酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト
実践報告書

広島大学附属東雲中学校


1.本企画に参加した意図

本校が位置する広島市は,人口100万余りの地方都市である。その広島市の中心部からみて本校は東側に位置しており,学校周辺には町工場などが立ち並ぶ「準工業地域」の中に立地している。本校の南側400mには,広島市内で最も交通量が多く,かつ交通渋滞も多い国道2号線が東西方向に走っている。また,本校東側には四季を通して野鳥が多く飛来する「猿猴川」が流れているが,この川をはさんだ対岸には全国でも有数の規模を誇る自動車会社の本社工場が南北数kmにわたって続いている。本校の南側200mには,広島市環境事業局の南工場(可燃物ごみを処理する焼却場)がある。このような環境条件のもとに本校は立地しているため,本校の生徒は工場からとどく煙や臭いを日常的に経験しており,大気汚染に対する興味や関心も高い。今回の酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクトが生徒に自分の生活環境をより深く理解させるための一助になればと考え,本プロジェクトに参加した。

2.プロジェクトの位置づけ

2-1.教育活動の中での位置づけ

    (1)プロジェクトを実施した具体的な教育活動(1)

    1. 理科の授業 (選択理科)
    2. 理科以外の授業
    3. クラブ活動
    4. ホームルーム活動
    5. その他の活動

    (2)測定を行ったのは誰ですか。 (1)

      1. 生徒
      2. 教師
      3. 生徒と教師の共同作業

(3)データの送信は誰が行いましたか。 (1,2)

    1. 生徒
    2. 教師
    3. 生徒と教師の共同作業

2-2.プロジェクトを教育活動の中で実施するとき、ネットワークの具体的な利用場面(2,4)

    1. データの送信
    2. 他校のデータの収集
    3. 他校との交流
    4. 他のホームページを使った資料の収集
    5. その他(         )

2-3.プロジェクトの実施にあたり利用できたネットワークの環境。
該当するものを全て選び、その他のものがある場合は具体的にお書き下さい。(1,2)

      1. ホームページ
      2. 電子メール
      3. 電子掲示板
      4. テレビ電話
      5. チャット
      6. その他

3.実践の経過と指導計画の概要

(酸性雨の調査について)

・4月下旬 選択教科オリエンテーション
測定方法のガイダンス
・5月上旬 測定開始
・6月下旬 中間発表
・9月下旬 結果のまとめ及び反省

(窒素酸化物の調査について)

・10月中旬 選択理科履修生徒の中から測定希望者を募る
測定方法のガイダンス
・10月下旬 測定開始
窒素酸化物について調べる
・ 11月下旬 測定終了
結果のまとめ及び反省

4.授業での実践記録

本校では,毎年第3学年において「選択理科」の授業を履修希望者により実施している。本年度は学年全体の選択教科ガイダンスの後に履修生徒を募集し,最終的に選択理科は21名の希望者で構成されることとなった。

(酸性雨の調査について)

本年度の前期の選択理科では,「科学の方法」について学ぶことを目標に指導計画を立案した。具体的には「酸性雨調査プロジェクト」を含むいくつかの研究テーマを設定し,履修生徒が小グループに分かれてそれぞれ学習活動を展開した。酸性雨の調査については,身近な自然環境の調査を研究するグループが参加することとなり,生徒4名が降雨ごとにデータの収集や統計処理,ホームページへのデータ登録作業などを行った。生徒は,初期の段階では雨水の測定やデータの登録作業などに難しさを感じており,作業時間もかなりかかっていたが,回を重ねるにつれて時間も短縮され,またデータの増加とともに結果を考察することもできるようになった。さらには,天候の条件や降雨の状況から測定結果を予測したりすることも可能になった。測定は降雨のたびに行うため,昼休みや放課後に理科室に集まって測定をしなければならないことがほとんどであったが,どの生徒も意欲的に取り組むことができていた。また,他の地域の結果と比較しながら考察するとともに,他の学校の測定日時や測定回数を見て,自分たちもがんばろうと励みにしていたようである。これらの結果は,6月末に開催された本校の教育研究会の公開授業において,生徒により一部が発表された。このような発表の場を設けることも生徒達の自信につながったと考えている。

