ネットワークを活用した総合的な環境学習

小学校第6学年・理科
福井大学教育学部附属小学校 宇野 秀夫

インターネット利用の意図
 昨今の環境問題に対する意識の高まりから,環境に関わる情報も様々な情報が増えてきた。それらの情報にインターネットを通してアクセスすることにより,自分達の地域を理解するとともに日本各地や世界を知ることができるようになった。また,日本各地や世界を知ることによって,自分達の地域をもう一度振り返る機会を得ることができるようになった。環境学習に取り組んでいる学校,環境問題に取り組んでいる団体,環境データーなどを提供している公共団体など,様々なホームページがある。これらのホームページにアクセスすることで,子供達の必要とする情報をつかむとともに,子供達が主体的に活動する際の支援活動になるようにした。

1 ヒトとかんきょう
(1) ねらい
 小学校理科6年の単元に「ヒトとかんきょう」がある。本単元はともすればビデオ教材など,視聴覚教材などを活用して,実体験を伴わないで学習を展開しがちである。そこで、子供達が五感を通して地域の自然を調査するように主体的に学習を展開するようにした。また、日本海重油流出事故など身近に起こった環境問題や各教科の環境の学習を関連づけて,クロスカリキュラムで総合的に学習を展開するようにした。更に、インターネットを利用しながら環境についてグローバルに考えるようにした。
(2) 指導目標
 地域の環境や地球の環境を知るためには,自分達の地域の環境を調査した後,他の地域の環境と比較する必要がある。地域の環境を調査した後,WWWを活用しながら環境情報提供サーバーにアクセスし,データー比較や情報交換を通して,地域と地球の環境を科学的に分析する見方や考え方を養う。
 TV会議をなどを通して,身近におきている環境問題や環境調査結果について意見交換をする。自分達の地域や地球の環境が今どうなっているか,これから何をする必要があるのか環境に対する興味関心を高め,自分の生き方について考える力を養う。
(3) 利用場面
@地域の環境と日本各地の環境を比較調査する場面
 WWW を利用しながら環境情報が提示されている環境サーバーをさがす。水の汚れ,空気の汚れ,酸性雨,緑の減少,騒音などの情報が提供されているサーバーや,学校にメールで質問をし,必要な情報を収集する。
A酸性雨について共同調査する場面
 酸性雨調査プロジェクトに参加する。附属小学校に降った雨をレインゴーランドで採集し,pH計で測定する(図1)。プロジェクトのWeb にデーター登録をする(図2)。日本各地の酸性雨のデーターをみることで,日本各地にどれくらいの酸性雨が降っているのかを調べるようにする。分かったデーターをもとに,酸性雨について検討する。
図1 環境調査活動
図2 酸性雨調査プロジェクトへのアクセス
B日本海重油流出事故についてTV会議をする場面
 環境問題について意見交換をする。日本海重油流出事故について交流校とTV会議をする(図3)。事故の様子を伝えるとともに、画面を通して子供達同士で環境問題について話し合いを深める(図4)。
図3 交流校とのTV会議
図4 CU−SeeMeの画面
(4) 利用環境
@使用機種 FM-V(desk-power S20)2台,FM-TOWNS SI 21台
A周辺機器 24インチ大型ディスプレイ,CCDカメラ
B稼働環境 FM-Vは10base-Tでインターネットに直接つなぎ、CU-SeeMeができるようにした。FM-TOWNSは10base-2でインターネットにつなぎ、メールがうてる環境にした。
Cその他の利用ソフト Enhanced CU-SeeMe,AL-Mail
2 指導計画 (環境をキーワードにクロスカリキュラムで学習を展開する。)
指導計画(17/17) 留 意 点
社会
「地球の環境と世界の平和」
(2時間)
・ビデオ視聴により,地球をおおっている諸問題を意識する。
環境問題 −温暖化 酸性雨 水質汚濁
平和に関わる問題− 民族紛争 人種問題
理科
「ヒトとかんきょう」
第1次 学校のまわりの環境は
どうなっているの?
(3時間)
・イメージ画を通して環境破壊の原因,影響を意識する。
・学校のまわりの環境はどのようになっているのか,考える。
・学校のまわりの環境調査方法を決める。
水の汚れ 空気の汚れ 酸性雨 騒音 緑の減少
第2次 学校のまわりの環境調
査活動をしよう。
(4時間)
・学校のまわりの環境調査活動をする。
水の汚れ−CODパックテスト,水の観察
空気の汚れ−気体検知管,浮遊塵
酸性雨 − pH計,BTB液
緑の減少− 航空写真の比較
騒音 − 騒音計
第3次 日本各地の環境を調べ
よう (2時間)
★ インターネットの利用
★WWWを利用しながら,環境情報提供サーバーを調べる。
★電子メールにより,環境情報を集める。
★酸性雨調査プロジェクトへの参加と酸性雨の調
第4次 生き物と環境のつながり(1時間) ・NHK「生き物地球紀行」のビデオを視聴し,生き物と環境のつながりを考える。
総合学習「遠くの人と」
発信!福井から(2時間)
★ インターネットの利用
☆ Kidpix
★学級を紹介するホームページを作成する。
★日本海重油流出事故を知らせるホームページを作成する。
★電子メールのやりとりを行う。
総合学習「遠くの人と」
「重油流失事故」に関しての
TV会議 (1時間)
★ インターネットの利用
☆ CU-SeeMe
★CU-SeeMeを利用して,遠隔地の学校と環 境調査活動の結果について意見交換する。
★CU-SeeMeを利用して,日本海重油流出事 故について,意見交換する。
学級活動 (2時間)
「ボランティアをしよう」
・身近な環境について自分達でもできるボランティア活動を話し合う。
・ボランティア活動に取り組む。
募金活動,川の清掃活動

