酸性雨の共同観測

裏山松の被害調査を通しての自由研究


 教師が知識を伝達し,情報を与え,活動を指示する授業でなく,子ども自らが情報を収集し加工し伝達する活動を通して考えを深めていく活動を少しでも増やしたいという願いを持った。利点は,子ども一人一人がこだわりの活動をネットを通して行っていけることである。つまり,発信した情報へどう反応があるか,他校の仲間からの働きかけを受けとめ試行錯誤しながら学習課題を追求できる環境を子どもが利用できることである。

1 酸性雨の共同観測と自由研究(小学校第6学年 理科)

(1) ねらい

 この実践の大きなねらいは,コミュニケーション(対話),共同作業,通信という3つのことを柱とし,酸性雨の共同観測と,複数の学校での情報交換・討論を通して,問題への関心,参加,科学的方法の体得へと問題に迫ることを目的としている(1995永野和男)。

(2) 指導目標

 小学校理科・6年「ヒトとかんきょう」を考える単元がある。指導者として,「この単元は知識として教えるより,子ども一人一人が我々の住む地球の環境に興味を持ち,それが今どのような状況にあるのかを心情としてとらえ,これから私たちがどのようなことができるのかを考える単元としたい。」と考えた。加えて,酸性雨に対する基礎的な「水溶液の性質」を学習する必要もあるので,総合単元とした。

 それには,「自分たちの学校に降る酸性雨の観察」という身近な現象から観察を始めて,「子ども自身が問題を持ち,追求していき最後には自分として問題解決に何ができるか。」を目的とした総合単元として考えた。身近な問題から出発するとどうしてもマクロな考え方しかできず地球規模で起こっている変化や,大きな地域で起こっている問題を見過ごしてしまうことになる。そこで,9校と共同観測や討論を交えての学習過程となっている。子どもが視野広めることができるようになるには,他の学校のメールが活動の大きな役割を果たす。自分たちの気づかなかったことを他から気づかせてくれるなどの利点がある。

(3) 利用場面

  1. テレコミュニケーションで自己・学校・地区紹介で相手を理解する。
  2. 共同学習校への酸性雨の調査に対する質問,自分たちの活動を紹介する する。
  3. 酸性雨の調査の結果をデータとしてアップ,酸性雨の自由観察,実験の 発表と討論を
  4. 環境問題を考え,酸性雨を減らすために自分たちとしては,どんなこと ができて,今何をすべきか討論する。

(4) 利用環境

  1. 使用機種

  2. IBM P/S Vision 2台(インターネット接続用Modem 33,600bpm), MacintoshPreforma5210 8台,Macintosh Preforma5220 1台, IBM 5530T 1台
  3. 周辺機器

  4. レーザープリンタ 1台,カラープリンタ 1台,スキャナー 1台, VTRカメラ2台,フォトビジョン 2台,モデム, マック9台を接続するイーサネット=ハブ1台, MO 1台,コンピュータの画面を拡大する29インチ提示用TV 1台,20インチTV 4台
    降雨採集装置(レイン=ゴーランド)
    酸性雨であるかないかを測定するために,降り始めから, 降り終わりの導電率(不純物の混ざり具合によって異なる)や時間変化などを総合的に検討できる装置として,酸性雨分 取器(堀場製作所レイン=ゴーランドARー8)とpH測定器(コンパクトpHメータTwin pH),また導電率測 定装置(コンパクト導電率計Twin Cond)を堀場製作所より本プロジェクトを通じて貸与していただいた。
  5. 稼働環境

  6. Preforma5210やIBM 5530Tを使って,絵や図,文章をつくり,イーサー ネットを通じて集計し,インターネットにモデムで接続された,IBM P/S Visionの自動送受信子ども用お手紙ソフト「かわらVAN」 を利用して送受信する。
  7. その他の利用ソフト

  8. Preforma付属クラリスWorks,Windows付属ペイントブラシ,などを使ってのメールやや送る資料,図,絵を作成した。
    インターネットに接続し,今回の実践研究のために作成された子ども用お手紙ソフト「かわらVAN」(下左端写真利用場面)を利用して自動送受 信を行った。
大阪の酸性雨の月別データの写真 顕微鏡で気孔の汚れを調べている写真 気孔と松を絵に描いて送る写真
各地月別酸性雨の調査
松の葉の気孔の汚れを調査
絵をつけてネットに発信

