インターネットを利用した国際理解教育の推進

高等学校 外国語・特別活動
茨城県立岩井高等学校 齊藤 達也

インターネット利用の意図
 多元的な価値観を尊重する国際理解教育の必要性が唱えられている。この国際理解教育では,世界の人々と交流することによって,お互いの相違点と共通点を認識し,また相手に自分たちのことを知らせるために,自分の住む国・地域・学校を見つめ直すことも重要な要素である。また,国際理解教育はいろいろな教科や特別活動などいろいろな場面で行われるべきである。世界の人々と実際に会って交流することはなかなかできない。だが,インターネットを利用することによって,国境を越えて世界の人々と日常的に交流することが可能となる。

1 はじめに
 岩井高校ではインターネット環境を利用して,主に国際理解教育の推進をテーマに実践を行ってきた。最初は,インターネットに接続しているクライアントの数が少ないなどの理由により,課外活動として英語部や一部国際交流に興味を持つ生徒を対象とした活動であった。その後,インターネット環境の整備を行い,CAI教室の45台のパソコンをインターネットに接続した。また,インターネットの利用を進めるために全生徒・全職員のアカウントを発行し,全員が電子メールを利用できるようにした。これにより,授業でのインターネットの利用が本格的に行われるようになった。授業だけでなくHR活動として,インターネットを利用して国際交流のプロジェクトにも参加することが可能となった。さらに,地域の国際姉妹都市との交流活動にも参加し,地域との関係も深まった。
 今回は,国際理解教育という視点から,課外活動,英語の授業,HR活動でのプロジェクトへの参加等の実践を報告したい。
2 課外活動での交流活動
(1) インターネット接続以前(平成7年4月〜7月)
 100校プロジェクトに指定され,インターネットが利用できる予定であったので,先行して平成7年4月から英語部の生徒を中心にインターネットを利用した国際交流活動を開始した。アメリカのミシガン州とバージニア州の学校と交流を行った。電子メールアドレスは,電子メールを以前から利用していた教師の個人のものを利用した。
@手順
ア 交流相手校を探す。(メーリングリスト上で交流を呼びかける。)
イ 相手校の教師と電子メールで交流手順の打ち合わせをする。
ウ 生徒が自己紹介文を書く。
エ 生徒が書いてきた文章を教師がタイピングして,1つのファイルにする。
オ 教師の電子メールアドレスから相手校に電子メールを発信する。
カ 相手校では,メールを各生徒に切り分け配布する。
キ 相手校の生徒が返事を書く。
ク 相手校の教師がそれらをまとめて,1つのメールとして本校の教師に発信する。
ケ 受信したメールを各生徒に切り分け,配布する。
コ 本校生徒が返事を書く。
サ エ〜コを繰り返す。
A評価
・相手校との学期の違いなどにより,1学期中の活動期間は2ヶ月弱しかなく,またメール1往復に時間がかかり,1学期中に2,3往復しかできなかった。
・活動途中からCAI 教室のパソコンが整備されたので,生徒たちがタイピングして作成したメールのファイルを1つにまとめ相手校に送信することにした。そのため,生徒たちへのパソコンの基本操作及びタイピングの指導が必要になった。
・電子メールの送信が必ず教師を経由して行われるので,相手に対する返事が確実に書かれたか,またその内容を事前にチェックすることができた。反面,生徒たちのプライバシー保護の面で問題があった。
・教師の負担がかなり大きかったが,生徒たちは意欲的に取り組んでいた。
(2) インターネットに接続(平成7年9月〜平成8年3月)
 平成7年6月下旬にインターネットに接続した。当初,サーバー1台,クライアント1台であった。生徒が自ら電子メールを送信するために,CAI教室のパソコンにLAN カードを差し,クライアントを増やしていく必要があった。7月にクライアントを9台に増やした。また,電子メールを生徒が自由に活用するために夏休み中に全生徒・全職員のアカウントを発行し,電子メールのアドレスを設定した。さらに,プライバシー保護のため,電子メールソフトは各自が受信したメールを各自のフロッピーで管理できるものを選んだ。
 交流相手は1学期の学校と継続して行うこととしたが,相手校は新学年になったため生徒によっては相手が変更された。また,海外の学校から交流希望のメールが届いたり,100校プロジェクトの参加校である奈良県立高取高等学校が呼びかけて始まったハワイの学生とのkeypalプロジェクトにも参加する生徒もいて,交流活動の幅が広がっていった。更に,自主的に海外に交流相手を探して電子メールによる交流を進める生徒も出てきた。

