教育現場におけるモバイル活用の実践研究について

参加校の実践事例

神奈川大学附属中高等学校 小林道夫

  1. はじめに
学習活動において、教室を離れた実習、課外活動は全国の学校で実践している内容である。生物での野外観察、地学での地質調査やグループ研究などの授業内での取組みをはじめ、学園祭、体育祭、修学旅行などの学校行事も含めて様々なものがある。それらの活動を支援するツールとしてモバイル機器を活用し、現地で撮影したデジタル画像をパソコンに保存し、サーバに送ったり、遠隔地とのビデオ会議や、インターネット上でのライブ中継を行うことができる。これらの実践を行うことによって、生徒自らが主体的に活動し、より学習効果をあげることができると考える。


図1 モバイル活用の概念図

今回は、学校を離れた学習活動の中で、情報機器を活用した実践がどのように展開できるかを目的に研究を行うこととした。インターネットを中心とした情報技術の発展に伴い、産業界においては、ノート型パソコンをはじめ、携帯電話にも通信機能を持つ情報端末機(モバイル)を室外に持ち出し<いつでも・どこでも・必要な情報を入手・活用・伝達できる>というコンセプトのもとに情報の送受信や処理を実現するシステムの構築が進んでいる。このシステムが教育現場でどのように活用できるか、また活用するための必要な要素は何かの研究を進めることとした。


  1. 参加の経緯
学校教育にモバイル活用の実践を行うにはいくつか解決しなければならない問題がある。

ノートパソコン、携帯端末機、携帯電話などの機材の確保
活動がスムーズに進むようにサポートできる人が必要
実践研究を行う交流校
画像を転送するためのストリーミングサーバやWeb掲示板
打ち合わせ会議費、書籍代、ソフト購入費、携帯電話代などの予算

 コンピュータやインターネット設備の整備がなされ、実践を行いたい教師、生徒がいてもこのような問題を解決しない限り、実践を行うことは難しいといえる。

 そこで本校でも、Eスクエア・プロジェクトの先進企画である「教育現場におけるモバイル活用の実践研究」に参加することとした。


  1. 学校のネットワーク環境
96年にインターネット専用回線を導入し、各種サーバを設置するとともにすべての生徒用コンピュータからインターネットが利用できるようになった。97年に学校全館の校内LANを構築し、専用回線を光ファイバーに切り替え1.5Mbpsの速度が得られる環境になり、98年からATM回線に切り替え、回線速度が3Mbpsとなりインフラ整備がほぼ完成した。今年度より、生徒用コンピュータとしてiMacを48台導入した。コンピュータ教室は7:30?18:00まで開放しており、生徒が自由に使えるようになっている。朝早く登校してコンピュータ教室に駆け込んだり、休み時間、お昼休み時間に授業で制作している作品を作り込んだり、インターネットで情報を集めるといったことがごくごく自然に行われている。コンピュータ教室はいつも生徒で溢れ、コンピュータの順番待ちが日常の光景となっている。
図2 ネットワーク概略図


  1. 生徒の変容
このように、コンピュータ、インターネット環境が整備されたことによって、生徒の行動に大きな変化が見られた。生徒は学校で生活する時間のほとんどは授業で過ごすことになるが、休み時間は教室で友人との会話を楽しんだり、体育館でバスケットをしたり、グラウンドでサッカー、野球をするというのが主なものであった。しかし、4月から学校行事以外の平常授業を行っている日では、次のような割合いでコンピュータ教室に生徒が集まるようになった。
7:30 - 8:20 平均10名程度、課題提出前は30名程度
12:30 - 13:00 平均40名程度 課題提出前は60名程度
15:30 - 18:00 平均40名程度 課題提出前は60名程度

図3 コンピュータ教室
 コンピュータ教室に集まる生徒は特定の生徒ではなく、本校に在籍する生徒のほとんどが、それぞれ目的を持ってコンピュータ、インターネットを活用するために集まってくるような状態である。


  1. 実践研究校と使用機器
この実践研究は、神奈川大学附属中高等学校、名古屋市立西陵商業高等学校、帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校、大阪府立盲学校、慶応大学普通部の5校の中高等学校が参加した。各研究校には、(財)コンピュータ教育開発センターより、ノート型パソコン、 MPEG4対応デジタルカメラ、PDA端末機ザウルス、携帯電話、PHSが2台ずつ貸し出された。ノート型パソコン、PDA端末機ザウルスをPCカードを介してPHSと接続することによって64bpsの転送速度でインターネットに接続することができる。12月に各学校に機器の貸し出しが行われ、教師連絡用メーリングリストとWWWサーバの運用がはじまり、 実践がスタートした。


