インターネットによる積極的な情報発信を目指して

−インターネット木工作品鑑賞会,「情報基礎」での英語版ホームページ作成−


実践の概要

 インターネットによる積極的な情報発信を目指して,「木材加工」領域の学習で製作した作品「整理だな」を教科のホームページに掲載し,アドバイスやコメントをインターネットを通じて寄せていただき,それを自己評価にいかすインターネット木材加工作品鑑賞会の実践,昨年の日本語版に引き続き「情報基礎」領域での英語版ホームページの作成の実践を試みた。

1 (1)インターネット木材加工作品鑑賞会(中学校1年技術・家庭科 「木材加工」)

  (2)英語版ホームページの作成(中学校3年技術・家庭科「情報基礎」)

2 はじめに

 本校では昨年度から100校プロジェクトによりインターネットの利用が可能となった。そこで,長年の情報教育の取り組みの中で課題として残っていた情報発信に焦点を当て,日本語版学校紹介のホームページの作成の実践を3年生の技術・家庭科「情報基礎」の学習の中で行った。一人一ページを分担することで自分たちがホームページ作成の一翼を担い,情報発信の仕方を学ぶとともに,情報発信への意欲の喚起,国際意識の高揚,情報発信者としての責任やモラル意識の育成にも役立った。現在,審議が進められている第15期中央教育審議会が昨年7月に提出した第1次答申の中でもインターネットなどの積極的な学校教育への利用が提案されている。コンピュータとインターネット等の情報通信ネットワークの利用により,「閉じられた空間」としての従来の学校から「開かれた学校」への転換が模索されている。

3 本実践のねらい

 ここ数年の急速なインターネットの普及の状態を見ても,これからの社会は確実に高度情報化社会へと進んでいくと考えられる。高度情報化社会に主体的に対応できる資質を養うことは,単にコンピュータが操作できるというだけでなく,自ら情報を発信できることが重要になる。従来の新聞やテレビ・ラジオなどのメディアの一方的な受け手としてのあり方から全世界に有用な情報を積極的に発信し,自らの存在をアピールしていく発信者としての教育が重要となってくる。インターネット木材加工作品鑑賞会の実践では,新たな取り組みとして学校の外からの自分の作品への評価をいただくことで新たな学習の意欲や成就感につながるものと考えた。また,昨年の日本語版に引き続き行う英語版ホームページの作成の実践では,国内だけでなく世界に向け情報を発信することで,国際意識の高揚や国際理解,情報発信者としての責任やモラル意識を高めることを目標とする。

4 指導計画

kanshokai no nagare (1) インターネット木工作品鑑賞会

1)指導計画(木材加工)

 第1次  木材の特徴や性質     5時間
 第2次  構想の表し方       3時間
 第3次  カセットテープ立ての製作 8時間
 第4次  整理だなの製作     18時間
 第5次  木材加工のまとめ     1時間 本実践

2)インターネット木工作品鑑賞会までの流れ

右にインターネット木工作品鑑賞会までの流れを示す。

(2) 英語版ホームページの作成

1)指導計画(情報基礎)と学習内容

 第1次 情報とコンピュータの役割  1時間
 第2次 コンピュータの基本操作とソフトウェアの利用 14時間
  1.コンピュータシステムの基本的な構成と各部のはたらき
  2.図形作成ソフト(パソコンクロック)
  3.表計算ソフト(電気料金表)
    1.2.3はCube2による実践
  4.データベース(Jリーグ選手名鑑)
 第3次 コンピュータのしくみ    1時間
 第4次 プログラムの作成      6時間
 第5次 コンピュータによる情報発信 5時間
  1.インターネットの利用     1時間 本実践
  2.インターネットホームページの作成 4時間

2)英語版ホームページまでの流れ

 画像ファイルの作成を生徒に行わせる訳であるが,事前に図形作成ソフトの学習を行っているので,スムーズに学習に取り組めた「情報基礎」は選択領域で20〜30時間の履修が求められている。コンピュータ嫌いを作らないという観点から生徒が興味を持ちやすい図形作成ソフトの利用から始めているのが特徴である。実践の中心となる「インターネットの利用」「インターネットホームページの作成」には5時間を計画した。「情報基礎」の学習のしめくくりとして,実際にインターネットの利用の体験をさせ,ホームページの画像ファイルを作成し,実際にホームページ上に載せる作業を見せたり,自分たちが作成した画面をインターネット上で確認させる授業を予定している。

