3.2 ネットディ形式の校内LAN構築事例 (滋賀大学教育学部附属小学校・中学校)

3.2.1 はじめに

 ボランティアが中心になって学校のネットワーク利用環境の構築を支援する活動を「ネットデイ」呼んでいる。多くのボランティアが参加するネットデイは,学校と地域を結びつける触媒の役目を果たし,学校情報化をきっかけにして,地域に開かれた学校づくりが進むことが期待される。
 この企画では,滋賀大学付属小・中学校の協力を得て,ネットデイを実施するための企画技術(各種コーディネート,ネットデイLANのデザインなど),および施行技術(LAN配線,サーバの設定など)を講習し,さらにそれを踏まえて,実際にネットデイに参加する場を提供し,学校と地域との交流を促進する。

3.2.2 ネットデイサミット'99ワークショップin滋賀・その背景

 1999年4月当時,滋賀大学教育学部附属中学校(以下附属中と略す)では情報教室にパソコンが40台設置されていたが,理科室や技術室等の特別教室,各普通教室にはパソコンは設置されていなかった。附属中では,17年の歳月をかけて,びわ湖学習「BIWAKO TIME」の総合学習を開発し実践を積み上げてきた。「びわ湖を見つめる学習」と「びわ湖から広げる学習」に分け,自然と環境,くらしと文化,郷土の課題など,15の分科会を設定して,1?3年生の異学年交流学習を進めてきた。この学習を支えるためには情報機器の活用とメディアミックスが必要不可欠であった。そこで,附属中では特設メディア学習の時間を設置し,教科学習・総合学習を支える情報教育の実践を行ってきた。
 最近では教員が学年に配布されたノートパソコンを活用するようになってきた。ノートパソコンの活用が進むと,教員は自分でLANケーブルを職員室内に張りめぐらせたり,情報教室から隣の教室へ延長したり,さまざまな努力をしていた。ところが,廊下の壁にそって各教室まで配線しようとしても,防火シャッター等があり,配線は非常に困難に思えて実現できなかった。
 「理科室等の特別教室や普通教室全てに情報コンセントがあれば,今以上にノートパソコンを活用して,びわ湖学習が生徒にとっても教師にとってもやりやすくなるのに」という声が聞かれるようになった。
 附属小学校や附属中学校から毎年,校内LAN整備の要求が大学を通して,文部省に申請していたが,通らなかった。このように学校のニーズは熟しているのに,学習環境・情報環境の整備が進まなかった。
 そのような状況の時,「ネットワークサポートセンターinかんさい」(以下NeS-Kと略す)の釘田氏,三輪氏,中島氏と偶然,別の会合でお会いし,幸運にも協力していただけることとなった。NeS-K(ネスケ)は,関西を中心に約30名のメンバーが集まり,NPO(非営利団体)として,企業・団体・個人からの寄付金や募金活動を通じた学校のインターネット接続,教育用ネットワーク構築の支援(ネットデイ),情報化を進める学校を支援するためのシステムの研究・開発,研修会,講習会の実施,を中心に活動されていた。

3.2.3 ネットディ形式の校内LAN構築に向けて

 教育学部にある教育実践研究指導センター情報教育研究室がコーディネーターとなり,大学事務局に対して,附属小中学校の校内LAN整備の計画書を提出した。解決すべき課題は目的,時間,人,物(金),技術である。

(1)目的

 目的は複数であった。附属小中学校にとっては校内LANを整備することによって,子どもたちの情報環境,ひいては学習環境を豊かにし,今まで総合学習で取り組んできたびわ湖学習,環境学習,国際交流学習をさらに発展深化し,学習成果の発信をしやすくするという目的があった。また,保護者をはじめとするボランティアの皆さんに学校に来ていただき,作業を通じて校内LAN整備作業を通じて教育について語り合うことにより,今まで以上に地域に開かれた学校でありたいという願いもあった。
 教育実践研究指導センターとしては,附属小中学校を会場としてネットデイ形式で校内LAN整備を行うので,ボランティアとして地域の公立・私立学校現職教員に参加していただき,現職教員研修会として校内LAN整備の理論(設計)と実践(施工技術)を研修して,自分の学校での校内LAN整備に役立ててもらうという目的があった。この趣旨を理解していただき滋賀県教育委員会の後援を得た。また,ボランティアとして学生を参加させることにより,校内LAN整備を実際に体験しながら,理論や技術だけでなく,教育や授業について,参加する現職教員や保護者と意見を交換するという目的もあった。

