モバイル実践の取り組みについて

慶應義塾普通部 荒川昭


  1.  はじめに

(1) 学校について

慶應義塾普通部は日吉(横浜市)にある,慶應義塾の男子中学校である。昨年度に百年を迎えた歴史のある学校である。コンピュータ教育については,大学の施設が利用できることもあり,15年前から大学の計算機センターを利用することによりFORTRANによる大型計算機を使った授業を行っている。コンピュータ教室が普通部内にできてからは,コンピュータのプログラミング教育を進めて,FORTRAN,PASCAL,BASICの3つの言語を使う時期もあった。PASCALでは数学のライブラリーが充実していて数学の授業としての利用が多かった。

(1)大学計算センター FORTRANによるプログラミング教育
(2)IBM JX5 FORTRAN,PASCAL,BASICなどのプログラミング教育
ネットワークの利用
(3)富士通FM-TOWNS リテラシー(ワープロ,辞書),教科での利用
(4)NEC PC9821Xa13 インターネットの利用,校内LANなどの利用,
コンピュータ科の授業(word,excel,powerpointなどの利用)

 現在も週に1時間,中学1年,中学2年でのコンピュータの時間での授業,教員は3人体制(専任教員2人,MOTの資格の人1人)などを行っている。

インターネットに関しては100校プロジェクトからの参加である。

(2) インターネットに関するプロジェクト

100校プロジェクトからの参加である。

海外とのメールでの交流,数学多解問題など

インターネットの授業での利用(サーチエンジン,ディベート)

ネチケット,インターネット利用の倫理

商業データベースの教育利用

フィルタリングソフト

バーチャル労作展

デジタルボードを利用した遠隔教育

(普通部での取り組みはhttp://www.kf.keio.ac.jp/100.htmlを参考にしてください。)


  1.  参加の経緯
 100校での参加から様々な取り組みが行われてきており,海外との交流から,様々な授業での活用まで事例が増えていっている。最近の事例を見ていると,遠隔の学校間交流が中心になってきている。

 このように,事例が増えていく中で,2001年度には全校でのインターネット接続が可能になってきて,2005年には各教室からインターネットの利用が可能になってくるわけであるが,もともとのインターネットの良さは何であるかと問い直してみると,いままでは閉じられた環境の教室での授業であったものが,インターネットを利用することによって,大きく変わる利用ができることに意味があると思い,モバイル活用ということを提案した。提案したときの趣旨は次のようなことである。

以下にアイデア,今年度実証できなかったことも含まれる。

○教室という時間,場所を縛られない新しい学校の探求 (携帯端末の利用を含む)

「これまで授業は,教員により黒板とチョークで行われてきていた。新しいインターネットという道具で,どのように授業を変えることができるかの研究」

(1) 携帯端末の機能によるが,アイデアだけ(自分としては,1つに決めないでいろいろな可能性を探りたい)カメラのついたノート型+PHSは植物の観察をカメラでとり,スケッチしたり群落調査をする。グループごとにわかれて別々の課題でアンケートなどを行い,メールやその他で教師の指示を受けながら活動する。
(2) 一斉の座学で利用して,自分の意見をメールで送信 その意見を集計し,(瞬時に)討論やディベートを行う。
(3) 数学の計算や方程式などを解かせて,その解法から,誤答分析などを1人1人個に対応して指導する。様々な解き方を送らせて集計指導する。
(4) (キーボードの入力が不得手な場合,手書きで認識できるとよい。)普段の授業を聞いていて,わからないことや,知りたい資料をインターネット上で入手して最後に皆で発表する。
(5) 一つのことを皆で調べ,様々な調べ方を行い,調査や調べる際の,その情報入手の場面にあった最適な方法を情報活用の方法を学ぶ。図書室(辞書),図書室(百科事典),インターネット(ネットサーフィン),専門家へのメールなどすべてはインターネット上で統合し,情報を共有し最適なアプローチを探る。

 これは総合的な学習としてもよい。課題の設定をクロスカリキュラムにする。など情報機器とインターネットの導入で学校教育がそのように変化するか今回とても行いたい。その中で,さまざまな取り組みを考えたい。

 今回は実証期間が短かったので,来年度に継続して行いたい。


  1.  学校のネットワーク環境
 慶應内のインターネット接続はで1.5Mの専用線接続で,コンピュータはコンピュータ教室に生徒1人1台で50台,校内LANで各準備室とネットワークが組まれていて,インターネットも自由にすることができるようになった。

今回のモバイルのプロジェクトでは貸し出していただいたものは,各2セットで


  1.  生徒の変容
 生徒については機器の貸し出しをおこなった。まず,ノートパソコン,ザウルスなど機器の利用法の確認などをおこなった。生徒と一緒に2時間程度,インターネットにつながるように設定しこれも2時間程度かかった。

