自己表現能力・コミュニケーション能力の育成

高等学校第3学年・情報処理
鳥取県立米子南商業高等学校 小椋 崇喜

インターネット利用の意図
 高校における商業の最重要テーマは数年前までは「専門性の深化」であった。現在では,「コミュニケーション能力」「経営管理能力の育成」等が重要視され始めている。これは時代の流れに対応するためであり,同時に社会の求める人間像である。このテーマは商業科に限定すること無く,普通科の各教科でも取り組むべき内容であると考えている。
しかしこのテーマには,従来の教材(教科書を利用した1対クラス全員の教授型)を利用することは困難である。そこでコミュニケーションをインターネットを通して活発化し,表現能力を高めることを目的とした。

1 自己表現能力・コミュニケーション能力の育成
(1) ねらい
 商業科目は普通科目と異なり,商業活動や情報処理に特化した分野もある。専門分野におけるインターネットの活用は学校現場においては「特例」となり他への参考にはあまりならないと考え,今回は普通科でも取り上げる様な項目である「自己表現能力・コミュニケーション能力の育成」を取り上げる。この単元は情報管理の一貫で実施している。また通産省の資格試験でもある「システムアドミニストレータ」の単元の1つにもなっており,EUCを推進するために必要な表現能力・コミュニケーション能力を養わせる事を目的としている。この指導においては,書き易さを重視するために,一般的なテーマ(福祉活動について・人権問題について等)を中心にして扱っている。
システムアドミニストレータの表現能力の必要性について
 EUC を進めるアドミニストレータの目的は,多くの社員にパソコンを利用しなければならないことを説得し,さらに要望をシステム部に伝える必要がある。この際に,自分で資料を検索・作成し,それを的確に伝える表現能力が必要になるとともに,相手の考えている事を理解しあう相互のコミュニケーション能力も必要となる。
(2) 指導目標
@自己の意見をまとめ記述する。
A他人の意見・主張を受け止め理解する。
B他人の意見・主張に対しコメント・アドバイスを行う。
C意識改革・目的意識を持ち論理的な思考を身につける。
(3) 利用場面
@情報収集の道具として
 自分の意見をまとめるために,テーマに関する情報を検索エンジンを利用して収集する。また既知の事であっても再調査することにより確実な知識とする。
A主張の場として
 自分の意見をまとめホームページに掲載する。自分の意見を文字・表・画像で表現することにより,プレゼンテーション能力を育成するとともに,効果的な表現方法を考えさせる。
B意見を求めるために
 ホームページを相互に閲覧し,自分の意見をクラス用のメーリングリスト(ML)に投稿する。人の意見・主張について理解し,自分と意見の違う人に対してその根拠となるページを閲覧し,参考にすることにより相互の意見を理解する。

(4) 利用環境
@使用機種
・生徒機 FMV-6200D8 Windows NT4.0 40台
(CPU:PentiumPro200, RAM:32MB, HDD:3.2GB)
A周辺機器
・スマートボード 1台
・液晶プロジェクタ 2台
B稼働環境
・WWW 兼メールサーバ linux 1台
・MLサーバ linux 1台
・Proxy サーバ linux 2台
Cその他の利用ソフト
・Microsoft PowerPoint97
・Netscape Navigator

2 指導計画

 情報管理(5単位)において,単元終了後などの一段落した時期に計6回実施した。また昨年度からの継続指導となっているため,このテーマにおける指導計画を厳密に作成することは困難である。そこで導入時の計画表と表現能力の育成に関する指導計画の2種類を提示する。

インターネットの使い方と利用方法の基礎(導入時)
指導計画(8/8) 留意点
@ネットサーフィン
Aリンクページの利用
★インターネット利用
・Netscapeの使用法を教える。
・リンクページを中心にマウス操作だけで,世界中の情報を瞬時に得ることができることを確認する。
B検索エンジンの利用
★インターネット利用
・本当に欲しい情報はリンク集にはあまり含まれていないこと・リンク集には新しい情報は少ないことを確認し,検索エンジンの有効性を理解させる。
・ホームページに記載してある内容が常に正しいとは限らないこと確認する。
Cネチケットについて
★インターネット利用
・コンピュータの先には人がいて,人間社会と同様に守るべきエチケットが存在することを確認する。
DEHTMLについて
★インターネット利用
・HTMLの文法を教える。
・Windows のメモ帳で記述させる。
・基本的な文法を重視し凝った技法は省略する。
・自学のために詳細な文法について記載してあるページを紹介する。
FFTP の使い方
ホームページの登録
★インターネット利用
・作成したホームページをサーバに登録する。
・ディレクトリの位置を間違えないように確認する
Gメールソフトの使い方
MLの使い方
★インターネット利用
・AL-Mail の使用法を教える。
・ネチケットについて再確認する。
・メーリングリストの効果を実際に確認する。
・挨拶等の短い文章を何度も送受信させる。

