2章 校内LANの機能

2.1 校内LANの諸形態

2.1.1 校内LANの主な種類と諸形態

 校内LANと呼ばれるものには、数台のコンピュータを接続したきわめて小規模のものから、全ての教室に情報コンセントを持つような大規模なものまで想定される。以下にその諸形態について説明する。なお、ここではディスク共有やプリンタ共有のために作られるピアツーピアの小規模LANは除くこととする。

*校内LANイメージ図:学校内の情報化と教育ネットワーク(文部省、情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けてより http://www.monbu.go.jp/singi/chosa/00000301/image1.html

(1)教室内LAN

 比較的最近にPC教室が整備された場合には同時にLANが用意され、ディスク共有やプリンタ共有が行われているケースが多い。LAN対応型の教育支援システムではLANを経由して課題提出やファイルの配布を行うことができるものもある。また、生徒機の画面を教卓側のPCに表示したり、お手本となる先生の画面を生徒機に表示できるようなシステムもある。ここで、注意しなければならない点はTCP/IPが利用できるかどうかであり、独自プロトコルによってこのような機能を実現し、かつ他のプロトコルが利用できないような場合には教室内のPCでネットワーク機能、とりわけインターネットのサービスを利用できない場合があるので構築時には注意を要する。

 教室内のLANは教室内集線用ハブからスター型に結線されるのが一般的で、このハブにインターネットアクセスのためのルータを接続すれば、教室内のPCからインターネットへのアクセスが可能となる。ルータは後述のアクセス回線の種類によってルータを介して接続することになる。

 授業での一斉利用を考慮すると、校内側にコンテンツをキャッシュするサーバが必要となる。キャッシュサーバは、クライアントPCからのリクエストを中継し、取得したコンテンツ(テキストファイルや画像ファイルなど)をディスク上に蓄積すると同時にクライアントPCへ応答する機能をもつものである。後から同じコンテンツへのアクセスがあった場合には、インターネット側へのアクセスを行わず、ディスクにあるコンテンツを応答することになるので、低速なネットワークで有効である。通常、プロキシ(代理)サーバのキャッシュ機能が使われることが多いので、単にプロキシサーバと呼ばれることもある。インターネットアクセスの回線が十分に高速であればキャッシュ機能は不要であるように思われがちであるが、同一のURLへ同時にアクセスが発生するような、授業内での一斉利用の場合には、目的のサーバへの負担を考えれば利用は必須である。通常のプロキシサーバはCGIやSSIを含むhtmllファイルのキャッシュをおこなわない。これは、アクセス毎に内容が変更される可能性があるためである。通信費を押さえるためにISDNを利用して必要に応じて間欠接続する場合には、これらの内容であっても強制的にキャッシュしてしまわなければ、回線費用の抑制効果が低い。

 すでに教室LANがあれば、適切なルータとキャッシュサーバで校内LANをインターネット接続することができる。

(2)教室と職員室のLAN

 教室内LANの発展系としてよく見られるケースが教室から職員室までケーブルを延長するケースである。基本的には、教室内のハブから職員室までケーブルを増設し、職員室内に設置するハブに収容すればよい。教室とほぼ同様の利用環境となるので授業準備に用いたり、教室に設置されているプリンタを利用したり、職員室から電子メールの送受をおこなったりすることが可能となる。職員室の他、ネットワークで図書室に延長することで放課後の利用環境を提供している学校もある。基本的な技術は同じであるが、ここで注意しなければならないことは、職員室内にネットワークがあると成績 処理等の校務処理にもネットワークを利用できる点である。単純にコンピュータ教室からネットワークを延長するだけの設計では、職員室内でピアツーピアのファイル共有を行うと教室からのアクセスも可能となる。パスワードセキュリティを設定してもファイルやフォルダの存在は明らかになってしまうの で注意を要する。

 業務系の作業を行うネットワークは物理的に切り離すと同時にルータを用いて相互に接続するという方法を取る。ルータが高価であればPC-UNIX等で簡単に同様の機能を実現することもできる。

(3)大規模な校内LAN

 PC教室での利用の延長として各教室や特別教室などでのネットワーク利用が想定される。PCを常設することができない場合でも情報コンセントを用意しておき、授業の内容に従ってPCを移動したり、ノート型のPCで利用することが可能となる。オープンスペースに常設PCを用意したり、体育館に情報コンセントを整備することで活用方法の自由度は飛躍的に向上する。

 全ての教室に情報コンセントを整備する場合には、ネットワークの構成方法に工夫が必要となる。また、情報コンセントのセキュリティ面の配慮も必要となる。しっかりとした設計方針に基づいて基本的なネットワーク構成を決めることが重要である。このレベルのネットワークを構築するためには、教育委員会との連携や中長期の方針との整合性を保つことが重要となるので、基本的な検討段階から協調が必要となる。学校内ではまず「どのような目的」で使いたいのかというニーズを明確するすることが重要である。

 基本的なネットワーク構成ができていれば、校舎の構造にもよるが、校内の教員だけでも計画的にケーブリングすることも可能な場合がある。地域内の教員が相互に協力してケーブリングをおこなったり、ボランティア団体の協力によってネットワーク整備が行われる事例もある。

2.1.2 ネットワークの物理的構成要素

 一般的に校内LANはEthernetと呼ばれる規格が利用されることが多い。ネットワークの物理的な規格としてはLocakTalkやTokenRing,FDDIなどがあるが、これらを校内LANで用いることは現在ではまずない。Ethernetは装置間のデータ転送手順を決める規格の一つで、いくつかの種類のケーブルによって実現される。OSIのネットワーク参照モデルでは、ケーブルの種類の部分を物理層と呼び、データ転送規約をデータリンク層と呼び、ネットワークの理解を容易にしている。

 広く普及している10MbpsのEthernetで用いられるケーブル規格には10BASE-5, 10BASE-2, 10BASE-Tがあり10BASE-Tは手軽な非シールドのより対(UTP)線で構成される。光ケーブルを用いるものには10BASE-FLがある。最近主流になりつつある100Mbpsの規格には、UTPでは100BASE-TX、光ケーブルでは100BASE-FXがで構成されるFastEthernetと100VG-AnyLANという規格がある。後 述のネットディなどで広く使われる規格はUTPケーブルの100BASE-TXでこの規格であれば10Mbpsでも100Mbpsで利用することができる。10Mbps用のカテゴリー3と呼ばれる規格のケーブルでも利用できる100VG-AnyLANはQoSに対応できる100Mbps規格として注目されたが一般的ではない。また 最近では基幹部分にGigaBit Ethernetを採用する事例も見受けられ始めている。1000BASE-T規格ではカテゴリー5のUTPの全ての対を利用して1Gbpsの転送速度を得ることができる。以下にネットワークの構成要素について簡単にまとめる。

