インターネットによる情報発信をめざして


この単元におけるインターネット利用の意図

 社会科や理科を中心に,問題解決的な学習が浸透してきて,児童は学習問題を自分自身のものとしてとらえ,それらを解決していくために資料を収集するなどの活動ができるようになってきた。それは図書資料からの情報収集であり,時にはインターネットを通じた情報収集であったりと,多種多様な手段を用いて必要な情報を探し出せるようになった。

 ただここで真の意味での情報活用能力の育成ということを考えてみると,資料の収集だけにとどまらず,収集した資料から自分の表現で新たな資料を生産し,さらにそれらを自ら発信していけるような学習を考えてこそ,インターネットの利用価値が高まるものと考える。

 本実践は,環境教育を通して自分たちが調べた情報を,ホームページ作成ソフトでまとめ発信したり,同じ実践をしている他の小学校との交流を,インターネット上で,さらに実際の合同授業で行ったものである。


1 環境を守る森林のはたらき (小学校第5学年社会科)

(1) ねらい

 都市部に位置している学校では,森林のことを学習するこの小単元は,実際のフィー ルドワークが難しく,とかく図書資料等で学習を済ませてしまいが ちである。

 そこで可能な限りインターネットを通して児童が必要な情報を入手できるようはたら きかけ,そこで集めた情報から新たに自分の表現で情報を作成し, インターネット上で発信していけるような授業をめざした。さらにインター ネットで交流している他の小学校との合同授業を通して,自分たちの住んで いる地域をもう一度見直し,地域の環境を守っていこうとする心情を育てる ことをねらいとした。

(2) 指導目標

 我が国の森林について,その実態を実際の観察やインターネットからの情報収集から 意欲的に調べ,森林は国土の保全や水資源の涵養・生活環境保全な どの働きにかかわりがあることに気付くことができる。さらに森林と自分た ちのくらしのかかわりを考え,森林資源が我々の生活や産業に欠かせないも のであり,その育成や保護が大切であることを理解し,自分の考えを表現し て情報発信することができる。

(3) 利用場面

 この小単元では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
  1. 情報を収集する場面

  2. 身近な森林環境に目を向け,森林のもつ国土の保全,水資源の涵養について調べてい くにあたり,可能な限り実際のフィールドワークを大事にさ せていくが,それ以外の情報は図書資料などで調べていく他に,インター ネットで情報収集をさせていく。
    WWWブラウザによりいろいろなホームページを閲覧させるが,その際にはいくつか のキーワードから検索機能を使って情報を集めさせる。
  3. 集めた情報を自分なりにまとめ,それを自分自身の情報として表現する場面

  4. 様々な手段を用いて集めた情報を,自分の学習問題の解決のために利用させるが,調 べて分かったことを自分の表現でまとめさせる。その際には, 希望があればホームページ作成ソフトを使わせ,コンピュータ上でまと めさせる。

(4) 利用環境

  1. 利用機種 Apple Macintosh IIsi2台,IIcx1台,Peforma52101台 (Modem28800bpm)
  2. 周辺機器 スキャナーEpson GT4000(300dpi),デジタルカメラApple Quick Take100
  3. 稼働環境 インターネットに接続できるコンピュータはPeforma52101台 であり,ダウンロードしたものは,AppleTalkで繋いだ他のコンピュータ へコピーして利用した。
  4. 利用ソフト

  5. WWWブラウザソフト(Netscape2.01)を使いホームページの閲覧を行った。 キーワード検索については,(株)Yahoo Japanの検索機能を利用させて もらった。
    調べたことを表現していくにあたっては,ホームページ作成ソフト (AdobePageMill1.0)を利用させたが,デジタルカメラで写した写真を貼 り付けたり,ワープロ感覚で文章が書けるので,タイピングのできる子 は,使い方を教えると使いこなせるようになった。ただページのリンク 等については多少操作も面倒なので,教師の方で支援するようにした。

2 インターネットを使った指導計画(全14時間)

学習活動と内容 指導上の留意点
(1)
(2)
森林を守るために,人々がどのような苦労や努力をしているのか考える。 ・森林伐採による環境の破壊ということがとらえられない児童へは,新 聞記事等の事例を紹介し海や川の濁りの原因が,森林伐採による表土流出に原因があることをつかませる。
(3)
(4)
(5)
林業に携わっている人々の様子や,森林のはたらきについて調べる。 ・教科書や図書資料を使って調べさせる。
・写真や資料,具体物などを用意しておき,児童が調べ活動に利用でき るようにする。
・仕事の内容がとらえられない児童へは,道具などを見せ,実感をつか ませる。
(6)
(7)
森林を守ることは,自分たちの生活とどんなかかわりがあるのか,いろ いろな視点で考える。

主な視点→
山,川,人,海
調査方法→
インターネットの利用,図書資料,専門資料
・森林を守る役割の重要さを視点別に考えさせる
・インターネット利用については,あらかじめ教師の方でいくつか情報 提供しているホームページを探しておくが,児童にも検索機能を使って資料を探させる。
☆インターネットの金沢工業大学のホームページにアクセスして,衛生 画像から作成された世界の植生図をダウンロードし,活用できるようにする。
人工衛星データを利用した世界の植生分類(金沢工業大学後藤研究室のデータ)
shokusei no hyoshokusei no chizu