(2)時間(いつ行うのか)

 附属小中学校,教育実践研究指導センター,NeS-Kで実行委員会を組織し,1999年12月18日(土)?19日(日)の一日半で実施することとなった。18日はネットデイサミットワークショップとしてネットワークの基礎知識,校内LANのデザイン,コーディネートの進め方等の研修会を実施し,19日にグループに分かれて各教室までLANケーブルを延長し,情報コンセントを設置する実技研修を実施することとした。

(3)人(誰が行うのか)

 目的でもふれたように今回は複数の目的があった。中心となるのは附属小中学校の教員であり,技術的なサポートはNeS-Kのメンバーの方,ボランティアとしては附属小中学校の保護者,大学生,滋賀県の現職教員の先生方,ホームページや新聞報道等で参加していただく市民である。

(4)物(資金)

 今回はコンピュータ教育開発センター(CEC)のEスクエア・プロジェクトの「校内LANの構築と活用」企画に応募し,採択していただいたので,LANケーブル,ハブ,パイプやモール等の配線にかかわる物品購入資金を援助していただけることとなった。なお,附属小中学校は滋賀大学教育学部情報処理センターと1.5Mbpsの専用線で接続され,サブドメインを一つずつもち,WindowsNTのWebサーバ各1台,メールサーバ各1台を保有しているの
で,今回の校内LANの整備では図書館や理科室,各教室へのLANケーブルの配線と情報コンセントの設置が主目的となった。

(5)技術(施工技術と整備後のサポート)

 今回は校内LANの構築・整備の施工は,附属小中学校の「校内LANを何のためにどのように使いたいのか」の希望を事前に実行委員会で検討した上で,LANのデザインや施工技術は全面的にNeS-Kのメンバーの方にご指導いただいた。
 また,校内LAN構築・整備後のサポートは,基本的には附属小中学校が運営・管理し,サポートは教育実践研究指導センター情報教育研究室が責任をもつこととなった。また,必要に応じてNeS-Kのサポート協力をいただけるので心強い。
 このように,ネットディ形式の校内LAN構築に向けての大学事務局との連絡・相談には目的,時間,人,物(金),技術といった要素を一つ一つ調整,解決していく必要があった。公立学校でも参考になると思われる。

3.2.4 ネットデイ形式の校内LAN構築のデザイン

 ネットデイで構築する校内LANは,地域のボランティアや保護者の方の協力によって行う手作りのネットワークである。LANの施工は大きくプラグケーブル方式と情報コンセント方式の二つの種類に分けられる。プラグケーブル方式でも各教室には情報コンセントを設置する折衷方式も考えられる。経験を持ったボランティアの数,参加者の技術・技量,予算,時間等の条件を考え,目的にあったネットデイLANをデザインする必要がある。どちらの方式でも,性能のよい信頼性のあるケーブルテスタ(LANテスタ)で測定し,成端したケーブルの品質のチェックをしておかねばならない。

(1)プラグケーブル方式でのネットデイ校内LAN

 規模の目安は1学年1クラスの小学校,1学年2クラスの中学校等,小規模な学校で行うネットデイでよく用いられる方式である。経験を持ったボランティアが幹線系のLANケーブルの成端を担当し,それ以外のパッチケーブルは参加者が自作する。
 低コストでできるのが特徴であり,経験を持ったボランティアがコストをカバーする方式といえる。ハブからハブ,あるいはハブからパソコンへ直接ケーブルを引いて接続するのでLANケーブルの両端にRJ-45モジュラープラグ(オスコネクタ)を取り付ける。つまり,LANケーブルとパッチケーブルを区別せず,同じように配線する。モジュラープラグ(オスコネクタ)の成端は,初心者でもできる簡単な作業であるが,反面,ケーブルの品質や信頼性を高めるためにはある程度の熟練を必要とする。よって,幹線系のLANケーブル成端は経験を持ったボランティアが行い,参加者には成端を失敗してもやり直すことのできるパッチケーブルを作ってもらう。
 例えば,職員室のハブまでのケーブルの成端はボランティアが行い,ハブから各パソコンまでのケーブルは参加者が自作するという具合である成端の方法が統一されているため参加者は混乱しない。各教室へ引いたケーブルの処理は,ボランティアがモジュラープラグ(オスコネクタ)を取り付け,パソコンを設置する場所まで長さを残して,取りまとめておく。その場合,ケーブルの曲げやねじれを避けるよう注意する。教室数の少ない小規模な学校ではこの配線方式で十分であるが,将来,本格的な校内LANを専門業者に依頼して敷設する時には,新たに配線し直さねばならない。