(1)UTPケーブル

 ネットワークを構成する基本要素の1つがケーブルである。前述のようにケーブルには品質によりいくつかのカテゴリーに分けられる。これから構築するのであればカテゴリー5を用いて構築することになる。予算が十分あり施工業者によって配線することが可能であれば、集中管理方式により配線を行う方法がよい。これは、電話交換機室のようにネットワーク機器室を用意し、そこから完全にスター型で配線するものである。数箇所配線のための中継点を確保し、そこまでを高速の光ケーブルで配線する方法もある。機器室や中継点にはパッチパネルを設置する。この方法の利点はケーブルの管理が容易であり、将来のネットワーク変更にも柔軟に対応できる。VLAN機能を持つスイッチングハブ(後述)を利用すれば、学年毎のLANを教室が分散配置されていたとしても容易に構成することができる。欠点は全体のケーブル長が長くなる点とパッチパネルを用意するため全体のコストが高くなるということである。

 十分な予算が得られない場合には、機器を設置場所間を単一のケーブル(余裕があれば複数本入れてスイッチングハブのトランク機能で広帯域を確保するという手もある)で配線し、場所毎にハブを設置するという方法も取られる(学校の場合にはこの方法の方が多い)。きわめて予算が無い場合には、UTPケーブルであれば数名で空き時間を利用して構築したという事例も多く、比較的容易に構築できる。後述のネットディ方式でも質の高いネットワークの構築が可能である(予算が無いからボランティアでというのはあまりに短絡的でそれ以上に得るものが大きいと判断できる場合のみ選択可である)。UTPケーブルを使わない方法としては、既存のテレビ共聴アンテナを転送媒体として使う製品もある。これを使えば、通線工事無しにアンテナケーブルが届いている全ての教室に情報コンセントを容易に設置することができる。また、赤外線や無線を使う製品もあるので、防火壁の貫通が困難な場 合やエリアスペース内のパソコンへの接続の際には有効である。

(2)ハブ

 ネットワークの形態としては、ハブと呼ばれる中継機能を持った集線装置を中心に各端末までスター型に配線するのがごく標準的である。1台のハブには通常4ポート程度から24ポートのコンセントが付いており、これにパソコンやプリンタを接続することになる。当然1台のハブでは全ての機器を収 容することは難しいので、複数のハブを接続するが、接続の方法としてはカスケード接続と専用のスタッカブルハブとスタックケーブルを用いたスタック接続がある。カスケードする場合にはハブを4段以 上接続してはならない。つまり、PC等どの装置からも4つのハブ以上を経由して別のPCやホストなどに接続するように構成してはならない。新規にネットワークを構成するならば、教室の情報コンセントに更に1台のハブを増設することを想定して設計すべきである。ハブは単に電気信号を中継するだけの装置で帯域を全体で共有する利用となる。このため、シェアードハブと呼ばれることもある。また、SNMP(ネットワークを管理するためのプロトコル)に対応したり、特定の物理アドレス(MACアドレス)のみ接続を許すといった機能を持つハブもある。そのようなハブをインテリジェントハブと呼ぶ。インテリジェントハブではハブ自身がIPアドレスを持つため、情報コンセント側に何もついていない状態でも、その装置までの経路の動作確認やハブ自身の動作確認を簡単なネットワーク管理コマンドで行ったり、SNMPで知ることができて便利である。

 また、最近では100Mbpsのシェアードハブも10Mbpsのハブと同程度で購入できるようになってきた。100Mbpsのシェアードハブにはクラス1とクラス2があり、内部遅延の問題で、クラス2のシェアードハブをスタックする場合には2段205mの制限を受ける。

 ハブ同士を接続する場合は距離制限があるので、行事などで校内LANを臨時に延長する場合など留意しておかないと思わぬトラブルとなる。

(3)スイッチングハブ

 最近ではスイッチングハブと呼ばれるタイプのハブの低価格化が目立つ。スイッチとは転送先の装置の物理アドレスを解析し、その装置が接続されているポートに直接パケットを送信する一種の交換機で、接続されている機器全体で10Mbpsや100Mbpsを共有する従来型のハブと異なり、高速通 信に向く。特に、関係無いポートには不要なパケットを送信しないため、トラフィックの低減とネットワーク全体の帯域確保のために利用されることが多い。シェアードハブのように電気的に信号の転送を行うのではなく、受信したパケットをバッファして送信ポートへ転送するため、異なる速度やメディアでの通信が可能となる。また送受信を同時に行うことができるため全2重通信が可能となり、処理速度の向上につながる。従来型の10Mbpsとの通信が可能な100/10Mbps自動速度認識のスイッチングハブが便利である。機能の高いものは、ボート毎に異なるLANとして構成するバーチャルLAN(VLAN)機能を持ち1台の装置でまったく異なるLANを複数構成することもできる。また、SNMP(ネットワーク管理用のプロトコル)にも対応していてポート単位の状態の監視やトラフィック統計の採取が可能なものもある。また、特定のポートを他のポートにミラー出力する機能もあり、トラフィックの採取に有効である。しかしながら、最近の廉価な10/100Mbps対応のスイッチングハブにはこのような機能はついていないので、購入時には目的に応じて選択する必要がある。なお、ハブとスイッチングハブは混在して用いることがででる。通常は基幹側(木構造で言えば根の方)をスイッチングハブで構成し、リーフ側(枝側)をシェアードハブで構成する。予算が許せば全てをスイッチ構成するとセキュリティ面での効 果を期待することができる。

(4)ルータ

 ルータはWANとLANまたはLANとLANを接続するために用いられる装置でネットワーク層の情報を元にパケットの転送を行う。WANとLANを接続するルータをリモートルータ、LANとLANを接続するルータをローカルルータと呼ぶ。TCP/IPのネットワークではIPアドレスをもとに転送を行う。低速な ISDNや128Kbps程度までの専用線に対応するルータは低価格でかつ高性能のもの入手可能であるが、256Kbps以上から1.5Mbps程度の接続に対応するルータは比較的高額となる。ローカルルータは更に高価であるが、最近では価格を押さえたSOHOや学校向けのローカルルータも登場しつつある。

 ルータの主な機能は経路制御であり、送り先アドレスに基づいて配送先経路を決定してパケットを転送する。配送先の経路表をルーティングテーブルと呼ぶ。経路制御の方法には、経路を交換して経路テーブルを維持する動的経路制御と、設定により決められた経路を選択する静的経路制御がある。多くても数個のネットワークで構成される校内LANの場合には静的経路制御を採用するとよい。 これは、不要なトラフィックを減らすためでもあるし、安全性のためでもある。