5 実践のあらまし

(1) インターネット木工作品鑑賞会

1)ホームページ

gijutu-ka pagehon bako page

2)指導案

本時案(計画 第5次)
目標
  • 次の製作への意欲につながるように,完成した整理だなを自己評価, 相互評価することができる。
  • 「情報発信」としてのインターネットの利用しかたが説明できる
学習活動
指導上の留意点
備考
1. 本時の学習活動を知る。 本時は,完成した整理だなの作品観賞会を行い学習のまとめを行うことを知らせる。
2. お互いの作品を見て,相互評価を行い,感想を発表する。 作品を見て相互評価を行わせ,感想を発表させる。 自己評価活動
(1)鑑賞を行う際の留意点を聞く。 (1)鑑賞を行う際には,次の点に留意して相互評価を行わせる。
  • 作品のできばえや工夫している点,作業上の留意点に対する感想
  • 自分の経験を元にしたアドバイス
構想2のプリント

工程表
整理だなの作品

(2)留意点に注意しながら,作品を鑑賞し,感想やアドバイスをまとめの プリントに記入する。 (2)構想2のプリントや工程表にも留意しながら作品を鑑賞し,感想や アドバイスをまとめのプリントに記入させる。 まとめのプリント
(3)友人の作品を鑑賞しての感想を発表する (3)友人の作品を鑑賞して,できばえや工夫している点,作業の工夫等の 感想を発表させる。
3. インターネットを通じて,自分の作品の感想を知る。 インターネットを通じて寄せられた作品に対する感想を知らせ,自己評価の参考にさせる。 パソコン
(1)ホームページ上で各自の作品が紹介されている様子を見る。 (1)ホームページ上で各自の作品が紹介されている様子を見せ,インタ ーネットを通じて全国の人に見ていただいていることを知らせる。 WWWソフト
モニターテレビ
(2)全国から寄せられた各自の作品への感想の例を見る。 (2)インターネットで紹介した作品に対する感想の電子メールをパソコン で紹介する。 ビデオコンバータ
(3)各自の作品への感想を見る。 (3)各自の作品への感想をプリントアウトしたものを渡し,どのような 感想が寄せられているかを知らせる。
4. 自分の作品の自己評価を行い発表する。 自分の作品の自己評価を発表させる。 自己評価活動
(1)友達からの評価やインターネットを通じての感想などを参考にして 製作を終えての自己評価を行い,まとめのプリントに記入する。 (1)友達からの評価やアドバイス,インターネットを通じて得た感想など を参考にして製作を終えての自己評価を考えさせる。 まとめのプリント
(2)各自の自己評価を発表する。 (2)構想2のプリントや工程表や作品を用いながら各自の自己評価を発表 する。
5. 学習のまとめを聞く。 学習のまとめをする。

3)寄せていただいたアドバイスや感想,生徒のお礼

[寄せていただいたアドバイス・コメント]
上の段の側板を切り落としているのは辞書をとりやすいようにするためなのでしょうか。使いやすそうな設計だと思います。(大阪 大学生(附中卒業生)の方から)

[生徒からのお礼のことば]
忙しい中メッセージをいただきありがとうございました。上の段の側板を切り落としているのは本を取りやすくするためです。設計も工夫しました。勉強になりました。(Aさん)

[寄せていただいたアドバイス・コメント]
側板上部が丸くカットされているデザインはとても優しい感じがしてとてもよいと思います。収納物を傷づけず,安全にも配慮されていてよい。(愛知 会社員の方から)

[生徒からのお礼のことば]
メッセージありがとうございました。丸いカットが優しい感じだと書いていただいてとてもうれしいです。(Dさん)

[寄せていただいたアドバイス・コメント]
高さの違う棚やキャスタで楽しく使えそうだね。(宮崎 小学校の先生から)

[生徒からのお礼のことば]
忙しい中感想を寄せて頂いてありがとうございました。「高さの違う棚やキャスタ」についてほめていただいてとてもうれしかったです。これから家に持って帰ってつかうつもりですが,少し失敗した所があっても自身を持って使えそうです。(Cさん)

[寄せていただいたアドバイス・コメント]
なかなか凝っていますね。ビデオがきちんと並びそうです。雑誌の入るところが両脇だと思いますが,雑誌はそんなに並べておく必要もないから,こ位の幅で十分なのかな。カセットについているラベルなどもここに入れてもいいかなと思いました。(山梨 中学校の先生から) [生徒からのお礼のことば]
具体的に使うときの例をあげてもらって,すごくうれしかったです。ありがとうございます。(Eさん)

(2) 英語版ホームページの作成

1)ホームページ(http://www.okadaifu-jhs.okayama.okayama.jp/fue-html/Weleng.html)

English Page 1
English Page 2

2)指導案

本時案(計画 第5次)
目標
  • 次の製作への意欲につながるように,完成した整理だなを自己評価, 相互評価することができる。
  • 「情報発信」としてのインターネットの利用しかたが説明できる
学習活動
指導上の留意点
備考
1. 本時の学習活動を知る。 本時は,完成した整理だなの作品観賞会を行い学習のまとめを行うことを知らせる。
2. お互いの作品を見て,相互評価を行い,感想を発表する。 作品を見て相互評価を行わせ,感想を発表させる。 自己評価活動
(1)鑑賞を行う際の留意点を聞く。 (1)鑑賞を行う際には,次の点に留意して相互評価を行わせる。
  • 作品のできばえや工夫している点,作業上の留意点に対する感想
  • 自分の経験を元にしたアドバイス
構想2のプリント

