国際交流の継続的実践・報告書

帝塚山学院中高等学校 船越 政利

 

1.はじめに・参加の経緯

 1999年夏、帝塚山学院泉ヶ丘校の辻陽一先生からの誘いで「E.T.O ’99」という協同企画に参加した。これは大阪の高校生と海外の高校生が交流しながら、自分たちなりの「大阪」をモバイル機器を使って取材し、プレゼンテーションするというものであった。本校から参加した生徒はごく少数であったが、そこでの生徒の活動の様子を見るにつけて、「情報化」や「国際化」は机上の観念ではなく、「体験」の上に積み上げられていくものであるということを痛感させられた。

 その後、辻先生から今回の企画を紹介していただいた。「一つ一つの実践を積み重ねていくことが大切」と考えて、とにかく参加することにした。

 

2.学校のネットワーク環境

 99年4月、帝塚山学院住吉校の新校舎が完成した。この改築にあたって、今後展開されるであろう情報教育に対応するため3つのコンピュータ室を設置した。

 一つは、中学校技術科での使用を主として想定した「コンピュータ室」、もう一つは、高等学校でのインターネットなどの使用を想定してWindows機で構築した「パソコン室」、そして、美術・音楽などにおけるマルチメディア制作を想定してMacintoshを配備した「マルチメディア室」である。

 これらのうち「コンピュータ室(46台)」「パソコン室(42台)」については、すでにLANで結ばれている。外部インターネットへの接続については、セキュリティ確立の問題や、回線速度の限界などから、現在のところ未対応だが、これらの問題が解決し次第、授業でのインターネット活用が可能な体制にある。

 

3.活動状況

 99年9月23日、本企画の第1回講習会が行われたが、この段階では本校生徒は参加していない。

 99年11月14日、第2回の講習会が本校パソコン室で行われた。この際には2年生4名が参加した。本企画の趣旨説明に続いてホームページの実作品の紹介が行われ、技術講習として実際にホームページを作成した。本校の参加生徒たちにとって初めてのホームページ制作だったが、思ったより簡単、との感想であった。

 99年12月14日、本校生徒だけで、実際に作成するホームページの内容について検討するミーティングを持った。テーマは「マイブーム」に決まる。内容は「ポストペット」「ダイエット」「映画」「ライトアップ」などである。日本の高校生たちが今、何に興味を持っているかを紹介するのが目的である。

 99年12月22・23・24日の3日間にわたって第3回の講習会が行われた。本校の生徒たちは「マイブーム」についてまとめるべく、それぞれに素材を持ちこんで作業を進めた。ここではホームページの大まかな枠組が作成された。ハワイから参加したKenta君の協力も得て、写真などの素材も組み込むことができたようである。

 

4.得られた成果

 現時点では、生徒たちの「マイブーム」についてのホームページは「公開」できるものになっていない。内容の「出来」「不出来」が問題ではなく、「著作権」をどうクリアするかが問題となっている。

 たとえば「ダイエット」のホームページには、女子高校生たちの「理想の体型」の例として梅宮アンナなどタレントの写真が載せられている。また、「映画」のページでも、生徒があげた「マイベスト」として、映画の1シーンやポスター、俳優のポートレートなどがふんだんに使われている。

 これらをホームページ上で公開するためには、どのようは法的手続きが必要なのか、「著作権料」を支払うとすればいくらぐらいになるのか、他に方法はないのか、などを現在検討中である。

 

5.生徒の変容

 本校にはいわゆる「パソコンクラブ」や「選択授業」などにおいて、マルチメディア・コンテンツ制作に日常的に取り組んでいる集団が現段階では存在しない。今回のような企画に参加する生徒を集めるには、全学年・全クラスに呼びかけていく他はない。