(5)その他の機器

 その他、ネットワークを構成する機器としては必須ではないが、無停電電源装置やファイアウォール、コンテンツフィルタリング装置などがある。

2.1.3 ネットワークの論理的資源

(1)IPアドレス

 インターネットのようにTCP/IPのネットワークでは、全てのホストにIPアドレスが必要となる。IPアドレスはネットワークアドレス部とホスト部に別れおり、ネットワーク部の長さはサブネットマスクによって示される。210.158.96.1 というアドレスは、255.255.255.0というネットマスクの場合、210.158.96がネットワ ーク部で、1がホスト部である。ネットワークアドレスはホスト部が全て0のアドレスで示す。これをネットマスクと併記するのは煩雑なので、これを210.158.96.0/24のように表記する。/24の24はマスクされるビットの左側からの個数を示す。従って/24は通常の1クラスCの空間を示し、256個のIPアドレス(実際にはネットワークアドレスとブロードキャストアドレスが消化されるので254台のホストを接続で きる)を示すことになる。同様に、/26は1Cを4分割したアドレス空間となり、/28は16分割したアドレス空間となる。/28では16個のIPアドレス(実際には14台のホストを接続できる)で/29では8個 のIPアドレスを示すことになる。

 IPアドレスには、インターネット上での到達性が確保されるグローバルアドレスとインターネット上で 経路制御されないプライベートアドレスがある。校内LANを外部へ接続させる必要の無い場合にはプライベートアドレスを使えばよい。しかし、サーバを運用したり、直接インターネットへ接続しなければ 利用できないアプリケーションがある場合にはグローバルアドレスの割当てを受ける必要がある。なお、プライベートアドレスの範囲は以下の通りである。

10.0.0.0   10.255.255.255
172.16.0.0   172.31.255.255
192.168.0.0   192.168.255.255

 通常IPアドレスは申請に基づきプロバイダーより、プロバイダーがJPNICより委任を受けているIPアドレス空間から再割当てをJPNICに代行して行う。これはある程度の規模のプロバイダーにJPNICから委託されている委任業務に基づいて行われるもので、規模の小さなプロバイダーでは一定範囲のアドレスしか割り当てなかったり、動的にIPアドレスを接続時に割り当てることろもある。従って、プロバイダーを選択する場合には十分注意する必要がある。接続台数やグローバルアドレスでなければ利用できないアプリケーションを必要な個数をきちんと算出し、アドレスを申請することは重要である。十分なアドレスが得られない場合には、プライベートアドレスを個々のホスト(パソコン)に付け、インターネットへ出る部分でアドレス変換を行う必要がある。これをNATと呼ぶ。NATを使うと利用できなくなるアプリケーションも多い。例えば、後述のVPNの機能などはNATを使う空間では適用されないものがある。

 学校などには/29や/30の細かいアドレスの割当てしか行われないことも多いが、必要個数や構成するネットワーク数に基づいて申請することで/26や/25の割当てを受けることもできる。必要以上のアドレスの割当てを受けることは慎まねばならないが、必要数が得られないと、余分な設備投資や高度な技術が必要になることもまた事実である。従って、基本設計にあたっては、教育センターやネットワークのボランティアに相談することも重要である。ちなみに、100校プロジェクトで接続していた学校の多くは/24のネットワークを利用していた。

(2)ドメイン名

 基本的にTCP/IPのネットワークではIPアドレスによって通信を行うが、数字列のアドレスでは使う側の人間にとっては事実上利用できないに等しい。そこで、名前に対応付けるわけだが、インターネットではこれを階層構造で管理するようになっている。実際の通信の際には名前をIPアドレスに変換できるデータベースがあればよいわけで、IPアドレスに変換して通信を行う。この仕掛けをDNS(ドメインネームサービス)と呼ぶ。DNSは階層構造になっており、それぞれの階層を管理するサーバが用意されている。

 学校の場合にはhoge.ed.jpという形式の名前が申請によって割り当てられる。hogeの部分は学校を識別する文字列で、すでに利用されていたり予約されていたりすると利用することはできない。このドメイン名もプロバイダーを経由してJPNICへ申請することになる。JPNICへ直接申請することもできるが、直接行うと1件2万円の申請料が発生する。通常、プロバイダーではこの経費より安くサービスしている。

 ドメイン名として、「教育委員会が用いるネットワーク」を申請することもできる。例えば、kashiwa.ed.jpは柏市教育委員会が用いるネットワークとして登録されているため、このサブドメインを設定しても、その管理は柏市教育委員会の責任で行うものであるため費用はかからない(もちろんアウトソーシング等していればかかる)。dai1-e.kashiwa.ed.jp(柏市立第1小学校)もdai2-j.kashiwa.ed.jp(柏市立第2中学校)も無料ということになる。ドメイン名は電子メールアドレスにも用いられるし、ホームページのURLとしても利用されることを考えると重要な項目である。その管理・維持を考えて教育委員会などで戦略を持って管理方針(もちろん管理しないという方針でもよい)をたてるのが望ましい。

(3)DNSサーバ

 DNSでは名前からIPアドレスを検索することを正引き。IPアドレスから名前を引くことを逆引きという。これを自前で管理することができれば、任意の名称を追加したり、サブドメインを作ったりすることを自サイトの運用方針に基づいて行うことが可能となる。IPアドレス、ドメイン名、そして上記の処理を行うことができれば立派な自律ネットワークとなる。DNSサーバは通常はUNIX上で動作させるが、Windows用のプログラムもある。ただ、学校によってはDNSの設定は手に余る場合もある。教育委員会レベルの支援やボランティアへの相談も必要となる。質の高いプロバイダーの場合には、DNSの設定方法がマニュアルとして配布される場合もあるし、代行をおこなってくれるところもある。ただし、代行の場合には有償となるのが一般的である。

 なお、/24より小さなネットワークの場合には直接IPアドレスのデータベースを管理することができない。プロバイダーの指示に従って、データベースを構成する必要がある。

2.1.4 アップリンク(アクセス)回線の種類と特徴

 校内LANと上位ネットワークを接続する部分をアップリンク等と呼ぶことがある。学校から直接ISP(インターネットサービスプロバイダー)へ接続する場合もあるし、教育センターなどの地域拠点を中継してISPに接続する場合もある。学校からインターネットへ接続するために必要な回線を指す。アクセス回線には、ISDNや専用回線、xDSL,CATV、衛星WLLや無線などの種類がある。割り当てられる予算やアクセス回線のサービスエリアを勘案してアクセス回線を決定することになる。Webページへ のアクセスが中心であれば、速度非対称型のネットワークが比較的低価格で高速の利用が可能であるが、テレビ電話型の双方向性を持つアプリケーションの利用を考えている場合には、双方向の速度が同一のアクセス回線を選択した方がよい。一般に中学校より小学校の方が回線帯域が必要となることも勘案しておく必要がある。

*高速回線のイメージ図:高速回線一覧(郵政省、学校における複合アクセス網活用型インターネットに関する研究開発より)
http://www.mpt.go.jp/whatsnew/school/kenkyuu/access_line.html#l-1

