学校の壁を取り払い,社会と一体となった問題解決学習
−教科教育とコンピュータネットワーク活用の統合を目指して−
この単元におけるインターネット利用の意図
これまで問題解決型学習において,十分な資料,活動の場の設定がなく,児童は,学習意欲がそがれ,問題の追究が浅いままに終わってしまうことが多いかったように思う。また,自分が調べたことを発表するのは,学級内であることが多く,情報発信の対象が固定化し,より深まりを持たせることが困難であったとも指摘されている。
そこで,学校の壁を取り払い,実社会を自分の学習活動の場とし,学校外の人々を協同学習者として,より広がりと,深まりのある学習ができるようにするために次のようなコンピュータネットワークの活用を考えた。
- 自分で問題を解決するための資料として,従来の図書,ビデオ等の他に, WWWや電子メールを利用する。
- 学習成果をデータベース化する事により,それらを共有化することがで き,学習成果を学校の児童が代々受け継ぎ,毎年継続的に蓄積することができる。
- それらのデータベースを学校内外に発信するが前提となるため,自分の 考えや理解を深めることができる。さらに,ホームページのデータを見た人たちから,意見をもらうことにより,学習の再考や作成したデータ ベースの加除修正ができ,学習が深まる。
1 児童の共同学習を広げるネットワーク環境
(1) ねらい
児童同士が,学習に関する情報をネットワークを活用して校内の他学級の児童はもちろん,校外の人たちとも交換し,助け合ったり,議論したりしながら学び合い,さらにその学習の成果を自分自身の手で発信し,それを児童がまた利用できるようにする。そうすることにより,学習が深まり,自ら学ぶ力が育つと考えたのである。そのために本校では,スタディノートを利用した校内情報ネットワークの活用とインターネットの活用の2つを中心に研究してきた。それらについて説明する。(2) インターネットについて
- 接続環境
64Kbps デジタル専用線
- インターネットに接続されているコンピュータ
- ネットワークルーム 富士通FMV 20台(これらは校内情報ネットワ ークの端末としても利用可能)
- 5,6年全教室 富士通FMV各1台,計8台
- 職員室 7台(個人のものも含めて)
- インターネットで遠隔協同学習が可能
地域的に隔たった学校どうしが,同じ課題に取り組むことにより,多様な見方・考え方に触れることができるようになり,さらに情報を集め,そ れらを整理し,説明する(情報発信)といった体験ができ,他校との協同学習が可能になる。
(3) 校内情報ネットワーク(スタディノート)について
1)スタディノートとは
スタディノートでは,まずコンピュータのディスプレイ上で見られることを前提としたノート(文字,図やアニメで構成できる)を作成する。これらのノートをもとにして,校内で結ばれたコンピュータどうしで,次のようなことが可能になる。(写真1)
- 「電子メール」機能を用いて,自分のノートの学習情報を特定の児童とや りとりすることができる。
- 「電子掲示板」機能を用いて,自分のノートをコンピュータの掲示板に掲 示し,不特定多数の児童に伝達する事ができる。
- 「データベース」機能を利用して,コンピュータで作成したノートをテー マごとに蓄積し,自由に見たり,キーワードやタイトル情報をもとにして検索したりすることができる。また,それらのデータを見た意見をそれら の子情報として付加,蓄積することもできる。現在は,これらのデータベースを変換し,ホームページに載せることも簡単にできるようになっている。
写真1 スタディノートのメニュー画面 |
2)スタディノートは協同学習支援の道具
スタディノートは,コンピュータを表現の道具として使わせることにより,
- 誰にも発言の機会を与える。
- 自分の意見を明確にしてから発表させる。
- まとめが同じような形式,似た内容になることを防ぐ。
ことが可能となり,これが,実際のコミュニケーションの活性化にもつながるのである。
また,ノートの利用は,学級の枠を越えて学校内のすべての児童・教師と情報の交換ができるようになる。
2 本時の学習内容
これから述べる活用方法は,多くの単元の問題解決型学習で活用できる。本校でも,いくつかの学年の教科・単元で実践されたが,ここでは,紙面の都合で
明治の新しい世の中(小学校第6学年 社会科)
