小学校5年「天気の変化」4校共同観測レポート


この単元におけるインターネット利用の意図

 小学校5年生が学ぶ「天気の変化」の学習は,指導要領に新たに入ってきた内容で生活科との関連で,児童が自分で進んで学習できる教材として設定されています。

 指導の流れは,

  1. 天気の変化は,気温,雲,風などと深い関わりがあることを確かめる。
  2. 気温の日変化と太陽高度の関連を理解する。
  3. 天気の変化の大まかな規則性に気づく。
  4. 天気変化の予想ができるようにする。
のようになりますが,(1)と(3)の学習に於いて,インターネットを利用して小学校4校で気象の共同観測を行ったことの報告が本レポートです。

1 天気の変化(小学校第5学年 理科)

(1) ねらい

 天気の学習においての最終到達目標は,様々な情報をもとに子どもたちが自分で判断 して,天気予報をおこなうことにあります。

 従来は,子どもたちが手に入れることのできる情報は,自分で観測したデータの他に は,新聞やテレビの気象関係の情報や,昔から伝わっている天気に 関する言い伝え程度でした。新聞の情報もテレビの情報も,大変ていねいに 作られていますから,学習にはとても役にたちます。新聞の切り抜きを並べ るだけで,上層の雲の動きはつかむことができます。テレビの気象番組も最 近は内容が濃くなり,狭い地域の予報まで報道されるようになってきました。 しかし学校で勉強するからといって,まだ読んでない新聞を切り抜いてもっ て来させるのには抵抗がありますし,テレビの気象番組も,学習時間に放送 されているとは限りません。また小学生ですし,はじめての天気予報ですから,学習 の中心はあくまで、空の雲を目で見て,風の様子や気温を皮膚で感じて,温度計や風向 計を使いデータを標準化する,観測に置きたいと思いました。

2 インターネットを使った指導計画

(1) 共同観測に至るまで

 1996年10月,神奈川県大和市立林間小学校,香川大学附属坂出小学校,広島県 賀茂郡黒瀬町立乃美尾小学校,熊本県阿蘇郡長陽西部小学校の5年生 が,天気の共同観測に取り組みました。

 林間小学校は,文部省・通産省の「100校計画」に参加することができ,インター ネットに接続できるようになりました。「天気の変化」の学習を組 むにあたり,「ひまわり」の画像の利用の他に,天気は西から変わってきま すので,各地のデータがわかると自分の住んで居るところの予報もしやすく なるのではとの予想から,電子メールを使って各地の情報を集められないか と考えました。

 そこで各校と連絡をとりながら,お互いの学校で共通に観測できる項目(気温・風向き ・雲量・体に感じるようす)を4つ決めました。

3 本時の学習内容

(1) 4校の観測データ

 毎日の観測データは,速く共同観測校に届くように,第一報はメールで参加校に届け られました。10月7日分のメールを紹介します。
  阿蘇長陽 (10月7日午後1時15分 雨
  気温             19.5度
  風向き           南西(弱い風)
  雲の量           100%(濃い灰色です。もちろん雨雲です)
  体に感じるようす 寒いです。雨粒が体に当たって痛かったです
  田中@乃美尾小学校です。

  10月7日12:35
    気温              18.0度
    風向き            北東の風 かなり強い
    雲の量            雲量10
    体に感じるようす  雨がさらさら降っていて寒い。

  *明日は社会見学で,私は中学年と一緒に広島平和公園へ行って原
    爆資料館を見てきます。5年生の子どもたちは,6年生と一緒に
    福山市の日本鋼管と広島県立歴史博物館の見学です。ですから,
    天気の観察はお休みさせてもらいます。
  今日は振り替え休日ですので,竹森が送ります。
  ・気温        22.5度
                朝の10時ころは24度ありましたが,12時頃か
                ら下がりだしました。
  ・風向        南西 (弱いです)
  ・天気の様子  灰色の雲が空全体をおおっています。13時頃から
                弱い雨が降りだし,14時は本降りです。雲が下が
                り,いつも見えている飯野山 (讃岐富士) が見えな
                くなりました。
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         香川大学教育学部附属坂出小学校5年西組
  林間小学校10月7日午後2時(はれ)

  気温    26度
  風向き  西
  雲量    85%
  体感    ちょっと西風が来て,涼しかった。風が強かった。

  林間小5年2組4班
 さらに各校のホームページには,毎日の空の写真が載りました。
sora no shashin

 乃美尾小学校のホームページには,日本気象協会から許可を得て,毎日の「ひまわり 画像」をダウンして,共同観測校の毎日のデータにリンクするページができました。
Himawari no gazo