 

(1)ISDN

 ISDNは回線経費を押さえたい場合に選択される。校内に整備されているFAX用の回線をISDNに切り替えて用いる場合や、外線電話をISDNに切り替え、FAXとネットワーク接続兼用などとして使うケースが見られる。ISDN用ターミナルアダプタ(TA)を用いて1台のPCを接続したり、そのPCにLANカードを増設して複数台のPCを接続する形態もあるが、過渡的な利用形態と見るべきで、実用的な 校内LANのアップリンク回線とはなり得ない。通常はISDNルータを用いて必要な場合にのみLAN間を接続する方法で間欠LAN接続と呼ばれることもある。

 間欠接続が求められる理由は、主に回線経費を抑制する目的であるが、セキュリティ上の問題からこれを採用する例もある。回線経費を抑制するためには、必要なインターネットアクセスの際に自動的に発呼してリンクを確立するわけであるが、設定を誤ると不要な発呼を繰り返し、膨大な通信費が発生する場合もある。また、インターネットへ向けて情報を発信したり、専用のメールサーバなどの運用は困難となる。これらを実現するためには、ホスティングサービスと呼ばれるプロバイダーサーバのレンタルが必要となったり、一定時間毎にメールの転送を行うための技術が必要になる。また、地区センターなどからリモートで設定支援を行うことが通常できない。従って、ISDNを使ってLAN間接続を行う場合には十分な技術的蓄積が必要となり、トータルコストを考えれば決して安い選択とはならないことに留意しなければならない。しかしながらISDN定額サービスなど、より安価な接続サービスが登場してきていることを勘案すると、当面ISDNによる校内LAN接続方式を選択する学校は多いと思われる。

(2)専用回線

 NTTや電力系通信業者が提供するディジタル専用回線を使う接続方式。これに対応するプロバイダーへ接続したり、拠点となる教育センターなどへの足回り線として利用される。定額で、最も安いもので64Kbpsの場合月額28,000円程度となる。通常のインターネット接続のようにTCP/IPのみの利用でよい場合は、ルータによっては圧縮が可能であるため64Kbpsの専用線でもWebアクセスであれば384Kbps程度のパフォーマンスを得ることができる。ISDNのように呼を行わないため複数地点を選択的に接続できるわけではないので、バックアップ回線を持つことはできない。教育センターなどでは、地域内の学校を束ね回線多重化サービスにより1回線だけセンターに引き込むという利用も可能である。ただし、安価なサービスでは回線多重化サービスを利用できない地域もあるので注意が必要である。また、プロバイダーによっては学校向けの専用線サービスもある。一定のセキュリティと支援が受けられることを考えれば有効な選択である。

 専用線は、技術的にはISDNルータと同程度の技術を要求されるが、比較的枯れた技術であるため安定的に動作すると考えてよい。また、その管理ノウハウもこなれているので、運用負担は低い。

(3)xDSL (x Digital Subscriber Line)

 xDSLはADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)やHDSL(High data rate Digital SubscriberLine)、 VDSL(Very High Speed Digital Subscriber Line)などの技術を総称して呼ぶ言葉で、加入者電話回線(Subscriber Line)を使って高速ディジタル転送を行う技術の総称である。当初は、電話局と加入者宅にすでに引かれているアナログ電話用の1対の銅線を使って、高速なデータ通信を行なうために開発されたものがADSL技術であるが、その後、用途や最大転送レートなどに応じていくつかの派生的な技術が生まれた。これらを総称してxDSLと呼ぶ。ここでは実際にサービスが始まっているADSLについて述べておく。  

 ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)は、銅線の加入者電話回線(Subscriber Line)を利用して、数Mbpsから十数Mbpsの高速データ通信を可能にする通信方式で、90年代始めにアメリカで開発された。加入回線の銅線(2芯)を使って高速データ通信を行なえるため、個人やSOHOユーザーからインターネットアクセス回線として最近注目されている。基本的な技術は、現在のアナログ電話回線では3.4KHzまでの音声帯域しか利用しないのに対して、ADSLではそれよりも高い周波数帯域まで使うことで、高速通信を可能にしている。電話局と加入者宅を結ぶ加入者線の両端にADSLモデムという装置を取り付け、このモデム間(電話局と加入者宅間)での高速なデータ通信を実現する。欠点としては、距離が長くなるにつれ、減衰やノイズの影響などによって最大転送レートが下がるため、通常は電話局から数kmまでの範囲でしか利用できない。銅線を使えばよいわけであるので、現在始まっている商用サービスでは、地域内の有線放送のケーブルを用いて音声帯域とは別の部分で利用を提供しているサービスもある。

 ADSLはAsymmetricが示す通り、非対称型の通信方式である。非対称とは、通信速度が通信方向によって異なることを意味し、インターネット側を基点に見た場合、下り方向が最大12Mbps程度で、逆に上り方向が最大2Mbps程度のデータ転送が可能となる。廉価な製品では下り数Mbps、上り数100Kbpsとなる。

 個人の利用やSOHOのような小規模LANの場合の、一般的なインターネット利用では、通常下り方向の転送量が圧倒的に多い。このため、高速な足回り回線として注目を集めている。しかし、電話局が介在する環境では通信業者がこのサービスを行わなければ、通常のユーザでは利用することができない。なお、CATVによるIP接続の場合、多くの加入者が1本のケーブルを共有して利用することになるため、シェアードハブのように、同時に複数の通信が発生すると、各ユーザーあたりの実質的な転送レートは極端に下がることがある。これに対してADSLの場合は通常1対1で接続されているので、速度低下はおこらないことになる。

 地域内でxDSLのサービスが利用できる場合には、校内LANのアクセス回線として利用可能である。しかしながら現状では全国どこでも使えるわけではないことと、xDSLによって接続を提供するプロバイダーの上位接続回線の速度にも十分注意を払っておく必要がある。

(4)CATVインターネット

 CATVインターネットはCATVケーブル網を用いたIPネットワークである。一般的にCATVインターネットは、CATV用に敷設されている光ファイバや同軸ケーブル網を使ってインターネットへ接続を行なうネットワークシステムを指す。基本的に常時接続型のネットワークサービスとして提供されるため、家庭や学校から安価なインターネットへの常時接続方法として注目されている。ただし、通常CATV局は域内に1局しかないため、このサービスを受けられる地域は限定されることになる。また、CATV局があっても局内設備の関係でインターネット接続のような双方向通信サービスできない場合もある。さらに、ケーブリングの方式によっては集合住宅では利用できないケースもある。CATVでは、局から各家庭までコンテンツを配信するために光ファイバや同軸ケーブルが敷設されている。これらのケーブルとケーブルモデムと呼ばれる装置を使うことで、CATV局と家庭間で高速なデータ通信を行なうことができる。ケーブルモデムは、映像配信等に使われていない周波数帯域を用い、高速なデータ通信を行なうことができる。通常ケーブルモデムにはイーサネットのポートが付いており、家庭側のPCをイーサネット経由で直接接続することになる。