 そこで「呼びかけ」の文書を作成し、各教室に掲示するという方法をとった。いわゆる「趣意書」と「企画書」のようなものを高校生向けにアレンジしたものである。

 この「呼びかけ」に応じた生徒は、高校生約720名のうち2年生6名、1年生2名の合計8名。実際に制作まで関わったのは6名である。 

 参加した生徒たちの間に、ホームページ作成についての抵抗感はそれほどなかった。写真などの扱いも、いったん要領を飲み込むとその後はスムースに作業をこなしていたようである。そういう意味では、技術的な向上についてはそれほど大きなものがあったとはいえないかもしれない。しかし、「著作権」の問題については、それまでまったく念頭になかったことであり、その存在が自分たちの制作したものに関わってくるだけに、今回は強い関心を示した。いわゆる「リテラシー」の問題はこのように「現実に」体験することでより実践的に身についてくるものなのかもしれない。

 

6.先生の変容

 本校の校務分掌には「国際交流委員会」と「視聴覚コンピュータ委員会」が設置されており、報告者はこの両委員会に属している。「国際交流委員会」は、海外からの留学生の受け入れ、夏休みのオーストラリア研修、国際理解講座の実施など、生徒に働きかける企画をこれまで継続的に実施してきた。これに対して「視聴覚コンピュータ委員会」は、成績処理や文書作成のためのコンピュータ環境の整備など、報告者も含め、未だに「ハード面」での整備に力点を置く傾向にある。

 今回の企画に参加して、他校との交流を進めていく中で感じたことは、「ハード面の整備と同等に、交流と体験の場といったソフト面の整備が重要である」ということであった。これまでの「ハード偏重」の整備計画を見なおす必要を強く感じるとともに、生徒だけでなく可能な限り多くの教師に、こうした交流の企画に関わってもらう機会を持ってもらう方策も考えたい。

 

7.今後の課題

 現在、さまざまな学校においてホームページが公開されているが、そこには「著作権」に触れないオリジナルな素材が用いられていることが多いため問題は発生しない。そもそも「学校」という場で制作されるものにはマスコミ関連の素材は使わない、というある種の「不文律」のようなものが存在するようである。学校教育の場で「オリジナリティ」を前提とするのは当たり前といえば当たり前だが、今回のように高校生の「今」をリアルに表現するとすれば、そこには「オリジナリティ」というだけではおさまりきれないものも登場する。

 それぞれの素材について「著作権料」を支払うとなれば多額の出費が必要であろうから、現実的な対策としては「イラスト」で置き換えることなどが考えられる。しかし、そうした処理をくぐったものが、果たして「リアル」に高校生の「今」を伝えたものになるのかどうか。生徒たち(だけでなくわれわれ大人たちも)の日常に無数の「著作物」が存在し、それを空気のように消費するという状況の中で、何かを表現する、という行為の困難さを感じさせられた。

 

8.関係機関への要望

 今後、ホームページを作成する際に「著作権」の問題は避けて通ることができない問題であろう。「著作物」を使用したい場合、どのような手続きが必要なのか、といった情報が手軽に入手できる手立てを考える必要があろう。

 かつて著作権への対応はプロだけの問題であったが、今後は一般の人々にとっても問題になってくる。それが常識となるには相応の時間は必要だろうが、学校教育のみならず一般社会においてもさまざまなアプローチで取り組む必要を感じる。

 

9.おわりに・これから取り組む学校へのアドバイス

 「国際交流」にはさまざまなアプローチがあるが、「共同学習」となると大掛かりなもの、というイメージが強い。しかし今日ではEメールやホームページなど、比較的「手軽に」海外と交信することが可能となった。これによって、実際に顔を合わせる機会が最小限であっても、お互いの制作したものを積み上げて一つのプロジェクトを達成することもそれほど困難ではない。

 「友達づくり」も国際交流の大きな成果ではあるが、もう一歩進めて、共同学習を通じた「パートナーづくり」も視野に入れてみてはどうだろうか。「モノ」づくりの中で、伝え合う「必然」が生まれれば、ことば以外のさまざまな手段を使って「伝わった」という実感を生徒たちは持つだろう。

 とかく教師というものは、「きちんとしたものを」とか「計画性のあるものを」ということを考えがちだが、出来上がりや仕上げはともかく、こうした「交流の場」にともかく生徒たちを連れ出してみてはどうだろう。あとはそこで生徒たちが「何か」を体験してくるだろう。


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