インターネットを利用した栽培体験〜全国発芽マップ〜


1 全国共同プロジェクト〜発芽マップ

2 はじめに

 全国発芽マップは、100校プロジェクトが始まって、本校が提案した初めての共同プロジェクトであった。「ある日一斉に種を植えませんか。そして育ちを見守りましょう。」という本校の提案をきっかけに全国各地の学校、個人が参加して、さまざまな展開を見せた。またこのプロジェクトは、100校プロジェクトの共同企画としても初めてのものであった。その2ヵ年間の概要を記す。

3 平成7年度かぼちゃマップ

・生みだす

 平成7年の4月に100校プロジェクトのメーリングリストに下記の企画を提案した。「ある日一斉にいろんな学校で種を植えます。当然育ちが違ってきます。そこから育ちの違いから地形や気候などに子供の発想がいき,教科の枠を超えた実践が期待できるのではないでしょうか。」  すぐに反響があり,横浜市立本町小学校から「全国発芽マップと命名しませんか。」との提案があった。さらに,1週間の間に実践の方法,種の手配などについて電子メールで協議がなされた。平成7年度は畑の土の性質,観察の日程,苗の移植等,細かなスペックについては決めずに,とにかく植える日時だけをそろえてスタートしようということになった。種は滋賀県大津市立平野小学校が手配し参加11校に配布された。(植えた日時:5月1〜2日の正午)

・挑む

 カボチャは発芽や成長をあまり天候や気候に左右されない植物であり,ほとんど地域差もなく4〜5日で発芽した。発芽当初は子供たちの興味も高く,他の県はどうなっているのかをしきりに気にしていた。これは他の学校も同様であった。しかし機器の条件や担当者の技術的問題から,メール交換やWWWペー ジでの展開などに学校差があった。このため子供たちが必要とする情報が得られなかったり,電子メールを送ることもなかったりして,子供たちの興味は薄れてきた。かぼちゃもある程度生育したものの,花や実ができたのが夏休み中で2学期に継続しなかったことや,栽培条件が異なるため成長を比較しにくかったこと,観察方法の統一がなかったこと等から,期待した効果は得られなかった。これに対しての本校の幹事校としての働きかけも不十分であった。このまま全国的な交流が展開するまでには至らず,WWWページや相互のリンクも活発 にならない状態で,平成7年度かぼちゃマップは終了した。

・生かす

 平成7年度は,学校どうしの交流までは発展せず,プロジェクトとして生かす段階まで至らなかったものの,カボチャの生育に成功し,できたかぼちゃを使って料理を楽しんだ学校もあった。子供たちの期待を生かせずに終わったことは残念だったが,開始にあたって参加校の高い意欲,全国で同じ植物を育てているという思いは子供の活動の動機付けとしては十分であった。問題点は主に機器環境や教師側にあったので,それを解決できれば今後に期待の持てる計画であるといえた。そこで課題を整理して次年度に臨むことにした。

4 平成8年度綿マップ

・生みだす

 前年同様,100校のメーリングリストを中心に,栽培の条件,何を栽培する か等を協議した。特に前年度の反省からできるだけ品種,畑,種蒔き時期等の条件をそろえておこなうことにした。岡山芳泉高校の提案から,今年度は栽培するものを綿に変更した。綿は気候による生育差が期待でき,育ちが強く,教室や畑,温室などでも栽培できる。花が咲き,実ができてから一月後にはじけて綿ができる。変化があり,かなり長い間継続して楽しめる植物である。また,綿の活用も期待できる。種は幹事校の本校が購入し全国に配送した。100校プ ロジェクト以外にも声をかけ北海道から鹿児島まで24校が参加した。(植えた日時:5月21〜22日の正午)

・挑む

以下のような事例や実践が生まれた。

・メーリングリストの活用

 発芽マップのメーリングリストを100校事務局に依頼して作成してもらった。このリストを活用して参加校同士の電子メールによる情報交換が盛んにできるようになった。主に担当の先生が中心であったが,伝わってくる綿の生育の様子や子供たちの声が,子供たちの興味の持続に役立った。「栃木の北桜高校の生徒の○○です。5月28日正午12時に蒔いた綿の種が今日の朝芽が出ていました。11個中8個も芽が出ていました。まだ出ていないのもありますが、順調に育っています。これからもっと成長するので、これからの成長ぶりが楽しみです。」
発芽マップWWWページ
WWWページ

・WWWページの展開

 ほとんどの学校が WWWページに栽培している様子や成長の過程を掲載した。岡山芳泉高等学校や歌志内中学校などは参加校のリンク集作成し,WWWページ の全国版ができるまでは,参加校の多くがそれをもとに各学校の様子をとら えていた。データが手に入れやすくなり,それが更新されるため子供たちの綿に対する興味は常に高かった。

・生育差からの交流

 生育場所は基本的に室外としながらも学校によってはプランターであったり,畑であったりした。そのため厳密に比較できないが発芽,開花,結実等は野外のものは1ヵ月〜2ヵ月のずれが生まれ,綿の生育も地域差が出た。この生育差ならではの交流も生まれた。10月20日北海道の歌志内市立歌志内中学校から次のようなメールがメーリングリストに流れた。

