1.3 調査のまとめ

苗村 憲司(慶応義塾大学環境情報学部

1.3.1 教育用レイティングシステムの必要性とその効果的な実施方法

 総務庁が最近実施した青少年とテレビ、ゲーム等に係る暴力性に関する調査によれば、テレビやゲームの暴力シーンに接する時間の長い子どもほど、暴力性、非行化、暴力に対する許容度が高く、暴力被害への共感が低いという傾向がみられたという。

 テレビ、ゲーム等に限らずインターネット上の情報の中にも、児童・生徒の教育にとって役に立たないばかりなくむしろ有害となる恐れのあるものもある。いわゆる「教育上不適切な情報」である。しかし、インターネット上の情報の発信について法的な規制を行うことについては国民のコンセンサス(同意)が得えられていないので、教育現場において教育上不適切な情報を遮断するためのフィルタリング技術の導入が必要となる。

 教育実践の効果的な実施という観点からみると、最適なフィルタリングは、校種、学年、科目、教育方法等によって異なる。あらかじめ複数のカテゴリの各々について情報の内容を評価して複数のレベルのいずれかに格付け(レイティング)しておき、教師がその環境に応じて、各カテゴリ毎に適切なレベルを指定して情報を選択する方式を導入することが望ましい。インターネットの教育利用のモデルを設定し、そのモデルに対応して教育上不適切な情報の種類と不適切な度合いを調査し、教育用レイティング基準およびレベルの推奨案を定めることが必要と考える。推奨レベルは、フィルタリングソフトのデフォールト値等としてあらかじめ組み込んでおき、教師が必要に応じて書きかえることができるようにしておくことが望ましい。

 PICS(Platform for Internet Content Selection)は、レイティング情報を広く活用するという目的に適した標準的な構文仕様である。

 PICSを用いたフィルタリングシステムを利用する際、第一の課題は、教師がその環境に応じて、どのような基準に基づいてレイティングをすべきか、である。この点でニューメディア開発協会(NMDA)のSafetyOnlineは、米国のRSACiを基にして第5のカテゴリ「その他」を追加したレイティング基準を定めており、これに従って膨大なWWWコンテンツを対象とするレイティングを行った結果をラベルデータベースとして提供しており、SafetyOnlineの活用は教育実践上効果的な1つの方法といえる。

 第二の課題は、フィルタリングソフトを実行させるコンピュータを、クライアントにするか、サーバにするかである。長短あるが、サーバの方が適用分野が広い効果的な方法といえる。

1.3.2 教育用レイティングシステムのためのサーバ型フィルタリングソフト(SFS)の実用性と効果

 平成10年度のワーキンググループでは、NMDAによって開発されたサーバ型フィルタリングソフト(SFS)を用い、教育用レイティング基準およびレベルの推奨案を提案した。

 平成11年度は、この要求に対応してサーバ型フィルタリングソフト(SFS)を用いて小・中・高等学校でレイティングシステムの運用評価した。結果、インターネット上の教育上不適切な情報を排除するためのレイティングとフィルタリングの方式について実用性を確認することができた。特に、パソコンでフィルタリングを行う場合に比較して、サーバ型フィルタリングでは画面に表示される速度が格段に改善されるなどの効果が得られた。

 サーバの設置についても、一台のSFSに対して単一プロファイルを使用しSFSにプロキシ機能を持たせる条件で、校内プロキシサーバの下流にSFSを設置する場合には、利用速度を高速化する事ができるなどの効果が得られた。

 また、授業科目および昼休み、放課後などの時間帯で、フィルタリングの設定を変えることが可能となったことなど、効果が確認できた。

 現在、新潟県でもSFSをつかった大規模な実用が始まっている。今後各学校固有の最適なレイティング基準を確立しこれに基づくレイティングを推進することにより、教育用レイティングシステムとして運用する環境が整備されることが期待できる。

1.3.3 教育用レイティングシステムの課題と展望

(1)当面の課題

 当面の課題の第1は、SFSの性能向上である。現在のSFSは、javaで開発されたjigsawプロキシサーバによって機能しているので、他の言語で開発されるものほど処理速度が伸びないと考えられている。一般的には20台程度が快適を保証できる範囲と考えられている。これからの学校教育では、校内LANが利用環境の前提となるため、少なくとも40台以上、多い場合は数100台が同時稼動することになる。このようなことから、負荷分散をするとしても1台あたりの処理速度の向上が改善の第1と考えられる。

 この他にも、SafetyOnlineの効果的なミラーサイト設置、爆発的に増大するWWWコンテンツを対象とする教育的観点らみた継続的なレイティング(格付け)作業や、教育用レイティングシステム全体の高速化などが課題として残されている。

 また、本年度作成した「教育用フィルタリングシステム手引書」の普及と、本手引書を活用したSFS導入の推進も当面の課題として残されている。

(2)中長期的課題

 今後の課題の第1は、レイティング基準の国際標準化への対処である。米国のレイティング基準RSACiと、欧州のINCOREプロジェクトを基にして、新たに設立されたICRA(Internet Content Rating Association)が実質的な国際標準化活動を進めているので、日本からも積極的な提案を行う必要がある。また、総合的学習や英語等の教科学習・語学研修でのインターネット利用を始め、外国製のコンテンツを学校教育に利用する機会は増大することが予想されるので、レイティング基準は国際標準に整合したものを用いることが重要である。

 第2に、「インターネット上のコンテンツはすべてレイティングの対象とする」ことを原則とし、施策を推進することが極めて重要である。そのためには、コンテンツを提供する者が自ら教育上不適切な情報のレイティングまたはラベリングを行って、HTMLヘッダーの中にラベルを埋め込む「セルフレイティング」または「セルフレラベリング」を促進することが望ましい。特に、学校教育のために作成したコンテンツに教師自らラベルを付すことは比較的容易であり、必要に応じて書きかえることもできる。教育関係者の相互利益のためにもなるので、ぜひとも推進すべきであろう。

 第3は、本年度ワーキンググループの討論の中で提案された課題である。今年度までに有効性が確認できた「教育上不適切な情報」のフィルタリングと、「教育上有益な情報」の抽出を共存させる仕組みを今後作ることが望ましいという提言である。

 一方の教育上不適切な情報のフィルタリングに関連しては、インターネットの教育利用のモデルを設定し、そのモデルに対応して教育上不適切な情報の種類と不適切な度合いを調査し、教育用レイティング基準およびレベルの推奨案を定めることが必要である。推奨レベルは、フィルタリングソフトのデフォールト値等としてあらかじめ組み込んでおき、教師が必要に応じて書きかえることができるようにしておくことが望ましい。

 他方、「教育上有益な情報」の抽出に関連して、2メガビットの携帯端末時代到来をにらみ、学校教材として「有益な情報」も提供できるレイティングシステムと、安全管理、情報セキュリテイ、「教育上不適切な情報」を遮断するレイティングシステムとを共存させる仕組み作りの調査研究が大切で、両者共存した学校ネットワーク利用マニュアルとシステムの研究開発が望まれる。


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