 学校で用いる場合にはLAN間接続となるためローカルルータを用意することになる。一般的な商 用CATVインターネットサービスでは、ケーブルモデムはCATV会社が配置し、利用料金に含まれるので学校が直接購入することはない。校内LANを接続する場合のように、ユーザ側にLANを接続する場合にはルータなどの機器が必要となり、IPアドレスが固定的に割り当てられない場合ではLAN間 接続する場合は技術を要する。また、その場合には独自にサーバを運用することができない。

 一般的にCATVインターネットでは下り方向(CATV局から家庭方向)が速い非対称のネットワークとなっている。下り(CATV局から家庭)で最大30Mbps程度、上り(家庭からCATV局)で最大1Mbps程度の転送能力を持つ。上りと下りで速度が異なるのは、Web中心の利用に見られるようにインターネット側から家庭側へ送られる情報の方が多いことへの配慮である。ただし、通常CATVでは1本の同軸ケーブルを数百世帯で共有しているため、全員が同時にインターネットへアクセスを行なうと実質的な転送速度はこれよりもかなり低くなる可能性があり、サービスによっては速度が制限されたりベストエフォートの形で提供されたりする。一般的にCATV域内での通信は上記の能力が示すように高速であるが、CATV局からインターネットへの接続回線が十分でない場合も多い。選択にあたっては十分考慮する必要がある。校内LANでの利用を考えると、安価なCATVインターネットは利用価値が高い。通常のCATV局は家庭向けのサービスを行っているため、トラフィックはちょうど学校のそれと逆転したパターンを示し夜間の利用が多い。学校のネットワークでは相当量のトラフィックが昼間発生するが、夜間の利用はほとんどない。CATV局が地域に根ざした活動をしてくれる場合には、学校向けのサービスを提供してくれる可能性もある。実際にサービスが設定されていなかったり、料金表に記載がない場合にでも、地域内にCATV局がある場合には相談してみる価値はある。域内での高速性とCATVが地域内での展開を行うことを考えれば、地域内の拠点までをCATV網で整備するという方法には無理が無いように思われる。教育委員会が運用するような地域内の教育ネットワークとしての足回り回線としての価値も高い。実際そのように運用されているネットワークもある。ただし、ベストエフォート型のCATVサービスの場合、IPアドレスが固定されなかったり、速度保証がなかったりすると校内LANを接続する際に障害が多い。事前にCATV局側の技術者を含めた交渉が必要であ る。

(5)衛星インターネット

 衛星インターネットは、インターネットアクセスの上り回線は従来通りの地上経路を使うが、下りに衛星回線を利用して大容量のデータを転送する接続方式である。この衛星インターネットサービスを利用するためには、衛星インターネットサービス事業者と契約するほか、上り接続のためにプロバイダーと契約してしなければならない。衛星インターネットの特徴は、数百kbpsから数十Mbps程度までの伝送が可能な高速性と、ほぼ全国どこでもカバーできる広域性と同時に一斉に送信による同報性である。1999年より個人向けサービスが開始されると同時に、文部省・郵政省の事業である、「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」でも利用が開始され注目された。学校での衛星インターネット接続方式では、Webアクセスを専用のプロキシーサーバが中継して衛星インターネットプロバイダーへ送る。この時、本来のアクセス先をパケット内に埋め込み、通常IP通信として衛星プロバイダーへ送られる。衛星プロバイダーでは、このパケットを復元して本来のアクセス先からコンテンツを転送し、衛星を経由して送信する。衛星からの送信速度は40Mbps程度であるが、これは1ユーザが占有できるものではなく、ユーザ全体で共有する帯域となる。転送速度については1校あたり1Mbps程度で制限がかけられる。衛星から送信される情報は暗号化され、プロキシー毎の固有のキーを付けて送られる。プロキシーサーバは自分あてのパケットを復号し、最初にリクエストのあった校内のクライアントPCへ転送する仕掛けである。

 この方法でマルチメディアの受信といった大量のデータの受信には向くが、双方向での交流学習といった利用には向かないし、技術的に対応が困難である。商用の衛星インターネットサービスに双方向性を確保したサービスもあるが、現状では非常に高額で教育委員会レベルで購入できる範囲を超える。

 校内LANの利用がWebのみ、またはWeb中心という場合は衛星インターネットは比較的安価であるが、上り方向のアクセスのために更にプロバイダーに加入しなければならないことを考えると利点は少ない。

(6)WLL

 WLL(Wireless Local Loop)は加入者系無線アクセスシステムを指し、ノード点から家庭や学校までを無線によって大容量で接続するサービスである。ラストワンマイル問題の切り札とも言われている技術である。まもなく実用の商用サービスが開始され、2001年までには全国展開されるサービスもあるという。ノード点までは光ケーブルで接続され、ノード点から家庭や学校内まで準ミリ波帯やミリ波帯を用いた無線設備で接続される。ネットワーク構成からはCATVとほぼ同じような形態となる。料金や速度などに注目したい。

 無線LANということでは、実用の製品も多い。例えば教育センターなどがインターネット接続している場合、短距離であれば無線LANの技術を使って校内LANを教育センターなどの拠点へ接続することが可能である。赤外線・レーザ・無線を用いて見通しであれば数Mbps程度の速度を得ることができる製品も多い。商用の回線費用と無線LANの導入コストを勘案する必要がある。なお、無線装置によっては無線従事者免許と無線局の免許が必要となる場合があるので注意を要する。

2.2 校内LANの機能

2.2.1 LANの活用と対応する機能

 LANを用いることで情報資源の共有が可能になる。更にインターネットへ接続することにより、情報検索、情報発信なども可能となる。校内LANが持つ機能は教育の応用や支援であり、教育方法全体の改善が期待できる。同時に、共同作業が円滑に行えることを考えれば、教員の校務の支援機能も併せ持つことになる。以下に主なLANの利用方法について述べる。

(1)電子メール

 電子メールはメッセージを電子的に相手に送信するもので、即時性や同報性、ある程度の機密性を持つ通信サービスである。最大の特徴は、電話のように受信者側の都合を配慮ができない半ば強制的コミュニケーション手段と異なり、送り手は受け手の都合を気にすること無く送信可能であり、受け手は自分の都合のよいときに受信できるという点である。また、送られてくるメッセージの再利用が可能であるという点も特徴である。

 メーリングリストと呼ばれるグループアドレスへ送信することで、同一のメッセージを複数(例えば教員全員とか理科の先生グループ全員というように)のリストメンバーへ同時に送信できる点である。

