授業における国際交流のテーマ

高等学校2年生・英語

三重県立川越高等学校 近藤 泰城

 


はじめに

 筆者は英語教員であり、実践の目的は、生徒がインターネットを利用する中で、少しでも英語をコミュニケーションのツールとして活用し、英語によるコミュニケーション能力を向上させ、積極的な態度を獲得することである。そのためには、機器、ネットワーク環境の充実などもさることながら、生徒が自ら、楽しみながら、英語、コンピュータ、インターネット、を利用しようと考えるようなテーマ設定が大変重要であると考える。この報告では、これまでに筆者の授業実践の中で取り上げた交流テーマをまとめ、今後、同様の実践を計画されている先生方の一助となればと考えている。

 

 2.参加の経緯

 筆者は、平成9、10年度と、三重大学教育学部教育学研究科で、研修をする機会を得た。その当初から、名古屋市立西陵商業高等学校の影戸誠先生はじめ多くのインターネット教育利用の先駆者の先生方と出会うことが出来た。今回も影戸先生から参加のお誘いを受け、現在自分が行っている授業実践と関連を持たせることが出来ると判断して、参加させていただいた。

 

 3.学校のネットワーク環境

 本校のパソコン室には、筆者が実践を始めた平成10年度2学期までは、ウインドウズ3.1で動作するスタンドアローンのパソコンが20台あるのみであった。同年11月に、コンピュータ教育開発センターの助成により、2台のウインドウズ98マシンを購入するまでは、生徒の書いたメールを筆者のノートパソコンから自宅で送信するという手段を取っていた。平成10年3月に三重県の「すべての県立学校にインターネットを」事業に合わせて、校内LANが整備された。平成10年11月には、5台のウインドウズ98マシンが加わり、7台のインターネット接続パソコンが確保できた。授業は小人数講座(19〜21人)で行っているので、3人に一台のインターネットパソコンという状況である。とても充分な環境とは言えないが、実践を始めた当初と比べれば、出来ることは飛躍的に増えた。

 

 4.アダムス高校との交流

 この授業実践では、筆者の勤務する川越高等学校の英語科2年生約80名の生徒とアメリカ、ミシガン州のアダムス高等学校とが交流を行っている。平成10年度の一学期は、それに加えて、ロシア、モスクワの高等学校とスペインの高等学校とも電子メールを交換していた。二学期以降は、アダムス高校のみとの交流となった。

 

 5.メディアとテーマ

 どのようなテーマを設定するかは、メディアとの関わりも深い。当初は、文字のみの交流であったため、「将来の夢」「お小遣いの入手方法、使い道」などのテーマを設定した。

 その後、静止画像を一枚+テキストによる電子メールによる交流をアダムス高校と行い、この際には、「日本の伝統的なもの」を紹介した。これはアダムス高校の生徒に好評で、お返しに、「アメリカの高校生の文化」を紹介する静止画像添付のメールが次々に送られてきた。これらは、後に、アダムス高校のCeil Jensen先生によって、Web Pageにまとめられた。この発展は大変嬉しかった。

 その後、影戸誠先生に紹介された、複数の画像と音声を組み合わせて、紙芝居のようなプレゼンテーションを作成、圧縮して、添付メールとして送信出来るウイズボイスマルチを利用し、「川越高等学校校内の様子の紹介」を行った。

 このように、使用するメディアによって適切なテーマも異なるということがいえる。

 

 6.テキストのみの交流におけるテーマ

 上記のように、平成10年度1学期は、自己紹介に始まり、「将来の夢」「お小遣いの入手方法、使い道」などについてエッセイを書かせるということをやってみた。ロシアの高校生は、しっかり将来の夢を描いており、本校の生徒たちも感心していた。

 平成11年度2学期には、交流量を増やしたいという願いから、互いに驚きの伴うような、議論を沸騰させるようなテーマをということで、「男女の社会や家庭における役割の違い」というテーマを設定し、エッセイを書かせた。この面では、日米で大きな違いがあると考えたからである。本校生徒は、例えば以下のようなエッセイを作成した。

In Japan, generally speaking women do housewark. Housework are, for example,cooking,washing, cleaning home,taking out the trash,going to buy grocery and so on. And men work outside. Working outside is very busy. So men are tired with the work,they do not work at home. Recently ,the women who work outside have been increasing. So men and women should share housework equally. In Japan we have the old traditions so we think that we want to change it. Please tell us your opinion about this matter.

「家事は女性、男性は外で働く。変化はあるが、古い伝統がある。」というようなことが書かれている。筆者は、これを読んだアダムス高校の生徒たちは、「信じられない」というようなコメントを多数送ってきてくれるものと期待していた。ところが実際に届いたものは、以下のように、

Greetings, this is Andy Magadanz and Andy Burke at Adams High School. In the United States men and women (husbands and wives) generally have jobs to keep the household running. The men normally a full time job to make enough income for the family to survive on. Women commonly have lower paying part time job but don't work as much as their husbands. Women also take the responsibility of the cooking, cleaning, shopping, and children if there are any.