  1. 活動状況
(1) モバイル実践Webサイト(http://www.mobile.seiryo.ed.jp/
名古屋市立西陵商業高等学校に「CEC Mobile Project」のWebサイトを設置し、5校の実践の様子や取り組みの報告を行うことした。今後、Real Network 社のReal Serverを設置し、ライブ中継などのビデオ画像をストリーミング配信できるようにする予定である。
図4 モバイル実践Webサイト

(2) 掲示板(http://210.235.197.3/mobile/
参加している生徒が自らモバイル機器を使って、テキストとともに、デジタル画像を添付し、インターネット上の掲示板に送信できるものである。12月末にこの掲示板が運用されると同時に、多くの書き込みが寄せられた。生徒たちの冬休みの様子や、各家庭でのおせち料理の紹介、スキー教室での様子など、様々であったが、単なるメールの交換だけでなく自分で撮影した画像があることによって、相手の顔が見え交流がより体的になった。
図5 掲示板の書き込み


  1. 得られた成果
(1) 志賀高原スキー場とのNetMeeting
1月初旬に本校の中学2年生が長野県志賀高原へスキー教室にでかけた。事前に引率教師、生徒と打ち合わせを行い、ノート型パソコン、携帯電話、PHS、デジタルカメラを持ち込み、昼間のスキー教室での様子をデジタルカメラで撮影し、その様子とともに宿舎からスキー場の様子をレポートしてもらうことになった。使用ソフトはマイクロソフト社のNetMeeting を使用し、2日間にわたって午後8時30分から30分程度行った。スキー場と高校生が自宅からと筆者が自宅から入り、3地点で行った。志賀高原ではPHSの転送速度が32kbpsまでしかとれず心配であったが、画像とともに音声も問題なく送受信できた。スキー場から生徒たちの元気な様子やスキー場の様子が報告され、30分の予定が1時間程度まで延長して行った。
図6 スキー教室とのNetMeeting

(2) さっぽろ雪まつり会場からNetMeetingとライブ中継

札幌の新川高校が中心なって行っている「Sapporo Snow Project」に本校の中学生、高校生が参加し、さっぽろ雪まつり会場で制作する雪像のデザインをネット上で話しあって決定し、1月29日〜31日まで実際に制作に参加した。沖縄、神奈川、北海道の小中高校生が40名以上集まり、みんなで協力しながら制作した。3日間雪像制作を行うとともに、この様子をモバイル機器を使ってインターネット上でライブ中継を行い、本校の保護者会場や福井県の研修会場とNetMeetingを使って中継を行った。

ライブ中継は、ノートパソコンにカメラを接続し、動画像を撮影しながらエンコードを行うというものである。それをPHS64kbpsでインタネットに接続し、本校にあるReal Serverに送ることによって、世界中にビデオ画像と音声を配信することができた。


図7Real Serverでのライブ中継

また、本校の保護者会場とNetMeetingを使っての中継では、雪まつり会場から生徒2名が参加し、横浜では200名の保護者が120インチスクリーンに写し出される雪まつり会場の画面を見るというものであった。保護者からは大きな拍手と歓声をいただき、子供たちの様子が直接伝わったと好評を得ることができた。


図8 保護者会場とのNetMeeting


  1. おわりに
今年度は時間的な余裕もなく、授業での実践ができなかったが、学校行事や生徒たちの課外活動での実践を重ねることができた。しかし、その裏では、生徒と教師がともにモバイル機器の設定や、ライブ中継、NetMeetingを行う前に何度も実験を行い、そのつど問題点を洗い出し、解決して準備を進めていった。まさにトライ&エラーの連続であった。

今年の大きな成果は、他校の研究校との共同プロジェクトが実現できたことと、本校の教員の中でこの実践に興味を持ち、次年度も協力して行う計画が持てた点である。こうした教師同士の連携がとれたことによって教科の枠を越えた、継続的な取り組みが実践できると思う。次年度は年間を通した授業での実践とともに学校行事での活用を行って行きたいと考えている。


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