分担・協業体制でコンピュータ利用を全校へ展開する


校務分掌「情報・視聴覚教育」の役割

 本校では,「情報・視聴覚教育」という校務分掌がある。新しい教育課程に求められる情報教育,視聴覚教育を具現化し,またそれを支える環境の整備を進めるのがその役割である。今年度は6名が配属され、多岐にわたる内容を分担・協業によって遂行する体制がとられている。これには,専門的技量の習得や,多くの労力を必要とする作業を円滑に行い,さらにそれを全学年の教育課程や校務全般へ展開させていくことが意図されている。

1 はじめに

 コンピュータを学校教育で利用したい時,必要な条件は何か。それは予算であり,機器の環境設定である。また,教師の研修であり,そのための時間である。さらには,全校への啓蒙,普及であり,教育課程への位置付けである。もちろん理念の確認は大前提である。

 だがそのすべてを実現するのは至難の業だ。現場での課題は多い。機器が古い,予算がとれない,購入品がニーズに合わない,私物マシンの持ち込みでなんとか凌いでいる。ノウハウが全校に広がらない,校内のごく一部の教師が,学校のどこかで過重負担を負いながら試行錯誤を続けている。ついには,ただの趣味の延長で仕事をしているかのような誤解さえ生まれる,担当者の異動後は機器が眠ってしまう・・・。こうした問題は,案外とあちこちの学校に存在するのではないだろうか。

 本校には「情報・視聴覚教育」という校務分掌がある。3年目になるインターネット利用等の本校の従来の実践と、今後への展望をもとに設置されている分掌である。前述した様な一般的課題に応える体制づくりとしての意図もある。以下に、その概要を記す。

2 校務分掌「情報・視聴覚教育」に寄せられた期待

▼資料1 校内運営組織中の位置

組織図
 本分掌の学校運営組織上の位置づけは,資料1の通りである。情報機器、視聴覚機器を利用した教育の研究・推進や、学校教育の情報化社会への対応等がその主な分掌内容である。これは新しい教育課程の創造をめざす本校の研究体制の一つとしての位置づけであり、実務を含む学校全般での情報化の推進も期待されている。

 今年度の構成は,各学年から1名ずつの計6名である。各メンバーは,他にも,教科・領域別にいくつかの校務分掌に所属し、連絡,意見集約,機器利用の促進等を全校体制と関連させながら遂行できるように意図されている。
▼資料2 分掌内の役割

役割

 また、各メンバーは、資料2のようにそれぞれが分掌内の何らかの責任者となっている。その役割分担に関する作業を推進し、必要に応じて他のメンバーにそのノウハウを伝えていくのである。例えば、校内の全マシンへの一斉インスツールのような作業の際は、1名の担当者がノウハウを習得し、他の5名はそれに従って共同で作業をする。従来は1、2名の担当者で多大な時間をかけていた作業が、数倍の効率で完了できる。またその過程で、互いにノウハウを学び合うこともできる。年度初めに多少のメンバーの入れ替えがあっても、それを継承していくことが可能である。

 このように,メンバー各々が自立して専門的な技量を身につけ,必要に応じて協業体制をとりそれを供給しあう。そして,全校へ展開する。ここには,効率的,合理的,継続的,波及的な効果が期待されている。この「分担・協業体制」が,この分掌の命である。

3 平成8年度の主な活動から

 本年度,本分掌は,教育課程編成と条件基盤整備の両面で,全校規模で展開するいくつかの大きな校務を担った。以下にその主なものを示す。(なお,分掌の担当領域は視聴覚教育も含むが,原稿の目的上,記述は情報教育の分野に絞った。)

(1)「パソコンタイム」のカリキュラム化とその実施

 本校では,本年度より教育課程に「パソコンタイム」を設置した。学校裁量の時間を利し,1・2年生は2週に1時間,3年生以上は週に1時間を配当している。

▼資料3 「パソコンタイム」の学年別内容配当表

配当表
 この時間は,情報機器の扱いを通して「情報リテラシー(機器の扱い方やそれに関わるモラルやマナー)」を身につけ,必要に応じて機器を活用し学習していけるようになることを目標としている。

 資料3は、学習内容の学年別配当表である。これをもとにして各学年の年間指導計画が編成されている。実施初年度にあたり,各担当者は,学習内容の妥当性や修正事項などについて,それぞれの学年での実践を通じ検討を重ねている。