プロジェクトに参加した生徒の感想からみてみることにする。

生徒の感想
A君  今回CECからモバイル機材を貸していただきいろいろと使わせて頂きました。

やはり一番頻度が多かったのはメールのやり取りで,主にデジタルカメラで撮った画像の送受信をやり,私自身,ずいぶんと楽しむことができました。他にウエブページでモアソフトを落としたり,(sharpのザウルスですが),数学の課題にインターネットを利用させていただきました。ただし,やはりザウルスはパソコンと違い簡易的なものなので,少々機能の幅が狭かったように思います。

こういったモバイル環境が自宅にあると,なかなか便利なもので,ザウルスだと,ちょっと近所に写真を撮りにいったり,手軽です。ただ,長い目で見たら,やはり家の中で使うことが多かったようです。

情報電子通信の世界もだいぶ身近になったものだなぁと痛感しました。

B君  今回,モバイル通信環境を貸していただいて,一番役に立ったのやはりレポート作成のときだった。家に百科事典等がなくても調べられる点だけではなく,いろいろな情報源からの文章が簡単に手に入るのがよかった。また,その他では友人と容易に連絡できること,さらに普通は入手の難しい外国の新聞を読める,外国の情報が手に入るなどの利点もあった。逆に,欠点としては,まず接続に時間がかかること。ただでさえ,パソコンを起動して,パスワードを入力して,ソフトを立ち上げてという面倒な作業に加えて,夜11時以降はつながりにくかった。たとえ,今後気軽にも持ち運べるようになったとしても,これが改善されないとどうにもならないと思った。その他では,やはり学校で使う場合はある程度規制をしたり,ルールをちゃんと作らなくてはいけないことを感じた。特にルールの方はどこまで何をやっていいのかを明確にしてほしいと思った。全体的にいうとインターネットはかなり便利だと感じた。ただし,それをもっと全面的に導入すればもっと使いやすくなること,それを同時にそれを実際に行うにはまだいろいろな部分での整備が必要だと思った。ありがとうございました。
C君  お正月,荒川先生からの年賀状に「今度モバイルの実験を手伝ってもらうかもしれません。」と書いてありました。「モバイル」という言葉は知っていましたが,詳しく何をやるか知らなかったので少し楽しみにしていました。3学期にはいって荒川先生に正式にやるかどうか聞かれ,引き受けさせていただきました。ある日,先生に呼ばれ,ほかの3年生と僕を含めて3人のメンバーが集まりました。そしてパソコンが貸し出されました。僕が貸し出されたのはシャープの「メビウスノート」でした。僕は家でパソコンはマック(ノートブック型非常に厚い)を使っているのでこれを手にした時はボディの薄さに感動しました。 貸し出された日にプロバイダーの変更で設定を変えましたが,なかなか上手くいかなく,困ったのですが3年生の先輩の助言でつながり,その日からメールを使うことができるようになりました。そして先生や先輩とメールを交換しました。モバイルは普通部周辺で地点を決めて写真を撮り,それをすぐにメールで送る作業や車の中でメールを受信したりしました。最後に僕はこの実験で以前は誰かからメールがきてもすぐに返事を書かず何日かしてから書いていましたが,メールがきたらなるべくすぐに返信するという癖がつきました。しかし,今回はメールの数が少なかったので「やり残してしまった」という感じが残っています。またこの実験をやるならばモバイル実験に参加しているメンバーはもちろん,実験に参加していない友達とも沢山メールのやり取りをしたいと思います。

 どんな使い方をしたいかについて,ほとんど室内,屋内で使用しているケースが多いので,もう少し屋外で使用できたらと思います。(モバイル,「ザウルス」はどこでも使用できる)インターネットの利用(家のパソコンで)はレポートの参考資料,ニュースなどを見るときに使っています。1日15分位の割合でやっています。


  1.  先生の変容
 教員サイドではリテラシーのない教員は生徒とメールすることにより,リテラシーが向上する。また,学校の中で生徒がノートパソコンを持っているのは,教員側でも理解が必要であり,また生徒側でもモバイル機器を持っている生徒の数が少ないので,周りへの配慮が必要である。本格的な運用ができていないので,現時点での変容としては,生徒4対教員1でメールのやり取りをするのは大変であるので,情報を共有するために掲示板を利用した。教員はモバイル機器を持たないので,学校と自宅で必ず2回メールを読み,生徒がかいたメールに対しては返事を遅くならないように送ることを心がけた。

ただし,仕事で帰宅が遅くなってからメールをすると,生徒側は11時ごろからは接続がなかなかできないそうでうまく送受信ができないときもあった。また,生徒はインターネットにとても興味があり,自由に使うと歯止めが利かなくなってしまうので,ある程度の利用になるように学校生活とのバランスを保てるようアドバイスした。

