「日米相互のステレオタイプの見直し」
(アメリカ・ハヴァーフォード大学との共同授業)
授業外の学習
1 目標
授業時間を相互に設定することにより定期的な交流を実現する。
英語の負担が日本側生徒に少なくなるように「日本語」での交流をベースとする。
日常的交流により相互のステレオタイプの是正を行う。
メーリングリスト、電子メール、CU-SeeMe等のインターネットツールを効果的に授業中で活用する。
論文あるいは交流レポートといった形で授業のまとめを相互に行う。
2 授業計画
日米担当教諭による、次回の授業テーマの確認(電子メール、電話)
アメリカ側生徒の論文作成に日本側が協力といった形をとる。テーマとしては「吉本ばなな」「日本の建築」さらには「水子供養」など様々であるが取組テーマをアメリカ側教師と打ち合わせる。
ハヴァーフォード大学からの呼びかけ
毎年、ハヴァーフォード大学の日本語4年の授業では、秋学期に、各々、学生が日本関係のテーマを選んで研究し、発表することになっております。今年は、研究手段の中に、インターネットも取り入れることにしました。その意図は、本、雑誌、インタビュー、地域の日本人に対するアンケートなどのほかに、ウエブページ、電子メール、オンライン会議などによって、研究のはばを広げられたらという願いからきています。
お読みいただけましたら、ぜひ、八人の学生たちの中間発表レポートの質問に、皆様のお答えを送っていただけませんでしょうか。学生たちは12月の最終レポートには、その答えをまとめて、発表することになっています。なお、プロジェクトに対するご質問ご意見などは、日本語4年担当の小池 ykoike@xxxx.xxxまで、お送りください。
学生たちのテーマ
- オウム真理教について
- 吉本ばななについて
- 和食について
- 日本のホームレスについて
3 これまでの経緯
ハヴァーフォード大学は日本語教師、小池代子先生の指導のもと、インターネットを活用した日本語修得、活用に力をいれている。これまでこの大学とは CU-SeeMe等を活用した交流を実施してきた。このような実践の中で日本の高校生の考えていること、あるいはアメリカの大学生の日本語習得のねらい等明らかになってきたが、この授業はそれまでの、ただ単にインターネットを使った交流にとどまることなく、「共同授業」として取り組んだところにその特徴がある。
毎回テーマを決め、一週間かけて下調べを行い、それを授業の中で発表 しあい、さらに最終的にそれをレポートとしてWeb上に発表するのである。
4 本時の学習内容
ここでは「日本食について」を例に取る。
・アメリカ側からの質問を知る。
「外食の時どんなレストランにいくのか。大人はどんな物を食べて、子どもはどんな物をたべるのか」「醤油はどんな時に使うのか」「アメリカではてりやきが大人気だけど日本ではどうか」など電話、電子メールを使い、質問項目を担当教師同士でまとめ事前に生徒に知らせ、下調べをさせる。
テレビ会議参加者とメーリングリスト参加者に分ける。
日本側CU-SeeMeの参加者をだいたい4人とし、他はメーリングリストへの投稿の準備をさせる。
当日
授業前に教師同士でCU-SeeMeを使って簡単な打ち合わせを行い、回線のチェックなどを行う。回線状態が悪いときなどの対応方法を検討しておく。今まですべてうまくいっているが、その対処法として電話の活用、CU-SeeMeのチャットの活用とう次の手段を考えておく。
授業開始
CU-SeeMe参加の生徒が画面を通してリアルタイムで向こうの大学生と日本語で交流を行う。他の生徒はしばらくCU-SeeMeのやりとりを聞いた後、メーリングリストに日本食に対する自分の意見を投稿する。
「味噌汁以外に・・の質問には驚きました。私は毎朝パンを食べていて、この頃の高校生は・・・」と意見はどんどん出る。
毎週同じ質問を受けることによって「この人は和食の人だ」「吉本ばなな」の人だとの声がでるようになる。 |
