ISoNに参加して

帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校    辻 陽一

 

1.はじめに、

 マルチメディアコンテンツを通じた国際交流をテーマとする本プロジェクトは、本校の生徒にとっては大きなチャレンジを与えるものであった。ISoNに参加したコンピュータクラブの生徒の中には、ビデオの取りこみやホームページ作成などスキルを持ったものもいたが、Flashを用いたアニメーションやRealVideoファイル、ビデオ編集などマルチメディアコンテンツの中核となるスキルは持ち合わせていなかった。彼等はもともとOSやネットワークの構造に関心があった。

 他の参加者たちは、韓国語や英語などの語学や国際交流、イラスト、音楽などに興味を持っているがマルチメディア製作はまったくの未経験者であった。ただ、本校では、インターネットは自由に使える環境があり、関連教育も受けているので、電子メールなどは一応使えた。

 一方、マルチメディアコンテンツの製作に要するハードウェア環境については、CECなどの支援を受けて、ビデオ編集対応パソコンやデジタルビデオカメラ、シンセサイザー(作曲用)など一定の機材が整っていた。

 本稿では、マルチメディア、国際交流、アートなど、今後、ますます重視される項目をキーワードとして、本校から参加した高校1年生9名の実践を紹介する。


2.参加の経緯

 平成11年度入学の国際科(女子)2クラス96名は、入学前の3月に4日間の情報基礎講座を受け、入学後も英語の授業で、電子メールなどを使って海外交流を行ってきた。さらに夏には、ハワイ(9名)、韓国3名の生徒と語学合宿で英語を通じて交流を行い、事後も電子メールなどを通じて交流を続けている。この中6名は、CECの学校企画の一つE-Trekking Osakaに参加し、ハワイ・韓国の生徒以外に、大阪府内の8高校の生徒とモバイルを持って市内トレッキングするなど、国際交流とインターネット体験を深めてきた。コンピュータクラブの男子2名もE-Trekking Osakaに参加しており、ISoNには、これら生徒たちが主体的に参加した。


3.学校のネットワーク環境

 本校は100校プロジェクト校の一つとして平成7年にインターネットサーバと端末1台が導入され、2年後の平成9年秋にLL教室を改造して50台のパソコンがインターネット接続された。平成10年3月にサンのワークステーションであるウルトラVをDNSサーバとして稼動させ、同時に、それまで接続していたORIONS(大阪大学)から、OCNエコノミー回線に切り替えた。また、平成11年1月に松下視聴覚教育財団の助成金の一部と校費を使って、校内回線(光ファイバー)を引き、英・数・国・社の教科準備室と進路指導室の端末がインターネット接続された。また図書室と理科準備室は、基幹ハブから直接10baseT回線で接続された。

平成11年秋、本校のサーバがハッカーに攻撃され、ルート権限を奪われるという事態に陥った。このためサーバを遮断するとともに、ファイヤーウオール導入を検討し、平成12年1月下旬にソニックウオールを導入。すべてのインターネットサーバをフォーマットし、再インストールした。

 ISoNが本格的にスタートしたのは、平成11年11月のことであり、ハッカーの侵入はこれと前後しており、その一ヶ月後に、サーバを停止して、これが翌年の2月(ファイヤウオールの初期設定不備もあり)まで続いたため、本校のISoN活動は、かなり、打撃を受けることとなった。


4.生徒の変容

 ISoNの実際の活動は短期間であったが、本校の生徒は、ISoN以前のE-Trekking Osakaや語学合宿などでインターネットや国際交流を体験してきた。入学前情報教育講座で、コンピュータの基礎技術をみにつけ、語学合宿で国際交流に必要な語学力と実体験を積み、E-Trekking Osakaでは、フィールドワークとプレゼンテーション活動を体験、ISoNでは、マルチメディアコンテンツ製作を通じた国際交流・共同学習を経験したわけである。3月には、ハワイとテレビ会議を行うが、これはすでに語学合宿直前、招待予定のハワイの生徒たちと実施して経験済みである。ある意味で、テレビ会議も含めて現在考えられるインターネットサービスのほとんどを1年以内に経験したことになるが、このような教育実践を受けて、生徒はどのように変容したであろうか。

(1) マルチメディア作成ツールへの関心とノウハウができた

 Flashというアニメーション作成ツールを使ったことがない生徒が、簡単にアニメーションが作れることを知り、感動するとともに、意欲的に製作に取り組むようになった。

 参加生徒の中には、コンピュータ以外に、音楽やイラスト、英語などそれぞれ自分の得意な分野をもったものが多く、マルチメディア作品を製作する過程の中で各自の能力が生かされた。

(2) インターネットによるコミュニケーション能力が向上した。

 大阪校の中で学校を超えて作られたグループの生徒たちが、作品製作のために情報交換を行ったり、第二外国語で韓国語を選択している生徒が、自分のパソコンに韓国語のフォントを入れて、英語・韓国語まじりで韓国の生徒とメール交換したり、名古屋の「教育とインターネット活用発表会」で知己となった東京校の生徒と頻繁にチャットをするなど、インターネットを用いた交流が増えた。

(3) 外国語学習への意欲が高まった

 日英バイリンガルのハワイの生徒や韓国の生徒の英語力に刺激を受けたり、製作する作品の英語化や発表会で英語を使うなどの体験を通じて、英語への関心が高まった。ある生徒は、次のように感想を書いている。

