事前事後の質問紙による調査を比較したところ,社会的な能力においては,「自己表現」能力の伸張が認められた。一方,知識構造においては,「命題」的な知識の増加が見られたが,直接体験に伴って習得される「イメージ」や「エピソード」的な知識に変化は認められなかった。現時点でのコンピュータネットワークの利用は,生徒の学習への動機を大いに高める可能性があるものの,「知識」習得に必要な「直接経験」の代用とはなり得ないことが示された。
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福生市を流れる多摩川沿いの大部分が,本実践を行った福生第三中学校の学区に属し,その中には都営熊川団地及び住宅公団福生団地の2つの団地を含んでいる。
当校は,普通学級12,生徒数421(男223,女198),教職員数23(男14,女9)で構成されている。
インターネットへは,指導者が所有するノート型コンピュータ(NEC製PC9821Nd。以下,ノートPC)を持ち込み,通常の公衆電話回線を通じて,プロバイダーと呼ばれるインターネット接続業者を経由して接続した。
指導者と生徒との情報の受け渡しは,以下の2通りの方法を適宜用いた。
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第I期(1学期)では,コンピュータネットワーク(インターネット)に慣れるために,いろいろな企業のホームページを見学したり,学校外のネットワーク・ボランティア(一般の方,大学関係者,大学院生,大学生など)との電子メールの送受信を行った。
「自然環境」「社会福祉」「国際理解」から任意に1つのテーマを選び,インターネットも情報収集の1つの手段として用いることとした。なお,このテーマ選定に関しては,「教育工学関連学協会連合情報教育プロジェクト委員会ワーキンググループ」により提起された情報教育に関わる特別リポート「小・中・高一貫情報教育に関する学習指導要領への提案」(1996)に準拠した。
また,個別の課題解決学習と並列に,クラス全体としてAT&TJensが主催する「バーチャル・クラスルーム・オン・ザ・ネット・プログラム(以下,バーチャル・クラスルーム)」に参加し,アメリカとスウェーデンの中学校と共同研究を行った。このプログラムでは,相互の国歌(National Anthem)の紹介がなされ,国際的な賛歌(International Anthem)を共同作成するというプロジェクトが進行した。使用言語は英語であり,アメリカ及びスウェーデンから寄せられる意見は,コンピュータの翻訳ソフトを用いて生徒に伝えられた。日本の生徒からの意見表明は,可能な限り自ら英訳して伝えられた。
ボランティアとの交流からは,インターネットを利用する上での注意事項や第I 期から取り組む個別課題解決学習へのアドバイスを得た。この交流により,生徒はコンピュータネットワーク上でコミュニケーションを行う上でのスキルを習得し,第II期における異文化交流や,個別課題解決学習を進める上での専門家との交流に役立てていった。
生徒の質問の電子メール |
初めまして,**先生。僕の名前は****です。僕は福生3中の三年生で す。
先生に少し質問があります。まず,電子メールを使う上で,注意しなければいけないことはなんですか?(後略) |
ボランティアの回答の電子メール |
>初めまして,**先生。僕の名前は****です。
はじめまして。**です。よろしく! >電子メールを使う上で,注意しなければいけないことはなんですか? 一番大切なのは相手のことをいつも考えないといけないことでしょうか。普通の会話では,いつも相手が見えています。だから,今,自分がしゃべ ったことを相手がどう受け取ったかは,相手の様子から知ることができます。でも,電子メールでは相手が見えませんから,相手が不快になること や,いやな話題を書いてもそれがわかりません。また,軽い気持ちで書いたことが相手を傷つけてしまうこともありますし,それがきっかけで言い 争いになってしまうこともあります。ですから,相手のことを考えながら書く,ということはとても大切なことだと思います。このことは普通のメ ール(紙に書いた手紙)と一緒ではないでしょうか? |
生徒が公開したホームページは原則として毎授業時に更新されたが,暫定的に公開されたホームページには学校外からの電子メールが寄せられ,それは生徒の新たな学習への原動力となった。
バーチャル・クラスルームにおいては,共同作業に先立ち自己紹介が相互に行われたが,その内容は自己に関わることだけでなく,共同作業内容の提案も含む積極的なものとなった。
共同作業の話し合いにおいても,ただ情報を受けるばかりでなく,盛んに情報を発信する取り組みが見られた。例えば,国際的な賛歌(International Anthem)の作成という提案がスウェーデンの生徒からなされたとき,本校の生徒はお互いの国歌(National Anthem)の紹介をすることの提案をし,引き続き「君が代」に関する生徒それぞれの意見表明が行われた。交流当初は,相互に一方的な自己紹介が行われてきたが,それからの意見交流はインタラクティブに行われ,コンピュータネットワーク上に共同作業をするためのコミュニティ(話し合いの場)が作られていった。
1回目 |
どうも初めまして。
福生市の中学でホームページがあるとは知りませんでした。私も現在福生に住んでおりまして,ホームページで福生市の地域情報や八高線,横田 基地などの情報を載せています。ぜひご覧ください。それでは。 |
2回目 |
>**さん,おはようございます。
おはようございます。僕も朝見ました。 >生徒は「横田基地の騒音問題について」ということで,webを公開し ています。 そうですか。騒音問題ですか。これはなかなか難しい問題ですね。 僕は今年の夏休みに福生市郷土資料室に学芸員の実習に行きまして,その際に横田基地に関する資料を探したのですが,あまり良い物がないんで すよね。 中央図書館では福生市に関する新聞記事を全て保存しているので,そのなかに使えるものがあるかもしれませんね。高校入試もあって大変でしょ うが,**君にはがんばっていただきたいと思います。 |
Introduce about "Kimigayo"
Hello, all the people to participate from Tokyo ! We hope that you reconsider it about Japan by introducing our national anthem and traditional instruments to you. We hope that you introduce your national anthem and traditional instruments to us. At first, we state our opinion to you about "Kimigayo" which it issaid that it is Japanese national anthem. from ** **
from ** **
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自己評価による回答を比較した結果,「コンピュータ」を選択した群において,次にあげる「自己表現」能力の伸張が認められた。
IMTの検証の結果,「命題」的な連想語(一般的な定義,常識にあてはまるようなもの)の増加が見られたが,「イメージ」(形容詞など)や「エピソード」的な連想語(個人の経験に基づくもののうち,命題に含まれないもの)は変化が見られなかった。このことは,現時点でのコンピュータネットワークの利用が,「知識」習得に必要な「直接経験」の代用とはならないことを示している。
本実践においては,ボランティアで学校外の教育力を求めたが,ボランティアへ応募する動機の中に,「ボランティアに興味はあったが,時間と場所の制約があり,今までは実現困難だった」というものがあった。コンピュータネットワークを用いることにより,新たな学校内と学校外との人的連携が可能となる。今回のボランティアは商用パソコン通信(Nifty-serve)の掲示板や各種メーリングリストを通じて募集したため,ボランティアの居住地は全国各地に散らばった。しかし,コンピュータネットワークを活用することは,遠距離間の通信だけでなく,今まで学校教育に関わりたくとも物理的,時間的に関わることができなかった地域の人々を学校教育に巻き込むための1つの手段となる。
中央教育審議会第一次答申(1996)において,地域の教育力の学校教育への導入が提起された。学校としては,単に学校外に教育力を求めるだけでなく,学習の場を提供する姿勢,共に学ぶ姿勢を失ってはならず,学校の従来持つ教育力と,学校外の教育力との融合を計りながら,教育を進めていくことができるようなカリキュラムの編成,開発が必要であろう。