情報活用と著作権のかかわり


 生徒が情報発信しようとする際,参考にした文書やアイデアが思わぬ波紋を呼び,著作権に関する問題になることがある。学習活動には教科書・新聞・文献の模写や加工がある。インターネット利用は学校で行われる活動の延長ととらえただけでは,校外との摩擦を生むことになる。この報告は,著作権との係わりの中で生徒が悩み,そして解決していった過程を述べる。

1 初期のホームページ作成

 本校のホームページが作成される過程は,内部・外部からの期待だけではなく,授業の一部として活用する枠組みができていたため,導入と同時に情報発信の道具と情報発信の過程の学習初段階として利用をしたため,どうしても急ごしらえの観があった。経過を述べる。
平成7年
4月12日 教師の手による,Macintosh 21台によるEthernet環境 の整備。(MacTCPの設定)
4月中旬 授業開始・課題研究の概要説明及びHTMLの講義開始。
4月28日 サーバーの搬入・設置。
5月 1日 NOC とpingが通る。
5月 2日 フリーソフトのInternettool をインストール。
5月 6日 英語版ホームページ作成(SINET 内では見えた)。
5月 7日 テレビ局の取材・数日後放映。
6月下旬 SINET 外へ出ることが可能。
7月中旬 課題研究成果のHTML化とWWW による発表会。
8月中旬 IBM 機41台のインターネット接続完了。
 初期の段階では,日本語環境の設定がよくわからず,英語環境の中で出発した。そのため,学校紹介はすべて英語であった。また,最初のホームページを作成したのは当時3年生の田子周作君(現,東京農工大)でテキストデータ入力は他のコンピュータ部員が手伝い,HTML化は自宅のDOS/V 機で徹夜で試行錯誤せず完成してきた。学校のMac で確認後,教師の手でサーバに登録した。

 当初は,こんなに情報が蓄積するとは考えられず,ディレクトリの構造化に甘さがあり,現在も網の目状態が残っている。ともかく,UNIXサーバーの2G のHDD の増設や,10Base5 の幹線を通すなどネットワーク環境の整備を進めた。

 また,大学院に行っているかつての教え子にボランティアSEとして教えてもらいながらシステム関係も整備していった。

2 ホームページの作成方針

(1) ルート

 基本的には,本校はルートの下に学校紹介,授業成果など学校側が管理する情報をおき,生徒個人フォルダーに各自のデータを保存する仕組みを取っている。生徒は自分のアカウントで必要ファイルをFTP できる。その結果,かなり,自由な環境で自分のホームページが作成できる仕組みは整備した。

 平成7年当時は,インターネットの爆発期であり,本校のホームページはいくつかの雑誌に紹介されていた。ただ,インターネットの現状を考えれば,必要以上の画像ファイルを置くこと,修飾のための工夫は敢えてせず,テキストベースを維持している。

 内容的には,学校紹介は簡単に行い,生徒の課題研究作品をできる限りのせていくことにした。情報の蓄積を目的としている。もちろん,外部にリンクが張られたりはしているが基本は授業でのプレゼンテーション用や評価会のための作品として後輩のための資料としての利用が中心となることを考えている。

(2) 生徒用フォルダー

 現在,個人フォルダーに学校用ホームページからリンクできる状態でホームページを持っている生徒は15人である。1年の情報科学の授業を通して全ての生徒が文書をHTML化することをやっているわけだが自発的に情報を発信しようとする生徒は少ない。もちろん啓蒙活動も少ないのかもしれない。

 自分の写真・住所・電話番号等は載せない,著作権に考慮して他人の迷惑になることはしないことなどを約束して始めた。

3 著作権との係わりとイントラネット

 インターネットで公開が難しい情報は,インターネットの仕組みを利用したイントラネット環境で利用できる。

(1) 公開しにくいホームページの例

 出版物を参考に情報を加工する場合,出典を明白にすることによって,その考え方,内容を利用することは日常行われてきている。創造性とは決して無からできるものではなく,目的を持って,多くの情報を収集し加工する中で新たな思考,すなわち創造が生まれるのではないだろうか。しかし,高校生における情報加工は問題を起こすことがある。

 本校で行われている情報科学は,課題研究的授業展開をしている。図書館の蔵書を中心とした文献調査から始まり,実験データの処理と活用など,コンピュータから少し離れたところでの活動を重視し,コンピュータを使わざるを得ない設定をしている。事前の準備なしにコンピュータに向かっても意味がないので,図書館へ追い出すこともある。この場合,自覚の無い生徒は,文献の丸写しをしがちである。

 著作権にたいする講義をしても,安易な道を選ぼうとする。1年次における全生徒が作成したある項目に対する調査研究は,文献の引用が多すぎ,ホームページにのせることはできなかった。もちろん,クラス毎の評価会や次年度の生徒への参考のため,校内でのみ見える設定をしている。

