ボランティア活動について自分の考えを発信しよう
---グローバルな問題をとらえさせるための単元構成の工夫---

中学校第2学年・英語科
福岡教育大学教育学部附属福岡中学校 橋口公一

インターネット利用の意図
 英語科に限らず様々な教科で,環境問題,人権問題,ボランティア活動といったグローバルな視点に立つ題材が増えてきている。これらの題材については,せっかくよい題材であっても,なかなか学習の実感を味わわせることが難しい。そこで,インターネットを取り入れた単元構成の工夫を通して,題材に関連した本物の情報を収集させたり,自分たちの考え方や実際の活動内容について紹介させたりすることにより,体験的に理解させていくことが大切である。こうした活動を通して,自らの考えをもち表現する力を身につけていくことが可能になる。

1 ボランティア活動について自分の考えを発信しよう
(1) ねらい
 SUNSHINE ENGLISH COURSE 2 のPROGRAM 8 A Cleanup Campaignでは,アメリカの新 聞 Los Angeles Timesに掲載された実話を取り上げている。その内容は,かつて大変きれいだったメイプルパークがゴミや缶でとても汚くなってしまったときに,ある若者たちのグループがボランティア活動を始め,その運動が少しずつ広がりを見せ,ロス・アンジェルスで最もきれいな公園に甦ったというものである。本題材の構成は,前半が理解中心,後半が対話中心という形式になっている。
 そこでまず,海外の中学生がどんなボランティア活動をしているのか,日本のボランティア活動についてどんなことを知りたいと思っているのかなどについて,ホームページを使って情報収集させた。次に,それらをもとに,海外へ向けて自分たちのボランティア活動の取り組みを紹介したり,自分たちの考えを海外へ向け発信したりすることができるようになることをねらいとした。
(2) 指導目標
○ 海外のホームページの検索や自分たちの活動を紹介するホームページ作成を通してボランティア活動に興味・関心をもつ。
○ 比較表現(最上級,比較級,同等比較)について理解し,発信の場面を意識しながら表現することができる。
○ 日本でのボランティア活動についてホームページを作成し,「電子メール表現集」を活用しながら,積極的に書くことができる。
○ 海外のボランティア活動に関する電子メールの英文を理解することができる。
○ 海外のボランティア活動と自分たちの取り組みの相違に気づくことができる。
(3) 利用場面
 自分たちのボランティア活動を紹介するために,相手がどんな情報を必要としているのかを知り(情報収集),そのためにどんな表現を学ぶ必要があるかを意識して練習を行い(表現習得),ホームページを作成して発信する(情報発信)という3つの場を意識しながら単元構成を工夫していく。
@情報収集の場(題材に関する情報収集を行わせ,その内容に興味をもたせる。)
 教科書の題材と関連して,海外の中学生がどんなボランティア活動に取り組んでいるか,日本のどんな活動を知りたいと思っているのかなどについて,ハワイの電子メール提携校のホームページから情報収集させる。
A表現習得の場(発信に必要な表現を習得させ,題材の内容を理解させる。)
 海外から送られて来た電子メールを活用して,ボランティア活動に関する表現を見つけさせる。また,電子メール表現集を用いて,教科書の表現と関連づけながら発信に必要な表現を練習させる。
B情報発信の場(自分たちのボランティア活動をホームページにまとめ発信させる。)
 海外からの質問に答えることを意識しながら,グループ別にボランティア活動をホームページにして発信させる。また,キーパルにホームページの紹介を電子メールで発信させる。
(4) 利用環境
@利用機種
・WWW サーバ用UNIXワークステーション 1台
・教師用コンピュータ(NEC9821V10) 4台
・生徒用コンピュータ(NEC9821Cu13,NEC9821V10) 29台
A周辺機器
・デジタルカメラEpson CP-200
・スキャナーEpson GT5000 WINS
B稼働環境
・福岡教育大学からの専用回線(28800bps.) により,LAN 及びインターネットに接続されている。
・インターネットに接続されているコンピュータは,教師用4台(コンピュータ室2台) (職員室2台), 生徒用(コンピュータ室8台)。
C利用ソフト
・ソフト Microsoft Word,Netscape Navigator,Paintshop Pro
2 指導計画(全9時間)
学 習 活 動 ・ 内 容 指 導 上 の 留 意 点

@ボランティア活動に関するホー ムページを見て,情報収集する。
・海外のボランティア活動
・キーパルが知りたい内容
インターネットの利用
★ハワイの電子メール提携校プナホハイスクールの順子アディ先生のホームページを活用して,どんな活動が行われているのか,日本のボランティア活動のどんな内容が知りたいのかを探らせる。

図1 ホームページから情報収集する生徒

A〜D新出の文法事項と本文の内容について理解するとともに,発信に必要な表現を習得する。
・Is Kyoto older than America?
・We'll start doing volunteer work with my friends.
など

