インターネットで自己紹介


インターネット利用の意図

 養護学校(精神薄弱)に学ぶ生徒たちも,自分が興味・関心をもつものには目を輝かせ,自分なりの楽しみを見いだしながら,楽しむことができる。学習においても同様で,生徒が興味・関心をもち,その知的好奇心を高揚させることのできる教材・教具を採用する事が大切となってくる。

 作業学習(印刷)で使うコンピュータも単にワープロとして使うのではなく,楽しみながら基本的な操作を習得することはできないかと考えた。そんな中で学習場面だけでなく,ネットワークに親しみ,手紙のやりとりをする等の楽しい活動の中で交友関係が広がり,生活に広がりがもてるようになると考えている。

 インターネットをイントラネット(組織内ネットワーク)として利用し,限られた学校間の交流のためのツールとして,児童・生徒のプライバシーなどの問題には最大限の注意を払いながら,真の心と心のつながりができることを願っている。

1 教科 総合科 いろいろなところの友達に自己紹介しよう
   (養護学校(精神薄弱)高等部1〜3年作業学習(印刷))

(1) ねらい(指導によせて)及び指導目標

 養護学校(精神薄弱)では,高等部卒業後の働く生活に向けた職業教育の一環として,作業学習の時間が設定され,滋賀大学教育学部附属養護学校(本校)では,印刷,織物,陶工,木工リサイクルの4つの作業班が設定されている。その中から生徒の発達や特性,興味・関心,課題などを考慮して,生徒を各作業班に分け,働くことへの心身の構えを育てることをねらいとして作業学習を行っている。

 印刷作業班では,以下のようなねらいを設定している。

  1. 印刷の受注から納品までの流れを理解し,製品のできばえに対する意識, 作業の流れに対する見通しを養う。
  2. 注文通りの製品を,より速く,失敗なく印刷などの作業をすることがで きる。
  3. 決められた時間,注意を集中して,作業を続けることができる。
 これまで活字を使ったハガキや封筒の印刷作業を通して作業学習の教育計画を立ててきたが,活字を扱うことができて,版をつくれる生徒が少なくなってきたこと,活版印刷のシステムが,実際の企業などで使われなくなってきたこと,そのため活字が入手困難になってきたことなどから,樹脂凸版作成機とオフセット印刷機が導入された。そのことにより生徒自身による版下作成作業などが可能になってきた。樹脂凸版やオフセット印刷機の原稿などを作るにあたり,文字入力や画像処理などのコンピュータの基本的な操作を習得する必要性がでてきた。そこで,インターネットを使ったチャレンジキッズ(本校による運営)やメディアキッズ(国際大学グローバルコミュニケーションセンター)にアクセスし,全国の友達や先生達に自己紹介する中で,楽しみながらコンピュータの基本的な操作に習熟してくれればと考えた。楽しみながらやりとりをする中で,学習場面での活用はもちろん,余暇などの生活に少しでも潤いがもてればと考えている。

(2) 利用場面

画面の図< この単元では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
  1. 文字入力の練習場面

  2.  文字の入力については,基本的な操作に加え,自分の名前や自己紹介を書く中で,それを県内をはじめ全国の養護学校や特殊学級の児童・生徒が 参加するチャレンジキッズにアップロードする。
  3. グラフィックソフトの練習場面

  4.  年賀状やオリジナル製品などの原稿に載せるグラフィックを描く練習をする。今回の授業では,絵を描いたりせず,デジタルカメラを使い,その 写真を簡単に加工して,チャレンジキッズにアップロードし,自己紹介をよりわかりやすく詳しくする。

(3) 利用環境

  1. 使用機種 Apple PowerMacintosh7500(EatherNet 10BASE-T) 3台

  2.      Apple Performa5320 (EatherNet 10BASE-T) 3台
         バンダイ ピピンアットマーク(LocalTalk) 2台
  3. 周辺機器 特殊入力インターフェース IntelliTool社 Intellikey 2台

