国際交流の継続的実践プロジェクトに参加して

大阪府立旭高等学校  西野和典


1.はじめに

 国際化、情報化の時代を主体的に生きる若者の育成が求められている。本校は、昨年度、新100校プロジェクトで実施された国際化企画のインターネットクラスルーム(以後、ICP’98と記す)に参加した。Webページの掲示板を用いて、韓国やハワイの高校生と日常生活の様子を交流し、異文化理解や、インターネットを用いて情報を受発信する技術や態度を身に付けた。本年度は、国際交流の継続的実践企画(以後、ISoNと記す)に参加したが、ここでは、このISoNにおける本校の活動をまとめる。


2.本校の特色と参加の経緯

 本校は、普通科とともに国際教養科を2クラス設置している。国際教養科は、外国の人々との交流を通じて異文化に対する理解を深めることを目的としている。「異文化理解」や「第2外国語」等の特色ある授業の他にも、留学生や帰国子女の受け入れ、海外での語学研修、海外修学旅行、短期留学というように、異文化に触れ、交流する機会を多く設けている。

 1999年6月、国際教養科の生徒が中心となり、インターネットを利用した継続的な国際交流を目指して、「マルチメディア国際交流同好会(Multimedia International Exchange Club)」(以後、MIECと記す)が設立された。MIECは、活動の一環として、7月に開かれたインターネットを活用した国際交流企画であるETO’99(Electronic Trekking Osaka ’99)に参加し、海外の高校生と共に情報を取材し、取材結果のプレゼンテーションを行った。このETO’99に参加した学校の多くが、国際交流を継続し、発展させることを希望し、本校もISoNへ参加することになった。


3.学校のコンピュータおよびネットワークの環境

 本校にはLAN教室があり、Windows NT Server(Ver.4.0)に40台のクライアント機(Windows NT Workstation)が接続されている。しかしながら、このLANシステムをインターネットへ接続することは禁じられている。したがって、必要に応じて、筆者のパソコンにPHSをつなぎ、インターネットに接続して情報の受・発信を行った。昨年までは、本校にはMS-DOSの16bit機しかなく、研究機関から6台のDOS/V機(Windows95)を借用して活動を行った。

 また、ISoNに参加したMIECのメンバー5名のうち3名は、自宅にあるパソコンをインターネットに接続しており、帰宅後、自宅のコンピュータを用いて活動する生徒もいた。自宅のコンピュータを使うことができない場合、メールの送受信は、PHSでのメールサービス、あるいはWeb上のメールサービス(Hot Mail)を用いた。


4.活動状況

4.1 参加生徒と活動の形態

 ISoNに参加したMIECの生徒は、いずれも2年生であり、所属学科は、国際教養科4名(内3名は女子)と普通科1名(男子)である。活動は、期間を区切って行うのではなく、日常的、かつ継続的に行うことを目指した。1999年9月下旬から活動を開始し、毎週火曜日と金曜日の放課後、コンピュータ室に集合して活動した。

4.2 マルチメディアに関する基礎的な学習

 参加した生徒は、「情報科学」の授業等を通じて、日本語入力、Windowsの基本操作など、コンピュータに関する基礎的な知識や技術は習得していた。しかし、文字・画像・音声などのメディアの統合や、編集の技術はなく、マルチメディアについての理解が不足していた。したがって、マルチメディアでのWebページの制作を目指しつつ、初めは、マルチメディアに関する基礎的な知識や技術の習得から学習した。学習方法としては、実際にコンピュータを用いながら、相互に教え合い、情報を交換し、学び合うなかで、知識や技術を高め合っていくようにした。

4.3 制作する作品の内容

 国や地域の伝統文化をマルチメディアで紹介するようなWebページの作成を目標にした。テキスト(英語)、画像、音声、動画などをWebページに統合して、表現豊かな作品創りを目指した。最終的には、そのWebページをもとにして、外国の高校生と、国や地域の文化についてのディスカッションを展開することを目指した。

 作品の題材には、日本の童謡や民話を取り上げ、アニメーションで表現することにした。童謡に関しては、背景の画像をアニメーションにして、MIDIでメロディーを入れ、歌詞を英字で表示する構成にした。民話は、絵本のように、各ページに画像と英文を入れ、スポット的にアニメーションを加えることにした。

4.4 活動の経緯

 1999年9月から10月にかけては、ETO’99で取材した大阪の食文化を紹介する画像ファイルやテキストを利用して、Webページの仕組みやGIFアニメーションについて学習した。また、1999年9月23日には、ISoNに参加する高校生が集合し、マルチメディア作品を制作するにあたって理解する必要がある、知的所有権について学習した。

 11月に入り、ペイント系の描画ツール(D-Pixet)を用いて、作品を創りながら、レイヤーの概念やGifアニメーションの制作について学習した。また、制作する童謡や民話の具体的に選定する作業に入った。

