ISoN報告書

大阪信愛女学院 メディアセンタ 福若泰子


1.はじめに

 「マルチメディア作品を通しての国際交流」と聞くと、初めての方は身構えるかもしれない。つまり、指導者となる教師はコンピュータに精通しており、ホームページの製作も簡単にこなさなければいけないと思ってしまう。もちろんそれに越したことはないが、私のようにホームページ制作の経験がなかった者も、プロジェクトを通して、生徒と一緒に学び、必要最低限ではあるがマルチメディア作品の制作に必要なスキルを習得する機会が与えられた。これは私にとって大きな収穫であった。つたない実践事例ではあるが、少しでも皆様の参考になればと願っている。

 

2.参加の経緯

 平成11年の春から夏にかけて、大阪府私学教育工学研究会主催の E-Trekking Osaka 1999(以下ETO)という国際プロジェクトに参加した。選択科目「オーラル」を履修していた3年生6名が、授業の一環として参加し、ETOを通して、電子メール交換やプレゼンテーションソフトPowerPointを使っての発表など、様々な新しい経験をした。中でも、自分達のつたない英会話力や自国に対する知識のなさにフラストレーションを感じながらも、言葉の壁を越えて不思議と心が通じ合う経験をしたことは、彼女達にとって貴重な経験であった。また、これらのフラストレーションが起爆剤となり、もっと英語を話せるようになりたいという気持ちが強まった。

 9月に入り、ETOでお会いした帝塚山学院泉ヶ丘校の辻先生(本プロジェクト幹事校)から、本プロジェクトを紹介され、ETOの成果を母体にしてマルチメディア作品を作る計画を聞いた。私自身、テーマを設定して海外校と意見交換することは、文化や考え方等における「違い」や「共通点」を知る良い機会であり、互いの「違い」を認めた上での国際相互理解につながると思った。10月初旬の授業で本企画を生徒に案内したところ、作品の制作プロセスにおいて海外校との交流がないこと等から、あまり興味を示さない生徒も一部いた。しかし、海外に「日本の情報を発信」できること、及び、自分達の作品をネット上に残すことにより、卒業後も閲覧したり、友達や家族の人に見せることが出来ることに魅力を感じ、参加することになった。

 

3.学校のネットワーク環境

 本学のネットワーク環境は幼稚園から短期大学までの各校が学内LANで接続され、外部へは大阪地域大学間ネットワーク(ORION)を利用して短期大学から専用回線で結ばれている。これにより、24時間インターネットが利用できる環境となっている。高校校舎内にある学院共用施設メディアセンタにはコンピュータ室が2部屋あり、WindowsとMacintoshがそれぞれ24台設置されている。電子メールアカウントは、基本的には生徒に発行しておらず、プロジェクト等で必要とする時のみ、ネットワークを管理している短期大学に発行を依頼している。

 

4.生徒の変容

 4月の時点で、参加生徒の大半はコンピュータ操作の経験がなく、電子メールやインターネットも初めてであった。しかし、本プロジェクト終了時には、キーボード操作、電子メールソフトの操作、ホームページソフトPageMillを使ってのホームページ製作まで出来るようになり、パソコンに向かう姿も積極的になってきた。全員が、「パソコンは楽しいのでもっと使えるようになりたい」と言っている。

 ホームページのテーマを決める際、自由に意見を出しあって検討したが、なかなか斬新なアイデアが出て来ず、消極的な姿勢が目立った。だが、一旦テーマが決まると、内容や構成について意見を交わし、主体的に進めていくようになった。生徒が一番生き生きとしていたのは、コンピュータ画面に向かってホームページ制作に取り組んでいた時であった。分からないところは聞き合ったり、絵の得意な生徒はドローイングで力を発揮したりと、まさに参加者全員の協働作業であった。ホームページが仕上がった時、「初めてのホームページにしてはよくやった。」と満足していた。これら1つ1つの活動が生徒達に自信を与えたのか、生徒達はより積極的になり、大阪校・名古屋校・東京校の共同マルチメディア作品「花咲か爺さん」では、英語のナレーションにも生き生きとして取り組むようになった。

 

5.先生の変容

 本プロジェクトでは、ホームページ制作が生徒に要求されており、私自身、当初その経験がなかったので少し不安であった。おそらく、それまで教師の役割は生徒に知識を伝達するものと考えていたからだと思う。しかし、このプロジェクトを通して、教師の役割とは生徒に「学ぶチャンス・場所を提供する」 ことでもあると強く感じた。「色々知らないことを学ぶチャンスを与えてくれて感謝します」との生徒の言葉は今でも心に残っている。教師自身が技能を持っていないから生徒にもそのチャンスを与えないというのではなく、知っていなくても教師もチャレンジし、生徒とともに学び、実践していく姿勢が大切だと学んだことは、私自身にとっても大きな収穫であった。

 

6.活動状況

 このプロジェクトが始動し、授業時での活動を始めたのは、平成11年10月中旬であった。12月下旬のマルチメディア作品完成まで、授業時間数にして5時間しか残されていなかった。ホームページ作成の指導にあたっては、「インターネットを活用した英語授業」(山内豊NTT出版)を多いに活用させてもらった。以下は授業での指導手順である。