を中心にして述べたい。(1) 単元目標
開国以後,明治維新の諸改革,国会開設などを経て,国家の近代化が進められていったことを説明することができる。(2) 本単元の指導計画とコンピュータの位置づけ
時間 |
学習の過程 |
学習の内容とコンピュータの活用 |
教師の支援 |
2 |
導入と課題作り |
1863年と1874年の絵を比べ,違いを見つけ,明治の激動の様子を とらえ,自分の調べる課題を作る。 |
- これらの変化が10年で起こったことを話し,驚きを学習意欲の喚起 につなげたい。
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4 |
課題の追究 |
資料収集(自分の課題を自分の方法で解決する。)
- 図書による解決
- スタディノートの電子掲示板による資料提供のお願い
- WWWによる情報の収集
- 電子メールによる個人からの情報収集
学習データベースの作成
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- 友達との相互交流を勧める。
- 疑問が解決できないでいる児童には,メールや掲示板を使うように 助言し,メールの宛先は一緒に探す。
- 「発信する」というポイントから,児童のノートを観察し,助言し ていく。
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2 |
学習のまとめ |
スタディノートの画面をもとに自分の意見を発表し,話し合う。 |
- 話し合いで結論が出ないことはインターネットを利用し,学校外の 人たちにも協力してもらい,解決していくことを助言する。
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(3) 追究を助ける,深めるネットワーク活用
1)学校の全員が協力者に−電子掲示板による「たすけて」−
課題に追究のための資料がないときにスタディノートの電子掲示板を使って「〜に関する資料を教えてください。」「〜に関する資料がある人は貸してください。」と呼びかる。それを見た校内の他学級,他学年,教全員が資料の収集に協力してくれる。
また,資料もなく,解決もできないときには,同じように「〜についてわかる人は教えてください。」と呼びかけ,協力を求めることができる。(写真2)
写真2 スタディノートの掲示板の画面 |
2)他校の児童や歴史の専門家も協力者に−電子メールで 「教えてください」−
校内の協力者では,課題が解決できなかったときは,インターネットの電子メールを利用し,他校の児童に協力を求めたり,企業の方や専門家にも解決を手伝っていただいたりすることができる。(図1)
正解かどうかわかりませんが,キリスト教を信じる人が多くなって, 神様を一番尊いものだと考える人が多くなると,トップに立とうとしていた秀吉の言うことを聞かなくなってしまい,不都合であると考えたからでは ないでしょうか。
○○君,せっかくメールを使っているのだからいろいろな人のメールをもとに,意見をまとめ,情報を発信して,また意見を聞いてみてはいかが ですか。もっと,歴史の学習がおもしろくなりますよ。 |
図1 キリスト教を禁止した理由を尋ねたのに対して送られてきたメール
1),2)の活用により,児童は,つまずくことなく追究でき,児童は意欲をそがれることなく学習を進めることができるだけでなく,人と協力したり,意見を交換したりしながら,追究することができる。
(4) データベースの作成と発信
1)データベース作りは簡単で楽しい
学習のまとめは自分のノートだけでなく,発信するためにスタディノートを用いてデータベースを作成する。データはグラフィックスと文字を組み合わせて,作ることができる。操作は簡単なワープロ機能と作図機能の他,いくつかのコマンドを使えば画面の装飾やリンクの設定ができる。
児童は,多くの人々に見てもらうことを前提として作成するので,限られた枠の中で,見る人にとってできるだけわかりやすく,きれいにまとめようとする意識が高まる。
2)スタディノートの画面がすぐホームページに
スタディノートで作成したデータベースは,変換ソフトにより,HTML形式に変換して,すぐにホームページに掲載することができる。(写真3)

写真3 自動が作成したノート |
(5) いろいろな意見が学習を深めてくれる
1)スタディノートのデータベースを見た人から
