高度情報化社会で生きる生徒を育てる継続的国際交流

三重県立みえ夢学園高等学校 平山 欣孝

hirayama@mint.or.jp

 

1.はじめに

 すべての学校をインターネットにつなぎ、すべての教科で活用することが、今では当然のこととして理解され始め、いわば「市民権を得た」時代になろうとしている。これは、生徒にとっても教師にとっても、また、学校や地域社会にとっても幸運なことである。 

 

2.参加の経緯

 名古屋地域校のまとめ役、影戸先生と知り合ったのは、1996年であった。先生が、三重県に講演に来られ、その時の話が、私には助け船であった。当時は、インターネットを教育利用することが、まるで犯罪であるかのような見方をする閉鎖的な教育界の風潮があちこち見られた時代であり、孤軍奮闘中の私は勇気づけられた。学校に自分のノートパソコンを持ち込み、それが、世界へ開かれた唯一の窓である状態であったが、生徒の電子メールによる国際交流を続けていた。

 その後、影戸先生に誘われて、毎年、ネパール、台湾、韓国などの高校生を日本に迎え高校生が交流する企画にも参加してきた。1998年には、現任校である三重県立みえ夢学園高等学校へ転勤し、その年には、台湾の研究大会に招待され「インターネットの教育利用」について講演をしに行き、1999年には、ソウルで日韓の高校生が交流し協同してホームページを作る活動にも参加した。ネットワークを利用した情報交換と励まし合いにより国内外の教師は結束し、生徒は国際的友好の輪を広げつつある。

 

3.ネットワーク環境

 三重県立みえ夢学園高等学校は、全国初の昼間部定時制である総合学科を併設する高等学校として、1997年に生まれ変わった学校であり、全国に先駆けた斬新な教育改革を推進している。総合学科の中に6つに系列を有し、その中に「国際経営系列」や「情報ビジネス系列」もあり、情報機器の整備も最高水準を誇っている。インターネットは郵政省と文部省の共同事業「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」に指定され、CATVと人工衛星による常時接続であり、校内LANにより、情報処理室だけでなく、語学実習室(LL教室)などでもインターネットの利用が可能である。テレビ会議は、国際電話回線を利用するフェニックスが「国際経済総合実習室」に設置されており、120インチの画面と150人分のイスが用意されており、一斉に見ることができる。

 

4.生徒の変容

 2000年2月11日に、本校で開催された教師の研修会「英語教育達人セミナーin津」で、国際交流活動に積極的に関わってきた生徒達3人が、県内外の英語教師約80人の前で、堂々とプレゼンテーションをするまでに成長した。これは、今までのインターネットを利用した教育活動と国際交流参加校の先生や生徒のみなさんのおかげであると感謝している。

 1998年のCECの重点企画としての京田辺市での国際色豊かな合宿でプレゼンテーションを見たり、1999年の東海スクールネット主催のソウルでの国際交流で、津市の唐人踊りを画像で紹介したり、韓国の高校生と協同でホームページを作ったりして、本校の生徒も徐々にプレゼンテーション能力と度胸を身につけた。そして1999年の12月12日に名古屋で開かれたCEC主催の「教育とインターネット活用発表会」では、名古屋地域だけでなく、東京や大阪からも、生徒達が集まり、素晴らしいプレゼンテーションをしていた。そのイベントに参加した本校の生徒は、国際交流の準備をした教師側の苦労話を聞き尊敬の連続であったと言い、生徒達のプレゼンテーションに感銘を受け、いつか自分たちも、ああいう晴れの舞台で自分たちの活動や主張を紹介したいので、その機会を作って欲しいと言ってきた。ちょうど、「英語教育達人セミナーin津」を企画していたので、その中で、生徒の出る場面を設定した。

 生徒によるこのプレゼンテーションは大変好評で、「夢学園のイメージが変わりました。」、「生徒の言葉の1つ1つが心に残りました。私の学校でもそのような国際交流を始めたいと思います。」、「本当に楽しそうな授業ですね。私も夢学園に転勤したいです。」などのコメントをいただいた。

 生徒達も、念願の晴れの舞台でパワーポイントを使う機会が得られたことで大変満足している。情報機器を使うスキルも飛躍的に向上している。 国際交流で必要を感じた生徒達は、各家庭でコンピュータを買ってもらい、MOドライブやスキャナまで持っており、それを使って、達人セミナーのプレゼンテーション資料を作ってきた。画像の上に飾り文字などを重ねるなど、いつの間にか、そういう技術を身につけていた。

 生徒達は毎日のメールチェックをすることが当然のことになっている。達人セミナーのプレゼンテーション準備だけでなくテレビ会議の打ち合わせなども、多くのメールを交換して相談しながら進めた。生徒達とのメール交換が1日に10通を越える日が数日連続したこともあった。

