病院訪問学級との共同学習環境の構築

− 交流学習、宿泊学習の取り組みを通して −

 

中学部 総合的な学習の時間

沖縄県立森川養護学校

理科 幸地英之 島袋康 石川達彦 技術 宮里真栄

kouchi@ryukyu.ne.jp

http://www.ii-okinawa.ne.jp/people/moriyou/

http://www.morikawa-s.oki.ed.jp/

キーワード 中学部、交流学習、グループウェア、個人情報


1.インターネット利用の意図

 森川養護学校には,沖縄病院に隣接した本校と他に9つの国・公立・私立病院内に訪問学級が設置されいる。各訪問学級には担当職員が一人で数人の生徒の指導にあたっており、中学生の指導などには専門教科以外も担当しなくてはならないという問題がある。また,病気等の治療の合間に学習を続けているために,体力的な問題や学習意欲を維持していくことが難しいという課題がある。

 平成11年度には訪問学級にも病院側の配慮により教室でインターネットが利用できるようになり、興味のあるWebページをみたり,前籍校の友達とのE-mailの利用も行われるようになり楽しんで教室に来るようになってきた。

 これまで,E-mailのやりとりでは,1対1(1カ所対1カ所)という感じが強いのと,あとから参加する場合など話題の流れについていけないこともあった。これらを,話題ごとに会議室を設けたり,記録が残り後から参加しても流れがわかるようにグループウェアの利用を考えた。これにより,複数の生徒がグループで物事に取り組めるようにしたいと考えた。

 また,個人情報の取り扱いについて,これまでも本人及び保護者の許諾を得てWebページを作成してきたが,公開できない部分がかなりあり,外部との交流を図りたいが十分に情報を伝えることができないこともあった。

 グループウェアを利用することで,交流先の生徒,教諭にのみアカウントの発行を行い,限られた相手に必要な部分だけを見せることが可能となり交流会の当日だけでなく,前後の指導にも十分活用できると考えた。


1.交流学習,宿泊学習を自分たちで計画しよう

(1) ねらい

 本校及び,病院訪問学級の児童・生徒のみ入ることのできるグループウェアサーバーを使って,行事予定,係活動,自由掲示板などのコンテンツを,離れた場所にいる生徒たちが,役割を分担し作成していく。実際に会って一緒に行う行事をより有意義になるように計画を進める手だてとして活用する。

 

2) 指導目標

 文字(メール)や画像のやりとりしながら表現の道具としてコンピュータを理解し,離れた場所にいる生徒間でコミュニケーションを図れるようになる。

 

(3) 利用場面

 これらの取り組みは,総合的な学習の時間と自立活動でのコミュニケーションの部分として取り組んだ。自立活動では週1時間,総合的な学習の時間は週2時間の枠を確保してあり,必要に応じてまとめて取り組めるようにしてある。

 

(4) 利用環境

 インターネット接続については,本校はOCNエコノミーで常時接続し今回利用するグループウェアのサーバを置けるようにした。訪問学級は,各病院の配慮により,9カ所のうち3カ所が接続できている。今後はさらに3カ所の病院が接続可能になる予定である。

訪問学級は病院の施設を利用しているためにセキュリティポリシーが厳しく共通して利用できるのはWebページの閲覧だけである。メールについてもWebmailの利用が必要になってきたので,サーバとしては,FirstClassとWebMailの2つのサーバを構築した。

 アカウントは,在籍数がそれほど多くないので生徒全員と指導に関係する教師を登録することにし随時追加していけるようにした。(図1)

             図1 ネットワークの構成

2.指導計画

 森川養護学校では,本校と訪問学級の生徒で交流学習(10月に1日)と宿泊学習(11月に1泊2日)を行っている。今回は,生徒たちも交えて計画を9月から行い互いの様子や係分担をそれぞれ別の場所にいながらグループウェアで連絡を取り当日の進行や,生徒間の交流がうまくいけるように考えた。

 指導計画(指導案)