3 利用場面
(1) 目標

 明新地区に酸性雨が降っているかどうかをいろいろな方法で調べ,ネットワークを通した交流によって酸性雨の現状について考えを深める。
(2) 展開 * 評価項目
学 習 活 動 評価と支援
○本時の学習課題をつかむ。

明新地区の酸性雨調査について発表し,どのような環境かを考えよう

 
○明新地区に降った雨の酸性度調査の方法を発表する。 ・明新地区の環境調査をするのに,水,空気,酸性雨,緑の破壊,温暖化を調べる,興味・関心別のグループを構成しておく。
○降った雨が酸性雨かどうかを調べる。
・BTB液
・pH計
・酸性度試薬用紙
・酸性雨グループの子供がリトルティーチャーとして報告する。
*降った雨が酸性雨かどうか,調べられたか。
○実験結果を発表する。 ・実験の方法が分かるように,OHPで提示する。
○酸性雨グループのこれまでの調査結果を報告し,明新地区に酸性雨は降っているのかどうか話し合う。 ・2週間採集した雨や雪の酸性雨のデーターをもとに考えを深める。
○日本各地にも酸性雨が降っているかどうかを考える。 ・子供達が参加しているインターネットの酸性雨調査プロジェクトの結果も参照する。
○交流校の子供達と酸性雨について意見交換する。 ・TV会議システムを利用し,考えを深める。
○酸性雨がどうして降るのか考える。

*イメージ画をもとに、酸性雨が降る理由を考えられたか。
・理解を深めるために,話し合いや資料を利用する。

4 実践を終えて

 CODやpHのように,数値で表されるものはどれぐらい汚れているかなど,比較がしやすかった。ネットワークを利用した環境学習は,こういった数値データーとしてあらわされるもの,映像として利用されるものなどは,比較しやすくかなりの効果があったと考えられる。しかし,ホームページをみて環境調査に取り組んでいる学校を子供達がリストアップして,電子メールで聞くといった方法で取り組んだために,子供達が本当にほしかった情報と返信メールの情報がかみあわないこともあった。酸性雨調査プロジェクトのように共通で調査していく仕組みの確立が望まれる。
 しかし,「学校のまわりの川が汚れているけれども,愛知の方も同じようなCODの値で汚れているよ」「川の清掃活動を行っている学校もあるんだ。」といったように、子供達の質問に対してメールが返ってきた。そのメールを通して,相手の地域の環境を知るとともに,自分達の地域の環境をふりかえるきっかけになっていった。
 しかも,出された電子メールなどが返信されてくるのをみて,インターネットの裏側には人間がいるのを意識した。ヒューマンネットワークの素晴らしさを感じることができた。
 そんな時、日本海重油流出事故が起こった。「遠くの私たちにできることはない?」「福井の三国はどんな様子なの?」交流校の子供達が訪ねてくることに対して,子供達は元気よく答えていた。子供達がお互いの顔をあわせることで,親近感を持って答えることができた。
 日本海重油流出事故についてのTV会議を通して,意見交換をすることができた。遠方から重油回収のためにきて下さる方々,海鳥を助けるために頑張る獣医師,重油回収のために竹べらをつくる中学生の子供達。そんな姿を伝えることができた。「他の県の子供達も真剣に考えてくれているんだ。」「ボランティアの方々がたくさんきているんだ。」お互いの情報を交換するとともに、人間の素晴らしさを確かめあうことができた。
ワンポイント・アドバイス
 CU-SeeMe を使い,画像と音声で遠隔地の子供達と直接会話をすることができた。しかし、回線速度が128Kでは,画像がモザイク上になったり,止まってしまったり,音声が聞きとりにくくなったり,コミュニケーションをとるのにだいぶ苦労した。phenixなどTV会議用のシステムが充実しつつある。デジタル回線も簡便に設置することができるようになってきている。TV会議用のシステムの導入が望まれる。
 また,電子メールで情報交換を行った。環境破壊の現状や対策など,有効な情報が返信されるものもあった。しかし、基準となるものをはっきりしておかなければならないものもある。例えば,水が汚れているといったメールが返信されても,何を持って汚れていると意味しているのか分からないからである。酸性雨調査プロジェクトのように,pHを共通の測定方法で数値データーとして登録していくものは,情報交換がしやすい。数値,もしくは映像としてデーター交換できる環境情報の提供や広域にわたって共同で調査する企画・運営のしくみをつくることが望まれる。

利用したURLなど

みどりネット(http://www.erc.pref.fukui.jp/)
佐賀県環境サーバー(http://www.saga-ed.go.jp/ps/nokita/kankyou/kankyou.html)
鳴戸教育大学環境のページ(http://www.naruto-u.ac.jp /kankyou/kankyou.html)
酸性雨調査プロジェクト(http://www.cec.or.jp/es/kyouiku/100/project/joint/acid/)

CEC HomePage インターネットを利用した授業実践事例集2 平成9年度