インターネットでトマトを一緒に育てよう!

中学校第3学年・技術,家庭科栽培・情報基礎領域
山形県東置賜郡高畠町立第二中学校 金 俊次

インターネット利用の意図
 栽培は時間数の割には,収穫までは長いスパンの授業となり興味関心の継続がなかなか難しい領域である。そこで,長野,山形,富山の3つの遠く離れた学校でインターネットを使って同時にミニトマトを栽培をすることによって環境条件の比較や,ホームページを利用して生徒の情報交換による意欲化を図りながら,地域の農業生産を調査し,情報発信することによって,情報基礎領域と融合した学習の場を設定することにした。

1 矮性ミニトマトの栽培
(1) ねらい
 技術・家庭科の栽培領域は,植物の栽培を通して,豊かな情操と農業立国として発展してきた日本の生産技術を学ぶ,意義深い領域である。
 栽培領域では,作物・花卉を地域や生徒の実態に合わせた,様々な題材で実施されているが,今回は,共通題材として矮性ミニトマトを取り上げ,各学校の風土や気候条件を比較しながら,生育記録をインターネットのホームページを利用して,情報交換を行いながら進めてゆく。このことは,情報基礎領域と栽培領域の融合カリキュラムとして発展し,情報基礎領域で獲得したコンピュータリテラシーが,明確な目的意識を持って発揮できる場を生徒に提供できるものと考える。
 さらに,作物の栽培を中心として行ってきた栽培領域に,地域題材として,地元で作られている特産物の調査活動を導入し,農業生産者の立場からの栽培を学習の対象とすることも試みた。
(2) 指導目標
@作物の栽培を通して,作物の生育条件と栽培技術との関係について理解させ,作物を計画的に育成する能力を養う。
Aコンピュータ操作などを通して,その役割と機能について理解させ,情報を適切に活用する基礎的な能力を養う。
(3) 利用場面
@栽培領域のカリキュラムに情報教育的側面を付加図1のように栽培方法やレポート,感想など実践全体をhtml形式にまとめ,インターネット上で公開した。また,トマトの栽培方法を図2のよう栽培リンクのページや共同研究校のホームページから入手することなどから情報収集力・情報生成力・情報伝達力の育成を試みた。

Aホームページ作成に向けて
 情報基礎の授業を使って,生徒のプレゼンテーション能力を高めるため「私の趣味の紹介」についてプレゼンテーションを行った。ここで利用した絵コンテで画面構成のトレーニングを実施した。

Bインターネット導入への取り組み
 電子メール体験するためにミニトマトの種を植えるための苗床の土の選定を班ごとにしらべ学習し播種,その後の生育結果をホームページに掲載,疑問や分からないことは図3のような質問メールなどでコミニュケーションを図った。また,栽培期間終了後は3校の栽培結果を整理して,共通題材の図4のような栽培データベースの作成と地域題材の調査及び栽培体験によるデータベースの作成を行う。

図1 実践を公開しているページ

図2 栽培の情報を入手するリンクページ

図3 E-mail情報を交換するページ

図4 作業手順などのデータベースのページ
(4) 利用環境
@使用機種 教師用PC-9821 Cx(内蔵Modem14,400bps)1台 生徒用PC-9821Cb20台
A周辺機器 教師用のコンピュータ画像をビデオコンバータを使い生徒用のコンピュータ見ることができる。
B稼動環境 インターネットより栽培に必要なホームページをダウンロードし生徒用コンピュータのハードディスクに保存しておく。
Cその他利用ソフト netscape navigator Ver.2.02 htmlエディタ(フリーソフト)
2 指導計画
栽培領域と情報基礎領域の融合のため*印は情報基礎の指導計画とする。
指導計画 (16/35) 留 意 点
@トマトの作り方を調べる。
★インターネット利用
*インターネットについて知る。
*ブラウザの使い方を知る。
・他県の中学校とミニトマト共同で栽培することや,トマトの収穫量を比較することを知らせることにより意欲を喚起する。
・教師用のコンピュータでインターネットに入り,ネットウエーブし,ネットサーフィンのイメージを掴ませる。
・参考になるホームページを生徒のハードディスクに保存し栽培計画をたてる参考資料とさせる。
・栽培の記録メモ用紙を準備し成長過程を記録させる
A種まきをする。
★インターネット利用
B間引きと鉢あげをする。
★インターネット利用
・授業のたびに本校と共同で栽培している学校のホームページを見させる。
・富山大学安達先生のミニトマト栽培ホームページを閲覧し参考にさせる。
・苗床の土の配分をホームページや資料を参考に班ごとにまとめさせる。
・班ごとに鉢上げの苗床の土の種類やかさね方を工夫しプレゼンテーションさせる。
・鉢上げの方法をプレゼンテーションを参考に最終決定させる。
C追肥をする。 ・自分のトマト葉の形や色により追肥する肥料の違いを理解させる。
・追肥をした時期やその効果を記録ノートに書くよう指示する。
Dトマト栽培の反省をする。
*html言語をしりホーム
ページの制作ができる。
★htmlエディタ(フリーソフト)
*情報をわかりやすく伝えることができる。
・デジタルカメラで自分のトマトの撮影する。
・収穫料の記録をつける。
・栽培結果と後輩へのアドバイスのホームページをhtmlで作成し校内ホームページに公開する。
・記入例をhtmlであらかじめつくり,自分のページに書き換える作業をさせる。
・基本的なホームページができたらhtmlエディタを利用し,より相手に見やすい提示の仕方を工夫させる。
・お互いのホームページが見やすいか評価させる。
・制作したホームページを校内ホームページに登録し3年以外でも昼休みなどを利用して見ることができるようにする。
・このホームページはそのまま次年度,ミニトマト栽培のデータベースとして利用させる。

