モバイルプロジェクト

帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校 辻 陽一

 

1.はじめに

 本稿は平成11年度のCECモバイルプロジェクトについての報告書である。本プロジェクト実施のためモバイル関連機材一式が送られてきたのは平成11年12月で、平成12年2月20日の報告書締め切り日まで、二ヶ月しかなかった。このため、実践としては限られたものであったが、モバイルの導入で、今後の展開について、色々考えることができた。本報告書では、プロジェクト期間中の実践にとどまらず、今後の方向についても述べたい。

 

2.日常業務に利用

 報告者は、モバイルを日常的に利用している。企画書作成、メールチェック、ウェブへのアップロードやデータの取得などを移動中に行うことが多い。提供されている64kbpsという速度は、上記インターネットサービスの利用環境としては、一応、満足できるものである。

 ただ、問題点としては、後に述べる電波の問題以外に、接続のための機材が多すぎることであろう。通信するには最低ノートパソコン、PHS、モデムカード、接続ケーブルを接続しなくてはいけない。実際には、これ以外に予備バッテリー、デジタルカメラなどのカメラ類なども用途によって必要で、一つでも忘れると使えないことになる。また機材を接続し、パソコンの電源を入れ、実際に使えるまでに時間がかかりすぎるのも、モバイルという外出先での利用ということを考えると、現状の環境は、まだまだ完成度が低い。

 

3.生徒が沖縄からインターネット

 本校国際科1年生Oが本プロジェクトで提供されている機材一式を持って平成11年12月30日から沖縄に家族旅行にでかけた。沖縄から画像添付のメールを3回、送ってきた。画像は沖縄の観光スポットのものだったので、とりあえず、メール本文のみウェブに掲載した。

http://www.wit.ne.jp/cec/

 この場合も、沖縄本島では通信可能であったが、阿嘉島では通信が不能で、阿嘉島での様子は沖縄本島に戻ってから送られてきた。この生徒には、データをそのままウェブに掲載するよう求めていなかったので、メールでの通信だけの利用であった。

 これは次に述べるタイの留学生の東京旅行でも感じたことであるが、家族旅行などプライベートな旅行では、機材一式を持ち、戻ってきてからホームページを作ることを意識して、旅をするというのは、現実的ではないし、報告者も生徒とその家族にそこまで要求できなかった。

 ただ、提供されたノートパソコンは非常に便利だということでOの家族は旅行が終わって二ヶ月程経つ今もまだ、機材を返却していない。

 

4.タイの留学生の東京見物に同行して

 平成12年1月22日、本校に留学していたタイの留学生通称JAYのマイタウンマップコンクール授賞式に同行して東京に出かけた。式は、午後2時から4時までで、その後、原宿の竹下通りを見学、澁谷で夕食をとり、新小岩のホテルで一泊。翌朝、引率のMとJAYは浅草を見学、その後、秋葉原でおちあい、JAYがMDウオークマンを買うのにつきあう。そこから、東京駅に行き、皇居を見学、午後3時45分の飛行機で羽田空港から大阪に戻るという、あわただしい旅であった。JAYはその一週間後に帰国を予定していたため、彼女にとっては、大変、記念になる旅であったようだが、モバイル班の報告者としては、ビデオを撮っただけで、これをホームページに掲載する気力もなかった。

 移動しながら、デジタルビデオをビデオファイルとしてパソコンに落し、これをホームページに掲載するのは、機材の重さもさることながら、作業自体、時間がかかるヘビーな作業である。もちろん、一泊したのであるから、ホテルで作業を行うことは可能なのだろうが、インターネットのヘビーユーザならともかく、一般ピープルにとっては、このようなモバイルの利用は、現実的ではない。機材の一体化とユーザインターフェースの向上がないと、使いづらい。

 

5.今後の利用について

 本プロジェクトが平成12年度も継続された場合、以下の利用を考えている。

5−1 普通教室での利用

 本プロジェクトで一番実施したいと考えたのが普通教室でのインターネット利用である。文部省もすべての学校にインターネットからすべての教室にインターネットと方向を変えつつあるようだが、ネットワークの本質から言っても、ネットワークされていない場所が存在するということは、ある意味で、自己矛盾である。言いかえれば、ネットワークされている人といない人がいるということは、ネットワークされていない人の資産を利用できないことを意味するわけで、ネットワークの価値が減価することになる。

 そのように考えるとネットワークされたコンピュータ教室などに生徒やクラスが移動することは、情報の移動・交換のために人間が移動するという旧社会の姿の残滓といえないこともない。

 具体的な企画としては、CECから提供されているモバイル環境とポータブルプロジェクターを用いて、他校や海外の交流校とネットミーティングを行う。ポータブルプロジェクター(2.5kg)とスピーカー、スクリーンは、平成11年度卒業記念品として購入し、まもなく納入される。

 なお、普通教室でのインターネット利用については、(財)松下視聴覚教育財団に助成金申請を行っており、これが認められれば、他教科との連携を含む活動が可能となる。

5−2 双子の地球プロジェクト(TEP:Twin Earth Project)

 CECや民間の教育団体、大阪府私学教育工学研究会などの助成を得て実施した平成11年度のE-Trekking Osaka参加校(ハワイ・韓国の生徒を含む)を中心に平成12年度は、TEPを実施する。これは、双子の地球が生まれ、これがどのように生成・発展していくか、その運命などを軸として展開する神話であり、この新しい神話作りに生徒が参加する。この神話はマルチメディア作品として完成・表現される。4月からとりかかり、作品の最終的な完成は夏休みを予定している。この作品制作過程で、モバイルを利用する。

 なお、TEPは、(財)国際コミュニケーション基金より助成金を得て実施する。

5−3 韓国研修旅行

 平成12年10月、本校国際科2年生の韓国研修旅行に学年主任として生徒を引率する。旅行期間中の状況を逐次ホームページに掲載する。

5−4 ハワイでの発表

 平成13年3月下旬実施予定のハワイ教育省主催のTechnology In Educationに発表参加する。発表内容は、ISoNやTEP、本校の語学合宿などハワイ教育省E-Schoolプロジェクト参加生徒と日本の高校生との交流についての実践報告。ハワイからこの状況をホームページに掲載し、報告する。

 

6.問題点

 与えられたモバイル環境で現在考えている問題点は以下となる。

(1) アクセスが悪い

 沖縄からメールを送ってきたOが阿嘉島ではPHSがつながらなかったと書いていたが、報告者の実家(大阪府の南端)や報告者の自宅(大阪狭山市)、あるいは、本校の建物のほとんどが、PHSが利用できない(但し、学校の南側に位置する生徒棟からは通信可)。

(2) 機材の数が多すぎる

 この点については「2.日常業務に利用」で触れた。オールインワンのモバイル環境が望まれる。

(3) バッテリー持続時間が短い

 報告者は外出先で文書作成することが多いが、与えられた現在の環境では2時間程度のため、大変使いづらい。

 

7.最後に

 本プロジェクトはまだ始まったばかりで、現時点では実践や成果も少ない。ただ、生徒の中には、携帯電話をインターネット端末として使っているものも現われはじめており、モバイル環境は、今後、急激に変化していく。これを教育現場でどう利用するか、利用できるか、これは21世紀教育の展開を考える上で大きな課題で、ぜひ、継続してプロジェクトに参加したいと考えている。


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