金沢工業大学「地球環境を考える」http://gaia.manage.kanazawa-it.ac.jp/env.edu/food/ee03.html
(8)
(9)
調べて分かったことを発表し合い,森林のもつはたらきや森林と人との かかわりについてまとめる。 ・個やグループでまとめた学習成果を,自由に発表させることで,さら に学習意欲を高める。
・自分の生活とのかかわりをつかみきれない児童へは,森林が生活環境 を保全するはたらきをもっていることを,資料等から気付かせる。
(10)
(11)
(12)
学習したことをもとに,地域の資源を守っていくために,自分たちにも できることを考え,実践していく。

(活動例)

  • 広瀬川の水資源になっている地域を写真で紹介
  • 自分たちで再生紙を作り,紙の節約を訴える
  • 酸性雨についてのデータを実際に収集してみる。
・森林資源を大切にしていくという視点で,学習が進められるよう,身 近な問題から考えさせる
・多様な表現活動に取り組ませていくが,コンピュータを使ってまとめ ていきたい児童には,まとめたことをインターネットを通して発信できるよう,メディア機器の整備を図っておく。
☆コンピュータ上でまとめていきたい希望の児童へは,ホームページ作 成ソフトを使わせ,できあがったものをそのまま学校のホームページから発信していけるようにする。
児童がPageMillを使って表現したもの一部
Chiiki no Shashin 1Chiiki no Shashin 2
(13)
(14)
水環境について調べている学校と「仙台市環境サミット」を開き,調べ たことを発表し合いながら,今後自分たちにもできることを考えていく。 ・合同学習を進めていくために,事前に両校のホームページを使って, 活動の様子を紹介し合っておく。http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/katahira
・交流学習後,地域の環境に対して自分たちが考えたことを,インター ネットで宣言させる。
☆代表の児童の手で,実際に「子ども環境宣言」をリアルタイムでイン ターネット上のホームページに入力させる。

3 本時の学習内容

(1) 本時の目標

 身の回りの森林資源の現状や環境保全のために努力している人々の働きをつかむとと もに,自然保護や環境保全の大切さに気付き,自分たちにもできる ことを考え,行動する。

(2) 本時の展開

学習活動 活動への働きかけ 備 考
学習問題の確認をする。
せんだい子ども環境宣言をつくろう
・コンピュータ
・OHP
・自分たちがコンピュータ上で表現したもの
それぞれの学校で問題として追求してきたことを発表する。
・コンピュータやその他視聴覚機器を使って,自分たちの学習の成果を 発表する。
・グループを2つに分けて,ポスターセッション形式で自由に話し合い に参加する。
・調べたことを相手に分かりやすく伝えたり,調べて分かったことや疑 問に思ったことについて自分なりの意見が言えるように指導しておく。
・発表を分担させ,できるだけ多くの発表を見学できるようにする。
  • 広瀬川の水質はきれいだ(指標生物の観察から)
  • 森林資源の破壊と保全(県内の森林資源の現状と問題点)
  • 梅田川に水生生物はいない?(歴史・指標生物の観察から)
  • 空気や木があぶない!(学校周辺の大気汚染)
  • 音はお友達(環境問題における騒音,心地よい音について)
Happyo no yousu 1
児童の発表の様子(1)
Happyo no yousu 2
児童の発表の様子(2)
ポスターセッションで発表された事柄や,環境宣言として提案された事柄を検討する。
・地域の環境を守る行動目標の提案
・それぞれが調べてきた事柄と,発表された内容を比較検討して環境問 題と自分たちとのかかわりを考えさせる。
森林環境と生活環境を良くする行動計画を合同でまとめる。
・せんだい子ども環境宣言を採択し,発表する。
Happyo no yousu 3
環境宣言をリアルタイムでインターネットへ入力している児童
・身近な環境を見つめ,これからも環境の保全に努めていこうという気 持ちを起こさせる。
・インターネットにつながったコンピュータで,実際にリアルタイムで 環境宣言を児童の手で入力させる。
・大型液晶プロジェクター
・インターネットへの回線確保
・ダイアルアップできるコンピュータ

4 評価とまとめ

 インターネットによる情報収集ということについては,ブラウザでキーワードによる検索機能を利用すると,たくさんの有効なデータが得られることがこの実践で分かった。特に今回のように緑の少ない都市部の学校が,森林環境について学ぶ場合,図書資料などと合わせて,インターネットによる生の資料を生かすことで,実に児童に興味深い体験をさせることができた。

 ホームページによる情報発信ということについては,すべての児童が体験したわけではなく,あくまでも従来の方法も大切にしながら,表現力を磨く一つの手段としての試みであった。コンピュータは万能ではないし,時として紙の上に表現した方が,児童にとっても分かりやすい場合も多い。その点児童へ強制するのではなく,取捨選択させるということが大事なことであろう。自分のまとめがホームページから発信できるとなると,児童へは大きな学習の励みとなった。また今回使用したソフトについては,十分小学生でも使用できることが分かり,今後もこの経験を発展させていきたいと考える。

(実践者 仙台市立片平丁小学校 成田 忠雄)

CEC HomePage インターネットを利用した授業実践事例集 平成8年度