この画面を他の生徒も一斉転送によって見ることができる。 |
他の生徒はメーリングリストへの書き込みによって授業へ参加する形態をとる。 |

・学生リーさんのレポート
日本とアメリカの和食
高校の時、親友が日本人だから、日本についての物と和食に興味を持ち始めた。彼女はアメリカに来る前に自分で日本でいつも日本料理を作って、上手だから、高校でアメリカの日本料理と日本の日本料理の違うことの不平ばかり言った。寿司の他に、天ぷらの方も相異点がある。それに、うまさも同じじゃない。日本で出来たえびの天ぷらだったら、そのえびは直立して、天ぷらははながさいているようだ。でも、アメリカの天ぷらははながさかせられなかったり、えびも曲がっている。概して、日本の和食とアメリカのと全然違う。アメリカの和食は大味、簡単、単調で、比べ物にならない。また、レストランの主人の国籍によって、料理の本質が違う。アメリカにある日本料理屋の主人は日本人なら、料理のスタイルも風味も日本らしい。でも、主人は日本人じゃなかったら、(例えば、韓国人、アメリカ人、中国人。。。他の国籍の人)、日本料理みたいだけど、やっぱり米国風にする。
質問
:アメリカの和食は、比べ物にならないぐらいまずいと思いますか?寿司と天ぷらの他に、何かアメリカと日本の和食の相異点もありますか?質問へのご意見ご返答は、japan14@haverford.eduに、お送りください。(一部編修)
・日本側生徒のレポート
このような授業の後、日本の生徒は交流レポートを作り上げていく。私はこれも評価の一手段としている。生徒の一人は次のようなレポートを作っている。
☆★ハヴァーフォード大学交流レポート★☆
3年3組00番 00 00
私達は2学期始めから、ハヴァーフォード大学と交流してきました。下のメールは、そこの大学生で、スコットネーゲルさんという方とのメールです。日本語を勉強しているということで、日本語でやりとりしています。
・日本語で交流することについて
外国人と、日本語で交流するということで、変な感覚でしたが、全く違和感なく、交流しています。
・日本語学生の会話能力について
すばらしいと思います。気持ちがよく伝わってきます。
・文章能力について
会話能力と同様に、すばらしいと思います。
時々、間違った使い方をしていますが、その時は、直してあげています。
・日本に対する理解について
日本に興味があるひとばかりで、日本の音楽、アニメなどにも詳しく、日本が好きと言う気持ちが伝わってきます。とても嬉しいです。
・CU-SeeMe(音声・画像のリアルタイム交信)
リアルタイムで交流することで、電子メール交流より、相手を身近な存在に感じることができます。また、相手の表情がわかるということで、片言であっても、心でつながっているといった感じです。
・相手からの質問内容について
やはり、日本の文化や、考え方についての質問が多いです。
・インターネットを使っての感想
インターネットの良いところは、画面を通じて、どんなに離れている人でも気軽に友達になれ、交流ができるところだと思います。
私は、インターネットを通じて、世界の色々な人と、交流をしてきました。やはり、文化や、生活などは、比較してみてもかなり違うし、また、似ているところも見つけることができます。
インターネットは、これからもどんどん普及し、活躍していくと思います。
このような、貴重な体験ができたことに改めて感激しています。
5 評価
この共同授業を通して生徒はいくつかのコンピュータリテラシイを身につけたように思う。
CU-SeeMeの取り扱いを修得し、映像、音声のリアルタイムでの交信がどれだけ相手を身近に感じることができたかを把握できた。さらに音声をまず優先させる交信を行ったことによって、パケットの概念が育った。また電子メールの中に映像を入れたいという願いから、デジタルカメラの扱い、bmp、gif ファイルの扱いまでできるに至った。
放課後、授業で知り合った学生と自分が留学するためのアドバイスを電子メールによってもらうなど「生活にインターネットを活かす」動きがでてきている。