 林間小学校のホームページでは,4校から送られて来たデータをもとに作成した表を 載せました。
tenki no hyo

4 評価とまとめ

<林間小学校>

 はじめはなぜ毎日観測してデータを交換しているのか,その価値がわからなかった児 童も,学習が進むにつれて,熊本・広島・香川から毎日届いている データが,天気を予報する時には大変参考になることがわかるようになって きました。

 10月21日から3日間,子どもたちは今までの学習を活かして,天気予報をしまし た。

 実際に天気を予報する時間になって,坂出小学校の21日の午前10時30分のデー タが,メールで届きました。その結果,21日は神奈川はとても良 い天気だったのですが,児童31名中13人が,翌日の天気を,晴れ後曇り, 晴れ一時曇り,晴れ時々曇り,曇り等,天気が曇るのではないかの予想をた てました。これは今までの学習から,天気は西から変わるということを理解 し,坂出小学校から届いた観測データに信頼をおいている児童が多くいたた めと考えられます。

 多くの児童は,空の色,雲の形,雲の動き,風の強さから予報をだしました。一部の 児童は,それらに付け加えてひまわり画像,過去の4校の観測データ,言い伝えを元に 予報をだしました。さらには,雲の量と風の強さとの関係や,気温との関係から予報を 出した児童もいました。児童が観測データを総合的 に利用をすることは,私の方では考えていませんでしたので驚くとともに, 学習の成果があらわれているのだと思います。

 天気の変化の学習を始める前は,天気について関心は薄かった児童も学習を重ねるう ちに,「昨日はこんな雲が出ていたよ」とか「山に雲がかかってい た」など空に目を向けるようになってきました。天気予報はむずかしかった ようですが,みんな楽しくできました。「また天気予報をしてみたい」「天 気予報をして,教えてあげたい」などの感想をかいた児童もおり,学習が定 着できたのではないかと思います。

<乃美尾小学校の児童の感想から>

・私は,インターネットでやったことは,よかったと思います。それは,教科書でやる のもいいけれど,他の地いきの天気などを知りたくても,教科書で はよく分からないけど,インターネットでやったら他の地いきの天気とか風 向とかが よく分かったし,(毎日の天気が,教科書は,1日とか2日しかな い)インター ネットでやって,東西南北の天気のどこがちがうかや,近いと ころは,だいたい 同じなど,いろんなことが分かったからよかったです。

・ぼくたちは,生まれてはじめていんたーねっとでべんきょうした。たのしかった。とおくはなれた学校と,べんきょうしたのがたのしかった。いっしょに,かおやこえをきいたりみたりできなかったけど,よくぼくたちのべんきょうにやくだちました。いつもうんどうじょうへでて,風のむき,くものうごきようすなどをきろくしていきました。みんなのやくにたったというしらせがきたときうれしかったよ。インターネットでよかったことはきょうかしょだけでなく,ほかの人のいけんをきけることでべんきょうがよくわかり,きょうかしょより,たいへんべんりな事をしていたなと思った。またおなじべんきょうをするとき,インターネットでいっしょにできたらたいへんうれしいと思いました。すぐれたきかいで,すぐれたべんきょうをすることが,いいと思います。ぼくたちもがんばるのでがんばってください。ありがとうございました。べんきょうになりました。

<長陽西部小学校の児童の感想から>

・私は,ことわざというものは,全部の地方に通用するものだと思っていたけど,この長陽(阿蘇)にはない独特のことわざがあったのでびっくりしました。私は,知らない人たちとパソコンを使って,毎日同じことをやってて,とてもうれしかったです。顔は知らなくても,心は通じ合ってるんだなーと,強く感じました。

・私は,この1カ月間パソコン通信で勉強できてよかったと思います。天気のことだけじゃなくてみんなの学校の行事や様子が分かって面白かったです。そして,今度は勉強以外でもメールの交換ができたらいいなと思います。その時は,自分でちゃんとキーボードをうまく打てるようにしておきます。1カ月間どうもありがとうございました。

・大きな雲のかたまりは一日で九州から関東地方まで動くらしい。だから,今日の天気は,明日の林間小学校の天気と同じになるはずだ。(60%ぐらい)顔は知らないけれど,いっしょに勉強してとてもよかった。とてもくわしく分かったから,私にはとてもためになったと思う。ありがとう。また,いつかいっしょに勉強しようね。バイバイ。

 共同観測のまとめは,児童の感想の中にすべて書かれていました。地味で継続させる事が難しい気象の観測も,自分たちだけでなく他の子ども達も利用しているというのが一月続いた原動力になりました。子ども達も書いていますが,インターネットを使った学習は大変効果をあげました。理科の学習内容の理解を助けた以上に,それぞれの地域で同じ5年生が,同じように学習しているという事を子ども達が実感できた事を,指導にあたった者として,大きな喜びに感じています。

共同観測校

(報告者 神奈川県大和市立林間小学校 浅野 智子)

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