ネットワーク上のエチケットの学習

高等学校・情報処理
東金女子高等学校 高橋 邦夫

インターネット利用の意図
 情報化社会において,適切な情報を取捨選択する能力やコミュニケーションのマナーに関する知識といった情報モラルに関する事項を学び身に付けておくことは今後重要な素養となる。ここでは情報通信ネットワークを利用したコミュニケーションにおいて心がけるべき基本的態度をネットワーク上の教材資料と体験的学習を通じて身に付ける。

1 情報モラルの基礎
(1) ねらい
 本校では,情報通信リテラシーについては「情報処理」などの情報関係専門科目で扱い,一般教科でのコンピュータ利用のレディネスを与えることにしている。
 情報リテラシーに関する教科として高等学校普通科において「情報処理」(2単位連続授業)を必修教科としており,ワープロ(1年次「文書処理」)表計算(2年次「情報処理」),コンピュータグラフィック(2・3年次)などとともにインターネットの利用方法を実習を通して学ぶ単元を設定している。これは一般教科においてインターネットを活用するための導入部として基本的な使い方を学ぶ時間としても位置づけている。本時は,WWW の利用などインターネットの基本サービスの体験のあと,コミュニケーションについて学び始める際に情報モラルに関する概念を身に付けるために設定した。
(2) 指導目標
 情報通信ネットワークを通じたコミュニケーションにおいてマナーやエチケットとして心がけるべき事項を学習する。情報モラルに関する事項は,コミュニケーションの実践場面において折りに触れて常時指導していかなくてはならないが,まず本時において最初に総合的な事項を知識として理解した上で,今後の実践場面において随時適用できる態度を育てる。
(3) 利用場面
 この単元では,次のような場面でコンピュータおよびインターネットを活用する。
@ネットワークエチケットの学習場面
 ネットワークの利用方法,およびエチケットについて解説したオンライン教材を校内ネットワークを通じてWWW 画面で閲覧する。教材は,教員有志によるインターネット上の共同作業によってあらかじめ開発し,オンライン教材として公開しているものを使用する。
Aコミュニケーションを体験する場面
 校内での利用に限定したオンラインコミュニケーション環境をトレーニンググランドとして,ネットワークコミュニケーションの実践体験を行う。
(4) 利用環境
@使用機種 富士通 FMV-DESK POWER DC (100Mbps Ethernet) 51台
A周辺機器 教師生徒画面共有装置(内田洋行echole-net) ,インターネットサーバ(WWWProx yサーバとして。UNIX機) ,イントラネットサーバ(教室内情報中継サーバとして。WindowsN T機)
B稼働環境 インターネットよりイントラネットサーバを介したLANを経由し生徒用パソコンに おいてWWW 閲覧。コミュニケーション環境としてWWWサーバ内にCHATサービスを設置し,WWW ブラウザをインタフェースとして利用。
Cその他の利用ソフト
WWW教材:
「ザ・ネット:利用者の指針とネチケット」
(図1)アーリーン・リナルディ著 高橋他訳
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/
netiquette/fauj/index.htm

図1 ザ・ネット:利用者の指針とネチケット
「ネチケット・ガイドライン」
(図2)サリー・ハンブリッジ著 高橋邦夫訳
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/
netiquette/rfc1855j.html

図2 ネチケットガイドライン
「ネチケット情報( ネチケットホームページ) 」
(図3)高橋邦夫編
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/
netiquette/index.html

図3 ネチケットホームページ
WWW CHATシステム:
新100校プロジェクト自主企画支援グループにより作成されたCHAT CGIプログラム(1998年4月一般公開予定)をもとに本校用に修正を加えたものをチャットシステムとしてWWWサーバに設定した。生徒パソコンからはWWW ブラウザにより利用できる(図4)。
校内限定利用のためURL は非公開。

図4 WWW チャット
2 指導計画
指導計画 留 意 点
・ネチケットについて調べる。
★WWW 教材の利用
・あらかじめ,WWW 利用の指導をしておく。
・ネチケッット(ネットワーク上のエチケット)について,WWW 教材を通じて調べる。
・技術的な用語については,用語解説の教材を利用させたり適宜個別に解説を加える。
・ネチケットのエッセンスをまと める。 ・ネチケットガイドラインの膨大な項目の中からエッセンスとなる基本原則を示すキャッチコピーを考えさせる
・チャットによるコミュニケーション体験。
★CHATの利用
・実際のコミュニケーション場面を実践体験する。
・教師もチャット会話に参加し,積極的な投稿の激励や,技術的指導を加える。
・教師は事後の指導のために倫理的に問題になりそうな投稿文について生徒間の会話投稿から事例を収集しておく。
・クラス全員という大規模なチャットにより複数話題が錯綜する極端な状況を意図的に設定する。
・コミュニケーション実践とネットワークエチケットの考察。 ・実際のコミュニケーション場面において倫理的に問題となる投稿事例を指摘し,前に学習したネットワークエチケットとの関連を考察させる。