工程表
整理だなの作品

(2)留意点に注意しながら,作品を鑑賞し,感想やアドバイスをまとめの プリントに記入する。 (2)構想2のプリントや工程表にも留意しながら作品を鑑賞し,感想や アドバイスをまとめのプリントに記入させる。 まとめのプリント
(3)友人の作品を鑑賞しての感想を発表する (3)友人の作品を鑑賞して,できばえや工夫している点,作業の工夫等の 感想を発表させる。
3. インターネットを通じて,自分の作品の感想を知る。 インターネットを通じて寄せられた作品に対する感想を知らせ,自己評価の参考にさせる。 パソコン
(1)ホームページ上で各自の作品が紹介されている様子を見る。 (1)ホームページ上で各自の作品が紹介されている様子を見せ,インタ ーネットを通じて全国の人に見ていただいていることを知らせる。 WWWソフト
モニターテレビ
(2)全国から寄せられた各自の作品への感想の例を見る。 (2)インターネットで紹介した作品に対する感想の電子メールをパソコン で紹介する。 ビデオコンバータ
(3)各自の作品への感想を見る。 (3)各自の作品への感想をプリントアウトしたものを渡し,どのような 感想が寄せられているかを知らせる。
4. 自分の作品の自己評価を行い発表する。 自分の作品の自己評価を発表させる。 自己評価活動
(1)友達からの評価やインターネットを通じての感想などを参考にして 製作を終えての自己評価を行い,まとめのプリントに記入する。 (1)友達からの評価やアドバイス,インターネットを通じて得た感想など を参考にして製作を終えての自己評価を考えさせる。 まとめのプリント
(2)各自の自己評価を発表する。 (2)構想2のプリントや工程表や作品を用いながら各自の自己評価を発表 する。
5. 学習のまとめを聞く。 学習のまとめをする。

6 評価とまとめ

(1) インターネット木工作品鑑賞会

 お寄せいただいたメールを渡すと生徒は,普段あまり見せないようなとてもうれしそうな顔をしてメールを食い入るように見ており,しばらく次の授業展開に入れないくらいでった。授業の最後は先輩で今大学で建築学の先生をされている方のメールをテキストリーダで読ませた。「実際に作品を持ち帰り,その生活空間の中にどうとけ込んでいくかが大切だ」というお話は生徒を十分納得させるもので,それを引用してよいまとめができた。授業後の生徒の感想を見ても,自己を表現する喜びや情報発信する喜び,成就感の体得などをあげ,意欲や興味が喚起されことがわかった。ただインターネットを利用した新しいスタイルの授業というだけでなく,今までに味わったことのない授業の手応えを感じた。

(2) 英語版ホームページの作成

 「すごく不思議な感じがする。あんまり実感が湧かないけれど,自分も参加しているんだということがうれしい。」「世界中の人に見てもらうのだから恥ずかしいものは作れないなあと思う。」「たくさんの人に見てもらうのだからわかりやすく,きれいに工夫し,正しい内容をじっくり吟味してみなくてはいけない。」「日本のことはあまり知らない人も世界中にはたくさんいるので日本の代表として正確に情報を伝えないといけないと思う。たくさんの人がホームページを見てくれるといいと思う。」等の感想が示すようにこの実践のねらいでもある情報発信への意欲の喚起,国際意識の高揚,情報発信者としての責任やモラル意識の育成にも役立ったと思われる。また,新聞や雑誌の記事,テレビの報道等にも興味を持ち,付随する社会現象や先端技術などにも目が向いてきたようである。

7 今後の課題

 生徒にアカウントを持せていないので,寄せていただいた感想やコメントは教師が整理しプリントアウトして各生徒に渡す方式をとった。また,生徒からのお礼のメールも教師が目を通し,送った。この方法は非常に煩雑で時間を必要としたが,お世話になった方に失礼のない応対ができたと思う。生徒が個々にメールを受け取り,お礼のメールを出せるようになることが最終的な目標ではあるが,相手の方に失礼のないように応対するインターネット上のエチケット(ネチケット)を身に付けさせた上でないと実現は難しい。インターネットという不特定多数の方を相手にする上では,中学生であろうとも一社会人としての責任ある言動が求められる。技術・家庭科のみでなく道徳を始めとする中学校3年間のすべての学習に位置づけて効果的に指導することが望まれる。英語版のホームページの作成では英語科の先生方に大変お世話になった。クロスカリキュラムなどの新しい教育課程が話題になっているが英文を考えるのは英語授業で,それを「情報基礎」の授業で仕上げるといった取り組みの必要性を感じた。環境が一層整備され,情報発信の場面がより多く自由にできることが望まれる。

(実践者 岡山大学教育学部附属中学校 梶元達也)


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