 一般に電子メールを利用するためには、電子メールサーバが必要になる。校内LANでの活用を考えれば校内に電子メールサーバが必要になる。インターネットとの接続がISDNによる間欠接続の場合には工夫が必要となり、運用に技術を要する。常時接続型のアクセス回線を利用する場合には比較的容易に運用することができる。安価に性能の高いサーバを構築するのであればPC-UNIXを利用することになる。電子メールサーバは24時間稼動して着信した電子メールを貯えておく。利用者は電子メールサーバにアクセスして自分宛てのメールを取り出して読むことになる。送信時には、このサーバに向けて送信すれば宛先アドレスを解析して受け手のサーバへ送り出されることになる。電子メールサーバはこのようにメールの中継を行う機能を持つため、設定を誤ると不正中継を許し俗にスパムとよばれる不当に送り付けられる電子メールの中継サーバとして外部から悪用されることになる。また、通常の電子メールのセキュリティは決して高いものではなく、ハガキレベルの機密性を持つ通信手段であることを理解して使う必要がある。

 校内で利用する場合の問題点としては、多数のユーザ(児童・生徒・教員)が不特定のPCを使うことを勘案しなければならない。これについては多くの先駆的利用例があるので、先進校事例などを参考にするとよい。

(2)WWW

 WWWは情報検索のためのツールとしてはもっとも手軽なアプリケーションである。非常にポピュラーであるためにインターネットの代名詞になっている程で、中にはWWWがインターネットだと思っている混乱したユーザもいる。このため、WWW(ホームページと呼ばれたりもする)を参照できればそれでよい、と考える教育委員会も無いわけではなく、ダイアルアップ接続可能なPCとモデムを措置してインターネット接続完了となってしまう例もある。

 すでに述べたが、WWWを利用するためにはブラウザが動作するPCがあればよいことになる。また教室等での一斉利用を考えればキャッシュサーバを整備すればよい。一方、WWWはユーザが手軽に情報発信ツールとして利用できる点でも優れている。インターネットへ常時接続しているのであれば自前のサーバを用意するだけで学校自身のホームページを開設することができる。また、その内容も随時更新することが可能となる。常時接続していない場合には、プロバイダー側のレンタルサーバを借りるか、教育委員会などが設置する共同利用のサーバ上に独自ドメインでホームページを開設可能である。前者の場合には利用料金の問題があるし、後者の場合には運用に若干の技術を要する。

 校内にWWWサーバがあれば、校内に限定した環境での情報共有ツールとしても威力を発揮する。この場合注意しなければならない点は、外部からアクセスを制御できることが前提となる。仮に誤った設定をしてもルータ部分で制御して外部から参照できなような工夫が必要となる。不用意に用意した内部用のサーバを他校からアクセスすることができたという笑えない話はよく聞く。しかし、十分にセキュリティに配慮されている校内向けサーバは教育利用で効果は大きい。PC用のWWWサーバやPC-UNIXを用いれば手軽に校内用サーバを構築することができる。

(3)ストリーム系アプリケーション

 交流学習のツールとしてテレビ電話型のアプリケーションが用いられることが多い。ISDNを用いた専用の装置もあるが、回線経費を考えるとインターネットを経由して利用する方が担当者の心理的担も少ない。Cu-SeeMeやNetMeetingなどのアプリケーションを使えば回線速度にもよるが遠隔地の他の学校と交流を行う際のコミュニケーションツールとなる。パソコンにビデオキャプチャーボードとCCDカメラと音源を追加すれば構成可能である。アプリケーションによってはビデオキャプチャボードを選ぶ必要がある。一対一で利用する場合には他には特別な装置は必要ない。

 待ち合わせ用のサーバがあるが、校内で用意してもあまり意味がなく、上位側のネットワーク、特に交信相手との間に位置するものを利用するとよい。県レベルの情報センターに置かれているようなものは回線速度が速ければ使い手がある。

(4)その他サービスと機能

 その他のネットワークサービスととしてはプリンタ共有がある。プリンタを共有するためにはPCサーバやPC-UNIXのサーバがあればよい。プリンタにはプリントサーバと呼ばれるネットワークとプリンタのインターフェースを接続する装置を接続して利用する。また、パソコンに直結しているプリンタをネットワーク経由で共有して利用するこもとできるが、プリンタを接続しているパソコンのパフォーマンスの低下は否めない。ファイルを共有するためには、PCサーバやUNIXで動作するPC用のディスク共有アプリケーションを利用することができる。ディスクを共有できるようにしておくことで、どのパソコンからでも同一のファイルへアクセスすることができるため共同作業には欠かせない。ホワイトボードと呼ばれるツールもある。これは共通する画面上にお互いメッセージや絵を描き込むもので、互いに同じ画像を表示するので共同作業に利用できる。高速回線が利用できるなら、専用のテレビ会議システムをインターネット越しに利用することも可能である。

 インターネットや校内LAN向けにファイルの蓄積や配布を行うFTPとこれに対応するサーバがあるが、最近ではブラウザを使ってもファイルの配布ができるので、利用者から見えればWWWサーバと同様の機能となる。WWWサーバが利用できる環境ではニーズは低い。

 かつてはNetNewsと呼ばれる電子ニュースが良く使われたが、最近では流量も多く全てのニュースの配信を受けることは困難になってきた。また、NetNewsを運用するには一定の技術と管理負担を要求されるため利用されないケースが多い。プロバイダーや上位ネットワークのニュースサーバを借用できるならそれでよいだろう。ただし、校内や限定された地域内でテキストベースによる情報交換には効果がある。

 校内または学校付近に定点観測カメラを置きインターネットに向けてサービスする事例もある。大学などではコンピュータ教室の映像を公開しているところもある。WWWサーバを内蔵したカメラで連続的に圧縮画像を転送する装置で比較的容易に利用できる。防犯等の問題がなければ(例えば児童の帰宅時刻を特定できるとか)防災などの面でも活用範囲を期待できる。この方法では画像だけであるが、音声を含めたライブ中継用の仕組みもRealsystemを利用すれば構築できる。回線速度が1.5Mbps程度まであれば接続数が制限されているフリーのものでも十分実用となる。サーバを構築するためには、UNIXマシンとエンコーダとしてビデオキャプチャボードと音源ボードをWindowsNTなどに組み込めばよい。多少高額になるが配信サーバを県レベル、市レベルの教育センターで用意できれ活用の範囲は広い。

 NTP(ネットワークタイムプロトコル)サーバと呼ばれる時刻同期のサーバが利用できると、ログの時刻を正確に記録できるので都合がよい。特にセキュリティ的な問題が発生した場合にはログによる追跡は重要となるし、電子メールでコミュニケーションする場合にもPCの時刻同期は便利である。校内にNTPサーバを設置し、上位ネットワークのNTPサーバと同期を取る。校内のクライアントは起動時や一定間隔毎にこのNTPサーバに問い合わせを出して同期を図る。秒単位での正確性は得られる。この方法はISDNによる間欠接続の場合には利用できない。最近では、自身がGPSの電波信号を受信してサーバとなるタイプもあるので、間欠接続の場合でも利用できるがまだ高価である。