・電子メール提携校のスティーブ先生のボランティアに関するメールを紹介し,各自の考えを深めさせる。
・「電子メール表現集」を用いて実際に発信する。
・場面を意識しながら,比較表現についての理解を深めさせる。
表1 電子メール表現集の例
・My mother gets upearlier thanI. Becauseshe cooks lunch for me every morning. (比較級編)
・Mt.Fuji isthe highestmountain in Japan.(最上級編)
・If world people do volunteer work, the earthwill becomeas beautifulas the old days. (同等比較編)

E〜G自分たちのボランティア活動を紹介するホームページを作成し,発信する。
・Beach cleaning
・UNICEF volunteer work など
★インターネットの利用
・HTML文書の作り方を学習させる。
・今まで経験したボランティア活動について書いた英文を相互に読み合わせ,グループで内容を吟味させる。
★ホームページ紹介の電子メールをキーパルに発信させる。

図2 生徒が作成した海岸清掃に関するホームページ
発信したホームページに関する海外からのメールを読み,お礼の手紙を書く。
・既習表現の効果的な活用
インターネットの利用
・電子メール提携校と打ち合わせておき,各グループ毎に必ずメールが届くようにしておく。
・ALTに海外におけるボランティア活動についての紹介をしてもらったり,JTEと分担して表現上のアドバイスをしてもらったりする。

3 利用場面(情報発信の場のH)
(1) 目標
 ホームページに対する感想が書かれた電子メールの内容を理解し,お礼の電子メールを書いて発信することができる。
(2) 展開
学 習 活 動 ・ 内 容 指 導 上 の 留 意 点 備 考
1 インターネットで情報収集した海外のボランティア活動についての話を聞く。 ○ホームページを活用しながら,BBBSというボランティア団体の内容について,ALTから説明してもらう。 ・インターネット
・大型ディスプレイ
2 BBBSについて書かれた電子メールを読み,その概要を理解する。 ○電子メールの中の未習語などをリライトし,理解しやすくしておく。 ・電子メール学習プリント
3 ホームページを見て寄せられたメールに対して,自分の考えを含めて,お礼のメールを書く。
・From E-mails, I understand...
・I think that...
○「電子メール表現集」の中にあるわかったことを伝える表現を参考にさせる。
○完成した生徒から順に,ALTに表現についての確認やアドバイスをしてもらう。
 
4 電子メールを送信する。 ○JTEは,機器の操作上のトラブルの処理や表現がなかなか進まない生徒へのアドバイスを行う。 ・インターネット
・電子メールソフト
5 学習のまとめを聞き,感想を書く。 ○作成された英文の一例を挙げ,表現の工夫点やALTからのアドバスを行う。

4 実践を終えて
次は,活動後の生徒の感想である。
海岸清掃に関するホームページをつくってみて,改めてボランティアの大切さがわかった。英文を書いて打ち込むのが大変だったけれど,いろんな国から私たちのホムページに意見が届くと思うと,わくわくする。
 感想からわかるように,今回の活動が,題材で扱われている「ボランティア活動」についての見方を広げ,グローバルな視野で自分の活動をとらえなおすきっかけとなっていることがうかがわれる。グローバルな問題について,生徒自身の考えをもたせ,諸外国の生徒たちの活動と比較しながら実感のわく学習にしていくことが大切である。
 活動への意欲を高めるためには,ホームページ作成は格好の材料である。いろいろな機会に,生徒の活動の成果をホームページにまとめさせ,よりよく表現する方法を工夫させていくことにより,さらに豊かな表現が可能になる。また,自らの英語で全世界に発信したものが「通じた」という実感を味わわせることは,何よりも大切な体験である。
ワンポイント・アドバイス
 情報収集の場では,電子メール提携校のプナホハイスクールのページが役立った。このホームページは,日本語と英語の両方で作成されており,気軽に情報収集ができたようである。表現習得の場では,海外からのメールをもとに,題材に関する情報を増やしたり,またメールの中から自分が使える表現を見つけさせたりすることが大切である。さらに,情報発信の場でのホームページ作成に際しては,画像を前もって貼り付けておくと,文字入力だけで済むため,時間の短縮ができる。今回は,マイクロソフト社のワードを使用したので,HTML言語の説明は基本的なものにしぼり,保存形式をHTML形式にすることだけをアドバイスした。なお,EmailClassroom Exchange (http://www.iglou.com/xchange/ece/index.html)等の掲示板にホームページ紹介のメールを出しておくと,海外からのメールが驚くほど返ってくる。今回の実践では,12月末日までに192通の電子メールが本校に寄せられた。

参考・引用文献

・波多江 修 平成9年度長期研修報告書「インターネットを取り入れた英語科学習指導法の研究−題材の特徴を生かした単元構成と場の工夫を中心に−」1998年
利用したURLなど
電子メール提携校の順子アディ先生のホームページelcome to JunkoK.Ady's Page (http://www.lava.net/〜jkady/welcome.html
海外のボランティア活動(BBBS)の関連URL
Welcome to Big Sisters of Los Angeles (http://www.bigsistersla.org/)igBrothers of the National Capital Area (http://www.smol.com/bigbrothers/)
キーパル紹介及び海外教員と情報交換URL
eMail Classroom Exchange (http://www.iglou.com/xchange/ece/index.html)

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