     学習内容        生徒の活動内容
9月
交流学習のねらいを知る(1)
掲示板での交流準備を始める(7)
・自己紹介をする
・学校(学級)の様子を伝える
・係分担を考える
(司会進行,学習,レクなど)
・係活動
・スケジュールの確認
 
前年度の様子をビデオ等で見ながら,活動の様子を確認する。学習の流れを大まかに理解する。
ネットワークを利用して,交流学習の当日だけでなく長期にわたって交流を始める準備をする。
自己紹介を簡潔に書いて,訪問学級の様子を伝えたり,本校(訪問学級)の様子をデジタルカメラで撮影しコメントをつけて掲示板に発信する。
交流学習で必要な内容を考え,自主的に動けるように係を考えていく。
それぞれの係が決まったら,交流会当日に向けて作業を開始する。進行状況を掲示板に書き込み連絡を取り合う。
10月
交流学習(行事)
行事の反省とまとめ(4)
 

計画通りにそれぞれの係分担を行う。
計画通りにできたかどうか反省し,次回の宿泊学習の計画へ展開していく。
宿泊学習のねらいを知る(1)
宿泊学習の係分担を決め活動を始める(7)
・進行状況をお互いに確認しながら作業を続ける。
(進行,学習,生活,レクなどの係ごとに掲示板を設ける)
宿泊学習の目的や流れを前年度の様子を見ながら考える。交流学習と同じく,本校と訪問学級の生徒で係分担を決め準備に入る。
必要な内容を,グループウェアの掲示板で相談しながら取り組んでいく。遅れている部分が出てきたら,再度調整して仕事を割り振るなど当日に向けて連絡を取り合う。
11月
宿泊学習(行事)
行事の反省(2)
 
計画したことをそれぞれの係ごとに分担して行う。
宿泊学習の反省を行い,よかったこと,改善した方がいいことなどをそれぞれの場所から掲示板に書き込みお互いに反省を行う。
活動の様子のまとめ (4)


 
交流学習,宿泊学習と続けて行ってきた様子と反省をふまえて外部へ公開できるWebページの作成を行いまとめとする。(進行状況によっては,生徒は内容だけ話し合い作成は教師が行う場合もある)

 

 

3.学習の展開

グループウェアを使って本校と訪問学級の生徒がお互いを知って活動がスムーズに行くように教師側も援助しながら進めた。

 本校および訪問学級の生徒,教師に対して個人のアカウントを発行し,基本的に次の3つの部屋(会議室)を設置した。それぞれの部屋の中にテーマごとにさらに細かい部屋を設けた。

・みんなの部屋:生徒と教師ともに読み書きできる。
(わいわいひろば,保健室,図書室などをこの中につくる。)

・生徒の部屋 :生徒は読み書き,教師は読むだけにする。(交流学習,宿泊学習の係りの部屋をつくり必要に応じて追加する。)

・先生の部屋 :生徒には見えない,教師のみ読み書きできる。(打ち合わせ用の部屋をつくる。)

 グループウェアに訪問学級向けに自分の写真をデジカメで写してメッセージとともに掲載する。

自分の分担したい仕事などもお互いに書き込んで,できるだけ毎日確認するようにした。(図2,3)

図2 グループウェアの利用
図3 メッセージ一覧
本校の生徒には学校から帰って病院内のパソコンからもアクセスできる仕組みにしたり,メッセージの書き方も簡潔に3行程度で書くように指導したことで「手紙」という意識ではなく「ことば」的な感覚で気軽にかけるようになった。(図4)
図4 写真付きのメッセージ

(3)  交流学習,宿泊学習の取り組み

 交流学習の中では,学習内容に「校内ウォークラリー」が取り入れられ本校の生徒たちが紹介する役割になった。

事前に学校の様子を写真入りで掲示板に出しておくことも行った。

 宿泊学習では,総務係にも生徒が参加し,式次第,部屋割表,開閉会式の司会などを分担して行った。交流が1日,宿泊が1泊2日であったが,事前のやりとりもあり早くからうち解けて交流ができた。(図5)

