インターネットで方言学習

中学校第2学年・国語
茨城県笠間市立笠間中学校 市毛 正明

インターネット利用の意図
 全国の方言を調べる際にインターネットを利用すれば,さまざまな地方の方言を生き生きと再現でき,直に方言の温もりを感じられるのではないかと考え,実践した。図書室にも方言辞典はあるが,限られたものしか載っていない。また文字言語のみの解説であるので,直にふれることは難しい。そこで,マルチメディアを利用できるインターネットの機能を使い,音声言語としても方言を捉えさせたいと考えた。
 さらに,地元の茨城の方言データベースを作成し,単に他県の方言を見るだけではなく,茨城の方言を全国の人に知ってもらおうと自分たちの身近な方言を調べ,ホームページ上に載せた。
 また,インターネット上のビデオカンファレンスの機能を使い,実際に福島県の中学校とテレビ会議をして生の方言を体験するという試みもしてみた。

1 方言と共通語
(1) 指導目標
・進んで方言に関心を持ち,方言について自ら調べようとすることができるようにする。 (関心・意欲・態度)
・調べた方言をわかりやすく説明することができるようにする。(表現)
・方言と共通語の持つ特性を理解し,場に応じた言葉遣いができるようにする。(理解)
・自分たちの言語生活を方言と共通語という観点から見直すことができるようにする。(言語)
(2) 題材の指導に当たって
 方言は,生徒たちの日常生活とは切ることのできない言語生活の中枢をなすものである。方言については小学校4年生より系統的に指導されてきているが,共通語との特徴の違いなどについては意識しないまま使いこなしている場合が多い。また,方言というだけで否定的なとらえ方をする生徒もいる。
 事前の実態調査においても,生徒たちは「方言は自分の県のなまりが出てしまうので恥ずかしい」「都会に行ったときに方言を使うのはいやだ」などという感想を書いている。一方,「方言は地域によって意味も通じなくなるようなところがあるので,不思議でおもしろい」「自分で使っている方言はわかるが,他地域の方言になるとわからないで,いろいろと調べてみたい」といった関心を示している生徒もいる。
 そこで,ここでは方言の持つ響きや温もり,また他の地方の方言を知ることによって自分たちの方言を見直させ,さらに共通語との違いを考えさせることによって,今までの言語生活を振り返り,より望ましい言語生活を営もうとする態度を育みたいと考えた。
 本教材ではインターネットを利用することにより,様々な地方の方言を瞬時に情報として取り入れ活用したい。また調べた資料をホームページ上に載せることによって全国に情報発信し,共通語を意識しながら方言について調べていくという資料活用能力や自己評価能力の向上を図りたいと考えた。
(3) 利用環境
@使用機種 NEC PC-9821Cb 20台
A周辺機器 30インチ大型ディスプレイ,ビデオカメラ,ビデオコンバータ
B稼働環境 サーバーos:UNIX,クライアントOS:DOS,Windows3.1,モデム,ルータ,8ポートハブ
C使用ソフト 「Al-mail」(メールソフト)、「NetscapeNavigator」(WWWブラウザ)、「CU-SeeMe」(テレビ会議用ソフト)
2 指導計画(4時間取扱い)
第1次 方言についての理解を深める。(3時間)
第1時 身のまわりの方言について調べる。
第2時 調べた方言を電子掲示板に載せ,情報発信する。
第3時 WWW の情報や電子掲示板の方言をみて,方言の良さについて話し合う。
第2次 共通語についての理解を深め,今後の言語生活について話し合う。(1時間)
3 利用場面
(1) 目標
 電子掲示板の資料やWWW 上の他の地方の方言を見ることによって,方言についての理解を深めることができる。(理解)
(2) 準備・資料
教科書「光村図書」国語2,ワークシート,コンピュータ(NEC-9821Cb)
ビデオコンバータ,自己評価表
(3) 展開
学習活動・内容 支援及び個を生かす手だて(は評価の視点)
1 本時の学習課題を確認する。 ・自己評価表に各自のねらいを書くことによって本時の目的意識を持つようにする。
学習課題  いろいろな方言を調べて,方言の良さを知ろう。
2 グループに分かれ,課題に沿っていろいろな方言について調べる。