(窒素酸化物の調査について)

10月中旬,新たに窒素酸化物の調査を開始することとなり,選択理科を履修している生徒の中から測定の希望者を募った。その中から10名を選び,学校内や通学路で測定場所を話し合いで決定し,測定を開始した。測定場所は次の10箇所である。

  1. 交通量の多い道路
  2. 交通量の少ない道路
  3. 学校内の植物の多いところ
  4. 職員室の中
  5. 交通量の少ない道路
  6. 道路と学校にはさまれた緑地
  7. 道路脇の公園
  8. 交通量の少ない学校の正門
  9. 交通量の少ない道路
  10. 交通量の多い道路

本校では月曜日に選択理科の授業が行われるため,生徒は月曜日に容器を持ち帰り,火曜日の登校時に設置,水曜日の登校時に回収,午前中の休憩時間に指示薬による調査を行った。データの送信については生徒が行う時間の確保が難しかったため,教師が行った。

また,生徒個々の後期の選択理科における課題が決定し,既に取り組みを始めていたため,特別に時間を設けることは難しかったが,測定と並行して窒素酸化物について本やインターネットを使って調べた。

測定をすべて終了したあと,結果をまとめるとともに測定の反省を行った。

5.実践を終えて

(1) 実践で得られた成果

生徒は,酸性雨の原因やその問題について,これまで社会科の授業や国語科の説明文の教材を通して比較的よく知っていた。しかしながら,このことを身近なこととして考えるまでには至らず,このプロジェクトに参加するまで自分たちの生活とはかかわりがうすいと感じていたようである。今回の雨水を測定する活動を通して,生徒達は自分が住んでいる地域に酸性雨が降っていることを実感するとともに,「これから自分たちは何をしなければいけないのか」と,地球環境の諸問題について考えるきっかけになっていた。また,窒素酸化物の調査についての生徒の感想には「NOXやSOXといった言葉について詳しく知ることができてよかった」「交通量が多い道路の方が教室より絶対にすごく高いと思っていたが,反対の結果が出てとてもびっくりした」といったものが多く挙げられていた。測定を実際に行うことにより,生徒たちは酸性雨,や大気汚染に対して関心を高め,もっと詳しく調べてみようという意欲をもつことができた。

さらには,プロジェクトのホームページを通じて多くの学生が全国で同じ調査を行っていることや,自分の調べた結果が発信されていることを知ることも,生徒一人ひとりの調査に対する意欲を高めることができたと考える。昼休みや放課後などの時間にたびたびホームページを調べている生徒達の姿は印象的であった。

(2) 反省・課題

(酸性雨)

プロジェクト参加も3年になるため,ほとんど課題はなかった。例年のことであるが,酸性雨分取器の自動開口装置の破損が相次ぎ,調査を中断せざるを得ない期間が数回あった。

(窒素酸化物)

測定場所について,必ず測定しなくてはならない4カ所の通知が遅れたため,すでに決まっていた測定場所を変更することとなり,測定開始当初,同じ場所を複数調査するなど少し混乱が見られた。

あらかじめ決めた10箇所すべての場所について,測定をすることができなかった。その理由としては,設置した容器が回収時に紛失してしまっていたことが最も多かった。

学校の休業日などの都合により,24時間後の容器の回収が難しかったり,容器の設置後天気予報がはずれて,雨が降ったりしたことがあった。

NOX調査薬は一回の測定ごとに二人一組で使用したが,ろ紙に調査薬が達しにくかったため,最初の生徒がたくさん使いすぎ,もう一人の生徒の測定ができなかったことが何度かあった。

ろ紙の呈色が見えにくく,比色表と比較して結果を判断するのが難しいという意見があった。

(3)今後の実践にあたってのワンポイントアドバイス

測定容器の数と,調査薬の数を同じにするとともに,調査薬の測定容器に調査薬を入れる作業が簡単になるように工夫があるとよい。

生徒が必ず測定ができる日程や環境を整える必要がある。

選択理科,総合的な学習などに積極的に取り入れるとよい。

(4)このプロジェクト実施にあたって利用した資料・ホームページ等


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