表現能力育成に関わる指導計画
指導計画(6/6) 留意点
@テーマ(福祉)の提示
★インターネット利用
・福祉の必要性と現実について事前の最低限の知識を伝え,情報収集前の意見を簡単にまとめさせる。
・福祉に関するページを2〜3紹介する。
A情報収集
★インターネット利用
・検索エンジンを利用して,福祉活動の実態や問題点等を調べる。
Bホームページ作成
メモ帳
・自分の意見をホームページに掲載する。
・ネチケットについて,再確認する。
CMLによる意見交換
★インターネット利用
・人の意見を読み,意見の異なる者のページを中心に閲覧し,再度MLに投稿する。
・関連ページを良く読むことを指導する。
Dホームページ更新
★インターネット利用
・人からの意見をもとに,自分のページを更新する。
・ネチケットを再確認する。
Eまとめ ・テーマ(福祉)に関わる現状を確認し,生徒の調べた事を中心に意見をまとめる。

3 利用場面
・目標

 テーマ(福祉について)に従って作成したページを相互に閲覧し,コメント・意見をクラス用のMLにアップする。また,コメントに対して別な観点からコメントする。

表現能力育成(メールによる意見交換)に関わる指導計画
  時間 指 導 内 容 留 意 点・備 考
導入 5分 ・前時間までの確認。
・ホームページの登録が終わっていることを確認。
・ページが未完成でも登録させる。
展開 10分
10分
・相互のページを閲覧する。
・感想や意見をMLにアップる。
・感じた事はメモを取るように指導する。
・考えをまとめてから,投稿する様に指導する。
発展 15分 MLの内容と関連ページを確認する。 ・メールを読み,意見の異なる者のページを中心に,関連するページを参照する。
まとめ 5分 自分の意見をまとめる。  

4 実践を終えて

 昨年度より継続的に指導して来た内容ではあるが,この指導により,コミュニケーション能力や,自己表現能力を「以前と比較して高まったか?」との問に対しては「慣れていない頃は表現が曖昧であり主張している内容が不明確であったが回数を重ねることにより論旨が明確になり,またプレゼンテーションの場としても役立っている」と明確に返答できるが「インターネットを使う必要があるのか?」とか,「従来のメディア(図書館の利用・OHPによる発表など)を使用した場合と比較して効果があったか?」と問われると言葉を選ぶ必要がある。しかしながら新しいメディアに対する興味関心を利用して「自分で調べる」「意見を交換しあう」「自分を表現する」等,従来ではマンネリ化・慢性化・怠惰化してしまうような内容であっても,継続して取り組むことができた。これはインターネットの「情報の多さ」「双方向性」の効果であると思われる。また表現能力だけでなく「コンピュータ(ネットワーク)の先には人がいること」「ネチケットの重要性について」等も学ばせることができたと思われる。
 情報収集については,現在の検索エンジンでは,情報が整理されているとは言いがたい。検索エンジンを利用しても,インターネットは玉石混合の状態である。この状態を「不満」に思うか,情報の取捨選択を教える「良い教材」と思うかは考え方であり,私は誤った情報を破棄し,正確な情報を取得する最高の教材だと思っている。
 生徒の感想は,「今までの実習と比べて面白い」「文章を人に読まれるので照れくさい」等さまざまな反応があった。特筆すべきことは,「ネットワークを使って調べると『知ってる』と思っていた事であっても,実は『知ってるつもりに過ぎなかった』事に気づいた」と語る生徒がいたことである。これだけでもネットワークを十分に活用できていると思ってる。

ワンポイントアドバイス
 高校の事例集を見ると環境整備とか,インターネット導入の問題とかが中心であり,小学校・中学校の様な具体的な取り組み事例が少ないように思い,このテーマで書かせて頂きました。もちろん本校でも環境整備とか導入の問題について発表などもしていますし,商業(特に情報)の特性を生かして生徒にサーバの構築や,ネットワークに関する授業も行ったりしています。今回のテーマや取り組みは,大きな設備は不要で,同じ様な取り組みをされている学校もあると思います。当然「もっと活用している!」と言う学校もあると思います。しかし校外で研修会を開いて「ネットワークのメリット」や「使い方」を紹介しても,実際に自分の教科・科目で「どう使えば良いか分からない!」「自分の趣味なら使えるけど。。」と言う先生方が多いのが実態です。これは,一重に具体的な活用例が表に出ていないためだと思います。今回の発表を機に高校の活用事例が増えてくれればと思います。

参考文献

'97初級シスアド標準教科書(オーム社)

利用したURL など

検索エンジン ヤフージャパン(http://www.yahoo.co.jp/)
検索エンジン グー (http://www.goo.ne.jp/)
NTT DIRECTORY (http://navi.ntt.co.jp/)
ネチケット (ftp://ftp.nic.ad.jp/pub/rfc/rfc1855.txt)
福祉・ボランティア情報 (http://www.asahi-net.or.jp/~NX9S-YSOK/hukusi.html)
静岡県福祉情報ネットワーク (http://www.wbs.or.jp/cmt/volunact/)

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