バーチャル書道教室
---日本の伝統文化をテーマにしたコラボレーション---

中学校第3学年・選択教科技術・家庭科
下関市立長府中学校 中村 博尚

インターネット利用の意図
 このプロジェクトは,生徒たちに国際コラボレーションを実際に体験する機会を提供しようとするものである。学校という物理的に閉ざされた空間では,これまでこのような試みは非常に困難と思われてきたが,インターネットという技術を駆使することによってそれが可能となった。

1 情報を発信しよう
(1) ねらい
 中学校技術・家庭科の情報基礎領域の単元に「情報の活用」がある。学習指導要領の内容では,「(3)アソフトウェアを用いて,情報を活用することができること。」である。 この単元の学習は,これまでの既習事項を応用した展開となるよう配慮するとともに,通信端末としてのコンピュータの利用価値を知ることで,相手を意識した配慮と情報に対する責任が生じてくることを身をもって経験させたい。そこで,生徒自らが情報の相互伝達の経験を通して,コラボレーションの必要性を実感できるような授業を行うことにした。
(2) 指導目標
 生徒一人一人が,この「バーチャル書道教室」を通じて,国際コラボレーションの難しさと必要性を認識し,さらにそれぞれが自ら次のステップへと進んでいく一つのきっかけになれば,この価値はもっと大きなものとなる。離れた2つの国の教室が一つになり,協力をして一つの物事を達成するというプロセスを経て,それぞれなりの成果が得られたように思う。このプロジェクトに参加した生徒同士が将来国際的な舞台で再会し,旧交を暖めるとともに,実社会の中における国際コラボレーションをさらに進めることをめざす。
(3) 利用場面
 この単元では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
@書道作品のデータ化
 相手校(高校生)の習熟度や興味関心に応じて学習できるように,第1ステップのひらがな2文字から第5ステップの漢字2文字まで,それぞれのお手本をデジタルカメラで撮影し,画像データをつくる。
A電子メールの送信
 作成した画像データを添付ファイルとして,自己紹介文と共にブラジルの高校生に送信する。
Bイラストカードの作成
 お手本の文字の意味を理解してもらうために,グラフィックソフトでイラストカードを作る。
Cムービーファイルの作成
 お手本のひらがなの書き順や要領をつかんでもらうために,英語で解説したムービーファイルをつくる。
(4) 利用環境
@使用機器 NEC 9801 EX 20台, IBM aptiva 1台, Macintosh LC6301台
A周辺機器 デジタルカメラ
B稼働環境 インターネットに接続されたMacintosh LC630の画面を生徒用のコンピュータに表示させる。イラストカードは生徒用のスタンドアロン20台で作成, 電子メールはIBMaptivaから送信する。
Cその他の利用ソフト
 この単元の学習では,電子メール送受信用にマイクロソフトメール,またイラストカード作成用にハイパーキューブ(スズキ教育ソフト),さらにムービーファイル作成にクイックタイムムービーを使った。
2 指導計画
指導計画(20/20) 留 意 点
@本校代表生徒の書道のお手本を用意する。
☆デジタルカメラ
・代表の生徒数名があたり,デジタルカメラの画像ファイルとして,相手校に提示する。
また習熟段階に応じて練習できるように,ひらがな2文字のステップ1から漢字2文字のステップ5までの段階を設定しておく。
A作品に書かれてある文字の意味は,イラストカードで補足する。 ・例えば「きく」というお手本については,「Chrysantheum」と「Hear」の2つの意味を
☆ハイパーキューブ 持っているので,2枚のイラストにそれぞれ英語のスペルと,ひらがなの「きく」をのせて提示する。
Bひらがなの書き順や書き方の要領は,ムービーファイルで学習してもらう。
☆クイックタイムムービー
・「きく」の場合には,「き」「く」それぞれ書き方の要領を英語で解説しながら,実際に筆の動きを確認できるようにする。
C要領と意味を相手校の生徒に理解してもらった上で作品を完成してもらい,作品を本校生徒に送る
★インターネットの利用
・作品が送られてくる間に,それぞれのステップのお手本データづくりに取りかかる。
D本校生徒は,この作品に励ましのことばとアドバイスを与え,赤で添削したものを再度相手校に送り返す。
★インターネットの利用
・アドバイスは適切な言葉を選んで,次の作品づくりの意欲がわくような内容に配慮させる。


