「ごんぎつね」の遠隔共同学習
インターネットのBBSを利用した学校間コミュニケーションの授業活用

小学校第4学年・国語
大津市立平野小学校 石原 一彦

インターネット利用の意図
 インターネットは今まで困難であった学校間コミュニケーションを日常レベルで実現可能にしてくれる双方向メディアである。今回の実践では,本校に設置しているサーバーにBBS(掲示板)を開設し,インターネットを使った児童間の意見交流が国語科の指導で有効かどうかを実証しようと試みた。

1 物語教材 「ごんぎつね」
(1) ねらい
 このプロジェクトは,インターネットを用いて子どもたちの多様な考えを引き出し,個々の児童の読みを広げ深めることを目的にしている。また同時に,教師間で「設問」を事前に話し合う活動を通して,教材研究を協同でおこない,教師間のコラボレーション向上もねらいとして考えた。
「ごんぎつね」の遠隔共同学習のページ
(http://www.hirano-es.otsu.shiga.jp/gon/gon.html)
 具体的には,本校に設置しているインターネットのサーバー内に会議室(BBS=電子掲示板)を開設し,場面ごとに設問を設定し,その設問に子どもたちが書き込んで答える活動を中心にして,BBSに書き込まれた意見を交流することが目標である。
インターネット・サーバーを利用した会議室のシステム
 書き込まれた内容は,その場でインターネットに発信されるので,子供達に同学年の児童の多様な「読み」を知らせることができる。地理的時間的制約を克服できるインターネットの優位性に立脚し,各地の子どもたちの多様な考えや思いを共有できればと願っている。つまり,この学習は今まで教室の中だけであった意見表明や意見交流の場を,インターネットで拡張し,クラスや学校の枠を取り除いて広く学びの場を自教室の外にも求めようとした試みである。とりわけ,今回の試みは,僻地校や少人数の海外日本人学校,あるいは家庭やフリースクールで学習している子供達など,局地的な学習の場での学びをインターネットで相互に結びつけ,関連づけることによって,モノフォニック(単声的)な学習の場をポリフォニック(多声的)なものに変革する可能性を視野に入れることになる。インターネットによるコミュニケーションの変革は,教室という今まで閉じられていた相互学習の場を外に向かって開放するロードマップを示しているのである。
 今回の実践では,コンピュータ等の学習環境が異なっていても容易に参加できるように学習の場を設定した。たとえ学校に端末が1台しかない環境や,教師が個人的に家庭からインターネットに接続している場合でも十分このプロジェクトに参加が可能である。なぜなら,この実践はコンピュータの操作や文字の入力が目的ではなく,児童間の意見交流が目的であるため,間接的にネットワークを利用するだけでも十分参加の用件を満たすのである。したがって,BBS上の意見を印刷して教室で配布するというコンピュータが一切登場しない授業スタイルでも本実践ではインターネットの活用と考えている。
 この意味から,「設問」の設定が重要な要素になる。「設問」とは一つの答えしかない「質問」ではなく,一つの問いから子どもたちの「多様な読み」を引き出さなければならないものである。そこで,この学習に先立って教師間で連絡を取り合いながら,児童の共同学習の前に,教師間で共同の教材研究をおこなおうと計画した。
 児童の共同学習を支えるためには,教師間のコラボレーションがよりいっそう大切になるからである。そこで「教師の部屋」というBBSを開設して話し合うことにした。