@手順
ア 生徒がメールを書き,交流相手の生徒名をSubject にして相手校のアドレスに送信する。教師が交流状況を把握できるように,教師のメールアドレスにCCする。
イ 相手校の教師は受信したメールを該当生徒に配布する。
ウ 相手校の生徒がメールを書き,本校生徒のアドレスに送信する。
エ ア〜ウを繰り返す。
A評価
・生徒は各自の電子メールアドレスを使ってメールを送信するので,プライバシーは守られるようになったが,教師が生徒の書いた内容の事前チェックや返事を出したかどうかのチェックが難しくなった。そこで,学校対学校として交流している場合にはメール送信時に担当教師にCCさせることにした。
・自主的な活動が見られるようになった。
・生徒の活動の全容を把握するのが困難になってきた。
・英語が不得意だと言っていた生徒が,この活動を通して,英語を身近に感じるようになり,教師の助言なしに電子メールを出せるようになった。
・ミシガン州の学校とは電子メールだけでなく,学校や地域を紹介するアルバム交換も行った。そのアルバムの制作過程において学校や地域を見つめ直すことができた。
(3) 現在の活動(平成8年4月〜)
 平成8年3月にCAI 教室のパソコン全てをインターネットに接続した。また,パソコンの性能を向上させるために,メモリとハードディスクを増設し,OSもWindows3.1からWindows95に変更した。
 在学中にインターネットを学校生活の中で有効利用してもらうため,4月当初新入生に対するCAI教室利用のガイダンスを行い,3時間程度でパソコンの基本操作,タイピングの練習方法,インターネットの利用方法(WWW,電子メール,ネチケット等)を指導した。
 現在は,英語部の生徒と国際交流に興味を持っている生徒たちが放課後CAI教室に集まり,自主的に活動している。教師主導での活動は英語の授業などに移っている。
 本校の所在する岩井市の姉妹都市である米アーカンソー州のパインブラフとの交流活動にも参加した。毎年夏に学生数人を交換するプログラムを行っていて,交換学生の歓迎パーティーに生徒が毎年参加している。また,パインブラフの姉妹都市委員会のメンバーが姉妹都市10周年記念で岩井市を訪れた時に,生徒たちが歓迎パーティーに参加した。滞在中に教育に興味を持っているメンバーが本校を訪れ,インターネット環境を視察し,パインブラフの学校と本校とのインターネットによる将来的な交流への協力を約束してくれた。その後,パインブラフの姉妹都市委員会のメンバーの数人と日常的に電子メールを交換している。平成8年夏のパインブラフからの交換留学生とは,来日前から電子メールで情報交換ができたし,また,彼らが滞在中は本校から電子メールが利用できる環境を提供し,生徒たちと交流する機会を増やすことができた。
3 英語の授業における交流活動
 平成8年4月からCAI 教室のパソコン45台がインターネットに接続し本格的に授業での活用が可能となった。英語担当の教師数人が授業の中でインターネットを利用した交流活動を行ってきた。ねらいは,英語をコミニュケーションの道具として実際に利用することによって英語学習への動機付けを行うことであった。
(1) 単発的な交流
 英語の授業で進度の関係で余裕ができたクラスで,1時間の授業だけの単発的な交流を行った。

@手順
ア 電子メールを書くときに参考になる英語表現に関する資料プリントを配布する。
イ World Birthday Webを使って,授業当日が誕生日の人にBirthdayメールを出す。
ウ 送信するとき,担当教師にCCする。
エ 返事は放課後に各自読むこととし,その後のフォローは授業では行わない。
A評価
・生徒がCCしたメールによって,内容を評価する。
・返事が届く保証がないため,返事をもらえなくてがっかりする生徒もいた。
・相手が同じ世代なのかわからないので,交流相手として適当なのかわからない。
(2) 継続的な交流(実践例1)
 平成7年度に本校が参加した国際交流に関するプロジェクトの参加校である,カナダのPrinceof Wales Collegiateという学校と,英語の授業での交流をしようと平成8年4月に呼びかけた。OKのメールを受け,電子メールで人数,期間などを打ち合わせた。4月から6月にかけて,1年生の1クラスが40人規模の交流を行った。9月からは相手校は新学年となり,交流相手も変わるので,こちらもクラスを変え,100人規模の交流を行った。1年と3年の2クラスと残りの約20人は英語部の生徒を充てた。4月から6月にかけては期間が短かったので,電子メールは多くても2往復程度しかできなかった。9月からの交流では5往復程度のメールの交換ができた。

@手順
ア 相手校から交流相手のリストが送られてくる。
イ 担当教師が生徒の交流相手の組み合わせを行う。
ウ 各生徒に相手の生徒の氏名と電子メールのアドレスを与える。
エ 電子メールソフトの使い方,英文レターの書き方などの指導を行う。
オ 自己紹介のメールを送信する。担当教師にもCCする。
カ 相手校の生徒が本校からのメールを受信し,返事を書き,送信する。
キ 相手校からのメールを受信し,返事を書き,送信する。担当教師にもCCする。ク カ,キを繰り返す。
A評価
・英語学習に対する興味を増した生徒が多かった。その反面,課外活動の生徒たちのように自発的な活動でないために,取り組みに対する熱意は生徒によってかなりの差があった。
・交流相手によっては学期の違いにより交流できる期間が限られてくる。
・返事が来ていない生徒は授業時間を有効に過ごすことができないので,授業で活動を行う時期は相手からのメールの到着状況によって決めた。
・相手校の担当教師とメールで連絡を取りながら交流を行うので,返事は確実に来る。・担当する教師の負担はかなり大きい。
・交流活動を授業で行っているクラスと行わないクラスで授業の進度に差が出るため,時間の確保が難しい。
・授業中にメールを書き終わらない生徒は,放課後残って活動した。
(3) 継続的な交流(実践例2)
 教育用の国際交流に関するホームページに掲載されている交流希望者リストから交流相手を生徒自身が選んで交流するという授業を,2年生の1クラスで行った。担当した教師は,そのクラスのメーリングリストを使い,電子メールによって生徒たちに指示を与えたりして,電子メールを日常的に使うように方向付けをした。