「男性は外で働き、家計を支え、女性は家事」といったコメントが多かったらしく、本校の生徒たちは、返事を書くように指示しても、「あんまり差がないから、書けない」と不満を漏らしているものが多かった。もちろん、中には、

The American society is different from many countries in the world today. American society nowadays balances the roles of men and women alike. Women have manly of the same opportunities as men do. Many women have jobs. Married couples share household chores and childcare duties. However, women in America didn't always have these freedoms.

のように、アメリカ社会では、男女平等が徹底しているというようなコメントもあった。いずれにせよ、筆者の目論見は大きく外れてしまった。生徒から話題について意見を求めたり、こういった実践をしている方々が、よいテーマを共有しあうなどの取り組みが必要だと感じた。

 

 7.静止画+テキストにおける交流テーマ

 画像が一枚あるのとないのとでは大きな違いがある。平成10年度2学期に、まず本校生徒が、日本の様々なものを紹介した。主なものは、七夕祭り、着物、日本家屋、ひな祭り、書道、温泉、てるてる坊主、ルーズソックスなどであった。

 しばらくするとアダムス高校から、アメリカの高校生の文化を紹介する画像添付メールが届いた。紹介された主な物は、バックパック、キーチェイン(日本の若者が携帯電話を首からぶら下げるように鍵をぶら下げる)、トレーナーやジーンズなどの人気ブランド、フットボール、紙幣、教科書、ジャズのレコードなどであった。平成11年のアダムス高校は、プロム(アメリカの高校の卒業式後のダンスパーティー、アメリカの高校生にとっては非常に重要)や夏休みのアルバイトについてのWeb Pageを作成してくれた。

 平成11年度2学期には、川越高校の紹介を、画像1枚を含むWeb Pageで行った。職員室(帰国子女が他の生徒にアメリカには類するものがないことを教えた)、掃除、ALT、クラブ活動、通学の様子、昼食の様子、体育大会、校舎、文化祭、社会見学、クラス担任の先生、学校の周囲の様子などを紹介した。

 

 8.ウイズボイスマルチ(複数の静止画+音声)

 平成10年度はウイズボイスマルチによって、川越高校の様子を紹介し、平成11年度は、日本の伝統的なものを紹介した。端末台数の不足もあるが、グループワークの意義も考え、2〜3人で一つの作品を作成した。まず自分たちで紹介するものを決めて、その後、原稿を作りながら、デジタルカメラ、以前に撮影した写真、本、雑誌などによって必要な画像を集め、ウイズボイスマルチで画像を並べ、画像を切り替えながら、原稿を読み録音した。

 平成11年4月には、アダムス高校から、ウイズボイスマルチの作品が届いた。アメリカは他民族国家であるので、生徒自身の民族的ルーツに関する作品であった。本校の生徒はこの授業を受け始めたばかりであったのと、当時は2台しか再生出来るコンピューターがなかったこともあり、生徒に見せたり、コメントをアダムス高校に返したりという活動が充分に出来なかったことが大変残念であった。優れた異文化教材であったと思う。

 

 9.今後の課題

 どのようなテーマを設定するかには、様々な要素が絡み合う。自校と交流校の授業の性格、生徒の興味、使用可能なメディアなどである。生徒の中には「童話を書いてみたい」というものもいた。生徒の希望を吸い上げる必要性も感じた。実際にアンケートも試みたが、生徒にとってもよいテーマを見つけるのは難しいようであった。

 

10.関係機関への要望

 交流のテーマを教員が共有しあうことが必要であると思う。テーマの概要と、実際にやってみて良かった点、悪かった点などが比較できるようにしておくとよいと思う。

 また、教科、科目によっても適切なテーマは当然違う。筆者のように英語では、その他の教科とは、かなり異なるようである。教科、科目に分けたデータベースもあるとよいと思う。

 

11.これから取り組む学校へのアドバイス

 テーマに関するアイディアの収集では、別の分野からの情報が有益である。筆者のように高校の教員であれば、小中、大学の実践、あるいは、企業研修などといったものも参考になるであろう。

 またインターネット上には、先進的な海外の教育機関が主催する情報交換のサイトも多数存在している。それらを利用することもよいであろう。

 

12.おわりに

 おわりに「プロジェクト型学習」「機能的学習環境」という言葉を紹介したい。プロジェクト型学習とは、テーマを設定して、レポートを作成するなどする中で、知識を道具として活用しながら、「学ぶ」という意識を強く持たずに身につけていく学習である。「機能的学習環境」とは、知識が活用出来ることを実際に体験できる環境である。学校以外の世界での「学び」には当然の事柄であるということが出来る。利用可能な知識は総動員して、仕事を仕上げる、仕事そのものが学習になっている、そういう状況が学校の中にもっと実現する必要があると思われる。


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