2 インターネットを使った指導計画(単元の流れ)

指導計画(一部結果) 留意点
(1)
(2)
学校紹介と自己紹介
テレコミュニケーション

自分たちの地域や学校の特色を相手に伝わるように絵や文で表現し インターネットで送信する。

※利用ソフト「かわらVAN」キッドピックス,Works

  • まずは,お互いに地域のことを知り合い討論をする前の信頼関係を つくらせる。
  • 特に,相手を中傷する言葉などを送らせないこと郷土の自慢くらべ にならないよう指導する。
  • 相手に地域や学校の特色がわかるデータ(人口産業の様子,学校の 周りの環境)を調べさせ伝える文や絵を描かせる。
  • 特色を示すことは後で全国酸性雨のデータを比較するときの考察材 料となる。
(3)
(4)
水溶液を調べる。
結果インターネットへ送る。

水溶液の性質の単元で調べたいろいろな物質や水溶液の酸性度を意 見を添えて送る。

※利用ソフト「かわらVAN」キッドピックス,Works

  • 自分たちのよく飲んでいるジュースなどから始めて,酸性やアルカ リ性の濃度や体,植物との関係などについても興味を持たせていく。
  • 近くの池の水を測定することから始め,魚の住めなくなる環境につ いても興味のあるグループには調べさせていく。
(5)
(6)
(7)
酸性雨調べとpH測定

雨の酸性度を調べる。自分たちの調べた水溶液と比較しながら意見 を添えてインターネットで送る。

※利用ソフト「かわらVAN」キッドピックス,Works

  • 酸性雨の恐さや被害の様子を少し学習した後で実際に私たちのとこ ろにも酸性雨が降っているのか興味を持たせながら測定をさせる。
  • この被害が一時的なものなのか解らせるために継続観察を続けさ せる。
(8)
(9)
(10)
酸性雨に関する自由研究

実験の仕方をインターネットで送り,自分たちの結果を絵や画像、 文で送信する。
他の学校の実験に対して発言や同じ実験をした結果を送信する。

※利用ソフト「かわらVAN」キッドピックス,Works

  • 例:かいわれ大根に酸性雨の水をやって,水道の水の物と育ちを 比較する実験など。
  • 実験の仕方にあいまいさや短絡的な結論がでていてもあえて修正 せずに送信させ,他の学校からの指摘で考えを修正していく指導をとる。
(11)
(12)
(13)
他の学校の自由研究への質問,感想,提案インターネットで送る。

※利用ソフト「かわらVAN」キッドピックス,Works

  • 自分たちの気づいたことや結果と違うことを見つけ討論できるよ うにする。
  • 返信が早くほしい場合は,学習進度の調整を相手校に依頼して おく。
(14)
(15)
(16)
(17)
自由研究活動

酸性雨観測から疑問に思ったことで「調べ学習」をする。

自由研究と意見を発信する。
反論に対して意見を考える。

  • 酸性雨がたくさん降っていることが分かった今地域にも被害がない のか,探検隊をつくって被害調査を行わせる。
  • 学校の裏山に酸性雨でやられ,松食い虫で腐ってしまった松の木が 生えている場所を探検コースに盛り込んでおく。
  • 子ども達の考えが間違っていてもネット上で討論できるように不備 な点や間違いを指摘しない
  • 「腐った松は,酸性である。」という短絡的な考えに案の上反論が きて,活動が盛り上がる。
(18)
(19)
(20)
酸性雨や環境についての総合討論

自分たちの疑問から発したこと
自分たちでできることの提案
これらの活動を通して,地球の環境問題について知り,自分達は何 ができるか,将来何をやっていけばいいのかを知る。

※利用ソフト「かわらVAN」キッドピックス,Works
☆インターネットでの調べ学習

  • 松の葉の気孔の汚れがたくさん見つかったことで,自分たち以外の 地域はどんな様子なのか働きかけ共同観測を提案する。提案の仕方をサポートし,教師間で根回しをしておく。
  • 酸性雨を降らす原因が多少なりとも理解できてきた頃に,火力発電 に変わるエネルギー調査などをもとに,自分達で新しいエネルギーについて考えさせる。その新エネルギーの欠点も明らかにできる実 験観察を盛り込ませていく。
  • インターネットを通じて共同学習校にも連絡をとらせるが,同時に 酸性雨や新しいエネルギーについて情報を提供しているホームページなどにアクセスをさせ,最新の研究にふれさせ,自分たちの考え と比較させる。

