これが私の伝えたいことであり,ネットワークを学校教育に導入する場合に理解し,重視してもらいたいことである。本稿では100校プロジェクトで提供されたインターネット環境を使った実践から,環境の構築や授業以外での実践を,苦労した点なども交えお話ししたい。
詳しくは後述するが本校のネットワーク環境について簡単に述べておく。
100校プロジェクトで64kbpsのデジタル専用線の提供を受けている。クライアントはコンピュータラボをはじめとする校内の6カ所約50台。これらは終日開放しており,電子メールアカウントを持っている生徒(約130名)はいつでも利用可能である。
Mid Pacific InsttuteのMelvina Kurashigeさんからのメールもそのひとつだった。交流希望の内容の電子メールを日本の学校に手当たりしだいに出されたようである。その1・が1995年11月23日に私のもとに届いた(Melvinaさんは日本語の教師であり,日本語教育にネットワークを利用されるのに非常に熱心な方である)。サーバの状態も安定してきていたので,姉妹校との交流などで試験的に発行していた生徒のアカウント(電子メールアカウントは原則として個人に発行すべきだと考えている)を広げ,電子メールによる交流を行いたいと考えていたからである。
次に起こった問題は学校でのガイドラインを考える上で重要であろう。生徒の割り当ての都合上,最初のハワイからのメールはすべて私あてに送ってもらい,私から割り当て生徒に転送するという方法をとっていた。あるハワイの生徒から2のメールが届いていた。1はまともな内容であったが,もう1には日本語で卑語ととれる言葉が書かれていた。すぐにこのundesirable mailについてMelvinaさんにメールで連絡を入れたところ,次のような解答が返ってきた。
複数の参加校による個人アカウントによる交流なので,生徒間のペースを保つのがむずかしいことが予想された。ハワイ側は授業の一環であるため,メールを出すのは授業でコンピュータ室を予約した日(週1回)のみである。メールの内容についてもある程度テーマを決めた。これがペースを保つのには役だった。また日本側の参加校の行事日程(定期試験など)を担当者から知らせてもらい,ハワイ側の日程とつきあわせ調整した。これらの調整には担当者用のメーリングリストをつくり,使用した。
日本側生徒に対しては電子メールによるニュースレターを私の方で発行し,連絡やスケジュールを調整するようにした。たとえば岩井高校の生徒さんからいただいた日本語のローマ字表記についての質問などについてニュースレターで統一をはかるようにした。
電子メールがうまく届かないという事故もかなりあった。個人メールなので,生徒が欠席していたのか,メールアドレスを間違えたのか,メールが遅延しているのか,メーラソフトの問題なのか,どれが原因なのかつきとめるのが難しい。電子メールのシステムが不安定な学校もあり,最後まで悩まされた。予想されるトラブルとその対処を各学校の担当者にあらかじめ理解してもらい,対処すべき問題である。
ハワイ側が授業の一環で行った交流のため,回数的にも内容的にも自由なメールの交流とはいかなかった。ハワイ側の生徒間で関心の度合いが異なり,日本の生徒にとっては「当たり外れ」があった。メーリングリストを併用してみるのもひとつの解決法だろう。おれのメールはメーリングリストに投稿してもらうことにした。
最大のキーはやはり人,コーディネータである。Melvinaさんや国内の担当者とのやりとりは200を超えた。4月以降は私自身の時間が十分とれなくなり,コーディネータとして十分サポートができなかったのは心残りである。 私自身は理科の教員であり,高校時代は英語が大の苦手であった。その片言英語の浅学非才をかえりみずコーディネータを引き受けたのだが,この程度のコーディネートは可能である。
(キーパルの記録はhttp://www.takatori-hs.takatori.nara.jp/100PJT/95KEYPAL/keypal-index-j.htmlにある)
1996年9月からもキーパルを予定していたのだが,私の都合で断念した。つまりコーディネートのための時間を割けなくなったのである。現在Melvinaさんは大阪市住吉高校との間ですばらしい交流を行っている。
多田教諭は生徒さんの国語力を高めたいという強い期待をこのメール交換に持っておられた。ろう学校での主要なコミュニケーションは手話である。手話では身振りや手振りで単語を表現する。たとえば「私の名前は○○です」を,
(私)(名前)(○○)というように表現する。つまり日本語の助詞に当たるものは手話にない。そのため生徒によっては,