 「英語もがんばってもっと自分の伝えたいことが伝えられるように勉強したい。コンピューターも、少しでもうます扱えるように練習したい」

(4) 国際交流への関心が高まる。

 ハワイや韓国からワークショップに招待した海外生をホームステイで引きうけたり、ワークショップで作品の共同製作を行う、あるいは、ホテルで宿泊するなどを通じて、交流が深まった。以下、生徒の感想文

 「考えてみると、ETOとISONで、海外に友達がたった半年の間に15人もできました。しかも、信頼できる友達です。私は、日本人だけではなく、外国人や、外国に住んでいる人の意見をいろいろ聞きたいのです。ISONを続けて行ったら、これからも、この様な機会に巡り合えると思います。」

(5) 異文化理解が深まる

 インターネットによるコミュニケーションや直接交流を通じて、生徒たちは海外との違いを学んでいく。以下は、コンピュータクラブの感想であるが、意外なところで異文化理解が深まることが見られる。

 「特に驚いたことに、ハワイのKentaは”StarCraft”を知っていたんです!(しかもハワイでも大人気のゲームだとか。)O君と3人でネットワークゲームができればよかったのですが、その暇が無くて残念です。そのStarCraftのゲームの戦い方にも日米の文化の違いが見られました。僕たちの戦い方は、1つの工場で少しずつ兵器を生産していって、十分な数がそろってから攻撃しますが、Kentaの戦い方は、工場を何個も造って一度に大量に生産して一気に攻撃に出ます。たかがゲームですが、アメリカの大量生産・大量消費社会という一面がよく見られました。」


5.先生の変容

 過去の実践では、電子メールやテレビ会議などコミュニケーション重視の実践を重ねてきたが、今回のプロジェクトでは、マルチメディアを中心に据えた。そこで利用する機材やソフト、インターネットサービスは、これまでのものとは異なっているため、教師自ら技術習得を行う必要が生まれた。これは、そのような技術がないと生徒に教えられないという面もあるが、もっと大事なことは、自分がある程度マルチメディアになじみがないと、企画を考えられないということである。よい企画をたてれば、あとは、機材がそろうと、すぐに技術力を身につける生徒が主体的に活動を行うようになる。ということで、今回は、ビデオファイルの取りこみと編集を中心に自己学習した。


6.活動状況

 9月23日、11月23日、12月22日〜24日の3回(延べ5日間)の技術講習会とワークショップ、12月12日の名古屋の発表会に参加した以外に、学校では放課後と生徒が自宅で作品製作にあたった。特に技術面の中心的な活動をになったコンピュータクラブの生徒は、Flashの習得に、相当の日数をかけた。

 この生徒は、本校の他の参加生徒たちにFlashを指導することになるが、平成12年1月の時点で次のように、書いている。

 「国際科の人たちもFlashで絵を描くぐらいだったらできるようになったので、次はその絵を動画にする方法を教えようと思っています。」

 作品としては、ISoNのテーマ曲、トップページの画像、Flashアニメーションを用いて作った「トイレの歴史」(飛翔館高校のO君との共同作品)、かぐや姫がある。 

 12月のワークショップでは、自分たちの作品製作以外に、他の学校の教員や生徒のサポートにもあたった。以下は、柴島高等学校の神埼先生のコメントである。生徒の実名などの部分は変えて、引用させていただく。

 「帝塚山泉が丘のY君、O君には特に感謝したい。コンピューター音痴の私は聞きやすいし丁寧に親切に教えてくれるので、いつも頼りにしてました。O君は特に今回英語で話しかけるところをたくさん見かけ、又名古屋の発表の日本語はわかりやすいし、言葉も工夫して面白く、春(E-Trekking Osakaでの集まり)とは違うまったく別人のように成長したところを見るのはよかった。帝塚山の生徒は(12月のワークショップの時)朝3時までがんばって完成させたとのこと。すごい集団。」


7.得られた成果

  「4.生徒の変容」と重複する部分があるが、以下の成果が見られた。


8.今後の課題

 プロジェクトの性格上、短期集中で実践を行ってきたが、これを1年間の学校の行事やカリキュラムとどう有機的に位置づけていくか、クラスや学年全体にどのように広げていくか、技術講習会などで必要な経費をどうまかなっていくか、など残された課題も多い。

 特に、他の先生方の参加や協力がないと、次の学年に成果をつなげていくことができない。ただ、本校では、教員間に情報能力が高まっており、特に、英語科はインターネット先進教科でもあり、プロジェクトの継続実践が能力的には可能である。ただ、カリキュラムの中に位置付けられていないので、他の業務との関連で、教員がどこまで主体的に取り組んでいくことができるかが課題である。

 また、マルチメディアは、まだ、本校でも機材が十分揃っていないし、一般的に機材が高価で、予算面の課題もある。


9.関係機関への要望

 マルチメディアを用いた教育実践を行うにあたり、高速通信回線、機材の充実、(教員・生徒含む)技術習得、製作時間の確保、作品製作のための多様な創造力と教科を超えた協力体制、海外との連絡調整など、様々な業務やニーズがある。本プロジェクトでは、CEC以外に富士通株式会社やウッドランド株式会社、大阪府私学教育工学研究会の人的・資金的援助をえたが、上に挙げた各項目につき、協力を依頼したい。


10.これから取り組む学校へのアドバイス

 端的に言って、教員の情報能力と意欲を高めること、これがすべて。このために、学校としては教員の持ち時間数の調整や出張などの配慮が求められる。意欲ある教員が育てば、現在この分野では、色々な財団や公的機関が助成金を提供しているので、助成金を申請し、機材の充実に充てることも可能となる。


11.おわりに

 来年度は、海外の学校とのマルチメディア作品を通じた交流を、積極的に進めていきたい。


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