 12月に入り、男生徒の2名が童謡の「赤とんぼ」、女生徒3名が民話の「ねずみの嫁入り」を担当することになり、制作作業に入った。

 12月22日、ISoNの中間発表会で制作した作品を発表し、他校の生徒や指導者からアドバイスを受けた。その後、主として画像のメモリサイズの縮小や、童謡の音楽、英字テキストの改善を図った。また、実際にWebサーバにアップするために、著作権の検討を行った。


5.得られた成果

 昨年度の新100校プロジェクトに参加したメンバーは、興味のある生徒が任意に集う「愛好会」的なグループであった。今年度は、活動を定期的かつ継続的に行うために、生徒会に所属する正式な「同好会」を設立した。今回は、この同好会を軸にして、恒常的に活動を行うことができた。

 参加者は、画像、音声、アニメーションなど、マルチメディアによる情報の表現とその統合について学び、制作技術を習得した。童謡や民話の制作にあたっては、テーマの設定、題材の選定、内容の企画・構成、シナリオ創り、絵コンテの作成など、マルチメディアコンテンツ制作のためのメディア処理や、オーサリングについて、実習を通じて学習した。

作品の一例を以下に示す。


(1)童謡「赤とんぼ」の制作

 童謡として親しまれている「赤とんぼ」(作曲:山田耕作、作詞:三木露風)を題材にして、図1のように、「赤とんぼ」にふさわしい情景をレンダリングソフト(Terragen)で作成した。Webページを開くと、MIDIで作成した「赤とんぼ」のメロディーが流れ、画像と英文の歌詞を鑑賞することができる。

 アニメーションの作成は、十数枚のフレームを作成した後、GIFアニメーション化を図ったが、ファイル容量が大きくなりすぎた。そこで、AVI作成ソフト(AVI Maker)でAVIファイルに変換し、MPEG4で圧縮した。結果的に、13.5KBまで圧縮して、ストレスを感じることなく表示することができるようになった。

図1 童謡「赤とんぼ」の 試作Webページ


(2)民話「ねずみの嫁入り」の制作

 図2は、アニメーション民話「ねずみの嫁入り」のWebページである。このWebページは、数名の生徒で協力して以下のように作成した。

(1)ストーリーを考える。

(2)ページデザインを考えながら、英字で絵コンテを描く。

(3)描画ソフト(D-Pixet)を用いて、絵コンテを画像ファイルにする。

(4)9枚の画像を、GIFアニメーションにしてWebページで確認する。

図2 民話「ねずみの嫁入り」のWebページ

6.生徒の変容

 今回のISoNでは、企業からの協力を得ることができた。参加した生徒は、プロのWebページクリエータからの指導を受けるなど、数多くの洗練されたマルチメディア作品を鑑賞した。このような取り組みから、「ただWebページを創る」だけで満足する段階から、「どのようなWebページを創るのか」を考えるようになった。見る側の行動や心理を意識しながら、作品を工夫しようとする態度が見られるようになった。

 ETO’99の後、ISoNの活動を継続することによって、日常的に海外の生徒とメールを交換する生徒が現れた。その生徒は、10月下旬の韓国への修学旅行の際、ETO’99で共に活動した韓国の教員と高校生に再会し、現地で交流を深めた。国際交流を、単にイベントとして捉えるのではなく、それを起点にして交流を継続しようとする態度が見られるようになった。


7.今後の課題

 童謡「赤とんぼ」のWebページをサーバにアップするには、著作権の問題がある。作曲者、作詞者ともに死後50年以上経過していないため、生徒が演奏したMIDIファイルをWebサーバに置くと、複製権の侵害に当たる。また、歌詞を英訳して載せるのも、翻訳権の侵害にあたると考えられる。したがって、作曲者、作詞者が死後50年経過した童謡のWebページを選び出し、新たに作品を作り直す必要がある。同様に、民話に関してもWebページに載せるためには、著作権に関する検討が必要であろう。


8.関係機関への要望

 マルチメディア作品をWebページにして発信するには、著作権についての問題が大きい。期間を区切ってWebサーバへ登録し、教育的に利用するWebページに関しては、著作権料の支払いが免除されるように、関係する省庁や諸団体で、協議をしていただければ幸いである。


9.これから取り組む学校へのアドバイス

 国際交流を継続的に行うには、母体となる参加者のグループ形成が必要である。今回、本校では、同好会組織で活動に参加したため、定期的に活動をすることができた。授業での参加は、その科目の目標との兼ね合いがあり、活動を継続することが難しい。また、有志での参加の場合、定期的な活動は難しく、交流が長続きしない場合が多い。国際交流のための同好会や部活動を設立させることが、継続的な交流を容易にすると考える。

 また、市販の画像処理ソフトは、高価なものが多いため、フリーウェアを活用した。最近は、多種多様なフリーウェアが作られており、目的に合わせて有効に利用することができる。


10.おわりに

 今回のISoNは、参加校相互の交流を行うより、個々の参加校の国際交流に対する取り組みが問われる活動になった。今年度の本校の取り組みは、国際交流に用いるマルチメディアのWebページ制作に重点を置いたものとなった。次年度は、作成したWebページを用いて、海外の高校生と意見を交流する取り組みへと発展させていきたい。


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