(2)校内LANの拡張

 平成7年度末に,公的な予算措置のもと,校内を網羅する通信線が敷設された。平成8年度はじめには,本校の10BASE5ケーブル入り口部分にルータを設置,それまで属していた大学内LAN附属中学校一次網サブネットから分岐独立し,新たに二次網サブネット(agr-domain)を形成した。これによって本校独自で200台までのマシンの管理が可能になり,現在は,59台分のIPアドレスが登録されている。また校内のマシンは,すべてEthernet環境で結ばれ,マシン間のデータ転送を高速で行うことができる。(資料4参照)

 以上の校内LAN関係の仕事に関わっては,ファイルサーバの設定および運用の方法の習得,電子メールによる校内教官の意思伝達・決定システム導入の検討などの必要性が生まれた。各担当はそれぞれの役割に即して,校内LANの構築と運用に取り組んでいる。

▼資料4 校内LAN概要図

LAN概要図

(3)メールアカウント供給と各種メーリングリストの設定・運用

 本校では,毎年,電子メールの交信が始まる4年生にアカウントを供給する。(現在のアカウント供給数は,4年生以上の全児童と全教官あわせて約370である。)子どもたちは、在学中継続してこれを交信に利用する。また教官も,外部との交信はもちろん,校内の教官同士の連絡や,共同原稿の推敲作業,意見集約など,実務面で電子メールを利用しており、機器研修担当担当は、使用のガイダンス等を通し一層の利用促進を図っている。

 電子メールのPOPサーバへの登録等は,電子メール設定担当教官が行っている。本校内マシンからTelnetやFetchを利用し附属中学校内のPOPサーバを遠隔操作する方式である。OSはUNIXであり,各コマンドを利用してのプログラムは初心者には難しい。これについては、山梨大学教育実践研究指導センターの成田雅博先生はじめ,山梨大学教官のご指導を得ている。本年度は,まず担当教官がコマンド設定を丸覚えすることから始めた。これまでに下記のようなメーリングリストについてなんとか自力で設定を行い,実際に運用できるようになっている。
▼資料5(メーリングリストの設定画面の例)
ML設定画面


(4)WWWホームページの運営 ( URL:http//agr.yamanashi.ac.jp

 本校のホームページのトータルデザイン,ページ構成,外部からのリンク要請への対応などはWWW 担当教官の仕事である。学年毎のページについては,各メンバーが自分の学年の分を分担している。2学期には,WWW 担当者の用意した基本HTMLに,各学年の文字や画像資料をのせたり,部分修正をほどこしたりして,それぞれのページを作成した。この作業は,メンバーにとってHTMLによるホームページ作成の研修機会ともなった。

 昨今,児童の個人情報に関わり,学校のホームページの在り方が話題となっている。本校でも,児童の写真や個人アドレス等の情報については,事前に担当者が十分協議してページ上に公開するようにしている。(一例として,5年生総合学習の「幸せさがし」のアンケートがある。3学期から行っているこのアンケートは,子どもたち自身が作成した。協力者からの回答メールは,ホームページ上のボタンを通じて,子どもたちに直接届く設定である。インターネットの本質的な部分を大切にし,児童の個人アカウントによる交信をベースとしたのである。同時に,児童の顔と姓名が結びつかないよう配慮し,子どもたちへの回答メールについては、担当教官へも同時送信されるように設定した。これにより,子どもたちの肖像権の保守や犯罪介入等の可能性への対処を図った。)

(5)「あおぎりホール」でのシステム構築

 平成8年秋に増築校舎「あおぎりホール」が完成した。(「あおぎり」は校章にもデザイン化された本校のシンボルである。)1階には,情報教室,情報管理室があり,他の各部屋には情報コンセントが設置されている。建物の設計にあたっては、大学の施設課等関係部署による作業に,初期段階から本校の担当教官も参加し、現場のニーズをふまえた設計が進められた。(資料6参照)

 情報教室の全21台のコンピュータは,6名の担当教官によってAT EASE設定が施されている。これにより,学年別・クラス別に使用を許可されたソフトがそれぞれのパスワードによって利用でき,保存データの混在やセキュリティー上のトラブルも防いでいる。個人別の電子メールソフトについても,その本体はサーバにおき,各エイリアスを全てのマシンのAT EASE画面上にアイコン化している。これにより,教室内のどのマシンからでも,パスワードを通じて,個人別にサーバ上の書簡箱を開くことが可能である。

 情報管理室については,将来的に,校内LAN下の保存情報の多くをこの部屋のサーバマシンで集中管理する方向で検討を進めている。現在,より安定したセキュリティーの確保や各種サーバの合理的な運用に関する方法を,担当者全員で模索していくるところである。