2.3 校内LANシステム構築の当面する諸問題

2.3.1 行政面の問題

 学校内のどの場所からでもインターネットを利用できるようにする校内LANの整備は情報教育を推進する上で必須のものであり、ミレニアムプロジェクトの一環をなす「学校情報化による教育立国プロジェクト」によって、20001年度から5カ年計画で約8000校を対象に校内LANを構築する計画が始められる。

 また、同じく2000年度からスタートする教育用パソコンの新整備計画(6カ年)では、1人1台にあたる42台のパソコンに加えて、普通教室に2台ずつと特別教室・校長室などに6台という新整備基準が設けられ、これらのパソコンからインターネットを利用するための校内LANの構築は欠かせないものになりそうである。

 しかし、前者は補助金(補助率は1/2〜1/3)、後者は地方交付税交付金によって予算措置がなされている。地方財政難の中では、いわあゆる補助金の「お迎え予算」の支出は地方財政に新たな負担をかけ、一般財源に組み込まれる地方交付税はこれまでもしばしば見られたように、他の目的に流用されることは十分考えられる。

 しかも、パソコンは単体(スタンドアロン)で使用するものという思い込みが根強く浸透しており、整備計画を立案する地方教育行政も、予算案を審議する地方議会も、校内LANについての理解は乏しいといわざるをえない現状にある。

 他方、学校長に与えられた裁量の範囲は広がり、公立学校であっても学校ごとの個性を打ち出すことが求められている。「地域に開かれた学校」をキーワードに、学校を取り巻く地域住民やボランティアとの連携が進められるようになっている。

 このような中で、単にインフラ整備を目的とするのではなく、地域に開かれた学校へと変わっていくきっかけとして、地域住民やボランティアの協力を得て学校の校内LANの配線工事を実施する試みが現れてきた。それが「ネットデイ」である。

 深刻な財政難は行政(教育委員会)の意識そのものを変えつつある。従来であれば、ネットデイの実施を望む学校があっても、1校だけ突出することを嫌う行政によって「待った」がかけられるか、あるいは「黙認」の形で処理されることが多かった。

 基準台数の整備→インターネット接続→回線の増強→校内LANの構築という行政が固定的に考えてきた整備の順番が崩れ、費用対効果のコストパフォーマンスを考慮しながら、その地域の事情に合わせた整備が進められるようになったことも、そのひとつの現れであろう。たとえば、基準台数を満たしていなくても、限られた台数のパソコンを校内LANで活用している地域も見られる。整備のための整備ではなく、活用のための整備という本来の目的に気づき始めている。

2.3.2 構築ボランティア活動の必要性

 ネットデイはアメリカで生まれた。「配線の日」を決めて、専門の技術を持った企業ボランティアが学校に足を運んでインターネットにつなごう、というひとりの専門技術者の呼びかけに多くの企業が呼応し、1996年3月、カリフォルニア州で初めてネットデイが実施された。ネットデイという言葉も「配線の日」から転じたものだという。

 ネットデイはボランティアによる活動だが、このときホワイトハウスが全面的にバックアップしたことは注目に値する。そのためネットデイの運動はまたたくまに全米を越えて世界に広がっていった。

 クリントン大統領はカリフォルニア州の幼稚園から高校までの25%にあたる2500校をネットデイによってインターネットに接続する構想を発表し、企業をはじめ広く市民の参加を呼びかけた。そのときの演説は次のように述べている。

「政府ができることは目標を設定することで、そこから先を実行するのはあなた方である。教室をインターネットで繋ぐという事業はまさに21世紀に向かっての事業だが、政府は触媒に過ぎず、資金を負担するわけでもないというやり方も、21世紀に向けてのモデルとなるだろう」

ネットデイが「小さな政府」を実現する新しいモデルとして支持されたことは特筆しておきたい。

 わが国ではアメリカの半年後の1996年8月、群馬県前橋市の中学校でボランティアによる自主的な校内LAN配線工事が初めて実施され、以来、各地で草の根のように取り組まれてきた。1999年8月には全国のネットデイ実施団体が集まってネットデイサミットin群馬が開催され、わが国のネットデイの現状と問題点を討議したあと、多くの提言が共同宣言としてまとめられた。

 わが国のネットデイはおおむね次のように取り組まれている

 出発点は、子どもたちのために校内LANの備を願う「教員の意欲」である。それに「保護者の協力」と「ボランティアの支援」が加わって、ネットデイは成り立っている。

 教員や保護者を含む多くのボランティアが配線工事に参加するネットデイでは、ネットワークそのもののデザインはボランティアが担当し、ボランティアの中の専門技術者がリーダーとなって、敷設されるネットワークの品質を損なわないよう注意を払いながら工事が進められる。参加者は配線工事を通してネットワークを身近に感じ、子どもたちのためという達成感を味わうことになる。

 いわば手作りのネットワークである。その構築作業を通して、学校や子どもたちを取り巻く人びとがつながる。ネットデイはそういう構造を持っており、その結びつきの効果を意識した実施企画も試みられている。参加した保護者や地域の人にとっても、自分たちが協力して築き上げた校内LANは、校内清掃やグラウンド整備などの奉仕活動とはまったく異質の達成感を感じさせてくれる。

 しかも、今回の実施例を見てもわかるように、同じ配線工事を業者に依頼した場合に比べると格段に安い。このため「ボランティアは安上がりの工事業者である」という大きな誤解を生むこともあるが、けっしてそうではない。もし参加者の日当やボランティアの持つ専門的な技術力への対価を正規に支払えば、けっして安上がりではないからである。

 また、ネットデイで職員室の各机までLANケーブルが引かれると、自分でノートパソコンなどを購入する教員が相次ぐ。インターネットを簡単に使える環境ができ、さらにまわりで実際に使っている人が増えてくると、高かった敷居も自然に乗り越えられていくようだ。校内LANというそれまでは得体の知れなかったものが誰の目にも見える形になることの効果も厳然と存在している。

 学校情報化を推進するうえでボランティアによる支援が必要であることは、ミレニアムプロジェクトの理念に打ち出された。文部省も有識者を集めた「学校情報化に係るボランティア活用・支援の在り方等に関する懇談会」を開催し、そのための指針を報告書としてまとめている。

2.3.3 ボランティア活動による構築作業の留意点と得られた知見

 校内LAN構築をボランティアの協力を得て実施するための条件を考えてみたい。

 最も重要なことは、学校が校内LAN構築の主体となって、すべての責任を負わなければならない、 ということである。

 学校は、なぜボランティアの協力を得るのか、そしてボランティアに何をしてもらうのかをそれぞれ明確する必要がある。ボランティアの協力を得ることは、かならずしもメリットばかりではなく、デメリットもある。ボランティアは無償の活動であるにしても、ボランティアを迎え入れるためにはコストもかかる。しかし、デメリットを正しく考慮した上で、それらを上まわるメリットが存在しているために、ボランティアの協力を得るということの認識が必要である。

