


2 インターネット活用における目的

(1)高速回線(光ファイバー)を利用することにより最先端の通信技術を生徒に体験させていく。

(2)生徒が授業に対して主体的・能動的に参加できる環境を整える。

(3)地域との連携や他校及び海外の交流を生徒の自主性を育てる。


3 アジア国際交流

 福井商業高校は、昨年度は国際経済科の生徒3名と情報処理科生徒1名がアジア高校生国際交流プロジェクトin京田辺に参加した。国際経済科の生徒は、2年生の夏休みにオーストラリアへ海外研修にいっている。そのため多少の英語は話せるものとして参加したのであるが、語学力不足のため思うような意見交換ができず大きな反省材料になった。そこで今回の交流は、「韓国」に対して歴史や文化を調べていくことで、日本との接点をとらえると共に、英語をツールとして少しでも韓国の生徒達と意見交換ができるよう、各自がテーマを設定して望んだ。そこには日本人としての「私」ではなく、わたし個人としての「わたし」にこだわり、個性と個性をぶつけていくことが、この交流の意義ではないかと感じたからである。

(1)生徒の変化

 今年度は、国際経済科2名と情報処理科1名そして商業科1名の計4名で参加した。国際経済科の生徒は、双方のプレゼンテーションによる意見交換の総合司会を担当した。彼女達は、日々試行錯誤しながら各学校の紹介文を考えて本番に望んだ。

 この生徒達は、昨年から参加している生徒であり、この交流の主旨については十分把握していたため、司会という役割分担に対して出発までに調査しておかなければならないことを、事前の電子メール交流で積極的に意見交換していた。これは誰にいわれたわけでなく、自ら「国際交流」は、自分の内面を向上させないかぎり、相手に伝えるものが生まれないことを認識したからであろう。また情報処理科の生徒と商業科の生徒2名は韓国での日韓の共同WEB作成に貢献した。各班でのホームページ作成の核となって、サポートすると同時に全体のホームページの構成や技術的な面で援助する事で、みんなでプロデュースする楽しさと、いろいろな意見をまとめていく難しさを感じたのではないかと思う。

(2)教員の変化

今回の交流を通じて、私自身もさらなる反省が生まれた。それはやはり語学力不足により韓国の先生方あるいは生徒達との意見交換が不十分であったことである。「聞き取れない」「伝えられない」この事は、悲しさともどかしさ、そして焦りと不安を感じた。また、こんな近くいるのに一言が発することができず、どうしてもネガティブになってしまう。それは日本と韓国が距離的にとても近くにいるのに遠く感じてしまう縮図にさえ思えた。韓国にいてせっかく共通の時間を共有している。リアルタイムで自己の問題点が浮き彫りになってくる。異文化の相違をまざまざと感じているのにその意志疎通できないことに途中自己嫌悪にさえ陥った。この交流は、生徒が自ら問題解決するために、積極的にコミュニケーションし、共同作業をする能力を育てていくことを目的としている。生徒はもちろんであるが私自身も教員としての資質を試されていると痛感した。


4 FICプロジェクト

 福井商業高校は、平成10年に、文部省の「光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法の研究開発事業」の指定を受け1.5Mbps回線が引かれた。インターネットを教育にどう展開していくか、あるいはその効果的な使用方法など、「インターネット企画委員会」を中心に、各教科や各校務分掌で検討し、本校の特色として生徒の活動を全面出すプロジェクトがないかという観点に至った。そこで生まれてきたのが「FIC project」である。「FIC project」とはFukusho Internet Communityの頭文字をとり「FIC project」とネーミングした。インターネットを用いた総合的な交流プロジェクトである。この趣旨は「部活動の生徒に限ることなく、全校生徒に意見交換の場を提供することができないだろうか」といった視点に立ったときインターネット上にその空間を作ることでより多くの生徒の潜在する発想をくみ取ることができると考えた。しかしながら、ただランダムな意見をチャットで流すのではなくテーマや目的意識を確立していくことで情報交換の内容が意味をもってくるのではないかと考えて進めていった。

(1)Fukusho Internet Community projectの目的

1)インターネットを利用した新しい学習環境の創造

2)生徒間・学校間交流の創生

3)自己表現空間の創造

 生徒達の力を核にしてインターネットと周辺技術を駆使して学習していく生徒のための新しいコミュニティの創造を目指している。生徒においては、高度情報化社会を生き抜くための力、すなわち情報を収集し、的確に判断・処理・加工し、活用できる力、さらにはコミュニケーションの道具として利用していく等、情報における総合的な能力を育成する。そのために校内に学習環境として、情報通信設備を体験できる機会や場をできる限り多く構築する。また、生涯学習の立場から、本校がインターネット等を媒介に地域の情報センターとしての役割を担い、福井地区の発信の拠点として地域に社会貢献が果たせるよう環境整備に努める。

(2)Fukusho Internet Community projectの事業内容


1)サーバー構成

1.HTTP サーバ

福井商業高等学校情報サイト

メールサーバ

2.サーバの構成

210.167.7.1 - Win NT

- 福井商業公式 HTTP サーバ

210.167.7.2 - Win NT

- 教職員・生徒用メールサーバ

210.167.7.4 - UNIX

- インターネット活動者用メールサーバ

210.167.7.5 - Win NT

- FIC PROJECT サーバ

210.167.7.6 - UNIX

- 福井商業情報 HTTP サーバ

2)FICプロジェクトの活動内容

1.広域仮想学習空間創造計画(Internet campus project)