<第1ステップ:ホームページのテーマ・内容・構成を考える>

 本プロジェクトは、マルチメディア作品を通して日本の情報を発信し、それについて海外と意見交換、国際交流につなげていくという企画であることから、本校の生徒達は何を情報発信したいかを考えた。1つのクラスは、観光ブックに載っていない「マイナーな大阪」を知ってもらおうと、天神橋筋商店街について紹介することになった。観光名所ではなく、地元に密着した商店街を紹介することによって、「大阪」を知ってもらうというのが、ねらいだ。もう1つのクラスは、学校(時間割・校則・行事・制服)を取り上げることによって、海外の学校生活との違いを知りたいというのが目的であった。

 テーマを決めた後、「どんな内容にするのか」「どんな情報を集めるのか」について考えた。授業時間内だけでやろうとしたので、活動時間数が少ないという焦りから、内容検討の時間が十分に取れなかったことは、少し残念であった。内容項目が決まってくると、ホームページ上での構成(トップページの内容、どこにリンクをはるのか、各ページのレイアウト等)を考えさせ、大まかな構成図を書かせた。この段階で、生徒はWeb上のホームページを閲覧して、情報を集めたり構成を考える参考にした。

<第2段階:ホームページ用素材情報を集める>

  収集する情報が分かってくると、素材情報(文章・画像)の収集に取りかかった。画像は、デジタルカメラで撮影し、それを画像ファイルに保存した。また、情報収集にあたって、商店街をテーマに選んだクラスは、週末、天満まで取材・撮影に出かけた。この段階で、生徒達は英語辞書を片手に英文の完成を目指した。

  授業時では、この第2段階までの指導で終わった。

<第3段階:ホームページファイルを作成する−ホームページ制作>

 「商店街」のクラスは、自分達の手でホームページファイルを作成したいという気持ちが強く、放課後にその作成に取り組んだ。利用したホームページソフトは、Adobe PageMillである。このソフトは、ワープロ感覚でホームページを作成できる専用制作ソフトで、HTMLという言語を理解しなくて良いので、とても助かった。生徒3人のうち2人は、選択教科「情報」のクラスでPageMillの基礎を習っており、また残りの1人は以前に簡単なホームページを作った経験があった。生徒がホームぺージ制作に取り組んでいる間、私もPageMillを試して生徒からの質問に備えていたが、殆ど私の出番はなく、生徒達は12月のワークショップまでにホームページを完成することが出来た。

 「信愛」の学校紹介をテーマに選んだクラスは、受験や委員会の活動等により放課後時間がとれず、ホームページファイルの作成は断念した。彼女達にホームページ制作までの機会を与えらなかったのは、今でもとても残念である。私自身、ホームページ制作は未経験だったので、生徒の準備したコンテ・文章・画像をMOで12月のワークショップ(22〜24日)に持っていき、それをもとに、ホームページ製作にチャレンジした。PageMillは比較的使い易いソフトだったので、ワークショップ期間中に完成することが出来た。制作にあたり、帝塚山学院や飛翔館高校の生徒達にドローイングを手伝ってもらったが、彼らの絵の上手さと同時に親切な態度にはとても関心させられた。

 

7.得られた成果

 当初は、コンピュータ操作や英語の面で、生徒達がどこまで出来るか不安であった。だが、本プロジェクトやETOに生徒を参加させて気づいたことは、生徒達の能力は我々の想像以上であり、色んなことにチャレンジさせることによって、彼らの可能性はまた伸ばされると知った。

 だが、本プロジェクトの目的「マルチメディアを通した国際交流」が達成できたかというと今のところ疑問であり、それは今後の課題であろう。

 

8.今後の課題

 今後の課題は、参加校の作品をインターネット上に公開し、国内外の学校と意見交換を行うことである。今回参加した生徒は卒業してしまったが、今後の海外参加校との意見交換や交流に関しては、継続的に進めていきたいと希望している。また、学内的に言えば、今回の信愛生2作品をもとに、後輩が更に内容を発展させていってくれることを願っている。

 本プロジェクトでは、初めの段階で、プロジェクト起動の中心となる大阪校としての「テーマ」や「活動の進め方」について、参加校が明確なイメージを描けなかった。大阪校としての作品作りを目指すのであるならば、プロジェクトの初めの段階で充分な意見交換(電子メールやミーティング等)を行い、明確な活動項目と計画を知る必要があった。そうすれば、参加校間の交流も促進したであろうし、プロジェクトの進行もスムーズにいったと思う。

 

9.おわりに

 今回、コンピュータ知識も豊富で、国際交流の経験も多い先生方と一緒に本プロジェクトに参加できたことは、私自身のこれからの課題を知る上でも貴重な経験となった。課題は多いが、とりあえず当面は、様々な国際交流実践事例に目を通して、その教育的意義を考えながら、これからの参考にしたいと思う。さらに、HTML言語など、ホームページ製作の技術も習得する必要がある。もし、生徒達がホームページを製作することが出来たら、それを媒介に海外姉妹校との情報交換や交流ももっと活発化するであろうし、共同学習の発表の場ともなり得る。

 最後に、本プロジェクトの進行に奔走して下さった幹事校の辻先生、並びに技術講習会の会場を提供して下さった帝塚山学院高校 船越先生に、この場を借りてお礼を申し上げたいと思う。


注)PageMill【アドビシステムズ(株)の製品】

PowerPoint【マイクロソフト社の製品】


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