3 利用場面
(1) 目標

@ホームページより欲しい情報を検索することできる。
A鉢上げに必要な用土と苗床の構成ができる。
Bコンピュータを使用目的に応じた操作ができる。
C相手にわかりやすくプレゼンテーションができる。
(2) 展開 (授業時間は2時間扱いで実施)
学 習 活 動 活動への働きかけ 備 考
1 鉢上げの手順をホームページから検索する。
・富山大学安達先生の苗の鉢上
げ作業のホームページを見て作
業の流れをつかませる。
よう
情報基礎領域の時を1時間を使用

2 本時の学習課題を知る。
鉢上げの土を設計しよう
栽培関係の本を図書館に準備する。また栽培関連ホームページを生徒用コンピュータに保存しておく
 様々資料から鉢上げに必要な用土の種類と効果を知る。 ・苗床に必要な条件を知らせる
・班ごとに制限時間のなかで調べ学習をさせる。
3 仮説をたて鉢上げの土の構造を決定する。 ・班で調べたことから話し合い用土の種類,構造を決定す。
・プレゼンテーションの準備する。
短時間の準備なので絵コンテを制作して実物投影機を使いプレゼンテーションをする。
4 仮説をわかりやすくプレゼンテーションする。 ・聞き易い声の大きさか,プレ
ゼンテーションのための図は簡潔でわかりやすいか,仮説が明瞭か評価する。
情報基礎の時間1時間を使用する。
評価カードを準備する。
5 どのプレゼンテーションが良かったか評価する。 ・自分はどの班の方法を採用するのか決定し,その理由もプリントにまとめさせる。
・採用した人数を挙手で確認し選んだ理由を発表させる。
6 次回鉢上げ作業をすることを知る。 ここは次回,栽培領域の時間1時間を利用する。

4 実践を終えて

 本校のコンピュータの設備面では必ずしも恵まれたものではなく,Windows3.1がかろうじて動作し,教師用のコンピュータだけが14400bpsでインターネットに接続できる状態である。また,生徒の実態としても,全校生徒207名中インターネットに家庭で接続できる者は一人もいないという状況である。しかし,そのような環境であっても,工夫することにより,生徒へインターネットのイメージを伝え,情報検索方法や情報入手,ホームページによる情報基礎の発信ができた。
 生徒は,インターネットを通じて,同じミニトマトを栽培している仲間がいることや,共同で栽培していることが,「富山の方が山形より早く田植えするからトマトが成るのも早いんじゃない」「ホームページそろそろ更新された頃じゃない,見に行こう」「鉢上時期うちの学校遅くない」と栽培をする意欲たえず支えていた。また,栽培している経過ををホームページに載せてゆくことは,情報基礎だけで課題を決め制作よりも,制作することに必然性があり,生徒の取り組み方が意欲的であった。
 ハード的制限が大きいため個々の生徒各人が,インターネットに自由に入り,データベースとして情報を検索できなかった。このため,教師の選んだホームページをハードディスクから検索するにすぎず,インターネットの膨大な情報から欲しい情報を得る体験をさせられなかったのが残念である。
 また,E-mailでそれぞれの学校の指導者が情報交換しながら実践を進めたが,授業時間の進度ずれなどで,生徒へのタイムリーな情報が欲しいときになかなか得られないことがあったのは,今後の課題といえる。
ワンポイント・アドバイス
 最近様々なML(メーリングリスト)があり,自分の専門の分野でインターネットのE-mailを利用ししながら情報交換ができる。本実践もそんなE-mailのやりとりからスタートしたものである。これからのインターネットを活用した授業はホームページなどから情報を収集するだけでなく,「他校との交流活動」だと考える。それは授業設計をするさいに,「情報の収集」−「情報の理解」−「情報の表現」−「情報の伝達」といった「情報活用能力」を養うために不可欠な要素が必然的に含まれているからである。今後インターネットを利用した「他校との交流授業」が中心になってゆく可能性が高い。現在実施している機械で,ロボット相撲大会などもインターネットなどを利用して,ロボットを強くさせる機構の情報交換や,製作上の工夫など様々な学校と交流できればさらに生徒の感性に広がりを生むのではないかと考えている。
参考文献
安達 渉:第15回北陸三県教育工学研究大会
「技術・家庭科における学校間通信を利用した並行型栽培学習の実践」,1997
利用したURLなど
富山県砺波市立般若中学校 (http://www1.coralnet.or.jp/han-jhs/saibai.htm)
長野県原村立原中学校 (http://www.root.or.jp/harachu/guyutu/09saibai.html)
安達 渉「ミニトマト栽培のホームページ」
(http://www2k.meshnet.or.jp/~adcw/minitomato.htm)
キタ種苗株式会社 (http://www.mbce.co.jp/tokita/home.htm)
気象庁のホームページ (http://www.kishou.go.jp)
農林水産省のホームページ (http://www.maff.go.jp)
富山県砺波市のホームページ (http://www.city.tonami.toyama.jp)

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