  4.      Apple QuickTake150 1台
  5. PCを操作する子ども
    稼働環境  滋賀大学教育学部附属養護学校(本校)と滋賀大学教育学部とは,専用線によりインターネットと接続されている。校内LAN 上のコンピュータは すべてルーターを通して,インターネットに接続されている。
  6. その他の利用ソフト

  7.  校内に,児童・生徒用メイルサーバーFirstClass(Create)を設置し, GraphicalUser Interfaceによる直感的で,簡単な操作で,様々な操作が できる環境を整えている。また,本校のWorldWide Web 上で,チャレン ジキッズへの参加募集をし,参加申し込みがあった全国の養護学校や小・中学校の特殊学級の児童・生徒と,インターネットを使って交流・共同学 習している。(本校のWWWサーバのURLhttp://fyw.sue.shiga-u.ac.jp/)また,単に文字入力などの練習をさせるのではなく,チャレンジキッズに自己紹介することで,日常的に,授 業以外でもチャレンジキッズに参加することができるようにコンピュータ設置などの環境を配慮し,それが,学習のみならず生活への広がりへとつ ながればと考えている。

2 インターネットを使った授業設計

指導計画(8/8) 留意点
基本的な操作・文字入力の練習をする。
☆インターネットの利用
  • 新しい印刷機を使うにあたり,コンピュータを使うと,より便利に版 下作成などの工程ができることを理解させる。
  • コンピュータの操作などについても手順さえ間違わなければ,簡単だ と感じさせる。
  • チャレンジキッズにアクセスし,自己紹介をさせ,友達の自己紹介を 読んでみる。
  • 読んでみて,返事を書きたくなったら,返事を書いて見させる。
  • 常に相手がいることを意識して,自己紹介や返事を書くようにさ せる。
グラフィックソフトを使い,デジタルカメラで撮影した写真を編集する。
文字入力の練習
☆インターネットの利用
  • 前回に書いてチャレンジキッズにファイル登録した自己紹介に返事が来 ていないか見させ,もし返事が来ていたら,それに返事を書くようにさせる。
  • デジタルカメラで撮影した写真を見て,名前を入れて,保存させる。
  • 保存したファイルをチャレンジキッズにアップロードさせ,写真の説明 文を書かせる。
  • 文字や写真,絵などが自分たちの印刷機で印刷できることを知らせ,そ れを自分たちで作っていくんだという意欲をもたせる。
  • 昼休みや放課後など,教室近くのコンピュータを使い,自由に操作でき ることを知らせる。

3 本時の学習内容

(1) 本時の目標

 印刷をする上で非常に大切な版下作成などの前段階として原稿を自分達で作ろうという意欲をもたせ,楽しみながら文字入力や簡単な画像編集を行いながら,操作に慣れさせる。また,自由に自己紹介や近況報告などの手紙交換をするなかで,操作になれるだけでなくオリジナル作品(インターネット上・印刷作品)を作っていこうという意欲を育てる。

(2) 本時の展開

学習活動 活動への働きかけ 備 考
印刷をする上で,原稿を作るのにどんな道具があるのか発表しあう。
  • いろんな道具の中でもコンピュータが,とても大切な道具である ことを知る。
  • これまでの印刷作業の中でどんな印刷をしたか,どんな原稿を見たこと があるか思い出させる。そして,その原稿がどんな道具でつくられていたか考えさせる。
本時の学習課題を知る。
インターネット(チャレンジキッズ)で自己紹介しよう。
基本的な操作を行いながら自己紹介する。
  • チャレンジキッズの会議室を見て,見たくなった会議室の書き込 まれた内容を読んでみて,返事を書く。
  • 自己紹介の部屋に,自分の自己紹介をする。
  • 自己紹介が終わったらいろんな友だちが書き込んだ内容を見に行く。
  • 基本的な操作がわからない生徒がいれば,簡単な操作をその都度指 導する。
  • いろいろな地域のいろいろな学校のいろいろな友達が参加している ことを知らせる。
  • 遠くの友達にできるだけ自分を知ってもらえるように工夫して書く 様に援助する。
コンピュータ FirstClass (チャレンジキッズ)
本時のまとめをする。
  • 今日,印象に残ったことや,自分のどんなことを伝えたかったのか 発表する。