「私が名前に○○です。」のような文章を書いてしまう。これでは就職の際に問題となる。といって国語の重要性を訴えても,生徒にとっては必要性を感じないから国語の勉強に身が入らない。しかし電子メールでの文・であれば,生徒も興味をもって文章を書くようになることが期待される。
ただし間違った文章も訂正はしない。交流を続けていくなかで自分の文章の間違いに自ら気づいてくれるのではないか,という多田教諭の方針である。
メーリングリストの運用を始めて,2カ月間に100を越える電子メールが飛び交った。最初はメーリングリストにとまどっていた生徒だが,2〜3メールを出すと慣れてくる。ひととおり自己紹介が終わった段階で,ボランティア部の部長さんにお願いして,テーマを出してもらってメールを書いてもらっている。NHKの朝のニュース「おはよう近畿」でも取り上げていただいたこともあって,最初3人だったろう学校の参加者もしだいに増え,14名になった。お互いの学校を訪問しようという話もメーリングリストで持ち上がり,7月25日には本校のボランティア部の生徒がろう学校を訪問した。
ろう学校には幼稚部から高等部・専攻科まで設置している場合が多い。異なる校種では生徒がつき合う機会がほとんどない。日本語能力に対して効果があるのかどうかは分からない。とはいえこのような交流によって学校に新しい風が吹き込み,双方の学校の活性化に役立つといえよう。
年が明けて新しく奈良県立ろう学校の生徒さんにも参加してもらえた。先生の代理アップだが,輪が少し広がったのはうれしい。本来は同じ学校で学んでいければと考えているが,このようなメーリングリストによりお互いに離れた異種学校間で身近な交流できる点は大きい。少しずつこの輪を広げていきたいと考えている。
本校のコンピュータラボには42台のMacintosh LCIIがあるが,Apple独自のLocalTalkという規格のLANが使用されている。もともとは室内だけのネットワークだけであったが,100校プロジェクトに先立つ1993年春に職員室・事務室・進路指導室に延長した。工事予算があるわけではないので線材(2万円)だけなんとか都合してもらい,あとは校舎設計図をにらみながら3日間天井裏をはいまわり,配管内にケーブルを通したものである。この時手伝ってもらったのが副担当の事務員,中西清貴さんである。彼の知識と技術がなければこのLANはありえなかったし,現在のように自由に校内のあちこちからインターネットを利用できる環境はありえなかった。
Ethernetのような汎用のLAN規格であれば簡単にクライアントを増やせたのだが,残念ながら本校の「基幹」ネットはLocalTalkである。校内用のメールサーバをMacintoshで立ち上げ,校内でだけ電子メールが利用できる「イントラネット」にしていた事も一時あった。幸いゲートウエイソフト(Apple IP Gateway)により校内LANをIP接続することができた。これもソフトを購入する予算(3万円弱)がなかったので,業者の方から半年間立て替えていただいていた。最近図書館までEthernet(10Base-2)を仮設したのだが,これもケーブルを買っただけで(とりあえず5カ月間使えればいいので)廊下にビニルテープ止めである。クライアント50台といっても,このような手作りのLANにすぎない。
ネットワークやこれに関わるソフトウエアについては,ネットワークニュースやメーリングリストでいろいろな方から親切に教えていただいた。WWWブラウザも電子メールのメーラなどのクライアント用のソフトも,フリーのオンラインソフトや教育機関無償制度を,ありがたく利用させていただいている。この場を借りて感謝したい。
コンピュータラボは終日開けており,情報活用の授業を受けている生徒やアカウントを持っている生徒には,空き時間自由に使ってもらっている。メーラはEudora-Jを使っており,電子メール用のフロッピーで管理している。コンピュータラボは校舎の最上階にあるので,急ぎのメールを出したい場合には進路指導室のクライアントを生徒が使うこともできる。
いろいろと観察しているのだが,コンピュータ操作のリテラシーは中学校ではまだ身についていないようで,敷居は高いようだ。どんなサイトがBookMarkに登録されるかと,関心を持って観察していたのだが,いまだにBookMarkに登録できることまで「発見」した生徒はほとんどいない。それでも雑誌に載っているURLを調べてきては,見たい一心でチャレンジしている。芸能人のページは大はやりである。不親切なようだが,手取り足取りは説明しないように心がけている。自分で目的を持ち解決する力がもっとも重要だと考えるからである。