@手順
ア 国際交流に関するホームページから交流希望者リストを得て,生徒に提示する。
イ 生徒が交流相手をリストから選ぶ。
ウ 電子メールの使用法,英文レターの書き方を指導する。
エ 自己紹介と交流希望の電子メールを書き,送信する。担当教師にCCする。
オ 返事を待ち,到着状況を見て授業を計画する。返事が来ない生徒には,放課後を利用して,他の相手を再度選ばせ,電子メールを出させる。
カ 交流相手からのメールを受信し,返事を書き,送信する。担当教師にCCする。
キ 返事の到着状況と見て授業を計画する。
ク カ,キを繰り返す。
A評価
・生徒が自分で選んだ相手なので,教師が交流相手を割り当てたときよりも取り組む姿勢が前向きであった。また,英語学習に対する興味が増した生徒が多かった。
・交流希望者リストは全世界で閲覧されるため,交流希望と掲載されていても既に相手が見つかったためか返事が来ないことがあった。生徒によっては,数回交流希望の相手を変えた。
・授業確保のために,授業時間以外に放課後の時間を活動に充てた。
・実践例1と異なり,交流相手からの返事の頻度は相手次第であるため,生徒によって電子メールの往復の回数にかなり差があった。
(4) 今後の計画
 電子メールによる交流が今まで中心であったが,CU-SeeMeなどのビデオ会議システムを利用したリアルタイムでのコミニュケーションを加えた交流も計画している。
 また,本校には現在イギリス人のALTが勤務しているが,ALT と協力して,ALTの出身地域との交流も進めたいと考えている。特に1998年はfestival UK 98(英国祭98)が行われるので,これにリンクした交流活動などを行いたいと考えている。
4 HR活動での交流活動
 HR活動として,今年度「バーチャルクラスルーム '97」に参加した。このプロジェクトは,日本1校を含む異なる国の学校3校がチームを組み,テーマを設定して協力して活動を行い,最終的にその成果をウェブページにまとめるというものである。
 今年度は,私が担任している1年生のクラスと英語部の2年生がそれぞれこのプロジェクトに参加した。私のクラスは,イギリスとカナダの学校とチームを組み,英語部の生徒たちはベルギーとインドの学校とチームを組んだ。活動は,9月から始まりこの1月に終了した。このプロジェクトに参加して,海外の学校との協同学習の足がかりを得たが,次のような課題が残された。
・教師主導でなく生徒の自発的な活動を引き出すためには,どのような教育が必要なのか。
・英語を使っての協同作業のためには,かなりの英語力が必要とされる。逆に,このような協同作業を通して本当のコミニュケーション能力が育成されるのではないだろうか。
・このようなプロジェクトに参加するための時間の確保が難しい。
・協同作業には各校の担当教師間の日常的なコミニュケーションが必要である。
5 まとめ
 平成7年度から,国際交流を軸にインターネットを活用してきた。今後も,このような取り組みをより発展させていきたいと考えている。特に,いろいろな教科での学習活動に国際理解教育を含めたインターネットの活用を進めていきたい。
ワンポイント・アドバイス
 交流は,教育関係の交流に関するウェブページを利用したり,教育関係のリンク集上の学校リストを利用して交流相手を選び,メールで交流を申し込むことで容易に始めることができる。また,交流希望のアナウンスをそのようなウェブページ上で行ったり,WEB66(GlobalSchool Registry (http://web66.coled.umn.edu/schools.html)などのリストに自分の学校を登録すると,交流の申し込みの電子メールが寄せられるダイアルアップ接続の場合,電子メールのアドレスは1つしか利用できないが,それでも工夫によって交流活動は可能である。実際に交流した相手校の中にもそのような環境の学校も多かった。そのときには,電子メールのSubjectに交流相手の生徒名を記しておくことによって,プライバシーの保護の問題は残るが1対1での交流も可能である。
 生徒の個人的な交流の場合はかまわないが,教育活動として交流を行うときには,交流が順調に行われているかのチェックが必要となる。そのためには,生徒各自が自分の電子メールアドレスを利用している場合には,メール送信時に教師にもCCさせること,1つの電子メールアドレスを共有するときには,送信時に発信アドレスにもCCさせ,記録を残させるという方法がある。

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