 そして、そのようなボランティアに対する理解は、全教職員が共通して持っておかなければならない。一部の情報教育担当者だけが理解していても、まるでアルバイトに仕事を命じるように応対する教職員がいれば、参加したボランティアに大きな不快感を与えることになる。

 今回の校内LAN構築の実施例の中にも見られたが、学校が主体となることの重要性は繰り返し強調しておきたい。

 その上で、さまざまな配慮が必要になってくる。

 まず、守秘義務の遵守。これはボランティアに求められる義務である。学校には生徒をはじめとする多くの個人情報が集まっているため、ネットワークのデザインや配線工事を通して知りえた情報をいっさい他言しないことの確認があって初めて、学校はボランティアを校内に迎え入れることができる。

 次に、リスクの回避。工事では事故のないよう細心の注意を払い、難工事箇所はスキルを持ったメンバーが担当するなどの配慮が必要なのはもちろんだが、事故が起きたときにそなえて、参加者全員がボランティア保険などに加入しておく必要がある。この保険料は学校が負担するのが望ましい。また、事故が起きた場合の処置や対応(危機管理マニュアル)もボランティアと協議しておくとよいだろう。

 品質の管理も重要な点である。ボランティアだからといって雑な工事が許されるわけはなく、とくにシステムの動作確認や配線したケーブルの品質チェックは厳密におこなわなければならない。

 そして、教員の異動への配慮である。構築した校内LANの配線図、構成、仕様といったものはすべて書類としてまとめ、担当者が変わってもすぐに参照できるようにしておくと、のちのちの混乱を避けることができる。

 これら以外にも細かな事項は数多くあり、学校の事情に合わせて、打ち合わせておく必要がある。そうした細部については、学校ネットワーク適正化委員会によるネットデイ実施マニュアル『学校にLAN入しよう』(NGS、1999)に詳しく紹介されている。

 このように、ネットデイは校内LANの整備において、1つの選択肢となりうるものである。とはいえ、ネットデイサミットin群馬実行委員会によると、わが国でネットデイを実施した学校は全国で100校程度(1999年3月末現在)と見られ*、行政が積極的にボランティアの協力を受け入れている地域はまだ例が少ないことも現実である。

*ネットデイサミット in 群馬実行委員会『ネットデイサミット in 群馬予稿集』(1999)

「校内LANの構築は行政の仕事である」

「1校だけ先行して整備すると不平等を生じる」

 といった古い枠組みにとらわれていることが、その大きな理由のようである。

 本当に行政の仕事なのだろうか。学校がよりよい環境を求めることが、どうして不平等になるのだろうか。

 ネットデイは単に校内LANを構築することが目的ではない。校内LANの構築はほんのきっかけにすぎず、そこから広がっていくであろう新しい学校のあり方こそが重要なのである。参加するボランティアたちもそれを望んでいる。そこにネットデイの意義がある。

 また本当の平等は、「結果」の平等ではなく、「機会」の平等であろう。チャンスは等しくどの学校にも保証されている。そのチャンスを生かすかどうかは学校次第。学校が個性を発揮するためには、そういう機会の平等こそが望まれている。

 最後に、少し長くなるが、ネットデイサミットin群馬共同宣言の中から「関係諸機関への提言」を引用して、この一文を終わりたい。「そこで、サミット関係者からのネットデイに関する関係諸機関への提言として次の各号を掲げたい。

(1)学校は常に開かれた場であってほしい。少なくとも、ネットデイをはじめとする、種々の活動を受け入れる気持ちを持ってほしい。

(2)行政はボランティア活動が契機となって開かれた学校への適切な支援をしてほしい。

(3)企業は、社員が個人としてボランティア活動に参加できるような具体的な方策を示してほしい。

(4)地域社会は、学校が自分たちの生活の場の一部であることを認識して、積極的に関与してほしい。

(5)ボランティアは自分たちの活動の影響と限界を理解した上で、学校現場に本当に必要な支援をしてほしい。

 以上の各号を元に具体的な問題点と提言を以下にまとめる。

ア. ボランティアの行うネットデイは決して、安い配線業者の代わりではない。個々のネットデイ活動の趣旨は、情報化の進展の中で揺れ動く教育現場に対する純粋な技術的な支援が中心であり、行政の財政発動を待つまでの教育の後退を補うだけにすぎない。学校現場では、そのことを十分考慮した受け入れ体制作りを推進すべきである。
イ. しかしながら、長期的な安定した教育環境の実現には、ネットデイ後のサポート体制を如何に確立するかが重要であり、どのようなサポート体制を確立していくかは行政の役割である。特に重要なのは、本来忘れられがちなネットワークや情報機器の保守・管理体制をどのように確立するかであり、具体的には保守・運用面のコストをきちんと反映した予算化を推進することを希望する。
ウ. 個人のボランティア活動と企業内での活動をどのように切り分け、企業側がボランティア活動を個々の社員のキャリアとしてどのように位置付けるかを明確にすべきである。特に、ボランティア休暇の拡充などを含めた、企業がボランティア活動を奨励するシステムの確立が急務である。もちろん、ボランティア活動や地域でのネットデイ活動を財政面や資材面で支援してほしい。
エ. ネットデイのようなボランティア活動では、単に参加して体を動かす人だけでなく、そのようなボランティア活動家を組織化して、一つの目標に向かい意識を高め、目標を達成するための広い視野と統率力を備えたコーディネーション組織を育成することが肝要である.ただしコーディネーション組織は後進の育成を含めた世代交代を促す仕組みが必要である。そのためには、コーディネータ資格のような公的な資格取得も視野に入れたコーディネータの社会的なステータスの確立が重要である。また、世代交代するためにコーディネータの育成、新しいコーディネーション領域の発掘を行う機関の設置が必要である。
オ. 個々のボランティア活動には、活動の内容に見合った適正な規模がある。そのような活動の適性を助言し、ネットデイを含めたボランティア活動の情報交換や人材や資材の調達を支援する組織が不可欠である。今回のサミットの成果として、そのような組織化のための前進として、主催団体を中核とする、ネットデイ推進協議会(仮称)の設立を目指したい。

 以上、ネットデイは学校を身近にし、『学校へ行こう』という勇気を与える出発点であり、そこから、新しい学校教育像を探ることができると信じている。サミットの共同宣言には、単にネットデイのような学校を支援するボランティア活動にどどまらない、広範な提言を含んでいる。今後、これらの提言が現実の活動の中でどのように生かされるかを期待して、共同宣言文を終わる」


 次へ →