(長所)

(短所)

(2)情報コンセント方式でのネットデイ校内LAN

 この方式では,成端は熟練を要しないモジュラージャック(メスコネクタ)を採用し,幹線系のLANケーブルの成端を参加者が行う。当初の配線工事は10教室程度でも,将来の拡張性があるので,教室数の多い大規模な学校に向いている。
 校舎の中心となる教室にパッチパネルとハブを設置する。パッチパネルから各教室へケーブルを引き,各教室側にはモジュラージャック(メスコネクタ)付きの情報コンセントを取り付ける。LANケーブルの両端はモジュラープラグ(オスコネクタ)ではなく,全てRJ-45モジュラージャック(メスコネクタ)で成端するが,各教室に設置した情報コンセントからパソコンへの接続は,両端にRJ-45モジュラープラグ(オスコネクタ)の付いた市販のパッチケーブルを用いる。同様にパッチパネルとハブも市販のパッチケーブルで接続する。つまり,この配線では参加者がモジュラープラグ(オスコネクタ)を成端することはない。
 オスコネクタに比べると,メスコネクタの成端は熟練度の影響を受けることが少なく,品質や信頼性が一定に保たれるため,決められた手順通りに作業すれば初心者でも失敗なく成端できる。部材費がかかるためコストは上がるが,経験を持ったボランティアの数を確保できない場合でも実施することができる。パッチパネルは準備室や印刷室,機械室等児童・生徒が頻繁に入らない部屋を選んで設置する。予算に余裕があれば専用の配線ボックスを壁に取り付け,この中にパッチパネルを収納すると安全である。LANの構成が直感的に分かりにくいので,各ポート(ジャック)にきちんとラベルを貼り,どれがどうつながっているのか分かるようにする必要がある。

(長所)

(短所)

--学校ネットワーク適正化委員会編,ネットデイ実施マニュアル「学校にLAN入しよう」

(株)NGS,1999年??より引用

 以上のようなことを勘案し,今回は附属小・中学校では情報コンセント方式での校内LANの構築・整備を実施した。

3.2節の3.2-7?3.2-13に資料として以下の資料を添付する。
「ネットディで使用した共用校舎,附属小学校タテ系の工事手順書」
「滋賀大学附属小学校・ネットワーク図」
「滋賀大学附属中学校・ネットワーク図」
ネットデイLAN構築後に実施した「ケーブルテスト結果」

3.2.5 校内LAN構築後の附属小中学校

 ネットデイ形式による校内LANの構築・整備を終えて,現在,附属小中学校では理科室や図書室等の特別教室や,全ての普通教室に情報コンセントが設置された。2000年1月に附属小学校の授業を参観させていただいた時,次のような光景が見られた。選ぶ学習(総合的な学習)の授業中,日本におけるエネルギー問題を調べていたグループがあった。最初,図書館で見つけてきた資料集で,「日本での石油の備蓄量の推移」を調べていたが,備蓄量のデータが1994年度のものしか,資料集には掲載されていなかった。そこで,さっと席を立ち上がり,グループで使用していたノートパソコンを黒板の横の情報コンセントにつなぎ,インターネットの検索サービスのページで「石油備蓄量」というキーワードを入力して検索し,「石油連盟」のホームページの統計資料から備蓄日数を検索して,最新の1999年11月の備蓄量を調べていた。そして,今度は自分の席に戻り,石油コンビナートのしくみを百科事典の図解資料で調べだした。このように,児童が本や資料集,百科事典,インターネットでの検索を,それぞれのもつメディアの特徴を使い分け,境目を意識することなく活用する自然な姿があった。インターネットを少しも特別なものと見ていない子どもの姿である。
 情報教室にのみパソコンが設置されていると,教師はややもすると一斉指導型の授業を計画する傾向がある。
「さあ,○○のページを見てみましょう」というようにはじめられる。しかし,情報コンセントを設置した教室では,児童・生徒は必要に応じて使いたい時にネットワークを自由に使い,パソコンを意識することなく,情報を活用して自分の学習活動に利用するようになる。もちろん,そのような学習環境の活用を,うまく児童・生徒に紹介し,指導し,
支援している教員の力量に負うところは多い。
 現在,附属中学校でも各教室等で活用できるよう30台のノートパソコンを大学を通じて文部省に予算申請中である。当面は,各学年に配布されたノートパソコンを活用しながら,各教科の学習はもちろんのこと,びわ湖学習の調べ活動や,教室での学習成果のプレゼンテーション,あるいは学習成果発表のホームページの作成等に活用していく予定である。

