自分たちで決める校外学習・修学旅行
---インターネットを利用した学校間交流---

高等部第2学年・活用教科・情報科
横浜国立大学教育人間科学部附属養護学校 根立博

インターネット利用の意図
開かれた学校・同世代交流をめざして
 数年前,本校で教育実習した特殊教育を専攻していない教育学部の学生がもらした「養護学校の周りの生け垣はどうしてあんなに高くて中の様子が見えないようになっているのですか?」という言葉が印象的であった。私たちは特に意識していなかったが,周囲の人たちからは,やはり本校が何をやっているのか見えにくく,隔絶した環境にあったのだと深く反省させられた。早速,PTAの協力を得て,中の学校の様子が道路から良く見えるように周囲の木々を大幅に切ってもらった。
 障害児(者)が社会の中で自立した生活をめざすには,家族を始め地域社会や就労先の方々の協力が不可欠である。そのためには障害児(者)の様子をみなさんに紹介して,多くの方々に彼らを知ってもらうことが大切であると考える。そして,「見える学校」「開かれた学校」の取り組みを常に模索していく必要がある。また,本校に通う児童生徒(小学部,中学部,高等部)にとっては,一般の小学校,中学校,高等学校などとの同世代交流も彼らの発達上欠かすことのできない,大切な取り組みであると考える。
 平成8年2月に,全国の附属養護学校にインターネットに接続できる設備が設置された。本校にも,横浜国立大学から専用線が施設され,日常の教育活動の中でインターネットが利用できるようになった。そこで,情報教育の中核となっていた教師を中心にしてホームページの作成を行い,教育活動のホームページ上での紹介と合わせて,生徒の情報発信や交流活動を行うようになった。高等部では,インターネットを活用した地域を超えた学校間交流にも取り組むようになった。また,小学部,中学部においては,附属小学校,中学校との直接の行き来による学校間交流も開始され,お互いの学校での直接交流が活発に行われるようになった。

1 「自分たちで決める校外学習・修学旅行」
(1)ねらいおよび指導目標
 本校では,児童生徒が,日々の生活や社会に出てからの余暇の時間を,より充実して過ごせるようにというQOL(QualityOf Life)の充実をめざした「余暇教育」に力を入れている。そのために,クラブ活動や部活動を始め,小,中,高等部の各学部で工夫した取り組みがなされている。
 高等部では,将来,自分であるいは友だちと一緒に映画やボーリング,ディズニーランドなどに出かけたり,旅行したりできるようにというねらいで,学校での校外学習や修学旅行の計画にも生徒を積極的に参加させるようにしている。「どこに出かけて,どんな活動をするか」「レストランや利用施設にはどんなところがあり,どんな活動ができるか」「利用するための交通手段,運賃はいくらかかるか」「利用するための料金は,どのくらいかかるか」などを,インターネットを利用して情報収集しながら話し合い,計画していくことをねらった活動である。これらの活動は,3年程前に高等部の教育課程に新設された「情報」科「産業社会と人間」科の時間を使って行われる。
 以下に,昨年度実践された高等部2年生の修学旅行に向けた取り組みを紹介する。

