1 かけ算のひっ算

(小学校 第3学年 算数科)
北区立東十条小学校 鶴島 香織

2 本時のねらいと題材設定の理由

 3年生の児童は,1学期までに何十,何百に一位数をかける乗法の学習している。本単元では,二位数,三位数に一位数をかける乗法の仕方を理解すると共に,筆算の仕組みと計算方法を習熟することがねらいである。
 この単元では,どの教科書にもたくさんの計算問題が並べられている。繰り上がりのある計算だけでなく,繰り上がってさらに繰り上がる計算も出てくるので,児童はとにかく多くの問題を解きながら,計算方法を習熟していくのである。
 数を多くこなすことも大切な学習方法であるが,授業においていつもこの方法で学習を進めると,計算が苦手な児童や,計算に時間がかかる児童にとっては,算数の時間がただ苦痛に耐える時間になってしまうのである。
 そこで,パソコンを活用し,児童が苦痛を感じずに,楽しく,そしてたくさんの計算問題を解き,かけ算の筆算の計算方法を習熟することはできないかと考えた。
 最近は,ただドリル形式で計算問題を解かせる学習ソフトというよりも,ゲーム感覚で楽しく問題を解いていくような学習ソフトが多く見られ,市販ソフトもいろいろな面で充実してきていると思われる。しかし,児童がいつも与えられた問題を解かされる,という立場に立つことは変わらない。
 そこで「ドキドキアタック」というLANを利用して情報のやりとりをすることができるソフトを用い,自分で計算問題を作り,自分で正答を導き出し,そしてその問題を友達に出し,採点し,確認してもらう,という流れで学習することによって,かけ算の筆算を定着させたいと考えた。

3 利用ソフトの概要

(1) 利用ソフト

「ドキドキアタック for Win95」(セコムラインズ)

(2) 利用ソフトの概要

 「ドキドキアタック」は,教室内のネットワークの機能をフルに活用して,児童が文字と絵で作った問題を出し合い,解答し合い,採点し合うことのできるソフト(ネットワークシステム)である。
 起動時に,児童がサーバーにログインし,先生機を通して,ビジブルなネットワーク環境が構成される。以下に,出題する児童と,解答する児童の1ラウンドの流れの概要を示す。
 「ドキドキアタック」は,児童が自由に情報をやりとりすることができるので,算数科の他にも,様々な教科・分野での活用が考えられる。また,情報の発信者としての責任を考えたり,情報を効果的に活用したりすることで,「ネットワークリテラシー」の育成も期待できる。

(1) 利用場面

 本単元のまとめと習熟の段階で「ドキドキアタック」を活用する。教科書やドリルの計算問題を解くだけではなく,自分が出題者の立場になることで,児童の意欲が喚起されると考える。自分の作った問題であるので,児童は正答を出そうと努力するであろう。そして,その問題を友達に解かせ,答えを採点することを通して,かけ算の筆算の仕方の定着を図りたい。
 本ソフトは,時間制限を設けることができるので,計算の速さを意識させ,少しでも速く正答が出せるように指導したいと考える。
 また,むやみに問題を出し,○か×かの採点のみに終始しないように,ワークシートを作り,活用するようにした。
 ネットワークを通して,対面していない(見えない)友達との問題の出し合いは,ソフトの名称のように,「ドキドキ」するものである。計算習熟の場面を通して,よりよい人間関係が形成されることも願いたい。

(2) 利用環境

1) 利用パソコン NEC pc−9821 Cu13 20台 (児童機)
pc−9821 Ct20 1台 (先生機)
2) 周辺機器 16インチモニタ(先生機画面提示用) 10台
NEC pc−9821 Xv20 (サーバー機)
pc−semi GW (パソコン室内LAN)

5 本時の展開

(1) 指導計画(12時間扱い) 12/12本時

 第1次 「2けたの数に1けたの数をかける計算」…5時間
・2位数×1位数の計算をする。
 第2次 「3けたの数に1けたの数をかける計算」…6時間
・3位数×1位数の計算をする。
 第3次 「まとめ」 …1時間
・友達同士でかけ算の問題を出し合い,学習内容を確かめる。