 毎日のメールチェックをしない教師もいる現状で、インターネットや情報機器の活用は教師よりも生徒達の方がよく知っており活用方法も数段進んでいるのではないかと思える程である。

 

5.教師の変容

 生徒がパワーポイントを使って多数の聴衆の前に堂々と発表した事実や、コンピュータやスキャナなど情報機器を使いこなしている事実は、教師の間でもいい刺激となっている。達人セミナーの様子は、その日のうちに、電子メールにより同僚教師達にも伝え、好感をもたれている。「生徒は何も知らないから指導しなくてはならない」という時代錯誤の認識から「生徒もやるもんだな」という認識が育ち、ファシリテータとしての教師の役割が理解され始めていると感じている。

 

6.活動状況

 教科書があるとインターネットばかりしておれないので、インターネットにより学習するための科目「国際コミュニケーション」を設置し、その授業を中心にして活動を進めている。昼休みなどにもメールを送受信するためにLL教室へ来る生徒もいる。

 リアルプレーヤーを使ったマルチメディアの動画ファイルがweb上で紹介され始め、福井商業の文化祭の踊りなどを見て、本校も刺激を受け、企画を始めた。本校の文化祭でのバンド演奏を動画ファイルにする相談の段階で、演奏や歌があまり上手でないことや肖像権のこともあり断念した。その後、適当な題材を探して作業を進めていたが、アメリカのフロリダ州の学校とテレビビ会議をすることになり、そのことに、時間とエネルギーを集中せざるを得なくなった。マルチメディアを利用した国際交流を計画していたが、テレビ会議も、音声と画像があり、マルチメディアで、しかもリアルタイムの国際交流であり、強いインパクトがあった。

 テレビ会議では、HTMLで作ったファイルを120インチの大画面に投影しながら、その前で生徒がマイクを持って説明をした。鈴鹿市のF1について島田和哉君が、沖縄の修学旅行については金田亜季子さんと斎藤久美子さんが、そして、日本側のスポークスパーソンは峯山侑大君が行った。テレビ会議は、昨年12月と今年(2000年)の2月に行った。それぞれの接続時間は、1時間15分程度である。

 

<生徒の感想1:峯山侑大> テレビ会議は、本当に有意義な時間でした。まだまだ不充分だけど、これから英語や世界について学んで行く上で、いろいろと参考になりました。英語を学ぶという意欲も湧いてきました。

<生徒の感想2:金田亜季子>最初はどんな人たちが画面に映るのか、結構ドキドキしていました。自分の英語が相手に聞き取れてるのかとても不安でした。でも、結構話してる内容がよく分かったので、嬉しかったし、交流できた!という実感がありました。

<生徒の感想3:斎藤久美子>リアルタイムに海外の人達と会話が出来るという事は、本当に素晴らしい事だと思います。太平洋の向こうに住む彼らを、すぐ隣に感じる事が出来ました。同じ地球人ということで、これからも気楽にコミュニケーションが計れると良いと思います。

 

7.得られた成果

 テレビ会議の模様は地元の三重テレビでも放映され、伊勢新聞でも報道された。陶芸ばかりが突出して知られているという、夢学園の歪んだイメージが少しは是正され、夢学園の広報活動にも役立った。テレビ会議や達人セミナーでプレゼンテーションをした生徒達にも達成感と自信が財産として残った。

 

8.今後の課題とアドバイス

 テレビ会議のための国際電話は1時間で2万円を超えるのでその通信費の工面が課題である。

 従来の教師の発想は、「生徒は何も知らない。」という間違った先入観から「指導する」か、さもなければ「禁止する」という両極端になってはいないだろうか?その中間の「支援する」というファシリテータとしての役割を認識することが、インターネットの教育利用では、大切なことであると思う。

 同時に、個人情報の保護、肖像権、著作権などにも過敏になる傾向が見られる場合もあるが、新聞部での写真の取り扱い、演劇部が他人の脚本を使用する場合など、教師は昔からそういうことには気をつけて、うまく対処してきていることであり、インターネットの到来により初めて生じた問題ではない。子どもの「知る権利」と「表現の自由」との絡みもあり、「禁止する」ばかりでなく、教育的配慮で、うまくバランスをとらなければ、インターネットが宝の持ち腐れになり、生徒の成長の機会を奪うことになる。

 

9.おわりに

 従来の教育についての既成概念をぶち壊すのが本校の設立目的であると言われている。インターネットはバリアをなくすものであり、今までの閉鎖的な教育環境が揺さぶられていると言える。インターネットの活用を受け入れるのか、あるいは、逆に拒否するのか、また、どのように利用を推進するのかにより、その学校の教育の未来が大きく左右されるであろう。インターネットの教育利用が、ますます、職員の意識改革と学習者起点の教育を実現するための有効な手段となると期待している。


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