  • そして,それが印刷の原稿作成に必要な力であることを知る。
  • 返事のやりとりする中で新しい世界が広がることを意識させ,今後も日常 的に利用可能であることを伝える。

4 評価とまとめ

メールの画面 インターネットが普及して,校種を問わずその利用の事例が求められている。本校では,その教育利用の可能性について,本当に児童・生徒が使えるインターネットとはどのようなものか模索してきた。学校におけるホームページが設置されはじめたころより World Wide Webを開設し,子ども達が見て楽しいホームページとはいかなるものか,親しみやすいインターフェースとはいかなるものか研究を重ねてきた。このような模索の中からひらがなによる動物のホームページ,”ひらがなどうぶつえん”のページが生まれ,雑誌等にも紹介される等,各方面から好評を博している。

 また,保護者などから,学校での学習の様子を見たいという声に応え,小学部の総合学習”琵琶湖一周歩け歩け”のページも開設し,校外学習の様子を写真入りで紹介している。しかし昨今,個人情報保護条例が様々な自治体で施行されていることと,児童・生徒のプライバシー保護の観点から,個人の写真を含んだページはすべて会員制とし,本校関係者以外は写真は見られないようにしている。不特定多数に公開する事が可能なホームページは,このような学校現場にそぐわない問題もはらんでいる。

 また,情報発信能力の重要さが求められて久しいが,現在のインターネット利用ソフトの多くは,知的障害がある子ども達には使い勝手がよいとはいえないものが多い。子ども達が楽しめるホームページでも,作ることは不可能に近い現状である。

 そこで,インターネットをイントラネットとして利用でき,しかも知的発達障害がある子ども達にも使いやすい直感的なインターフェースをもったソフトを使うことで,インターネットを様々な学習場面で利用できないかと考えた。

年賀状 印刷作業では,様々な工程の中で,主に受注,発注,原稿・版下作成,帳簿処理などにコンピュータを使って作業している。(今後の検討課題も含む)それらのうち,チャレンジキッズを使って,作業学習の幅を広げられる可能性のあるものは,前述に加え,他の養護学校との共同作業や作業内容交換などが考えられる。

 今年度の印刷機の導入により,オフセット印刷機一式(水無し平版使用)と樹脂凸版作成機が導入された。これらを有効に活用する中で,活字を使った印刷作業において前に述べたような問題を抱えた様々な地域の養護学校の印刷作業班などとの交流が可能になる。それは,単なる交流だけではなく,共同作業,共同学習,人間関係の広がり,余暇の有効な利用など,今後が期待できるものである。例えば,活字を使った印刷作業を行っているA県のB養護学校の印刷作業班が,チャレンジキッズを通して,必要な樹脂凸版の原稿を作成し,電子メイルで,本校の印刷班に送信してくる。そして,それを本校の生徒が,ダウンロードし,版下を作成し,樹脂凸版を作って,諸伝票を添えて,宅配便などでB 養護学校の印刷作業班に送る。 B養護学校の生徒は,それを受け取って,チャレンジキッズで友達の滋賀大学教育学部附属養護学校の生徒さんが作ってくれた樹脂凸版を使って印刷する。それを誇りをもって納品する。といったことが今後可能になる。今回の授業は,その導入をするための準備といった授業である。

 今後,様々な学習場面において,インターネットを有効に利用することで,どのような可能性が広がるか,夢が広がっている。

(実践者 滋賀大学教育学部附属養護学校 太田 容次)

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