国際交流の継続的実践プロジェクトに参加して

榎本隆之 ・ 杉村淳子  早稲田大学高等学院

177-0044 東京都練馬区上石神井3-31-1  03-5991-4151

http://www.waseda.ac.jp/gakuin/index-j.html

 

あらまし

 私たちが国際交流の継続的実践プロジェクトへの参加をはじめてから約4ヶ月が経とうとしている。この間、ネットワーク上でのコミュニケーションのありかた、コミュニティ形成の具体的方法、そしてインターネットを利用した学習環境のデザインを検討してきた。これまでの成果を通じて、今後国際交流を具体的に展開していくための、達成目標、テーマ設定の方法、分散協調環境における連携作業のありかた、意思決定の手法などを確認することができた。また、本校ではこのプロジェクトを課外活動として位置づけているが、今後正規カリキュラムに国際交流プログラムを導入していく際に参考となるいくつかの重要な視点を確認できた。

キーワード: 国際交流 学習環境 分散協調環境 コミュニケーション


Report on CEC International Project

Takayuki Enomoto, Junko Sugimura

Waseda University High School

Abstract: Four month has passed since we have participated in the CEC International Project. So far, we have learned the basic skills on launching out an international project on the Internet such as; communication among the participating students on web crossing, how to select an appropriate theme for international projects, how to set goals of each activity. Our next target is to adopt the skills into the course design of regular school classes.

Keywords: International project, Learning environment, On-line communication


1. 国際交流プロジェクトへの参加経緯


(1)参加の目標

1)国内外の小・中・高等学校との交流のチャンスをつくり実践研究を重ねること。

2)インターネットを利用した国際交流のありかたを探り、問題点を認識すること。

3)参加生徒の情報処理技術・情報倫理のスキルを高めること。

4)活動成果を新しい学習観に基づくカリキュラム作成に導入すること。

 大学付属校としての立場から、今後の教育カリキュラムに資するものとして今回の活動を位置づけている。とくに初等中等教育から高等教育に至る一貫した教育カリキュラムのなかで、今回の成果をどのように取り入れていくかが課題となっている。

 

2.校内のネットワーク環境

 早稲田大学の付属高校であるため、ネットワーク環境は基本的に大学の管理下に置かれている(下図参照)。インターネット利用の環境には恵まれているが、一方で授業形態に応じた柔軟な環境作りが困難であるというデメリットがある。

 早稲田大学とは、専用線で接続。コンピュータ教室 2教室:サーバーマシン2台、クライアントマシン120台、OS:WindowsNT4.0。

 国際交流プロジェクトへの参加に伴い、全普通教室に情報コンセントを開設し、普通教室からインターネット接続できるようになった。

 

3.活動状況

 今回の国際交流プロジェクトは本校の正規カリキュラムのなかに位置づけることができなかったため、課外活動としておこなった。課外活動とはいえ参加した生徒全員がほとんどの作業を自宅でおこない、放課後にミーティングのかたちで集まったのはせいぜい3〜4回程度である。教員を含めた参加者どうしのコミュニケーションはほぼすべてネットワーク上でおこなった。

 このことはむしろ生徒たちにとって、ネットワーク上でのコミュニケーションの難しさを体験できたという意味において有益であった。分散環境におけるコミュニケーションは、通常の対面コミュニケーションとは異なり、相応のマナーとルールが求められる。ネットワーク上での共同作業や意思決定のあり方を、参加生徒のあいだで模索しながら、一定のルールを共有していく過程がみられた。

 活動の内容としては、国際交流の場となるWebページの作成を当面の目標とした。そのコンテンツ作成に向けて、いくつかの方法でリサーチを進めた。おおきく分けて、次の5種類に及んだ。

(1)高等学院メンバーのBBS開設   

図2学院BBS

1)BBSの役割として、メンバー同士のコミュニケーションツールであり、同時に意思決定ツール。そしてアイディアの創出場所。

(2)Webページを作成するための基盤作りとして、以下を設定した。

1)テーマ設定: アニメ・ゲーム・漫画

2)コンテンツの詳細の決定と役割分担の決定

(ア)日本アニメの発達史

(イ)最近のアニメ動向

(ウ)小学生による描画作品の掲載

(エ)漫画に関する二択ゲーム

3)小学生対象アンケート(好きなアニメ)