3 利用場面
(1) 目標

ネットワークコミュニケーションにおいて,相互の協調や危険回避のためにエチケットをわきまえ実践する態度が重要であることを学ぶ。エチケットの原則が実社会でのそれと同様であることに気づき,日常生活においても倫理的態度が実践されるべきであることを理解する。
(2) 展開
学 習 活 動 活動への働きかけ
1 学習課題を知る ・ネチケット(ネットワーク上のエチケット)を危険回避のための生活の知恵と位置づけ,インターネットについて抱く不安を克服し,積極的に活用することへの動機づけを行う。
2 ネチケットについて調べる
・ネチケットとはどういうものか,どの様な細目があるかを調べる。
・ネチケットホームページを中心に教材資料の所在を示し,調査させる。
・ネチケットガイドラインを示し膨大な細目を通じてエッセンスとなる事項をまとめる。
3 ネチケットの原則をまとめる
心がけるべき態度・原則
(1) コンピュータの向こうには人間がいる
 相手はコンピュータ画面ではない/大勢の聴衆の前で話すようなもの
(2) 実社会と同様に外部社会の危険に備える
 情報の正確性を判断する/詐欺/個人情報保護
(3) 迷惑行為はトラブルにつながる
 ネチケットを知ろう/知的財産権の保護
(4) ネットワーク社会への貢献
 ギブ・アンド・テイク/自ら貢献する態度を
4 チャットを体験 ・メイリングリストでもよい。
・参加およびモニターし,適宜助言を加える。
リアルタイムの多人数コミュニケーションという極端な状況を設定し,話題の錯綜や混乱という体験を通じて,コミュニケーションのルールやマナーの必要性を体感する。
・聞く(読む)態度
・話し(書き)方=話題に集中すべきこと,発言者名の明示,発言相手の明示
>○○さん(○○さんへ)<△△(△△より) (^_^) :−)笑顔
という表記方法を紹介し,便利さ使いやすさ向上のための工夫を促す。
5 まとめ
・体験と照らし合わせて,ネチケ ットの大切さを理解する。
・どのような場合にどのような原則を考慮すべきかを関連づけて理解する。
・4の体験の中から,倫理的に問題となる事例を例示し,ネチケット意識を持つべきことを働きかける。
(事例の類型:話題の混乱,他人のプライバシーの開示,詐称・偽情報,誤解,誹謗中傷と受けとられかねない発言など)

4 実践を終えて

 インターネットの利用は,これまで教室という閉じた空間にいた生徒が直接外部社会に関与することを意味し,社会生活のマナーや危険回避の常識的センスが試される場となるため,特にモラル,マナー,エチケットについては重要な課題と位置づけている。卒業後には必ず必要となる社会生活の規範についての理解を,ネットワーク社会という仮想的な体験を通して身に付けられる点で,インターネットの利用は生徒の自己管理能力の向上に好適な教材となるものと考えている。
 情報通信倫理教育に関する取り組みは,教員研修,教材開発,生徒指導の3つの活動に大別できる。生徒指導のために教材開発が必要であり,そのための教員研修も大切という位置づけである。教員研修においては,インターネットという新しいメディアに触れて,まず教師自身の経験と知識が不足していることが問題となる。これには,実際にインターネットに触れて情報収集や種種のコミュニケーション体験を積むことが最良の研修となる。インターネットの利用になるべく多くの時間を割き,またコミュニケーション活動に積極的に取り組むほど早く経験を積むことができる。メイリングリスト等を通じて全国の同じ問題意識を持つ教師たちと意見情報交換の交流することも実りある研修となっている。
ワンポイント・アドバイス
 インターネット利用を始めた1995年当時,ネチケットの総合解説文献で日本語で読めるものはなく,先達から個別に指導を受けながら体験を通じて身に付けるしかなかった。この状態では生徒達にネットワーク利用時のマナーを指導する際に支障があるので,英語文献の邦訳により教材を作成しようと思い立ち,100校プロジェクト参加校を中心とした翻訳ボランティアの協力により1996年初頭に完成したネチケット教材がアーリーン・リナルディ著「ザ・ネット:利用者の指針とネチケット」日本語版である。同じ時期に邦訳した「ネチケット・ガイドライン」(RFC1855,FYI-28)もまた優れた教材となるものであった。これらのコンテンツと,教材を求めてWWWにより探したネチケットに関する文献リストをもとにして,「ネチケット情報ネチケット・ホームページ)」を開設し公益情報として提供している。このような新しい分野において教員のコラボレーションによる教材開発は今後も重要であろう。
 上記のような教材を用いながら授業において情報通信倫理の指導を行っているが,まず始めにインターネット利用にあたっての態度,心構えを指導し,その後は体験しながら電子メール,WWWなど利用するサービス毎のエチケットの細目を指導するという手順で行っているが,総則となるのは3にあげた4項目である(紙面の都合で詳細解説を省く。参考文献を参照されたい。)。これらを問題事例の例示を交えて繰り返し指導し,日常的に実践できる態度の養成を図っている。
参考文献
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/report/ に記載の各種講演報告資料。
使用したURL
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette/fauj/index.htm
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette/rfc1855j.html
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette/index.html

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