報告書

飛翔館中学校・高等学校 教諭 川崎 初治

 


1.はじめに

 国際交流という言葉を聞いて、何をすればよいのか?これが最初の不安であった。最初は何から手を着けようか、「世界に向けて日本の文化を紹介することから始めよう」この言葉に、多くの情熱あるプロジェクト参加者から勇気と技術と情報をいただき、何か形になるものができればと探し求めた。

 

2.学校の環境

 本校は大阪府の岸和田市に位置する私立学校で、最寄り駅からバスで30分以上もかかる山の中にある。周りはミカン畑に囲まれ校舎からは大阪湾を挟み神戸や明石海峡大橋が見える。夜になり見える夜景は絶景といってよいと思う。自然だけが自慢の学校であるが、およそ15年前から(OAという特設教科として)ワープロ教育に取り組んできた。5年前にはOA教室のワープロ専用機をWindows3.1のマシンに入れ替え、かろうじてマルチメディアの体験ができる環境となった。

 また、来年度から“教室から持ち出そう”との考えからWindows98ノートパソコンを25台導入する。インターネット接続環境は大阪にありながらNTTのISDN回線が整備されておらず(別途専用線使用料がかかってしまう)、たった1台のコンピュータからダイヤルアップで接続できる状態である。非常にお粗末な環境の中、私自身はWindowsCEのマシンで56Kの速度でE−Mailをチェックする毎日だ。


 


3.参加の経緯

 この国際交流の企画に参加することになった経緯であるが、大阪私学教育工学研究会という私立学校の教職員の研究機関があり、その関係で夏にE−Trekking−Osaka(ETO)という大阪市内を歩き回り決められた情報を集めるイベントに参加することとなった。今までは、教職員の研究や研修が主だったので生徒が主体となる企画には非常に興味があり、私も生徒5人を引き連れて参加した。その企画の終了後に、この国際交流の話を聞いた。早速、この生徒5人に「参加してみる?」と気軽に声をかけたところ、「やってみる」の声に、この生徒たちを中心に今回も参加することになった。

 生徒の内訳は、私が担任をしている2年生理系クラスのコンピュータに精通している男子2名と、全くの素人の1年生女子3名である。

 

4.生徒の変容

 男子生徒は進学コースにおり、毎日7限までの授業をこなしている。また、生徒たちはスクールバスで登下校しており、最終の18時のバスには乗せなければならない。こんな関係から普段の定期的な活動はできず、教師の提案が先で企画が決まったらみんなで手分けをして、自分のあいている時間や自宅に持ち帰っての活動が主となった。最終的には各参加校が集まった3日間でほぼ完成までこぎ着けた。

 企画内容は、本年度に新設された中学校が餅つき大会をするとの情報に飛びつき、これぞ日本の伝統文化とビデオとデジカメを手に取材を結構した。この取材内容をPowerPoint2000でプレゼンテーションに仕上げてみた。PowerPoint2000ではWEBプレゼンテーションが可能とのこと、今回はこのソフトを使うことにした。

 音声の入力や画像の張り付け、ハワイからきた生徒の手助けによる翻訳などたくさんの手助けを経て、やっとの思いで形だけは整った。是非とも作品をごらん頂きたい。今回の作品制作には私の指導は全く入っていない、まったくの生徒オリジナルである。

 参加することによって生徒たちは、コミュニケーションの難しさや独学に近い形で拾得した操作技術の未熟さを感じ取ったようである。全く初心者の女子たちは見ているだけの状態であったが、自分たちのできることを探して参加していた。彼女たちは、来年度から選択教科としてワープロ実習2単位と情報2単位を選択して本格的なコンピュータの活用を勉強してくれるとのことである。生徒への興味付けという点では今回の企画に参加させたことは大成功だったと思う。

 彼女らが本格的な勉強をしてくれてコンピュータを武器に情報発信や国際交流を押し進めてくれることが今後期待することである。また、本校の教育の一環として根付いてくれることを期待している。


5.教師の変容

 私自身がコンピュータの世界と出会ったのは大学時代、かれこれ20年ぐらいつきあっている。BASICプログラムに始まり、パソコン通信、インターネットと体験だけは豊富である。しかし、今回参加させた男子生徒2名には、コンピュータのみならず携帯電話など情報機器を活用するという面においては、私自身も脱帽している。やはり、知識では勝てるが、機器を活用するという面では生徒に任せることが大事だと感じた。彼らの自由な発想と使い方には、我々が学ぶべきことがたくさんあった。

 私たちのように基本的な使い方をマニュアルやテキストからマスターすることから始める学習方法と、とにかく使ってみて、うまく行かないところをインターネットのホームページ、メールや携帯電話で、その都度解決してゆく彼らのやり方とは根本的に発想が違うような気がした。やはり現代は情報化社会で、私たちの情報源が本などの活字媒体なのに対して、彼らの情報源は確実にインターネットなのである。新世代の彼らにいつまでも教師が活字媒体の教科書中心の教育をしていては、彼らの心がつかめずに終わってしまうかもしれない。

 

6.今後の課題

 国際交流でコミュニケーションがとれるような語学力、特に英会話や日本語の表現能力などの基本的な技能の修得に心がけなくてはならないと感じた。これは、インターネットやコンピュータでは習得できない技術であろう。また、生徒の自己表現能力や人権感覚などの基礎教育がますます重要であるように感じた。これらの能力は現在の生徒に不足しているようである。コンピュータという新しい環境を取り入れつつ、この環境の中で失われている人間関係をしっかりと教育しなければならないことを痛切に感じた。

 このためにも国際交流をインターネットでより身近なものとすることと、生徒たちが実際に顔を合わせた発表や、共同で活動をする機会を与えることにより、国際交流がより活性化できるのではないかと考える。そのためにも、多くの人々が実際に顔をつきあわせたコミュニケーションをとれる場所や機会が増えてくれることを切望する。インターネットによる国際交流は机上で可能であるが、実際に人間交流するには時間と費用とがかかる。これが頭の痛いところである。

 

7.これから取り組もうとする先生方へ

 コンピュータの操作やインターネットの世界は生徒に任せればよい。鉛筆で紙に字や絵を書くように彼らは自分で使いこなす。私たち教師は使い方が誤っていないかを指導すればよいのである。そう、普段生徒に指導している人間教育をしてゆけばよいのである。国際交流やコンピュータ教育にとって一番大切なものは使う人間の教育だと思う。私がいつも頭に残っている言葉、「コンピュータで成績処理はできても成績をつけるのは人間」・「コンピュータは操作できた、ソフトはコピーできた。しかし人生はそうはいかない」これは大学時代の恩師の言葉である。

 コンピュータ技術を持つプロフェッショナルはたくさんいるが、教師は「人間を育てるプロフェッショナルになれ!」といつも心に言い聞かせて生徒たちとコンピュータの話をしている。技術面ではいつも教えられてばかり、生徒と「使い方わからんな」「思ったように動かんな」と格闘している毎日である。


 おわりに、私の思ったことばかり書いたので報告になっていないかもしれない。これが一つの話題になれば幸いに思う。

 まだまだ、生徒とともに頑張りますので皆様のご指導よろしくお願いいたします。

平成12年2月


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