 アニメ・ゲーム・漫画が、小学生にどのように受容されているかということをテーマに、アンケートを実施。

(3)WEBページ制作

 参加生徒がそれぞれの得意分野や興味に基づいて、自主的に役割を分担。コンテンツ作成のための調査・制作活動を開始。HTML知識の自主学習。

(4) 中間発表会(名古屋)

 約1ヶ月の活動内容を、生徒自らが教育関係者を前に発表する機会を得た。生徒にとって、同じプロジェクトに参加している仲間とオフラインで初めて顔を合わせる機会であり、またプレゼンテーションを体験する機会でもあった。

発表内容一部(図3)

 

 

(5)生徒の共同活動

1) 民話の平易化

昔話の通釈 → 池袋に伝わる民話を易しい表現に改め、低学年の児童にも容易に読み取れる文章に直す。直した作品を、こんどは小学生が絵画作品にテキスト変換していく試みである。

 

4. 学習支援者としての教員と学習者としての生徒の変化


(1)学習支援者の教員の活動

1)東京校第1回ワークショップ開催時に、テーマおよび各校の役割を分担

2)生徒たちの役割内容の理解度を確認し、BBSの開設を提案

3)生徒の自立的役割分担と活動内容を承認

4)BBSの活動内容の確認及びアイディア等の提案

5)活動促進のための動機づけ

6)Webページ内容の確認

7)東京校他校との連絡・調整

8)活動の方向性の修正

(2)学習者としての生徒の活動および変化

 教員が生徒に、課題の実施方法、活動内容及び方向性などの具体的な指示を与えることは一切なかった。そのため、活動当初は生徒達に戸惑いが多く、BBSを通してのコミュニケーションにおいても、指示を待つ質問や活動方法を確認する会話が多く見られた。しかし、そのうち、「何をやってもいいのなら自分たちで自主的に考えなければ、前に進んでいかない」事がわかってきた。しかし、BBS上のコミュニケーションでは、最終的に、誰がどのように、意思決定を行うのかが、問題になる。しかし、これも時間の経過やネットワーク利用の慣れとともに、会話の中から相手の心境を読み取ることができるようになった。その後、自立的に自分の役割や位置づけが決まっていった。それぞれの話題やテーマに応じて、意思決定者が自然に決まっていった。

 このような活動が可能であった原因は、メンバーが7人と小人数の限定された環境であったこと、同じ学校の生徒であったこと、友人同士のメンバーでであったことが考えられる。しかし、相手を十分認知しているにもかかわらず、BBS上で意思決定が可能なレベルに達するには、2ヶ月以上の時間を要した。

 

5.生徒の意見(抄録)

(1)4ヶ月間の活動についての参加の感想。

全員が「参加してよかった」と回答した。

(2)(1)と答えた理由

(3)このプロジェクトに参加して学んだこと

(4)活動を進める上で困ったこと

(5)活動の改善点

(6)参加生徒内での役割分担の決め方について

自立的に、自然に、なんとなく、やりたいものを自分で提案して作っていった。 

(7)その他の意見

 

6. 今後の課題

(1)国際交流の具体的な展開

1)交流相手と適切なテーマの設定が急務。

A)継続するための方策。

  現時点では韓国の大学・高校をターゲットとしている。

B)指導者チャンネルの体制作りが重要。

(2)学校間の協調作業の効率化

1)ネットワーク環境の整備・統一

  指導者が相互に目的・手段を理解し共有することが必要。

2)情報共有化の方策

  WEBページのアップロードが急務。

学習者の自主的な姿勢を尊重し、状況を確認しながら、活動目的・スケジュールを共有することが必要。

3)モチベーションの持続のために

  学習者が、明確な目標(週単位、月単位、学期単位)の設定を自主的にさせていくことが重要。さらに、学習支援者は、目標の達成度を管理していくことが  必要。

 

7.おわりに

 活動を通じて最も困難であったことは、東京校の参加校が、小・中・高にわたっていたため、児童・生徒どうしのコミュニケーションを確立する方法であった。また、ネットワーク環境の学校間格差が大きいため、ネットワークを利用した積極的な交流ができなかったことは残念である。

 今後、文部省等が進めている初等中等学校への情報インフラの早期整備・確立を願うとともに、活動をしていくための環境についてもさらなる支援を期待したい。


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