本格的に運用されていくと,いろいろなコンテンツの提供が必要となると思われる。


  1.  活動状況
各学校との打ち合わせ,機器貸し出し設定

(1)機器の貸し出し設定,アカウントの申請niftyでの利用

(2)2000年末に向けてのカウントダウン e-groupsの利用 正月らしい風景のレポート

(3)NTTに変更

(4)モバイルの利用

(5)身近な植物レポート

このうち(2),(5)ついてはデジタルカメラの画像でレポートする。

はじめはプロバイダが決まっていなかったので,niftyにこちらで加入して生徒に使い方に慣れてもらった。現在はOCNのプロバイダに加入していて,設定が行われている。

 今回はe-groupsという無料のメーリングリストで掲示板に登録をしておこなった。このメーリングリストでは参加できる会員を限定できるので,いきなりオープンのインターネットに参加するのではなく,初心者の生徒はクローズな環境の中で,ネチケットを身につけたり,インターネットの使い方に習熟してもらう意味があった。






  1.  得られた成果
 地理のGISでモバイルについての利用がおこなわれた。

生徒とのコミニュケーションがふえた。

生徒のリテラシーが向上し,インターネットを積極的に利用しようとする意欲が増した。

機器を貸し出し,教室外の理科の授業などにも活用できる。

課外活動での報告にも有用である。


  1.  今後の課題
 モバイルとして利用できる機器の数,扱いやすさなどが問題となる。今回,ノートパソコンを希望して,使わせてもらったが,これは生徒側のリテラシーが増えていくとどの時点で,コンピュータによるキーボード入力が苦にならなくなるのかを調べてみたいということもあった。これは,次回への課題となった。

また,11時過ぎるとなかなかつながりにくいというのも,生徒にとっては障害になると考えられる。一度つなぎにいったときにうまくつながらないために,何度もやり直すということは,生徒のモチベーションを下げてしまう。


  1.  関係機関への要望
 モバイル機器の価格,通信料やプロバイダの使用料金などが下がってきて,学校などの教育機関でも有効な事例が多くできてくると,モバイルを持つのが当たり前になってくると思う。また,最近はデスクトップのパソコンは値段が下がってきているが,モバイルに対応している機器は,重量がかなりの問題となるので,ノートパソコンの上位機種になってしまい値段が高価であることや,バッテリーの駆動時間が短いということは問題であり,さらに,多少手荒に扱っても壊れないことや,通信やカメラなどの映像が,高速で簡単に送れる機能などがついている低コストの機器の開発などが期待される。

 また,モバイルについては有効性に期待しているので,積極的に企業の方からも機器の貸し出しや,コンテンツとして有効なものを増やしていく努力が必要である。

家庭ではモバイルの教育利用についての理解と,モバイルを利用して保護者に参加してもらう場面があるような設定ができると思うのでこれからの課題としたい。


  1.  これから取り組む学校へのアドバイス
 インターネットの一番良いところは地域が分散しているところでも,活用できるところである。生徒が自由に活動を行い。それが授業でいかすことが出来るような活動が大切で,それを支援できるような形で考えていくと良い。実際にモバイル活用を行うと,費用も発生するし,生徒に貸し出す機器も高価であるので,その面でのケアも必要になってくる。  また,利用の際にはどのようなことに利用したいかをはっきりさせると有効な利用が行えると考えられる。また,校外活動に対する有効性は十分に示されると思うので,学校独自の行事へのモバイルの利用も考えられる。

モバイルの利用は台数によって

(1)1台 校外学習などでの提示用,ネットミーティングなどの利用でリアルタイムな中継
(2)複数台 教科での課題学習や,教科書を離れた学習などの利用
(3)ひとり1台 いつでもどこでも放課後の学習なども含めて,家庭への連絡なども対応できる

にわかれて利用する形態があると思われる。台数などに応じて,うまく使い分けて各学校の特色を生かして利用されるとよい。また,モバイルを持っている生徒たちが横に連携すると,また新しい展開が生じてくる。


  1.  おわりに

 今回は実際に活動している期間が短く,機器の数が少なく,生徒全員に一斉授業の形態で使うことができなかったが,次年度は授業で使うことを目指して授業実践していきたい。

モバイルでのインターネットの利用こそが,インターネットを特別な場所で使い授業することから,本当にインターネットの良さを生かして自由に必要なときにインターネットを使うという意味で大きな意味をもつと思う。

 また,全員がモバイル機器をもって,自由に校外へ出たり,また授業中に利用するようになるのはまだ先になるかもしれないが,特別なところにいって,インターネットを利用するのではなく,分散環境で自由に使うことにインターネットの未来があると思う。


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