▼資料6 あおぎりホール1階の平面図および情報教室での活動の様子
平面図と写真

3 予算業務について

 すべての条件整備は公的予算の執行のもとに成り立つ。本分掌にとっても,予算事務は非常に重要な事項である。特に昨年度から本年度にかけては,校内LANや「あおぎりホール」でのシステムなど,大きい予算枠の仕事が続いた。これには,大学の会計課、施設課、本校事務室など関係部署の多大な理解と支援を得て,予算担当教官もその業務に関わった。

 予算が必要な時は,まず要求書を作成する。目的,仕様を文章にし,購入希望品リストとともに提出する。もちろん作成した要求書の全てが認められるわけではない。幸いにしてそれが認められ,予算がついても,その後,公正・適性に予算を執行するために作成する書類量は膨大である。例えば,購入物品に関する「仕様書」,「機器明細リスト」,「選定理由書」などがある。総額一千万円近くの予算リストを,単価数千円からの物品で構成していく場合もある。その際は,数十項目からなる物品の詳細データの書類となる。

 情報機器の価格は,オープンプライス方式が多く流動的である。機種によっては,発売後3ヵ月もたたないうちに,実売価格が半値になってしまうこともある。そのため,実際の予算配分を考える際は,何カ月か後の予算執行時に,その機器がどのくらい安くなるのかを予測しながら,金額の見込みをつけていくような作業が続く。

 また,日進月歩のこの業界の商品は,製品サイクルが早い。予算の要求書に書いた機種が,実際の執行段階ではすでに販売されていないことも起こる。値段が高い方が必ずしも機能的に優れているわけでもない。製品市場の動向の細かい把握が必要になる。

 総金額が一定以上になると,入札による購入となる。その場合,コンペで選ばれた業者に予算枠内でのシステム導入を任せる方式ではない。学校から提示した仕様,物品に対して行われる価格競争入札であり,入札参加業者に示す購入仕様の決定は,担当教官の仕事となる。数百万円の取引に関して,1円でも安い業者に落札する。各業者も必死である。担当教官も非常に神経を使う。目的を満たすための一品一品の詳細な規格を調べ,各業者に仕様書で示す。読む業者による解釈の差がわずかでも生まれてはならない。当然,仕様書中の品そのものでなく,他のメーカーの同等品で入札しようとする業者も出てくる。それに関する業者からの質問には正確に応え,同等品の審査も慎重に行う必要がある。

 もちろん,機器の選定に関し、ある程度は業者に事前のコンサルティングを要請できる。しかし,コンサルティング自体への予算措置は今の所なく,要請できる範囲や回数には限度がある。担当教官が、いろいろと勉強をしながら、目的仕様、予算、コンサルティング結果の3つをにらみ何回もプランを練り直す。良心的にケーブル1本1本に至るまで細かいコンサルティングをしてくれた力のある業者が,実際の入札で落札するとは限らない厳しさもある。購入価格が最優先の決定条件となるので、その後のメンテナンス体制に多少不安を残す可能性も考えられるが、そのような事態は極力避けなければならない。

 本校のような国立校の場合は,前述した様に,予算要求から,購入仕様決定,機器選定まで,現場の担当教官が校内や大学の事務担当者の指示をあおぎながら進める形が多い。(公立校では,地教委レベルの担当事務官が中心となって進めていく場合が多いだろう。)担当教官にとっては,通常の学級経営や他の分掌と並行してこの種の仕事を進める点で,非常に骨が折れる。だが,現場のニーズと予算の両面をにらみながら,システムを構築していけるという利点がある。この点を今後も最大限生かすべきであると考えている。

4 次年度へ向けて

 すでに,解決が迫られているいくつかの課題がある。ファイルサーバ導入に伴うセキュリティーの確保,新機種導入の際行うクライアントOSバージョン統一作業の効率化,情報公開に関わる諸事項の検討,さらにこれまで同様,できるだけ予算を確保し,適正・公正に予算を執行していくことへの努力等である。まだまだ時間が必要なことも多く,他にも多くの役割を抱える各担当者にとって苦労は絶えない。教務面全般でも,多重の校務を効率的に推進できるような各種グループウェア等の導入が検討されるであろう。

 パソコンタイムの実施や、校内LAN拡張、「あおぎりホール」建設等、全校的なレベルでの仕事が続いた平成8年度であった。来年度以降もより一層の活動推進を図りたい。

(山梨大学教育学部附属小学校 情報・視聴覚教育担当
小尾俊彦 川原陽一 早川 健 守木 貴 饗場 宏 石川 等 ・文責 守木)


CEC HomePage インターネットを利用した授業実践事例集 平成8年度