A 方言辞典で調べる。

★B 方言データベースで調べる。(図1)

★C 他のサイトで調べる。

★D CU-SeeMeでテレビ会議を通して調べる。(図2)

★E 電子メールで調べる。

★インターネットの利用

・笠間中のホームページからさまざまなサイトへ移動して方言を調べられることを補足し,能率良く検索するように助言する。

・ネットワーク上ばかりでなく,従来通り辞典で調べることも大切であることを確認したい。

・情報量が多いので,ただ見るだけに終わらないよう,観点をはっきりさせて探すように促す。

・テレビ会議のグループについては,操作に慣れていないので,できるだけ補助をしてスムーズなやりとりができるようにしたい。

意欲・関心・態度
自ら進んでさまざまな方言について調べようと取り組むことができたか。

(観察・ワークシート)
3 調べた内容をグループごとに発表し合う。(図3)
・調べた内容と自分たちの感想を発表し合うことにより,方言に対する関心度を高めさせたい。

表現
調べた内容を分かりやすく説明することができたか。(観察)

4 本時のまとめをする。
・次時の学習内容を確認する。
・生徒各自の本時の自己評価表をまとめ,次時への意欲付けとなるようにする。
・次時は共通語と方言を比べて,自分の考えをまとめることを予告する。

図1 方言データベースの画面

図2 CU-SeeMeでテレビ会議をしているところをしているところ

図3 グループごとの発表

(4) 授業の概要

 方言についての理解を深めるために,まず生徒の身の回りの方言について調べた。生徒が個人で調べた方言をホームページ上の方言データベースに載せ,学級内で茨城の方言についての相互理解を図った。普段使っている方言ではあるが,いざ公表するとなるとなかなか思い浮かばない生徒がいたため,祖父や祖母に聞いてくるなどの配慮をした。その結果,自分たちも使わない方言を祖父や祖母が知っていることに驚きを感じた生徒もいた。
 次に,茨城以外の地方の方言をグループごとに調べた。グループによっては,インターネットの方言のホームページで検索する班,方言データベースに書き込んでくれた人に電子メールでその地方の方言についてさらに詳しいことを質問して調べた班,CU-SeeMeを使ってテレビ会議をする班,方言辞典で調べる班など多様であった。他地域の方言が載っているホームページでは,実際に音声を聞くことのできるところもあり,生徒たちの意欲的に取り組む姿が見られた。
 最後に,調べた方言についてグループごとに発表し,共通語との違いや特徴,使い分ける場面などについて話し合いを持った。そして,自分の今後の言語生活についての考えをワークシートに書き込み,まとめとした。(図4)

図4 まとめの際に使用したワークシート

4 実践を終えて

 授業のねらいは,1(1) の4点をあげていたが,おおよそ達成できたのではないかと思われる。
 特に他地域の方言を調べるときに,その地方独特の言葉を音声で捉えることができたのは,インターネットを利用したからであるといえる。また,CU-SeeMeを使ってリアルタイムで方言を聞けたことは,生徒の感想にも印象深く残されていた。
 授業前の方言についての調査では,自分たちの方言を恥じるような感想が多く見られたが,授業後では方言の良さに目を向け,「方言はその地方の文化である。」「方言にはその地方にしかないあたたかさがある。」などの感想を述べている生徒が見られた。

図5 自己評価表と授業後の反省・感想のワークシート

ワンポイント・アドバイス
 インターネット上の方言のページは徐々に増えつつある。今回アクセスした「ふるさとの方言」のページは,全国各地の方言をクリッカブルマップで探すことができ,大変便利である。また,文字情報のみでなく音声情報も取り入れることができ,方言学習にはかなり役立つページである。ただし,音声データのデータ量はかなり大きくなるので,事前にアクセスしてキャッシュを利用したり,プロキシーを利用したりするなど,アクセス時間の短縮を図らないと1時間の授業の中では収まりきれなくなる可能性があるので,要注意である。

利用したURL

・ふるさとの方言 ( http://www.itl.atr.co.jp/dialect/ )
・茨城県の方言 ( http://www.hc.t.u-tokyo.ac.jp/~yanagi/Ibaraki/dialect.html)

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