表1 本校高等部時間割表

2 指導計画及び指導経過
(1) 修学旅行についてグループで話し合い,旅行計画書を作る。

 高等部2年生の4月早々,クラスの時間を利用して自分たちの今年度行く修学旅行の計画についての話し合いを持った。すでに修学旅行の費用は,1年生の時から毎月銀行に積み立てに行き,8万円程の予算がたてられていた。また,「情報」の時間にインターネットのホームページで見つけた大阪教育大学附属養護学校の高等部の生徒とお互いのホームページで紹介をし合っていた。そのような状況から,まず,修学旅行において大阪教育大学附属養護学校の生徒たちとの直接交流会(オフラインミーティング)をしたいという要望が出された。
 行き先が西に定まり,宿泊数は例年3泊4日であるから,まず1泊目は大阪に決まった。その後の2泊について,話し合いが続いた。生徒からは,@京都,奈良方面A四国方面B福岡,北九州方面 Cハウステンボス,長崎方面 などの要望が出された。生徒たちは,今まで自分たちが修学旅行や家族旅行で行った所を思い出しながら,説明してくれた。そこで,今までに出た要望について自分の行きたいところのグループで,それぞれ活動内容や交通手段を「情報」の時間を使って調べ,計画書にまとめることにした。
 具体的には,上記のA〜Cまでの3グループで
@図書館や書店に行き自分たちのグループの行くところの旅行案内書,ガイドブックなどを手に入れ,グループで話し合う。
Aインターネットの旅行ガイドのホームページを検索(検索ソフト:「ヤフー」)して詳しい情報を収集する。
Bパソコン(ソフト;「駅スパート」)を使って経路や運賃を調べる。
などの活動をした。
 知恵おくれの生徒たちの活動であるが,教師は,なるべく生徒の意見を尊重し,実現に向けての適切な助言やコンピュータの操作などではより分かりやすい手引き書などを作り,自分たちの力で調べられるように支援した。
 6月下旬,それぞれの計画書が出来上がりみんなで発表し合った。活動の内容や費用についてグループごとに発表し,みんなから質問や意見を聞いた。その中で,帰りに飛行機を使用する計画があったCハウステンボス,長崎方面がみんなから承認された。活動の内容については,まだ日程的に費用の面からも無理なところが多かったが,最終的な計画は教師にまかせることにした。生徒たちは,3グループで長崎の市内観光(1日観光)についてそれぞれ計画を立てることにした。ふたたび上記の@〜Bの活動が,「情報」の時間を使って繰り広げられた。
(2) 事前学習(校外学習,校内宿泊)「産業社会と人間」科の時間を使って
 9月に入って,生徒たちは修学旅行の事前学習の一環として自分たちで計画した校外学習と校内宿泊を行った。校外学習では,横浜の市内観光(半日観光)を3グループ(修学旅行の長崎市内観光のグループと同じ)で計画し,夕食を外のレストランで食べ,校内で宿泊した。実際の活動を通した修学旅行の事前学習であった。
 グループに別れた生徒たちは,地下鉄やバスを利用して,計画書と地図を持って,ランドマークタワーや山下公園,博物館などに出かけた。その間,引率の教師はかげで見守る体制をとった。自分たちの調べあげた計画と実際とはやはり違うため,戸惑ったり,間違えそうになりながらもどうにか目的の場所に行って帰ってくることができた。この活動の中で,生徒たちは,戸惑ったり,間違えそうになったとき,グループの仲間と話し合ったり,身近な周囲の人に尋ねたりして,事態を解決しょうとする数々の貴重な体験をした。
(3) 修学旅行
 10月の下旬,3泊4日の修学旅行に出かけた。3グループ15名の生徒と5名の教引率教師である。最初の日の大坂教育大学附属養護学校での交流会は,生徒たちは大阪名物のたこやきをたらふくいただきながらの大歓迎会であった。すでにお互いの様子はインターネットのホームページ上で紹介済みであったので生徒たちもすぐに打ち解けて,歓迎集会の活動に楽しく参加できた。また,そこからメールにより歓迎会の様子を横浜で待ち受けている高等部の生徒に送る活動を行ったが,その場ではうまくつながらなかった。
 3日目の3グループにれて実施された長崎市内観光では,事前学習での自分たちの住む横浜市内観光と違って,生徒たちにとって全く初めての土地での活動のため,戸惑いや間違えそうになりながらの活動の連続であった。引率の教師は各グループ1〜2名いたが,ここでもやはりかげで見守る体制をとり,安全上最低限の支援をおくることにした。あいにくの雨の中,傘をさしながらの活動であったが,平和公園,眼鏡橋,オランダ坂などグループごとに違うコースで活動した。わからなくなったり間違えそうになったときは事前学習の教訓が生かされ,グループの仲間と話し合ったり,身近な周囲の人に尋ねることで事態を解決した。中華街で昼食もとり,最終の集合場所のグラバー邸には若干の時間の遅れで3グループとも辿り着くことができた。
(4) 事後学習(思い出をまとめた文集,お礼のメールや手紙)
 各グループに写真係がいて,修学旅行先での様子をカメラで撮影してきた。また,個人でもカメラを持参した生徒もいて,修学旅行の思い出を「情報」の時間に作文や写真で文集にまとめることにした。また,大阪のお友達へのお礼をホームページやメールにより行った。
3 利用場面
(1)目標
 インターネットを利用して修学旅行の長崎市内観光の情報をグループごとに収集する。
(2) 利用環境
@使用機器
Apple PM9500 (サーバー機)1台
Paforma5220 (子機) 8台
A稼働環境