<希望のアカウント名@fic.fukusho-ch.ed.jp>のメールアカウントを取得可能

ユーザーはメーリングリストの主催が可能

ユーザーはメールマガジンの発行が可能

各カテゴリーに細分化された、会員制のフォーラム(BBS)を設置

ウェブブラウザを使った、高速なウェブチャットシステムの設置

FTPを使ってのアップロードや、CGIを用いたカウンタ、掲示板の設置交換 

共同研究(バーチャルモールを確立)

国際交流 等

2.学内情報通信網整備計画(Cosmos project)

3.メディアコーディネーター育成計画

(3)公式ウェブページ

  http://fic.fukusho-ch.ed.jp

(4)運営組織

  福井商業高等学校 簿記部 アニメーション部 コンピュータ部


5 ネットデイ実施


(1)第1回(情報棟〜LL教室〜国際交流室 1999/10/31実施)

   http://www2.fukusho-ch.ed.jp/project/netday/

  1. 1.5MG回線環境を少しでもほかの教室から利用できないか模索していた。  FIB(インターネットトラブルバスターズ)というLAN構築のボランティア団体との連携を経てLL教室と国際交流室をつないでいった。

  2. この企画を通じて得た大きな収穫として、管理職の先生方と普通科(英語)の先生方の協力を得るられたことである。一人でもインターネットの利便性を理解してくださる方が増えることにより、ネットワークの利用が加速度的に広がっていくことを感じた。

(2)第2回(情報棟〜視聴覚室〜管理棟   2000/1/22.23 実施)

   http://www2.fukusho-ch.ed.jp/project/netday/20000122/

  1. 情報棟と視聴覚室をつなぐことにより教材の材料提供においてインターネットを用いて授業展開ができるように進めていった。

  2. 管理棟には事務室・校長室・就職指導部室がありインターネットの接続をすることでより多く教職員の先生方に利用してもらうことをねらいとした。

  3. 第2回目は学校職員(15名)FIB(6名)生徒(30名)PTA(5名)と多数の方の協力を得て進めることができた。また学校関係者だけでなく父兄や大学生など地域との連携を意識して進めていった。


6 教育とインターネット活用発表会
 「--- さあ広げようインターネット!(教育実践・北陸編)---」に参加して

2000年1月30日(日)(主催 東海スクールネット研究会 共催 コンピューター教育開発センター)福井商業高校を会場として北陸で最大級の研究会が実施された。東海スクールネットワーキングのメンバーの先生方やコンピュータ教育開発センターおよび技術サポートの(株)内田洋行の方々など多くの協力や本校インターネット企画委員の先生方また多数の生徒による支援体制の中での試みであった。

 学校全体がリフレッシュ工事などにより、必ずしも万全な条件とはいえない中であったが北陸4県(新潟・富山・石川・福井)の先生および教育関係者を含めて約80名ほどの参加があった。大阪教育大学の越桐先生の講演や小・中・高実践発表など各学校での取り組みに対して質疑応答の意見交換が大変活発に行われた。

このような研究会を福井で行うことができたのも一通の電子メールがスタートである。今回インターネットがなかったらこれほど他県からの多くの協力を得ることもできなかった。また参加の集約や学校案内などより多くの人に知っていただくために福井商業高校のWEBにUPして、常に最新の情報を流していった。http://www2.fukusho-ch.ed.jp/project/e2000/

このような情報発信を容易に展開できるのもインターネットの大きな魅力であるといえる。


7 社会人講師事業での取り組み

本校では、影戸誠先生(西陵商業高校)本田貴久氏(webコンテンツ製作会社 キクエデュケーショナルサポート)をお招きして「国際交流とインターネット」というテーマで講演していただいた。対象は国際経済科の生徒40名である。自分の生き方に対して自信と確信をもってエピソードなどを交えながら話をしてくださる姿に、生徒は目を輝かせて聴き入っていた。影戸先生が講演なさる時、英語で自己紹介をされたのであるが、商業の先生でありながら英語を巧みに使って自らをプレゼンテーションする姿に、生徒は、なぜ英語を勉強していくのかその必要性を改めて感じたようである。本田氏は、アルティメットのチャンピオンになるため自分の勤めていた会社をやめて取り組み、優勝するまでのエピソードを講演していただいた。生徒は、自分の好きなことを継続していくことの大切さ、あきらめないで自分を信じることの大切さを感じたようである。

生徒は、様々な体験をしている人達から多くの考え方や生き方を学び、それを通じて人格を形成していく。生徒は、講演してくださった先生方に、「電子メールでもっと質問していいですか?」と講演後情報交換をしていた。インターネットの普及は、年代や職業を超えて接点を見いだすツールであると感じたひとときであった。

 

8 最後に

アジア国際交流など参加型プロジェクトや学校間交流また社会人講師を招いての情報交換会を通して、教員は従来の一斉授業による主役の立場から、今後は脇役としてコーディネートすることが大切であると思った。しかし授業をコーディネートする能力は、あらゆる場面で生徒が遭遇していくであろう問題点を、解決できるように導く演出力とさらに広い見聞が要求されるのではないだろうか。国際交流ともなれば語学力は必須であり、そのベースがなくては、次のステップを生徒に望むことはむずかしいと感じた。また今後ネットワーク構築が広がり、学校全体にインターネットの環境を整備していくには、それ相応の知識と技術力と体力が必要である。

生徒が「自ら学び・考える」そのような授業をプロデュースしていこうとするならば、多方面にアンテナをのばして情報収集をおこなう意欲を常に持ち続け、ネットワークの仲間を広げていくことが大切であると思う。


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