図5 交流会で学校紹介

(4)  普通中学校との取り組み

 中学校からの交流の依頼がタイミング良く入ってきたことから次年度以降の課題にしようと考えていたことが急遽行われることになった。相手側はインターネットを閲覧することは可能であったので教諭及び生徒用のアカウントを発行しグループウェア内に,特定の場所を設定しその中でのみ情報のやりとりができるように設定した。手紙,ビデオレター(図3)などをきっかけとして,その後のお互いの感想などをグループウェアでやりとりしている。伝達手段を適宜組み合わせて行っている。2月下旬に実際に交流会を開く予定である。(図6)            

(交流時期の調整が難しく2月下旬の予定になった)

図6 交流用ビデオ作成

 

4.情報を発信するに当たって

 これまでも,インターネットや外部からの取材の場合に生徒の写真や氏名の取り扱いについては本人及び保護者の許諾を得て行ってきた。今回もグループウェアを利用する意味はこの部分にもあるので資料を載せておきたい。(図7)

図7 生徒の情報に関する許諾状況

            

平成12年12月現在で確認をとった生徒数28名

 写真の公開 不許可:13名,許可15名

 氏名の公開 不許可:11名,名のみ許可:2名,許可:15名

 写真については,半数近くが公開を拒否しており,氏名につても同様に4割ほどが公開を拒否していることから,これらのことを十分に配慮した形で学校からの情報発信を行わなければいけない状況がある。Webページや報告書等に掲載する場合には,許諾書を元に作成し,必要がある場合には再度細かな確認を行うようにしている。

 

5.成果と課題

 これまでも訪問学級の生徒たちに学校の雰囲気を伝えたり,各病院に数名づつしか在籍していないが交流学習や宿泊学習で一緒に活動する機会を設け友達をつくるなどの楽しみを持たせた教育を行ってきた。これらは少人数の学習環境だけでなく,集団での活動も取り入れていきたいという目的からであった。

 前年度までは,教員側でほとんどのことを準備し生徒は当日参加するだけというやりかたしかできなかったが,今年度は,グループウェアを利用し,事前にやりとりができるようになり掲示物や司会の分担など,数カ所の病院の生徒たちで検討することができた。これにより,当日初めて同じ場所に集まっても,違和感なくとけ込んでいける様子もみられた。

 グループウェアを生徒が病院に帰ってからでも利用できる環境をつくることで,余暇の時間にも目的をもって取り組む雰囲気が出てきたり,これまで言葉でのコミュニケーションの苦手だった生徒も毎日メッセージを確認し,返事を書けるようになってきた。

 病院での長期間の生活で介護を受ける側であるために,相手のことを考えて行動するという機会が少なくなりがちな生徒たちにとって今回の取り組みはお互いを意識しながら行動するという点でも効果があったと考えている。

 課題としては,当初の企画の中には,グループウェアで教材の蓄積も行いたいと考えていたが,資料を作成し掲示していくことができなかった。日頃の学習指導の中でデジタル化した資料がまだまだ少なく,それらを提供できる教師集団としての環境が整っていなかったことが理由としてあげられる。

 訪問学級には専科の教師を派遣できない場合がほとんどであることから,訪問学級で学習していく場合の疑問点などを「インターネット相談室」のようなかたちで本校の教師が質問に答えるなどの連携をとれるようにしていきたいと考えている。

 

ワンポイントアドバイス

 グループウェアはかなりの種類があるので目的の物を選ぶのが難しい状況にある。選定条件としてユーザ側の「メッセージの書きやすさ」はもちろん,「画像,音声,動画等の添付ファイルを簡単に開くことができる」ということや,管理する側には,「ユーザごとに入れる会議室を簡単に制御できる」という点が大切なのでシンプルなものを選ぶとよい。

 

参考文献

佐藤尚武・成田滋・吉田昌義編(1999):教室からのインターネットと挑戦者たち チャレンジキッズによる出会い・学び,北大路書房