スタディノートの学習データベースをみた,校内の児童・教師達はそのまとめを見た感想や・意見・質問等をメールで送ったり,データの子情報としてデータベースのデータとして付加することができる。2)ホームページを見た人から
スタディノートのデータベースを変換したデータをホームページで発信したことにより,他校の児童や解決に協力いただいた方々,ホームページを見た一般の方々等からも感想,意見等が届く。(図2)
○○君,武士の生活を農民に支えさせることで,武士達中心の 世の中にそうとうしたかったんだろう。というまとめにたどり着いたのはすごいね。
□□君,武士と農民の区別をはっきりさせて,将軍を頂点にたたそう。そうですね。ただ,その時代が武士中心だったからそのような 考えが成立したのでしょう。今は,どういったらいいのでしょう。 |
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自分が質問について答えたことが書いてあると思うと,感激です。 よく頑張ってまとめましたね。
一つお願いがあります。ページを飾ることより,読みやすさを 大切にして作ってもらえると助かります。遅い機械で見ている人にとっては,出てくるまでじっと待っているだけなのです。(みんな の努力がにじみ出ている画面なんだけど・・・。) |
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図2 ホームページを見た方々から送られてきたメール |
1),2)のことから,児童達はこれまで以上の範囲から,反応してもらう喜びを味わうことができるとともに,もらった感想や意見を参考に,課題について再考したり,まとめを加除修正したり,質問に答えたりすることになる。このことが社会的な思考力を高めることになる。3 評価とまとめ
(1) 児童の感想
「楽しい」という感想が最も多かったのですが,その他には,「みんなでできる」「自分と違う意見がわかっていい」「いろいろな人の意見が聞ける」「資料が見つけやすい。」などが出ていた。批判的な記述はなかった。(2) 教師から見た利点・児童の変容
- 資料検索の幅が広がり,学習の停滞が見られなかった。
- 発信したメールに返事が返ってくることが学習意欲を高めていた。
- 児童の考えを深めてくれるようなメールが多く,学習刺激として有効 である。
- 情報発信への意欲が高く,いつもよりまとめが充実していた。
- 人にものを尋ねるときの礼儀を経験を通して身につけることができる。
- わかりやすい文章を書くということはどんなことなのかを人からの意見 によって自然に理解していった。
- 友達のデータベースをうまく活用し,自分の学習に生かしていた。
- 児童一人一人に対応できる方法や時間が多くなった。
(3) 教師から見た課題
- 児童が歴史について質問できる人の発掘とリスト化
- 帰ってくる意見はまだまだ少ない。交流の場を普段から増やしていくこと や,メーリングリストの整備が大切である。
- 教師が児童を支援できるように,情報の得られる WWW,質問のできる人を, 探しておく必要がある。
以上のことから,問題解決型学習に,コンピュータネットワークを導入すると,学級,学校の壁が取り払らわれ,幅の広い人々が自分の協同学習者となり,児童の学習意欲を高め,学習を深めていくことがわかる。(授業実践者 つくば市立桜南小学校 海崎 由香)
(執筆者 つくば市立桜南小学校 森田 充)
ワンポイントアドバイス
この活用法はいろいろな学習に導入できるが,その際の留意点は次のようである。
- 課題選択学習では,課題をどうも持たせるかが大切なので,導入での課題 作りの授業を工夫するのが大切。
- スタディノートは,シャープ社製であり,Netware で結ばれていれば導入 可能である。
- 全国で質問のできる人を探すのは,関係ありそうなホームページを片っ端 から見て,探すしかないが,NTT「こねっと・ワールド」の「こねっと・チュウター」や大津市立平野小学校「全国おたずねメール」などのように リストができているところもあるので,それらを活用もできる。でも,教師が率先して見つけなければ,子どもだけでは見つからない。
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インターネットを利用した授業実践事例集 平成8年度