(3) 目標

 ・進んで問題を作ったり,友達の問題に意欲的に取り組もうとしたりしている。
 ・かけ算の筆算に習熟する。

(3) 展開

  主な発問と学習活動・児童の反応 指導上の留意点



T.今日はみんなが先生役です。  
かけ算の筆算の問題を作り,友達に出して,採点してあげましょう。
T.今まで学習したがけ算の筆算の問題を2つ作りましょう。まず,自分で正しい答えを出してから,友達に問題を送りましょう。 ・ワークシートを用意する。
・自由に2人組を作らせ,作問も採点も必ず2人で確認させるようにする。



T.「ドキドキアタック」を起動し,友達に問題を送りましょう。
C.パソコンの電源を入れ,「ドキドキアタック」一を起動する。
C.マウスをペン代わりにして,筆算の問題をお絵描き画面にかいている。
C.文字入力画面に,式を書き,「筆算でときましょう。」とかいている。
C.登録されている友達のリストを見て,問題を送る。
・先生側のソフトはあらかじめを起動しておき,児童の登録を確認する。
・問題を送られる人が,偏らないように,履歴画面を見て,助言する。

T.解答が送られてきたら,先生になったつもりで,採点しましょう。
C.自分の答えと照らし合わせ,正しいことを確認して採点している。
C.誤答が送られてきたので,間違えているところを指摘して,採点結果を送っている。
C.自分の誤答に気づき,ワークシートを書き直している。
C.出題者が自分の誤答に気づかずに採点している。
C.送り返された採点結果が間違えているので,「採点に不満」を送っている。
C.出題者は採点のミスがわからず,「先生に相談」を依頼している。
・1人2問ずつ,計4問を1つのグループから出題させる。
・講に問題を出したかを記録させる。


T.先生後がしっかりできましたか。
C.採点も,答えるめも全部正しくできた。
C.友達の間違えたところを教えてあげられた。
C.自分の作った問題の答えが間違っていたことに気づいた。
T.後かたづけをしましょう。
・ワークシートを回収する。
・ソフトを終了させ,パソコンの電源を切る。

6 今後の実践のために

(1) 利用場面の評価

 今までは教室で机に向かい,たくさんの計算問題に取り組む場面で,今回はコンピュータを活用した。問題を解かされている,という児童の受け身の態度を能動的にしたかったからである。
 「ドキドキアタック」は,児童相互で問題を出し合ったり,答え合ったりというコミュニケーションが可能である。一人でパソコンに向かって問題を解いていくのとは違い,パソコンの向こう側にいる友達を意識して,問題を出したり,解いたりすることができる。これは,本来児童がもつ”人間関係をひろげたい”という欲求にも結びつき,本時が単なる問題の出し合いっこに終わらなかった理由の一つになったものと思われる。
 また,自分が問題を作るという立場に立つことで,あえて難しい問題を作り,正答を出そうと努力する児童の向上心も見られた。
 友達が自分が作った問題に真剣に取り組み,解答を送り返してくれる喜びを感じながら,しっかりと採点している姿も印象的であった。
 今回は1人が2問の計算問題を作って出題し合ったが,児童の個人差に応じて,問題の数を増やしたり,「十の位の繰り上がりがあること」と問題に条件を付けたりしてもよいと思う。

(2) コンピュータ利用上の成果

 「コンピュータを使った学習は好きですか」という質問に,100%の児童が「好き」と答える。パソコン室に入っただけで,児童の興味・関心は十分に高められるのである。従って,ドリル的な計算の習熟ソフトを利用しても,大きな学習効果が期待できる。しかし,パソコンでドリルを繰り返し行っていれば,おそらく数日で児童の興味・関心はなくなってしまうであろう。
 「ドキドキアタック」を計算の習熟で活用した本時の後,児童の間から「もっと問題を作りたい」という声が多くあがった。そして,「もっと問題を解きたい」という声も聞かれた。そのことからも,「ドキドキアタック」が,味気ない計算練習でも,児童の意欲・関心を持続させるきっかけを作ったことが分かる。


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