 以下,本プロジェクトの目的を3点,掲げることにする。
@インターネットを用いて他の地域の同学年の児童からの多様な読みを知らせ,意見を  交流することで,個々の子供達の読みを広げ,深める。
A教師間で設問の設定など事前の教材研究をインターネットを使って進めることで,教  師間の連携を深める。
Bインターネットが既存の教科の学習に対して教育効果を高めることができるのか実証する。
(2) 指導目標
・ごんと兵十の気持ちの移り変わりや場面の様子が分かるように音読を工夫することができる。
・場面ごとの登場人物の行動について読みとり,自分の考えを深めることができる。
・効果的な情景描写や比喩表現,会話などについて理解し,自分の表現に生かすことができる。
(3) 利用場面 
 本実践でのインターネットの活用する場面は,掲示板を利用した意見交流の部分である。「ごんぎつね」には6つの場面があるが,まずこの場面ごとにそれぞれ一つずつ「設問」を設定した。
(第1の場面)ごんは,村人にどう思われていましたか。
(第2の場面)1の場面と2の場面のごんのちがいは何でしょうか。
(第3の場面)ごんは,つぐないをいつまで続けるつもりなのでしょうか。
(第4の場面)ごんは,いどのそばにしゃがんで,(兵十の言葉を思い出しながら)どんなことを考えたでしょう。
(第5の場面)「引き合わないなあ」と言っているごんは,その晩(あなの中で)何を考えたでしょうか。
(第6の場面)ごんはぐったりとなったとき,うれしかったでしょうか。
 児童が自分の考えを書き込むと,その場でインターネットに発信されるので,他の児童の意見と比較して自分の意見を読むことができる。
 インターネットの端末が多数用意されている学校では,それぞれの端末から他の児童の意見を直接読むこともできるが,端末が1つの学校でも,教師が書き込まれた意見をまとめて印刷し,教室で児童に配布して意見を交流することも可能である。
(4) 利用環境
@使用機種 NEC9821Xa10,Compaq DeskPro,PowerMac8100等
A周辺機器 大型モニター,ビデオスキャンコンバーター
B稼働環境 インターネット専用線接続及び校内LAN
Cその他の利用ソフト インターネット閲覧ソフト,インターネットサーバーソフト,会議室用CGI等
2 指導計画
(1) 本プロジェクトの全体計画。
@11月〜12月24日
このプロジェクトへの趣旨を伝えて広く参加を呼びかける。
 教師用の会議室を用いて教師間で設問を討議し,設問の数や内容,表現などを検討する。
A冬休み期間
 プロジェクトに参加している先生方の「宿題」にして,設問の「たたき台」を作成する。
B1月7日〜
 3学期,設問の「たたき台」を元に,会議室で話し合う。それぞれの学習計画に沿って「ごんぎつね」の学習を進め,設問に対する児童の考えを書き込む。書き込まれた意見を交流し,授業の場で話し合って読みを深める。
C学習終了後
 最後にこの学習をふりかえって,個人やグループで感想文を書き込み,冊子にまとめて参加者全員に配布する。
(2) 学習指導計画(全21時間)
第一次 全文を読んで初発の感想をまとめ,学習の見通しを立てる。(2時間)
第二次 登場人物の気持ちの動きに気をつけて,1〜6の場面の読みを深める。(17時間)
@ごんの境遇と性格とのかかわりを読みとる。
 ごんの兵十に対するいたずらについて読みとる。(4時間)
A「そう式」だと気づいてからのごんの気持ち動きを読みとる。(3時間)
B償いをするごんの様子や気持ちを読みとる。(3時間)
Cごんの失敗と,さらに償いを続けようとするごんの気持ちを読みとる。(2時間)
D善意が通じないもどかしさを読みとる。(2時間)
E撃つに至る兵十の行動と気持ちを読みとる。
 撃った兵十と撃たれたごんの心情を読みとる。(3時間)本時2/3
第三次 読後の感想を話し合い,理解を深める。(2時間)
@気持ちの動きを読み深め,感想を書く。(1時間)
A感想を発表し合い,入力する。(1時間)
3 利用場面
(1) 目標
  ごんと兵十の心の動きを読みとることができる。
(2) 展開
学習活動 教師の支援
1.本時の場面を読む。 ・教師が6の場面を範読する。
・範読により,話の中にひたらせる。
2.設問について話し合う
 ぐったりしたとき,ごんは,うれしかったでしょうか。
・前時に書いている自分の意見カードを参考に発表させる。
3.他のクラス(学校)の考えを見て,話し合い,自分の考えを深める。 ・他のクラス(学校)の考えをプリントにまとめ児童に配布する。
・他のクラス(学校)の考えをプリントで読み,何か感じたところには線を引かせたり,書き込ませる。
・プリントや意見カードを参考に,発表させる。
・話し合いによって,考えが変わったり,付け加えたりしたいことがあれば,書かせる。
・考えを変えたり,意見を付け加えた児童に,発表させる。
4.自分の考えを掲示板(BBS)に書き込む。 ・誤字などがあれば書き直しさせる。
・正確に書き写すよう支援する。

4 実践を終えて

 今回のプロジェクトでは全国から合計7つの小学校が参加し,16人の教師が関わってくださった。全体計画通り,2学期末から3学期にかけて教師間で「設問」の設定を話し合い,「ごんぎつね」の学習に合わせて意見の書き込みが行われた。以下は参加校の一覧である。
・大阪守口市立春日小学校
・愛知県半田市立亀崎小学校 
・北海道幌加内町立沼牛小学校
・福岡県福岡市立玄界小学校
・京都市立桂坂小学校
・京都市立淳風小学校
・滋賀県大津市立平野小学校
 この実践では,当初の目的通り,インターネットを活用して教師間のコラボレーションの向上を図り,児童間の意見交流を進めることができたように思う。とりわけよかったのは,さまざまな環境の学校に参加いただけたことである。参加校の中で100校プロジェクト参加校は平野小学校だけであり,このことはインターネットを教育に活用する輪が着実に広がっていることを示している。
ワンポイント・アドバイス
 この実践ではインターネットの会議室(BBS=電子掲示板)のシステムを活用した。このシステムを実現するためには,専用線に接続されたWEBサーバーを立ち上げる必要はあるが,本校のようにマックのWebサーバーを使えば容易に会議室のシステムが運用できる。
 サーバーソフトである「WebStar」のプラグインにフリーソフトの「EasyBBS」を入れるだけで特に難しい設定は必要ない。もちろん,専用線に接続されていない場合でも,イントラネットとしてマックのWebサーバーを「EasyBBS」と組み合わせて運用すれば,さまざまな教育活動に応用できるものと考えられる。

参考文献 

 国語学習指導書(4年はばたき下) 光村図書
 文学教材の授業選集3物語教材 明治図書

 文芸の授業 小学校4年 明治図書
 西郷竹彦教科書指導ハンドブック 小学4年の国語 明治図書
 写真で授業を読む 国語科「ごんぎつね」 明治図書

利用したURLなど

 「ごんぎつね」の遠隔共同学習のページ(http://www.hirano-es.otsu.shiga.jp/gon/gon.html)

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