もちろん英語と日本語の交流によって英語にたいする抵抗感が無くなり、英検受験者も増え、成果を得ている。
6 まとめ
・日本語での交流
日本語コースの学生さんと交流することで生徒はのびのびと自己表現できている。このように日本語を使った交流は特に日本語コースをもつ海外の大学、高校からその希望は多い。またロスやヒューストンなど日本人コミュニティをもつ地域からの交流希望もあるが、現地邦人を支える意味でもこれからの交流の形として発展していくと思う。生徒にとってみれば「相手の日本語が間違っていても何が言いたいのかよくわかる。質問をしてあげてコミュニケーションを助けてあげるようにしている」という。英語での会話、交流の場面もあるが、そのときには自分が助けてもらっている。同じ学習者としての共感、さらには間違っても使っていくことが語学学習、時には表現を借りる英借文も大切である事を認識しつつある。「死ぬまで学問」と勝海舟は言ったが、生涯教育をインターネットが支えてくれることを期待している。
・ツールの活用
電子メールだけでなく、メーリングリスト、Cu-SeeMeなども活用し、授業が単調にならないように工夫している。テーマが明確になることで、How are you?My name is--- といった自己紹介だけでとぎれがちな国際交流を授業として取り組むことが出来ている。多くの学校に国際交流をみていると、自己紹介のあと1、2回のメールのやりとりで交流が途絶えているケースが多い。原因として、話が続かない、あるいは続けにくいテーマであったりする。このような問題点を取り除くためにも書きやすいテーマを担当者が与えていくことが必要と思う。最近フィリピンの学校と交流を開始しているが、まつり、餅つきの写真を見せたところ多くの質問がやってきた。異文化理解と言ってもこのようなことをテーマとしてメールをキャッチボールするだけで十分その成果が上がるのではなかろうか。
・新しいキーワード、コラボレーション
アメリカ・ハヴァーフォード大学との交流は相手は論文を書き、日本をその交流をレポートとしてまとめるという、コラボレーションが成立している。自己紹介だけで終わる苦い交流の経験からいろんな学校の先生が経験の中から生み出したキーワードがコラボレーションである。その形は学校にによって異なるであろう。しかし何か共同で最後にできあがる物がそれは交流に活力を与えるように思われてならない。
・今後に向けて
「メールを始めると生徒が生意気になる?!」と他の先生からよく注意をうける。確かにそうなってしまうのだ・・。しかし悪いことであろうか。インターネットは画面の向こうが海外だ!国際交流にはもってこいのツールだ!とよくいわれる。確かにそうである。朝生徒が送ったメール返事は早ければ時間内に届くし、その速さゆえへ、放課後に生徒がインターネットルームになだれ込むのである。私がインターネットを始めたもっとも大きな目的として、すぐにいじけて自分に自信のない日本の高校生に、異文化の中で培われた全く新しい視点を与えれば、きっとその島国根性から脱して、自分自身を新しい眼で見てくれると思ったからだ。アメリカのティーンマザーの高校生のメッセージに「日本だったら絶対に子ども抱えて、学校へなんか行けない・・」「高校に託児所があるなんて・・」「世間からはねられてしまう・・」いろんな揺さぶりがかかってくる。「あんた達日本人は嫌いだ、第二次世界大戦で私の親戚は大変むごい殺され方をしたのでその事がどうしても忘れられない・・」という中国からのメッセージに「そんなこといわれても・・」と関東軍について調べ始めた生徒もいた。そう、このように生徒に揺さぶりがかかってくる。揺さぶりの中で自分の生活を見つめる眼が育ってくると思うのだ。またその事によって情報を発信していく力が付いてくる。
(報告者 名古屋市立西陵商業高等学校 教諭 影戸 誠)
インターネットを利用した授業実践事例集 平成8年度