「本校では障害児学級の生徒が育ててきましたが、残念ながら綿の収穫は望めませんでした。やはり、温室で育てなければだめなようです。9月頃までは生き生きとしていましたが、最近は朝晩の冷え込みが厳しくなり、今にも葉が落ちそうな状態になってきました。綿の収穫ができる地方がうらやましいです。たくさん収穫できた学校で、少し譲っていただけるところはありませんか?子どもたちに見せてあげたいのです。」

これを子供たちに紹介したところ

「ぼくたちは,たくさんできているから綿を送ってあげよう!」と言い出したので,さっそく本校の綿の実と綿を郵送した。その直後に歌志内中学校の綿の実から綿が顔を出し,お互いの学校で喜び合った。歌志内中学校の子供たちは,本校の綿と比べ在って喜んでくれたという。

・教科学習への発展

 生き物の様子を1年間調べる学習に綿を加え,本校,平野小学校,桜南小学校の3校で,3校同時の理科の交流授業を行った。平野小学校は栽培が最も成功した学校の一つであったがCU-SeeMe(テレビ電話)に映る山のような綿に本校の子供たちは感嘆の声をあげた。

「これがぼくたちの綿です。バレーボール1個分取れました。」
「平野小の綿はすごいですね。宮崎は暑いので虫が元気でした。葉っぱをずいぶん食べられました。」

CU-SeeMeを使ったリアルタイムの会話や画像は,子供たちを驚かせるとともに,授業のねらいを深めることができた。

・WWWページの全国版の作成

 本校は特に幹事校としてWWWページの全国版を作成した。地図上のボタンを 押すと各校の発芽マップのページに行けるクリッカブルマップの形式で,以降データ検索が簡便になった。
Click Map of Japan
クリッカブルマップ
Germination dates on Map
発芽マップ
Page of cotton
綿についての情報

・その他

 清水国際学園の提案で全国一斉観察日を決めて(9/20)お互いの綿の生育状態を比較した。背丈や綿の数のちがい,寒い地域の成長の遅れ等に子供たちは関心を深めた。同じく清水国際学園はアメリカと交流し,発芽マップを CottonGrowingProject として発展させ,アメリカのWWW情報を綿の栽培に役 立てていた。
graph of height
成長データ立体グラフ
Christmas tree of cotton
綿のクリスマツツリー
brooch of cotton
綿を入れてつくられたブローチ

・生かす

 収穫できた綿をどのようにまとめるかについて何回か意見のやり取りがなされた。林間小学校と平野小学校から綿を1箇所に集めて一枚の布にしてはどうかという提案があった。そこで参加校全てでそのような場所を探すことになった。綿を布にする場所はなかなか見つからず,三重大学教育学部附属小学校には三重県の綿手織センターも当たってもらったが条件面で折り合いがつかなかった。その後,林間小学校が卒業後も織物を続けている子供がいることを筑波大学附属養護学校のページから見つけ,正式に本人に依頼をして一枚の布にしてもらう受諾をいただいた。卒業生にとっては個人のWWWページを開いてからの 始めてのアクセスが発芽マップであったそうで,とても喜んでくれた。

5 おわりに

 全国発芽マップは当初インターネットを活用した総合的な学習の考え方から始められた。しかし実際は子供たちが喜びあふれる栽培体験ができたことが何よりの成果であった。各学校のページには花が咲いたときの写真,芽が出た喜びの声,成長を喜ぶ様子が掲載されている。電子メールで子供の声やお願いなどが各学校に届いている。テレビ電話で相手の学校の子供と話ができたり,他の学習に発展したり,交流が生まれたりもした。そのようにしながら子供たちは他の方法ではおそらく味わえない喜び「全国で同時に一つの植物を育てている実感」を味わうことになった。インターネットは学習意欲を高め継続 させる働きとして成立していたようである。また教師にとっても情報交換や協議を通して交流が深まるなど有意義な体験ができた。「一つのプロジェクトを参加校みんなのアイデアや努力で作り上げてきた」という思いもまた参加者全員が味わっているところである。小・中・高、特殊教育まで広がった広域な学校教育が存在することを検証できたという点でも興味深い。これらの意味から全国発芽マップは,ネットワークの有用性を子供,教師が体験できたプロジェクトであり,それはインターネットだからこそ可能だ<

 一方課題としては、観察データの共有という点で、条件をそろえた実践を図れば、より科学的な実践になるのではないか、という声がある。これらの声は、参加者からスタートやその過程において何度かあがっていた。栽培する植物とも関係において栽培条件や観察スペック等、来年度の実践においてぜひ検討したい事項である。また、ほとんど学校文化の中での実践であったことも指摘できる。学校以外に大きく広がったわけではない。この点についてはインターネットの可能性として、ぜひ検証してみたい。来年度は、学校教育外への広がりも図りながら再度実践していきたいと考えている。

(実践者 宮崎大学教育学部附属小学校 奥村 高明)


CEC HomePageインターネットを利用した授業実践事例集 平成8年度