インターネットよりダウンロードした情報を,PM9500をサーバー機とするネットワークでつながった子機Paforma5220の8台を使用して利用する。
学習活動 活動への働きかけ 備考
1 グループに分かれ自分たちが調べようとすることを話し合う。 ・前時までに書くグループで立案した長さ期間工の計画を見ながら,観光スポットや交通機関,食事場所について調べることを確認できるようにする。 ・情報教室


インターネット子機
 PM7500 4台
2 グループの中で分担して,2台の子機を使って調べる。 ・マウスの操作がまだ十分でない生徒については,3台のタッチパネルでマークや絵を手がかりに個別に支援しながら調べさせる。
・難しい漢字などは,あらかじめ打ち出しておいた読み仮名カードで確認しながら調べさせる。
・PM9500 1台 ●
 Paforma 5220
  8台 ○
 タッチパネル機
  3台
3 必要な情報が見つかったら,プリンタを使って印刷する。 ・見つけた情報が自分たちにとってほんとうに必要な情報かどうかを,グループの仲間で見合ったり,読み合ったりさせて,判断させる。
・難しい漢字が多くて十分読めなかった場合は,読み上げソフトで聞かせて判断させる。
・HP850C 3台

4 各グループごとに集まった情報を整理する。

・模造紙に貼って,整理させる。

・模造紙3枚

5 各グループで整理した情報を発表しあう。 ・収集した情報日手,そのまま読み上げさせるのではなく各グループでなるべく自分たちの言葉で発表できるように支援する。
・他のグループの発表もよく聞いて質問も積極的に行わせる。

4 実践を終えて

 今回の実践は,自分たちでインターネットや情報誌などから各種の情報を収集し,校外学習や修学旅行の計画を立て,実際にそこに出かけて,自分たちの立てた計画に従って活動をする,というものであった。
 こうした活動を本校の高等部では,今から3年前から取り組んでいる。初めは,日曜日に友達とどこかに出かける計画作りから始まった。附属養護学校という特質から地域から離れて通学してくる生徒が多く,同世代の友達との交流はどうしても制限されることになる。そこで,身近なクラスの友達と休日を有効に過ごす活動を自分たちで計画し,実践できるようにしたいと考え取り組んだのが始まりである。その後,グループであるいは高等部全体の校外学習の計画,さらには高等部2年生は,自分たちの行く修学旅行の計画を自分たちで計画する活動へと発展してきている。
 修学旅行についていえば,初年度は函館への修学旅行の計画作り,そして今回の大阪・長崎への修学旅行,さらに本年度は神戸・福岡への修学旅行の計画,実践を行ってきた。
 今回報告した大阪・長崎への修学旅行への取り組みの一番の成果は,オフラインミーティングである。本校に限らず,どこの養護学校の高等部での教育は,社会的自立を促進させるために,数年後に控えた社会生活,職業生活へのシュミレーションの学習が中心になると思われる。その学習の一環として,ここでは自分たちでコンピュータを操作し,インターネットから必要な情報を収集したり,自分たちの友達を見つけたりした。そして,ネット上では友達関係になったりする。しかし,それは,あくまで仮想の友達関係である。やはり,真の友達としての交流のためには,実際に出かけ,お互いに手を取り合ったり,一緒にたこ焼きを作って食べたりする活動を通しての直接的な活動が必要となる。
 こうした,シュミレーションとしての学習活動を実際の活動を通して検証していくことの積み上げこそが,知的障害児(者)のQO Lを高め,豊かな人生を支援する手だてとなっていくと考える。その意味で,コンピュータ,インターネットの果たす役割はとても大きいと考える。
ワンポイントアドバイス
 インターネットから必要な情報を収集する際,生徒が4台の小機を一斉に使ってアクセスすると,専用線接続であっても極端にスピードが低下し,授業時間内に目的の情報を収集することが困難な場合も多い。そこで実際の授業では,あらかじめダウンロードしておいたページを,LANでつながったコンピュータで使うことが有効である。
 また,漢字や文字情報が多いので生徒によっては読みこなせないものも多いため,音声で読んでくれるソフトやあらかじめプリントアウトし,ルビをふったり,読める文章に書き直しておいてあげることが必要な場合もある。同様にコンピュータの操作やソフトウェアーの使い方についても生徒が扱いやすい形でのマニュアル作りが必要となる。

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