(2) 公開できないホームページの例

 もともと,公開できないホームページも存在する。1冊の教科書を丸ごと段落毎に打ち込んだ場合である。校内でのみ使用という条件で教科書会社の了承を得て,教科書を購入している生徒が自分たちの教科書を分担して打ち込んだ。データ入力自体は約1時間で終わる。このデータをCGI を使った検索ツールで,専門用語で検索しその結果を表示する仕組みをつくった。例えば,「アルコール」という言葉で検索すると,糖やエステルの項目からも見つけだされる。この結果を有意な線で結び構造図を作成させた。極めて高い学習効果をあげる。授業の概要はつぎに載せる。

http://inetsv1.daimon-hs.daimon.toyama.jp/education96/daimon96.html

 今後,インターネットで使えるように私たち自身が電子参考書を作っていくしかないと思う。ネットワーク上で協力してもらえるのならかなり早い時期に完成するものと思われる。また,さらに,高い付加価値もつけられると思う。

4 インターネットと生徒の情報発信意欲

 世田谷区の小学校の事例がもとでいくつかの質問がきた。個人情報の他に生徒の著作権をどう考えるのかと,例えば,本校の情報コースの課題作品を集めたホームページは問題がないかなどである。

(1) 数学におけるプログラムの公開について

 とくに,数学のプログラムの公開が生徒の著作権を侵害してはいないかというものがあった。生徒にとってプログラムで数学を表現した公開質問状のようなもので,その返事を待って課題を深めていくことが主眼である。

 本校の情報コースは,2年次から生徒の任意選択である。課題研究を通して情報の収集・加工・発信をすることを目的にコース選択している。彼らは電子出版の意図を持って意見をプログラムの形で表現している。その反響をもとに新たな情報発信の意欲を持つことが確認されている。成長段階の生徒にとって発表することの必要性は高い。また,発達段階からいっても高校2年生からはかなりしっかりして,判断力もついている。

 歴史的に,インターネットは学術論文の分散型集積をはかる意図があった。本校がつながっているSINET そのものが,「学術研究目的に主眼がある」などと言われていた。当時は,生徒に学術論文を発表するようなつもりでがんばれと言ってた。

(2) 生徒の個人ホームページ

 次にクラブ生徒の作品の著作権者は製作した生徒で,責任も生徒であり,生徒用のフォルダーの中に自分達の作品を収納している。社会通念上よくない内容の場合,検閲ではなく話合いの上,(ネットワーク管理者の立場で)指導し,自ら変更するまで待っている。しかし,生徒は,時間的自由が少なく,作業も緩慢なことがあり,他から指摘されてもすぐに直すことができない場合もある。

 次の様な事例があった。

 富山弁講座を作っていた生徒がある出版社からかなり強い語調で著作権侵害の警告を受けた。その出版社でも富山弁を扱った出版物があり,著作権法違反的語調の上,「先生方はどのような指導をしておられるのですか?」という指導方法の質問も含まれていた。詳細を調べたところ,全体としてのアイデアに対する部分とかなり特殊な用法の引用に対する警告であった。さっそく,その部分を削除の上,某出版社編集担当と細部すりあわせの上再度公開している。

 本人もホームページ上で次のように書いている。

 「このページを作るにあたっては,(株)***さんから許可を得まして,(株)***さんから発行の「とやま弁***」を参考にさせていただいております。どうもありがとうございます。」

 尚,多方面から反響がありそのメールなども相手の了承を得て公開していた。さらに,県外の多数の学校の教材にも使われているようである。

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5 最後に

 インターネットの導入と,積極的な情報発信が,閉鎖的な学校内において,従来考えもできなかった事例が次々おこす。特に,著作権に対して従来の指導では本質的に学ぶことがなかった。幼児が小さなやけどをして初めて火のこわさを知り,火を制御することを知る。絵本で火を見ていただけで火を理解することはできない。上記の場合,生徒は,一時的に問題が起きたことに対して衝撃を受ける。私たちも,警告を受けてからその実態を知る。本人は,そこでくじけるのではなく,問題点を解析し他との折衝の中で自分自身で望ましい方向へ導いていっている。教育的には価値があることである。しかし,今後のネットワークの進化はこのような事例が加速度的に増加するものと推察される。情報化社会を観念的に教科書だけで指導することは,火の現象を体験させず火を教えようとすることに等しい。また,現実に,情報化社会を知らない教師が情報化社会を教えることもできないのではないだろうか。

 本校が100校計画遂行の中で維持したコンセプト「オープン化」「ティームティーチング」「外部からの助言」は,明るい面だけでなく,影の部分を克服していくのにも必要である。警告を受けることのない最新の注意も必要であるが,情報発信意欲を削がないように情報を発信させ情報化社会に生き残っていく実戦的教育も必要である。

(実践者 富山県立大門高等学校 藤井 修二)

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