3 本時の学習内容

(1) 本時の目標

 今までに行ってきた観察や実験をもとにして酸性雨や環境についての総合討論を体験する。自分たちの疑問から発したことにこだわり,自分たちの実験・調べを提案し,これらの活動を通して,地球の環境問題について知り,自分達は何ができるか,将来何をやっていけばいいのかを考えようとする態度を育てる。

(2) 本時の展開

学習活動 活動への働きかけ 備考
前時まで調べてきた酸性雨の被害や酸性雨の原因について学習したことを発表する。
  • 前時までの学習を想起させ,調べカードを拡大提示装置を使用して発表 させる。
  • なるべく,絵や図,グラフ,写真を利用して発表をさせるようにする。
大型TV
フォトビジョン利用の提示装置
調べカード
本時の課題について,それぞれの班で,持ち寄った個人の意見の調整を 行う。
課題を絞りながら,班での話し合いを深め,実現・検証するための方法 を考える。ソーラーカーを描いている写真
考えを絵にして送信
様々な課題を自分たちが実験できるものへ変換させて,比較検討させる。
  • 乾電池車vsソーラー電池車
  • 土の浄化検査
  • 砂漠の拡大防止方法
  • 酸性水をきれいにする方法
酸性雨を浄化できる土は?の写真
  • 最後には,上記のものを実現するためには時間とコストがか かることに気づき,自分たちのできることは何かを考えさせたい。
  • 教師が誘導するのでなく,ネットの活動の中から感じさせたい。
顕微鏡
気体検知器
ソーラーカーの実験の写真
大型TV
フォトビジョン利用の提示装置
実験に必要な物

コンピュータ
大型TV

それぞれの実験等を調べカードにまとめ,課題をクラスで発表すると,共にインターネットを利用して共同学習校にメールを送り,協力を依頼する。
同じような環境問題について省エネルギーや新しい方法,自然を守ることについて,考えているホームページを探し参考にする。
新たな課題の追求をする。 付け加えられた課題や新しい課題を追求させていく。

4 評価とまとめ

 まずは,子ども達の関心を身近な問題から世界的な問題へ課題を追求させ続けなければならないことが今回教師に託された大きな仕事である。次に,学習のコンセプトをきちんとさせ,学習の内容から組み立てることが実践を行う上での基本である。

 コンピュータを利用する上で,インターネットを利用する共同学習は非常に効果があったのは,次の点である。教師に指示されるよりも子ども達は自主的に活動する。さまざまな問題を追及していくが,新たな疑問に気づいたり他から指摘されせたりして活動の停滞が少ない。問題の提起の仕方や相手に伝えるための負荷が学習の方法を学ばせる。

 つまり,ネットワークを使った利点は何か?それは,子ども自身が気づかないことを,活動を通して反論や意見などが子どもの考えを変えていく,それも,他の人に言われたり知識を押しつけられたりすることでなく,子ども自身が活動の中で試行錯誤を繰り返して成長していくことだと考えた。

 実践の欠点としては,他の共同研究校からの返信のレスポンスの遅さが活動の停滞を生むこと(今回はかなり活動の調整を打ち合わせたにも関わらず)。インターネット自動接続用ソフト「かわらVAN」の不調とネット回線の不調に泣かされて時期を逃した活動が多々あったこと,これにより学習の絡み合いが深まらなかった。

(実践者 三重県度会郡度会町立内城田小学校 中村 武弘)

ワンポイント・アドバイス

 子どもの心の中で課題が熟するのを待つ!これらの実践をする中で20時間もの授業を要しているが,実はそれは授業の時間であって他にも活動の時間はたくさん割譲している。それに,期間は5カ月にも及ぶのである。それでも,子ども達の心にじわじわとしみこんでいく活動は,最終段階で花が咲くものである。子どものこだわりにじっくり付き合い!

(http://www.kayyo.ia.inf.shizuoka.ac.jp 又はwww.ce.shikoku-u.ac.jp/child/usr/okumura.html )
CEC HomePage インターネットを利用した授業実践事例集 平成8年度