図1 本校生徒のお手本例

図2 イラストカードの例

3 ムービーファイルの例

図4 海外生徒の作品例

図5 本校生徒の添削例

3 利用場面
(1) 目標

 平安時代の女流文学者たちが生み出した日本古来の「ひらがな」を使った書道をテーマに生徒自らが情報の相互伝達の経験を行う。これにより,海外の生徒に日本の伝統文化を理解してもらうとともに,コンピュータの向こう側にいる人の気配を感じ取る。
(2) 展開
学 習 活 動 活 動 へ の 働 き か け
1相手校から送られてきた書道作品を紹介する。
2作品の寸評を考える。
・あらかじめ,相手校の生徒作品をプリントアウトして各班に配布しておく。
・電子メールの内容や,添付された顔写真なども生徒用のコンピュータで確認させる。
・「全体のバランス」「止め」「はね」という評価基準をもとに,作品の寸評を意識しながら鑑賞させる。
・作者の優れた点にも必ずふれ,意欲がわくような寸評を書くように心がけさせる。
・寸評を英語に翻訳する作業は各班の翻訳係が行う。その際,あらかじめある程度の例文を教師側で用意しておく。
3作品の添削をする。
4添削した作品をデジタルカメラでデータ化する。
5添削した画像を添付ファイルとして電子メールを送信する。
6授業の感想を発表する。
・各班の添削係が作業を行う。よくできている部分には丸印などでほめるように心がける。
・各班のデータ係が作業を行う。必要に応じて顔写真なども用意させる。
・班員全員が立ち合えるようにさせる。
・新しい発見や感動したことについて,それぞれの思いを引き出したい。

4 実践を終えて

 一連の授業を通して,地球規模のエリアに日本の文化を伝承するという意味あいでは,情報発信の内容としては意味深いものがあったと考える。たとえそれが生徒レベルの書道作品であっても,物理的な教室の壁を越えて異文化を理解し合える場が形成されたことに大きな意義を感じる。
 また先方の生徒の作品については,ただただ感心させられるばかりだったが,本校の生徒からも適切なアドバイスと励ましが与えられたことで,心が通じ合ったと感じた。
 こういったコラボレーションの経験を通して,相互学習の楽しさや自分の持つ意思を相手に伝達するための表現手段や方法,さらには日ごろの授業には見られない自ら学ぼうとする意欲を垣間見ることができた。また,大人にはまねのできない生徒らしい発想が随所に見られたことも新たな発見であった。
 参加した本校の生徒からは,「外国の人に,習字とはどんなものかを知ってもらいたくて,お手本を書きました。習字は日本の文化でもあります。しかし,僕は外国の人にも興味を持ってもらい,共に同じ文化を分かち合えることがいいと思います。僕は,このような場で外国の人々とコミュニケーションをとれたのがとてもうれしかったです。」「私は,見本を書いたり,送られてきた作品の添削をしたりしてきました。正直言って,海外の人たちの書道のうまさに感動しました。一心に書こうとする意志が技を越えたのだと思います。私たちも日本の文化をもっともっと色々な国の人たちに広めていきたいし,また,私たちも他の国々の人たちに負けないように頑張らないといけないなと思いました。」などの感想が聞かれた。
 またブラジルの高校生からは,
- The project made us work together with students of othercountries and showed us how to it. We realized that people from other countrieshave dreams and difficulties like ours. We liked to exchange works viaInternet with people from different cultures.
- I liked very much to exchange messages with people of theanother countries and to learn a different culture ( shodo writing).
- This kind of the project is very important for everybodybecause we can know people of other countries, their culture and to communicatewith people that are so far.
- I liked this project because we learned about art, aboutour distant friends and about ourselves. I would like to go on with thefriendship and comunication with my japanese and american virtual friends.Bye, bye.
- There might be more ineresting if our virtual friends fromJapan and USA could learn more about Brazil. I think we learned more aboutthem.
といった感想をいただいた。
ワンポイント・アドバイス
 海外の交流校とのプロジェクトを円滑に進めるためには,コーディネータとしての教員同士の連絡や日程調整が大きなポイントになるように思う。目的や方法を生徒ちにも十分理解させる必要もある。コンピュータやソフトの使い方にウエイトを置というよりも,発信する情報の内容やコラボレーションの質にこだわった支援のあ方にウエイトを置く方が,よい結果をもたらすようである。

利用したURLなど

北九州市ヒューマンメディア創造センター (http://www.city.kitakyushu.jp/hanao/)


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