3.2.6 ネットディサミット'99ワークショップin滋賀を終えて

 最後に,今回のネットデイ形式の校内LANの構築・整備に多大なご協力をいただいたNeS-Kの今回の施工責任者(棟梁と呼ぶ)の大阪大学大学院人間科学研究科の山城新吾氏に執筆いただいた「ネットデイを終えて」という総括文(3.2-14?3.2-18:http://www.nes-k.gr.jp/~yamasiro/shiga-fu/shiga-fu_rep.pdf)を参照されたい。
【引用文献】
学校ネットワーク適正化委員会編,ネットデイ実施マニュアル 学校にLAN入しよう,
(株)NGS,1999年

■ネットディで使用した共用校舎,附属小学校タテ系の工事手順書

【共通校舎】
 今回のネットデイでは,小学校・中学校だけでなく, 共通校舎3Fにある,サーバ室から,センター分室にもケーブルを引きます。サーバ室の中で,AUI->カテゴリー5の変換を行ってから,廊下の壁面にモールで取り付けて,分室内に引き込みます。
 AUI変換用に,新規にハブを設置します。サーバ室の CenterCOM440からケーブルを出して, 新しく設置する,
MR820TLXもしくは MR820TL(アライドテレシス)に接続,そこから廊下にケーブルを出して,センター分室に引き込みます。 センター分室に,新しくハブ設置が必要な場合,小学校の余ってるのを使います。

【小学校・タテ系統】
 小学校のタテ系統は,次の通りの通線です。 全体配線図・小学校を参照して下さい。 ちょっとややこしいのですが,一番大元の基幹回線は, 1F教官室既設ハブにささっている,10BASE-5のラインです。そこから,複雑に分岐していきますので, 成端したコネクタを,ハブにどう差し込んでいくかを間違えないようにして下さい。

 2F・情報準備室 - 1F・教官室
 既存イエローケーブルの配管に,新たに 2本通します。 情報準備室のハブ - 教官室新規設置ハブ,情報準備室 NT - 教官室既存ハブ,この2つです。メッセンジャーワイヤーを通してから,2本引きます。

 2F・情報準備室 - 1F・家庭科室と保健室
 ここは実は難物で,まず保健室から家庭科室との間を天井経由(ワイヤー通し終了),家庭科室の壁をモール貼り,家庭科室前面パイプスペースに,PS扉左下外の,現在ケーブルの通ってるコンセントから,家庭科室内用のケーブルも含めて引き込んで,既存の旧配線を,メッセンジャー代わりに,上へ引き上げます。

 保健室→→→家庭科室PS外コンセント→PS内赤いボックス→配管で上へ
PS内の赤いボックスに,ケーブルを通すための穴を金属ドリルで開ける作業が必要です。

 2F・情報準備室 - 3F・多目的ホール
 配線済んでます。多目的ホールのパイプスペースをあけると,ケーブルがとぐろ巻いておかれてます。

 2F・理科室2 - 1F・生活科室(ランチルーム)

 2F・理科室2 - 1F・1い前ハブ
 理科2新規設置のハブから,窓側の台の下まで2本ケーブルを引っ張っていって,旧換気扇口(板でふさいであります)から,外に出します。ここは,ホールソーで,穴をあけてしまいます。外壁に設置する CD管は,防水のため,端っこをある程度理科室内へ引き込みます。パネルとのスキマは,シーリング材で埋めて下さい。外に出したケーブルは,外壁に CD管を固定して,その中を通します。渡り廊下の屋根は,十分頑丈なので足場になります。生活科室に入るケーブルは,前方アルミサッシにドリルで穴を開けて,そこから引き込みます。防水のため,ビニルテープ,自己融着テープなどを活用して下さい。1いに入るケーブルは,渡り廊下経由,2は外扉近くに設置してあるCD管に入れます。そして,教室の壁をモールで止めて,1Fの廊下経由,1いのハブに行きます。


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